全国障害者問題研究会

第29回全国大会(愛知)基調報告

                            常任全国委員会


1 はじめに

 国連を中心とした世界の障害者運動は、国際障害者年以後、「国連・障害者の10年」という国際的共同行動を展開し、さらにその成果を発展させるために、障害者の機会均等化に関する基準規則の各国における具体化という課題を設定して、とりくみを継続しています。アジア太平洋障害者の10年もその一環です。

 国内では、多くの障害者団体が、それぞれの要求の実現をめざして運動を発展させるとともに、「新長期行動計画」を作成した日本障害者協議会(現在70団体が参加)は、諸団体に共通の課題を明確にした共同行動にとりくんできました。

 このような国内外の運動は、わが国の国レベル、自治体レベルの政策にも影響を与え、注目すべき成果をあげています。たとえば1993年12月の障害者基本法改正は、いくつかの改善すべき弱点を残しながらながらも、障害者の人権保障と社会参加の機会の拡充のための諸施策の立案と実施を推進することをうたうものとなりました。またこの法律の規定にしたがって国の障害者白書もつくられ、すでに策定されていた「新長期計画」を位置づけなおし、国の「障害者基本計画」も決定されました。

 昨年の全国大会(京都)からの1年間にも、国は「ノーマライゼーションプラン」の策定に向けて動きだし、さらに各自治体にも障害者に関する計画を策定するよう指導をはじめています。「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)」の制定なども貴重な成果だといえます。

 しかし、同時に、戦後50年の「平和、民主主義、人権保障」の大切さを痛感させられたのも、この1年間の特徴でした。

 筆舌に尽くせないほど激甚な被害をもたらした阪神大震災と誠実を欠く政府の対応、長引く不況による障害者の就職難と解雇、いっこうに楽にならない障害者・家族の生活、そして障害者・国民の実態と要求とかけはなれたところでくりかえされた政権交代と政界再編、それによる国民の政治不信など、運動の前進による成果を帳消しにしてしまいかねない事態も進行しています。さらに戦後50年、国民が営々として築き上げてきた「権利としての社会福祉・社会保障」制度を全面的に崩壊させてしまおうという動きも顕著になってきました。「公的介護保険制度」の導入や措置制度の見直しなどは、その具体例です。

 こうしたなか、今年の全国大会の開催地愛知支部では、戦後50年守り抜いてきた「平和」、平和であったからこそ達成することのできた成果を、さらに発展させる決意を込めて「共同」を大会テーマにもりこみ、「原点にたって」を一つの合言葉に、多くの新しい仲間を迎え入れながら大会準備にとりくんできました。いちはやく復興にとりくんできた兵庫支部は、震災の実態と活動の教訓を全国の仲間に学んでもらおうと、本大会で特別報告を行います。

2 阪神大震災と障害者の暮らし

 「みんなのねがい」に連載されてきた現地報告にあるように、1月17日未明に阪神・淡路地域を襲った大地震は、障害者・高齢者、その家族に甚大な被害をもたらしました。被災の実態は日常の社会保障・社会福祉の貧困をあらためて浮き彫りにするものでした。無認可の小規模作業所、一人暮らしの高齢者、障害者、崩れやすい木造のアパートやプレハブ、こうした状況におかれた人たちに被害が大きく、「災害弱者」ということばが生まれたほどです。震災からの復興と再起の過程でも、もともと苦しい状況に置かれていたこれらの人びとが、より深刻な困難に直面させられています。たとえば障害児をかかえた家族の中には避難所に行くことも遠慮した例が多く、また障害者への配慮の不足から避難所を利用できない障害者も多数にのぼりました。法人格がないことを理由に無認可小規模作業所が激甚災害指定の超法規的な特別措置からさえ除外されたことは、「災害弱者」の実態を典型的に示すものでした。

 こうして今回の震災は、障害者・家族が日頃から地域住民と深い連帯と共同をつくりあげていくことの必要性、一人ひとりを大切にする国や自治体の施策とそれを支える法制度の確立、災害時や緊急時も現実的に対応できるシステムをつくりだす必要があることなど、重要な教訓を残しました。

