障害者問題研究  第43巻2号(通巻162号)
  
JAPANESE JOURNAL ON THE ISSUES OF PERSONS WITH DISABILTIES
2015年8月25日発行 ISBN978-4-88134-425-5 C3037 定価 本体2,500円+税

特集  大学における発達障害学生の発達保障

特集にあたって/田中良三(編集委員)

近年の大学政策・大学教育の動向と課題
 ――特別な支援を必要とする学制への大学教育の課題
 姉崎洋一(北海道大学大学院教育学研究院)
 20世紀後半から21世紀の今日における教育改革は,高等教育・大学改革に焦点づけられてきているといってよい.その背景には,グローバリゼーションの加速度的進展があり,中核には,知識基盤経済の進展,多国籍企業的国家間の競争の熾烈化がある.また,競争を支える人材育成とそのための高等教育改革の圧力が増大している.我が国では,国立大学法人化(2004)を重要な転換点とし,制度・財政システム改革,ガバナンス改革,大学教育改革が連動してきた.激変する大学改革においては,多くの諸課題が生起しているが,障害を有する学生への支援と対応は,高等教育の大衆化,進学者のユニバーサルアクセス段階の不可欠な課題の一つとなってきている.とりわけ,障害者差別解消法(2013)を受けての「合理的配慮の義務化」(2016)を前にして,大学等高等教育機関に課せられた課題は多いと言わなければならない.


大学における発達障害の学生に対するキャリア教育とキャリア支援
 西村優紀美(富山大学)
 発達障害のある大学生に対するキャリア教育について、高等教育段階での発達課題を踏まえた上で、段階的な支援のあり方を示した。キャリア教育とは、社会や職業にかかわる様々な体験的学習の機会を設け、体験を通して自己と社会に関して多様な気づきや発見を得させることが重要である。しかし、体験活動に重点を置くのではなく、@修学、A小集団活動、B働く体験、という段階的な学びの場の必要性を提案した。三つのステージを経て培われる「自らの役割の価値や、自分と役割の関係」について整理し、事例報告と共に論じた。キャリア支援に関する今後の課題にも言及したい。


発達障害学生の支援体制構築と支援内容の課題と展望
 ――日本福祉大学における取り組みから発達障害学生支援を考える
 田倉さやか(臨床心理士)、藤井克美(日本福祉大学社会福祉学部)
今日、わが国の大学における、発達障害学生支援の体制とその内容の構築は緊急の課題となっている。本稿では、日本福祉大学の障害学生支援の体制と発達障害学生支援の内容について報告する。具体的には、1)入学前からの支援、2)アセスメントに基づく支援、3)学習支援、4)学生相互の支え合い、5)当事者グループの活動、6)チームによる支援と地域との連携である。日本福祉大学で行っている発達障害学生に対する支援から、支援において必要な視点と課題について整理し、高等教育機関における発達障害学生支援の現在の課題と展望について論述する。


海外における発達障害学生への支援――学びの保障と自己権利擁護
 片岡美華(鹿児島大学法文教育学域教育学系)
 本稿は,LD、ADHDの学生のみを対象とした米国ランドマーク大学と2000年以降特別支援教育制度を整えてきたニュージーランドの4つの大学を中心に,海外での発達障害学生支援の取組を,海外視察による情報をもとに報告するものである.授業支援では,ノートテイカーや支援技術の提供などが従来から行われているが,近年,講義のオンライン通信が資料のデジタル化を促進したことで,障害学生が学修活動にアクセスしやくなっていた.試験での配慮では,教員の個人裁量ではなく各大学で厳格に規定を定め,それに則り公平に執り行っていることがうかがえた.学生が支援を得る際には,自身のニーズがわかり,支援を他者に求めていくセルフ・アドボカシースキルが必要になるが,すべての大学がこの重要性を言及していたものの,実際に教育を行っていたのは,ランドマーク大学であり,初年次の必修科目として位置づけ,さらに高校生への移行プログラムも実施していた.

【実践報告】
大学における発達障害学生支援の現状と学生支援コーディネーターの役割
 ――A大学における学生支援コーディネーターの取り組みから
 池田敦子(秋田大学学生支援総合センター)

大学卒業後も大切となる発達支援と自己理解
 ――成人期の支援事例を通して
 山田宗寛(佛教大学非常勤講師)


連載/実践に学ぶ
@特別支援学級の実践 激しい偏食をもつりんちゃんと仲間たちとの3年間
 小島貴子(埼玉県小学校 特別支援学級教員)
【小島実践に学ぶ】大人と出会い直し、仲間とつながる/別府哲(岐阜大学教育学部)

A障害者運動 大阪府初の多機能電動車椅子支給――補装具制度を考える
 金澤ゆう子(全国肢体障害者団体連絡協議会・大阪府在住)
【金澤実践に学ぶ】「他の者との平等」を求める障害者運動/中村尚子(立正大学社会福祉学部)


連載/発達保障のために学びたい本
田中昌人著 復刻版『講座 発達保障への道』 ―発達保障論の誕生と『講座発達保障への道』
 解説 中村隆一(人間発達研究所)


動向
新型出生前診断とダウン症を持つ人の人権
 百溪英一(東都医療大学ヒューマンケア学部)


書評
 山中冴子 著『オーストラリアにおける障害のある生徒のトランジション支援』学文社
 評者 國本真吾(鳥取短期大学幼児教育保育学科)

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