障害者問題研究  第34巻第4号(通巻128号) 絶版
2007年2月25日発行  ISBN978−88134−474−3 C3037  

特集 自閉症の社会性障害

特集にあたって(PDF) 黒田吉孝(滋賀大学)

今日の自閉症論から自閉症の社会性の発達と障害を考える/黒田吉孝(滋賀大学)
要旨:本論では、自閉症の障害理解の枠組み、スペクトラム障害としての自閉症概念、自閉症の社会性の発達と障害の支援と研究方法について検討をおこなった。そして、これらの検討を踏まえ、自閉症の発達と障害の理解を深めるための課題を整理した。これらの課題として、障害研究における個人差の意味、発達と障害における生活経験の意味、発達における連続性と不連続性、認知障害の性格等を提起し議論をおこなった。最後に、自閉症の発達と障害モデルを構築する必要性を指摘した。
キーワード:自閉症、障害理解の枠組み、スペクトラム障害、社会性の発達と障害


広汎性発達障害の早期発見/小山智典・神尾陽子(国立精神・神経センター)
要旨:広汎性発達障害(PDD)が家庭生活や学校、地域、職業などの社会生活に与える影響は深刻かつ持続的である。そのため、子どもたちに早期発見と早期療育の道を拓くことが望ましく、CHAT、M-CHAT、STAT、ESAT、IBC-Rなどのスクリーニングツールを用いて、PDDを2歳前後に把握する試みが広がりつつある。本稿では、それらの簡単な紹介を行うとともに、日本語版M-CHATを用いて1歳6ヵ月で行った早期スクリーニングの方法と結果を紹介し、施行時の留意点などに触れた。社会的発達にリスクを抱える潜在群に対して、できるだけ早い時期に個々のケースのニーズに即した支援を行うことによって、社会的発達の促進、児の興味を活かした技能の開発、そして2次的な情緒・行動の問題の予防の可能性が高くなる。家族にとっても、育児ストレスが原因の親の精神的不健康を予防することに役立つことが期待される。
キーワード:広汎性発達障害、早期発見、スクリーニング、M-CHAT、1歳6ヵ月健診

自閉症における他者理解の機能連関と形成プロセスの特異性/別府哲(岐阜大学)
要旨:誤信念理解で調べられる心の理論と、その発達的前駆体と想定される共同注意についての研究をレビューし、自閉症児がどのような機能連関でその能力を形成するのかを検討した。その結果、自閉症児においては、心の理論は、直観的心理化を欠いたまま言語による命題的心理化によって、共同注意は、社会的刺激への反応傾性に弱さを持ったまま汎用学習ツールによって、それぞれ補償することで形成されることが明らかになった。命題的心理化と汎用学習ツールは、認知能力に依拠しており、直観的心理化や社会的刺激への志向性は、意識下の情動と半ば生得的な社会的刺激への反応傾性に基づくと考えられる。この言語を中心とした認知発達による補償という機能連関は、健常児や知的障害児においてはみられず、自閉症の特異性を示唆する仮説と考えられた。この知見を自閉症の教育支援に適用する場合、情動共有を含めた相互主観的経験を教育的に保障することの重要性が示唆された。
キーワード:自閉症、心の理論、共同注意、認知発達による補償


言語確認行動を頻発し,指示待ち行動を示した青年期自閉症者における自我の発達
 ―自他関係の構造に注目して/赤木和重(三重大学)
要旨:自閉症における自我の発達を明らかにすることを目的として、青年期・成人期自閉症者にみられやすい指示待ち行動を取り上げ、事例検討を行った。対象者は、20代の青年で他者からの指示を求めることにこだわり、自発的に行動を起こせない状態を示していた。19ヵ月間にわたり、計20回の参加観察を行った。その結果、健常児とは異なる特異的な自他関係の構造が指示待ちの発生に影響を及ぼしていることが明らかになった。具体的には、他者理解に比して、要求・拒否行動がでにくいため、「指示を出す−指示される」という関係が固定化してしまい、それ以外のコミュニケーションがみられにくい状況にあった。これらの結果から、支援のあり方として、これまでとは異なる質の自他のコミュニケーション活動を用意することの必要性が示唆された。
キーワード:自閉症、自己、指示待ち、自他関係の構造、青年期