 障害者の権利保障をめざして研究運動を続けてきた全障研は、障全協、共作連などとともにいち早く支援活動にとりくみ、広範なボランティアの協力を得つつ、非常に困難ななかで力を発揮しました。しかし、被災した障害者・家族は、今もなお苦しい生活を強いられています。全障研兵庫支部を中心に全障研「阪神・淡路大震災障害者実態調査」委員会が発足し活動を始めています。「被災視覚障害者の救援・復興をすすめる会」も結成されるなど被災障害者による活動も始まっています。引き続き支援活動をすすめつつ、これらの運動、研究活動の成果を、全国各地域の活動にいかしていきましょう。

3 戦後50年と権利としての福祉

 今大会で記念講演する西尾晋一氏(社会福祉法人ゆたか福祉会副理事長であり、障害者の父親)は、侵略戦争の敗北という現実から立ち上がり、平和、民主主義、人権保の運動に参加し、また「障害者の暮らしに憲法を」と、義務教育の保障、労働の保障をすすめる運動の先頭にたってこられた方です。戦後50年の生き証人と言ってもよいでしょう。西尾氏はいま、障害者の暮らしのすみずみまで憲法をという理念のもと、生涯にわたって安心して暮せる理想郷づくり、福祉村構想の実現に仲間とともにとりくんでいます。

 西尾氏のあゆみが示しているように、「すべての人にもれなく」を目標に出発した権利保障運動は、現行の制度を十分に活用しつつ、どこでもだれでも安心して暮せる総合的体系的な制度拡充の方向性を、具体的な姿として描けるようになってきました。記念講演は私たちをおおいに励ましてくれることと思います。

 しかしこうした運動の到達点に対し、社会福祉・社会保障を公的な責任で権利として保障する理念・原則が「もう古くなった」として、これを改悪する攻撃もかつてなく強まっていることに注意しなければなりません

 昨年9月には、21世紀に向けた社会保障制度の「見直し」を標榜した、社会保障制度審議会社会保障将来像委員会「第2次報告」が出され、さらに12月には「公的介護保険制度」の導入をもりこんだ高齢者介護・自立支援システム研究会「報告書」が発表されました。これらはいずれも、社会保障・社会福祉分野での公的な責任と負担の縮小・放棄を理念・原則として確立することをねらいとしています。高齢化社会と少子化傾向を口実とした政策提起ですが、このような動きは、障害者の権利保障の立場からも無視することはできません。

 政策の特徴の1つは、国庫財源の支出を削減し、社会保険に福祉の財源をもとめようとしていることです。たとえば今厚生省が法案化しようとしている「公的介護保険制度」は、高齢で慢性的な病気・障害を有し、要介護の人びととその家族の切実な要求に公的財源を振り向けてこたえるのではなく、国民負担増による社会保険でやりくりするための制度の創設を企図するものです。この5月改正された精神保健法でも、精神医療費が社会保険に組み込まれ、公費負担分の医療費が大幅に削減されることになりました。今年度の精神保健費の予算が前年度比で76.5%も減額された要因の多くはこれによるものです。

 二つめの特徴は、措置制度を解体しようという動きが目立つことです。前述のふたつの報告はこれについて、「資金やサービスが著しく不足した時代にあっては、(措置制度は)サービス利用の優先順位の決定や緊急的な保護などに大きな役割を果たし」(「報告書」)てきたが、利用者の選択権を尊重する必要があるため見直すべきであるとし、同時に措置を前提としておこなわれてきた公的費用支出も検討の対象とするとしています。またこうした新たな動きは、高齢者福祉と同じシステムですすめられている障害者のホームヘルパー制度など、障害者問題にも直接の影響がでてくることは必至です。

 たしかに、私たちは当事者の主権を尊重して自由にサービスが選択できるように、現行制度の改善を求めてきました。しかし、利用者の選択権行使は、利用者の多様なニーズに対応する施策や制度が、豊かにそして十分な公的資金を伴って整備されていてはじめて十分に保障されるものです。

 高齢者と障害者、精神障害者と他の障害者、そして福祉と保健、こうした総合化、統合化のあり方についても、全障研として研究すべき課題が提起されてきているといえます。各地域でも、具体的な共同のとりくみをすすめ、研究活動をすすめましょう。

4 地域で障害者の願いに応える障害者保健福祉計画を

 私たちは、障害者対策を地域間格差を解消しつつ抜本的に充実していくためには、国とすべての自治体が責任をもって総合的な障害者計画を策定するべきだということを主張してきました。確かに国際障害者年を経て、長期総合計画が策定されてきていますが、自治体におけるものの多くは、実態調査もされず、関係者との協議も不十分です。

