障害者問題研究  第34巻第2号(通巻126号)
2006年8月25日発行  ISBN4-88134-414-5 C3037  定価 本体2000円+税

特集 教育年限の延長と専攻科

特集にあたって 後期中等教育の発展と充実を求める年限延長の要求と専攻科づくり運動/田中良三

障害児の教育年限の延長と今後の展望
  ―今日の養護学校等専攻科づくり運動まで/田中良三(愛知県立大学)
要旨:わが国の国民教育制度が始まった「学制」から今日までの130数年にわたる障害児の教育保障の歴史は、国民皆学・就学義務の奨励と表裏一体をなしてきた不就学との闘いの歴史であり、学校教育を開いていく歴史であった。それは、全ての障害児に9年間の義務教育を保障すること、次いで、教育年限延長として後期中等教育を保障すること、さらに今日、後期中等教育の充実・発展としての「専攻科」による教育年限延長を図り、高等教育や生涯にわたる学びの展望を切り開いていくという、三つの歴史的発展段階と捉えることができる。
キーワード:障害児教育、義務教育、後期中等教育、教育年限の延長、専攻科


養護学校高等部の現状と進路実態から見た専攻科の意義
  /小畑耕作(和歌山・紀北養護学校)
要旨:1979年養護学校義務制後も、依然として養護学校高等部への進学は都道府県によって大きな格差があった。全国各地で高等部希望者全入運動が展開された結果、21世紀に入り通常中学校の高校進学率と養護学校の高等部進学率はほぼ同率となった。しかし、高等部卒業後は、障害種別、地域による格差があり特に知的障害生徒の進学率が極めて低い。きのかわ養護学校高等部では、生徒の進学の要求や保護者の願いのもと私立養護学校高等部専攻科への進学に取り組んできた。専攻科で学んできた卒業生は著しく成長し、卒業後の就職定着も良い結果がみられる。専攻科への進学は社会参加の先送りではないかという見解もあるものの、当事者は、専攻科で主体的な学びに出会い手応えを感じている。専攻科を学校から社会への移行期(トランジッション)教育としてとらえ、もっと豊かに時間をかけた自分づくりの場とし、さらに生涯学習の主体者になるためにも、学ぶ力の育成のためにも専攻科の教育的意義は大きい。
キーワード:進学率の格差、機会均等、青年期、自分づくり、学びの自己肯定感

盲・聾学校高等部専攻科の提起する障害児学校高等部専攻科の課題
  /坂井清泰(四国学院大学)
要旨:戦後の盲・聾学校専攻科は、1948年の盲・聾学校義務制時に、旧制中等部が高等部、別科、専攻科となったことにより設置された。戦前の教育を引き継ぎ職業科を中心とした盲・聾学校高等部専攻科は、高度経済成長期には人的能力開発政策のもと、能力的選抜と職業科の多様化が図られ、今日では類型、コースの導入等が普通科にも及び、より一層多様化している。一方、高学歴社会を迎えるなかで、高等部本科においては普通科が比重を高め大学進学を目指すようになり、専攻科進学率が徐々に低下しつつある。また本科普通科において障害の重度・重複化が進みながらも、専攻科は未だ重度・重複障害生徒に門戸を閉ざしたままである。また今後の特別支援学校制度への転換は、養護学校専攻科設置等の課題からすべての特別支援学校での専攻科設置等の課題へと、実践・研究・運動の課題の枠組みの転換を求めるものである。
キーワード:専攻科、盲学校、聾学校、職業教育、重度・重複障害、特別支援学校

18歳から20歳へ
 ―青年期後期における心理的特徴/白石恵理子(滋賀大学)
要旨:青年期は、第2次性徴のような身体的変化によって特徴づけられる青年期前期と、アイデンティティや価値観の確立といった心理的な成熟を特徴とする青年期後期に大きく分けられる。本稿では、知的障害や発達障害のある青年が青年期後期にあたる18歳から20歳の時期にどのような変化を見せるのかを、3人の事例から具体的に明らかにしようとした。思春期・青年期前期は自我の再構成の時期にあたり、障害青年においてもさまざまな揺れや葛藤をみせる。青年期後期においてもそうした「行きつ戻りつ」の姿を示しつつ、新たな社会的関係のなかで、徐々に自己決定が可能になったり、自らの要求の主体になりゆく姿がいずれの事例でもみられた。ただし、その具体的なあらわれかたは、障害の程度や発達段階、さらに青年期に至るまでの生育歴・教育歴等々の複雑にからみあった要因によって、きわめて個性的であり、一面的な理解に陥らないようにしなければならない。
キーワード:青年期前期、青年期後期、自我の再構築、未来への展望


実践報告
青年期教育の発展をめざして
 ―聖母の家学園高等部5年間教育の取り組み/辻正(聖母の家学園)

豊かな青年期をめざす専攻科教育/安達俊昭(やしま学園高等専修学校)

見晴台学園5年制高等部の専攻科
 ―ゆるやかに自分づくり/藪一之(見晴台学園)

保護者の運動
「和歌山・専攻科を考える会」の活動/松下喜美代(和歌山・専攻科を考える会)

動向
国公立養護学校「全国初」となる高等部専攻科の開設
 ―鳥取大学附属養護学校の試み/渡部昭男(鳥取大学)

海外動向
スウェーデンにおける20歳前後の障害者教育制度
  /是永かな子(高知大学)
要旨:スウェーデンにおける20歳前後の障害者教育制度の特徴は、「だれでも、いつでも、どこでも、ただで」学習が保障されるリカレント教育と、個別の学習計画の作成などに象徴される「個のニーズに応じる教育」である。青年期の知的障害教育の形態は、知的障害高等学校の就学年限延長のみならず、知的障害成人学校、国民高等学校、成人学習サークルなどがある。修学支援策として専任のコーディネーター配置やオンブズマン制度、障害者を対象とした通信教育なども準備される。実際の教育は、支援つき寄宿舎付設の国民高等学校の設置、職場が学習機会を保障する生涯学習社会の具体化などであり、各個人の障害による特別な教育的ニーズに応じる教育の保障をめざす。
キーワード:リカレント教育、個のニーズに応じる教育、知的障害高等学校、成人学校、国民高等学校、成人学習サークル


アメリカにおける知的障害者の後期中等教育以後の教育
 ―Chapel Haven校の場合/荒木穂積(立命館大学)

資料
障害児通園施設におけるきょうだい支援の実態について
 ―大阪府下の施設へのアンケート調査報告/広川律子(大阪千代田短期大学)
要旨:近年、障害児の療育のなかで、家族支援の重要性が叫ばれている。とりわけ、障害児のきょうだいは、種々の発達支援を必要としていることを筆者は明らかにしてきた。本調査は、障害児のきょうだい支援に関して、障害児通園施設の職員がどのような問題意識を有し、それへの具体的支援策を講じているかについて明らかにすることを目的として実施した。その結果、多くの現場ではきょうだいに発達上の問題が存在する事を認めつつも、当該施設の利用者ではないため十分な支援が困難な状態にあり、一部の施設における試行的な段階に留まっている現状が明らかになった。
キーワード:障害児のきょうだい、通園施設、過剰適応、家族支援、発達支援

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