高機能自閉症・アスペルガー障害児の集団活動とその教育的対応
 ―ごっこ遊びの分析から/荒木穗積・梅山佐和・井上洋平・前田明日香・岩本彩子(立命館大学)
要旨:高機能自閉症・アスペルガー障害児の学童期の治療教育プログラムにおける「ごっこ」遊びの場面を分析し検討を加えた。その結果から、第1は、集団における「ごっこ」遊び(役割遊び)は、自然発生的にコミュニケーションや仲間意識をはぐくんでいることがわかった。第2は、「ごっこ」遊びの導入にあたっては子どもの生活の世界を検討し、興味や関心をふまえたものでなければ効果が少ないこと、第3には、治療教育プログラムの開発にあたっては、ポジティブな評価や自己肯定感をはぐくむ内容となっていることが重要であること、以上3点を指摘した。
キーワード:高機能自閉症、アスペルガー障害、ごっこ遊び、集団活動、仲間意識

動向
 自閉症の有病率研究の最近の動向
  ―自閉症は増えているか/石坂好樹(京都桂病院)
キーワード:自閉症、発生率、有病率、最近の動向、広汎性発達障害、展望

資料
 聴覚および視覚ノイズ発生型CPTによる健常児・HFPDD児・AD/HD児の反応特性の検討
 /本射正太郎(元滋賀大学大学院)・宇野正章(パーム小児病院)・竹内義博(滋賀医科大学)・黒田吉孝(滋賀大学)
要旨:注意の障害は、AD/HDだけでなく自閉症でも指摘されているが、両者の注意の障害は性質が異なると考えられる。注意は複雑な心理学的実体である。本論は、「持続的注意」に焦点をあて、HFPDD、AD/HD、健常児の特徴をCPTにより明らかにしようとした。本論の特色は、従来のCPTに加え、聴覚・視覚ノイズを発生させ日常生活に近い状態を設定したこと、健常児の性差を検討したことである。AD/HDは従来の研究同様、複数の指標で問題がみられたが、AD/HDの年齢効果については従来の研究と異なる結果が得られた。HFPDDは健常児と有意な差はみられなかったが、ほとんどの指標において、3群中、中間的位置を示した。健常児の性差についても興味ある結果が得られた。
キーワード:持続的注意、ノイズ発生型CPT、HFPDD、AD/HD、健常児、性差


自由研究
 広汎性発達障害幼児の早期予兆と支援
  ―乳幼児健康相談・健診における親からの訴え(心配事)の分析/小渕隆司(千葉・鎌ヶ谷市役所)
要旨:1歳6ヵ月児健診で経過観察となった児の乳幼児健診時に親から出された心配事について、自閉症群、高機能広汎性発達障害群、高機能広汎性発達障害サスペクト群、発達改善群の4群で心配事の内容について比較検討した。心配事は睡眠・生活リズム、食事、行動に3分類(大分類)できた。さらに大分類は感覚の指標などにより下位分類できた。大分類の@4ヵ月時の行動、3歳時の睡眠・生活リズム、行動に関する心配事が自閉症の、A3歳時の行動に関する心配事が高機能広汎性発達障害の予兆である可能性を指摘した。下位分類では@1歳6ヵ月時の「周囲への関心、自発的行動」、3歳時の「生活リズム」「姿勢・情動」「意図、意味理解の問題(ランドルト視力環検査)」が自閉症の、A3歳時の「口腔内の感覚、嚥下、咀嚼の問題」「周囲への関心、自発的行動」「意図、意味理解の問題(ランドルト視力環検査)」が高機能広汎性発達障害の予兆である可能性を指摘した。これらの予兆を踏まえ、育児に関係した事柄で養育者とつながりをもつことは、早期からの支援の糸口になる。
キーワード:広汎性発達障害(PDD)、健診、心配事、予兆、感覚



発達保障論をめぐる理論的問題<第9回>
糸賀一雄の思想「自己実現」を考える
  「自己」とはどういう存在か、その「実現」とはどのようなことか/谷清(医師)

書評
 田中昌人著 復刻版『講座 発達保障への道』/評者 鴨井慶雄

◆関連する特集
 34巻3号 特集 障害のある人のコミュニケーションと支援
 33巻4号 特集 コミュニケーションの発達と指導
 33巻1号 特集 自閉症・知的障害等の「強度行動障害」
 32巻2号 特集 高機能自閉症とアスペルガー症候群
 30巻2号 特集 LD・ADHD・高機能自閉症の保育・教育

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