 冒頭にもふれたように、障害者基本法は国に障害者計画の策定を義務づけ、都道府県、市町村にも任意ですが策定を提起しました。さらにその具体化のために政府は「障害者保健福祉施策推進本部」を昨年9月に設置し、今後、障害者版の新ゴールドプランとなる「ノーマライゼーションプラン」と自治体計画のガイドラインを策定すると新聞報道されました。報道によれば、高齢者保健福祉計画のように、保健と福祉を一元化し、数値目標を設定し、地方自治体を中心に計画が策定できるようにするとされています。

 障害者の願いに応えた障害者計画を全ての自治体で策定し、障害者対策を抜本的に充実していけるかどうか、ここ数年の重要な論点になります。いくつかのことを問題提起します。

 障害者版の新ゴールドプランという提起は、昨年10月連立与党福祉プロジェクトの「今後の福祉施策と所要財源について」という報告に盛り込まれたものに端を発しています。この経過に明らかなように、このプランの基本的な性格は、前述してきた公的責任、公費負担の縮小・放棄という戦後50年の障害者福祉の原則・理念を覆す動きのなかにあります。しかし同時に、障害者、関係者の広範で切実な願いを無視することができなくなったという事実を反映しているという側面ももっています。したがって今後提起されるであろうガイドラインには、「公的介護保険制度」の障害者への導入、措置制度の見直し、公的責任を縮小する民間活力の導入、受益者負担増など、社会福祉・社会保障の改悪が検討される可能性がある同時に、障害者の願いであった行政の一元化、市町村などの各地域に即し、かつ政策の数値目標を具体的に盛り込んだ内容となるだろうということも予想されます。障害者の願いがどれだけ適切に盛り込まれるかは、障害者、関係者の運動に多くかかっていると見るべきでしょう。

 私たちは、この機を積極的にとらえ、学習研究活動をいっそう大きく発展させ、その成果を普及して、憲法を障害者の暮らしのすみずみまで具体化した、生涯にわたって安心して暮らせる障害者計画をすべての自治体で策定させるために、がんばっていく必要があります。各地域で、障全協、共作連、その他の障害者団体、さらに高齢者団体とも連携し、高齢者保健福祉計画づくりの教訓やこれまでの自治体における障害者計画などの学習から始めましょう。そして各地域の障害者の願いを政策化する学習や調査、地域の全障害者や社会資源を対象にした学習もすすめていくことが必要です。また研究運動としても、行政の動向を機敏につかみ、参加や必要な提言もしていきましょう。そして、社会資源の適正規模、適正配置など、計画論として要請される理論課題も深めていく必要があります。

5 障害児教育の動向と課題

 障害児教育を含む学校教育の問題も深刻です。昨年11月、愛知県西尾市の中学生大河内清輝君が「いじめ」を原因に自殺するという痛ましい事件がおきました。また、今年5月には大阪で、膠原病へのからかいを苦に15歳の専修学校生が自殺しています。

 発達と人権を保障すべき学校が、子どもたちを死に追いやっているのです。また、今春からは学校週5日制が月2回になったものの放課後や週末を充実させる施策は貧しく、現行の詰め込み式学習指導要領の撤回・見直しを求める地方議会の決議等は600を超えています。今こそ、能力主義的で管理主義的な異常な競争教育から子どもたちを解放し、人間を大事にする教育の実現をめざす国民運動が求められています。

国連の「障害者の機会均等化に関する基準規則」は、教育の将来像についても、「通訳者や他の適切な支援サービスの提供」を前提としたインテグレーションの方向を打ち出しています。また、1994年6月のユネスコによる「特別なニーズ教育に関するサラマンカ声明と行動大綱」では、特別な教育的ニーズを有する子どもたちを含み込んだ「すべての者のための学校」(インクルージョン学校)への方向が示されています。こうした国際的動向をよく吟味しつつ、一つには通常学級で学ぶことが適切とみられる障害児の学習権保障ために、通常学級の教育条件の改善課題を明らかにしていく必要があります。また同時に、障害児ではないが発達に困難をかかえている子どもたちが、もっと生き生きと学べるようにしたいと奮闘している通常学級の教師たちとの共同と連帯を強化し、わが国の学校教育全体をよりよいものにしていくという課題もあります。

 1993年度から制度化された「通級による指導」は、通常の学級に在籍しつつ週3〜8時間以内の「特別の教育課程」による指導を可能にしたものです。これに伴う学校教育法施行規則第73条の21および22の追加は、これまで盲・聾・養護学校および75条学級に限定されてきた「特殊教育」を通常の学級の在籍者にも開くとともに、外来および巡回による指導など盲・聾・養護学校の地域センター化にもつながる制度的萌芽として注目されますが、通級指導教員の加配も極めて限定された数に留まっているなど、重要な問題もあります。

 政策的にみると、1994年12月の「病気療養児の教育に関する調査研究協力者会議」による「病気療養児の教育について(審議のまとめ)」、1995年3月の「学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議」による「学習障害等に対する指導について(中間報告)」のように、通常学級の教育と接点を有する特別なニーズ教育に関する報告が相次いでいます。このような中、この4月には「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」を諮問事項に第15期中央教育審議会がスタートしました。そして今後の数年間は、学習指導要領の改訂に関わる教育課程審議会の開催、教職員定数等の次期改善計画の策定など重要な政策課題が連続しています。

こうした時期にあって、私たちとしても障害児教育を含む21世紀の教育プランを提示しうるような教育研究運動を展開する必要があるでしょう。盲・聾・養護学校および75条学級を中心とした従来の研究運動に加えて、通常の学級における特別な教育的ニーズを有する児童・生徒にまで視野を広げて、その発達と権利の侵害ならびに保障の実態を明らかにし、「いじめ」問題克服の課題へのとりくみとも手を結んで、「人間を大事にする教育」を創造する国民的な教育運動を展開していかなければなりません。

6 当面の全障研運動の課題

 障害者の権利保障をすすめるうえで、全体として要請されている研究運動の課題についてはすでに述べてきたとおりです。常任全国委員会ではこれらの課題に即して、支部サークルがとりくめるよう、支部長・事務局長会議、組織者学習会、発達保障研究集会などで具体化し、その成果を普及していきます。そして、全障研結成30周年を全国の会員とともに飛躍の年として迎えたいと考えています。またこれらの理論課題については、「障害者問題研究」や研究推進委員会で研究プロジェクトの組織などを検討していきます。

 ここでは支部やサークルの学習研究活動をいっそうすすめていくための活動のあり方についていくつか提起します。

 昨年の基調報告では、 (1)広い視野にたった活発な討論を進めよう、(2)障害者の生の声を受け止める運動をもっと具体的に進めよう、という2点を活動のあり方として提起し、(3)一支部・サークルが少なくとも一項目の権利保障点検の運動を進めよう、 (4)研究運動の輪をさらに広げよう、と具体的方針を提起しました。

 この方針に基づいてこの1年間、たとえば発達保障研究集会での東京の就学指導の実態調査報告など、権利保障の観点に立つ研究の成果がうまれてきています。いくつかの地域で介護問題、親の健康調査などが行われていますが、そこでは全障研会員が重要な役割をはたしています。また今大会の開催地愛知支部では、障害者の生の声に学ぼうと白書づくりも進められています。

 この基調報告では、昨年の方針を引き続き確認して踏襲し、さらに活動を発展させるという立場から2点の問題提起をします。

(1)願いや悩みを要求に、ねりあげる過程を大切に

 昨年の基調報告では、「ただ知る、聞くだけでなく、参加者がどんな疑問でも口に出し、意見を述べ、討論することを大切にしていこう」と呼びかけました。それに応えて各地で会員や障害者、親の生の声が率直に語られるようになってきました。こうした疑問や意見は、それぞれの生活経験から発した実感をも込めたものであり、さらに深めていく出発点として大切にしていく必要があります。多くの人びとが、実感を伴って認識を共有できるような討論をさらに発展させていきましょう。

 例えば親たちの討論で「レスパイトケア」のことが話題に出てきています。そこでは「ぜひレスパイトケアの制度をつくってほしい」という要求が出される反面、「子どもを預けてまで旅行には行きたくない」「一度利用してみたけれど、子どもがかわいそうだった。レスパイトケアはまだ安心して子どもを託せるようなものになっていない」などの率直な意見が出されてきています。このように本音で話し合いができるようになったのは前進です。しかし、これらを出し合うだけにとどまると、「レスパイトケアは、そう簡単には利用できないし、すべきではない」という雰囲気を残したままで終わってしまいます。討論をもっと深めていくと、現在のレスパイトケアのサービスには含まれていないことだが、「これだけはしてほしい」というような要求もでてきます。経験のうらづけをもった願いや悩みは「どうしてそう思ったか」「なぜそう願うのか」などとみんなでていねいに深めていくと、現行の制度の矛盾、新しい制度の創設の要求へと発展していく可能性があります。その過程で、当初の願いや悩みがもっていた意義もより明らかにされてくるのではないでしょうか。

 これまで私たちは、願いや悩みを社会問題として深め、権利としての要求に高めていこうという方向で研究運動をすすめてきました。これまでの私たちの蓄積にたって、さらにみんなの願いに応える学習研究活動を発展させていきましょう。

 最近さかんに「個人のニーズに応える」(ニーズ論)ということが言われています。これ自体は悪いことではありません。しかし、ニーズに対応するための社会資源の全体の総量が規制されている(総量規制論)ことを軽視して放置すると、その範囲内におさまる表面化したニーズのみをとりあげるという政策にはまってしまいます。障害者・家族の多面的で豊かな要求・ニーズは、政策の枠に合わせるかたちでは実現しません。ニーズに合わせて政策、法制度を作り出す必要があるのです。

(2)いろんな人が参加して深めあう全障研活動を大切に

 全障研は、障害の有無、障害種別、階層、職種などに係わりなく、障害者の発達を保障し権利を守ることを一致点に、それぞれの固有な見方、考え方を大切にしつつ、対等平等に深めていく研究団体です。「広い視野にたった」「生の声を受け止める」活動をさらに発展させていくうえで、このことがいっそう大切になってきています。

 同じような立場の人たちが集まったときには、共通する悩みがそれこそとりとめなく出されてきます。しかし、自分(たち)とは異なる状況や位置にある人たちとも一緒に語り合い、自分たちが置かれている状況や位置をも客観的にみられるようにしていく必要があります。私たちは自分たちが置かれている状況をまわりに理解してもらうために語らなければなりません。それは、多くの人たちに自分の置かれている状況や位置をわかってもらわなければ、共同した行動に立ち上がる展望はなかなか出てきません。討論などで、「言われることはよくわかるのですが」といってすまさずに、一歩踏み込んで、率直に語り合い、分かり合う必要があります。

 たとえば障害者が自立生活をするとき、ボランティアの組織で介助をまかなう、ヘルパー中心でその他の部分を親が通って対処する、毎日親が通って介助するなど、多様な形態がうまれてきています。その場合、自立生活をしたい、それを支えたいという一致点はあっても、障害者はもとより、ボランティア、ヘルパー、親にも、それぞれに要求、願いがあり、悩みがあります。

 障害者たち、親たち、教師たち、指導員たち等々の、それぞれの共通の願いや専門的な課題を一方で深めつつ、互いがそれぞれの置かれた社会関係の状況や位置からくる悩みや願いも共有できるようにするために、全障研活動らしい、いろいろな人びととの共同した学習活動をさらにすすめましょう。

 今年は戦後50年、日本は国民の力でまがりなりにも平和を守ってくることができました。いま、日本国憲法は占領軍から押しつけられたものだなどと宣伝し、とくに憲法第9条を改悪して戦争への道をひらこうとする動きがめだちます。平和、民主主義、国民主権を原則とする憲法を守ることは、障害者問題の前進的解決のためにもきわめて重要な課題になっています。戦後50年を機に、あらためて憲法と障害者問題、平和・戦争と障害者問題などのテーマを設定した学習会や講座を開催するのも意義あることだと思います。またこれまでのとりくみを基礎に、障害者問題にとりくむ他の国々の人びととの国際交流と共同もいっそう前進させましょう。

 全障研は、障害の種類や程度、障害の有無などにかかわりなく、誰もが対等平等に参加し、共同する研究運動団体として1967年に結成されました。この共同の理念をかかげた全障研にたいする期待は、今日ますます高まってきています。高齢者問題にとりくむ人びとをはじめ、広範な国民と手をつないで、さらに大きく前進したいものです。多くの方々がこの活動の仲間に加わっていただくことをここに呼びかけます。


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