障害者問題研究  第32巻第3号(通巻119号)  絶版
2004年11月25日発行  ISBN4-88134-204-5 C3037  定価 2000円+税

特集 脳性麻痺研究の到達点

特集にあたって  二木康之(佛教大学社会福祉学部・本誌編集委員)

脳性麻痺の発生機序と周産期脳障害
  早川 文雄(岡崎市民病院小児科)
要旨:脳性麻痺児の脳MRI所見を分析することで、これまでわかりにくかった障害の原因がわかるようになってきた。その結果、これまでのように脳性麻痺の大半が周産期脳障害に起因していることが確認された。現代の考え方によると、周産期脳障害はイコール低酸素虚血性脳症であるというわけでなく、ウイルスや細菌感染などに続発する全身炎症反応症候群のようなメカニズムも脳障害の発生に関わっていることが推定されている。周産期脳障害に関連するエピソードは、早産出生・仮死出生・子宮内発育遅延・多胎児が要因として挙げられる。これらのうち、脳性麻痺の原因としての周産期要因には早産出生が最も高頻度にみられる。医療法律的に焦点となることの多い仮死出生の問題は、分娩監視装置を装着していても防ぐことのできない2つのパターン、すなわち「突然発生する持続性徐脈」と「胎児心拍が異常でないのに発生する多嚢胞性脳軟化症」に注目すべきである。子宮内発育遅延や多胎児は、現代における子宮内膜症の増加という社会現象と関連するものであり、間接的ながら早産・仮死出生の危険を包含する周産期要因である。
キーワード:周産期脳障害、磁気共鳴画像(MRI)、早産出生、仮死出生、子宮内発育遅延、多胎児
 

脳性麻痺診断技術の進歩

  林  万リ(横浜市総合リハビリテーションセンター)
要旨:脳性麻痺はどんなに軽度でも成長とともに二次障害が出現し、病変そのものは不変であるにもかかわらず障害の重度化を引き起こしかねない疾患である。廃用性萎縮や代用パターンができる前から筋活動を賦活し、正しい支持性を獲得するように治療していくことが必要である。そのためには、乳児期早期の診断確定前に麻痺のリスクの有無を適切に診断することが求められる。ボイタ(Vojta)は中枢性協調障害の概念を取り入れ、自発運動や神経学的所見に加えて姿勢反応の評価を利用し、リスクの程度を量的に判断できるように工夫した。筆者は乳児期早期で麻痺のリスクを疑う時にはボイタの反射性寝返りI相を実施して、1ヵ月後に姿勢反応の改善が認められない場合に、真のリスク児として本格的治療を開始することにしている。また誤診を避けるためには、自発運動と神経学的所見と姿勢反応の三者の組み合わせが必須と考えている。
キーワード:脳性麻痺、ボイタ法、中枢性協調障害、自発運動、姿勢反応、神経学的所見

脳性麻痺の移動運動の予後
  北原 佶(鳥取県立皆生小児療育センター)
要旨:脳性麻痺の歩行、移動運動の予後について文献的に検討した。またわが国の6肢体不自由児施設のCPを対象に歩行予後を検討した。歩行開始時期は6施設間で差がなかった。9歳以後に歩行開始した者はなく、歩行獲得には年齢的上限がみられ、過去の報告と一致していた。歩行予後は4歳までの6つの粗大運動の発達経過より88%の確率で予測可能であった。これらは過去の報告と大差なかった。これまでの早期療育、治療・訓練法の開発はCPの歩行予後に関して大きな変化を与えていない。またGMFCSの利用は6−12歳の粗大運動能力の予測をそれ以前の年齢で可能にした。GMFCSは、座位・歩行能力を予測するものとして有用であり、今後さらに活用すべき尺度である。
 歩行不可が予測されたCP児には早期から電動車いす等の歩行に代わる代替移動補助具を導入すべきである。それによる自立移動は、CP児の行動にプラスの変化を与える。
 一方CPでは歩行獲得後に再び歩行不可になることがある。それは、頸髄症、関節拘縮、関節痛など以外にも身体的消耗(physiological burn-out)によると考えられる。これに陥らないために、歩行のみを移動手段とするのではなく、杖や車いす等の併用が求められる。
キーワード:脳性麻痺、座位、歩行予後、機能低下、粗大運動能力分類システム、電動車いす

脳性麻痺による頸椎症性頸髄症
  原田 武雄(大阪警察病院整形外科)
要旨:アテトーゼ型脳性麻痺患者では、若年より頸椎症性頸髄症、神経根症を発症し、さらなる運動能力の低下を生じてくる症例がある。この事実は案外知られていない。頸椎症性頸髄症、神経根症とは、頸椎が傷み、頸髄や神経根を圧迫し手足がしびれ、動かしにくくなってくる病気で、@手指巧緻性障害、A歩行障害、B排尿障害、C三角筋、上腕二頭筋筋力低下による上肢挙上あるいは肘関節屈曲障害、D時には頸椎運動で増強する頸肩腕、肩甲部あるいは背部痛といった症状が生じる。これらが進行、増悪し、日常生活動作の低下を来せば手術適応となると考える。不断に生じる不随意運動、手術成績が不良ではないかという先入観から外科的治療の機会を逸することもあるが、手術成績は悪くない。手術は、術前にハローベストを局所麻酔下に装着し、椎弓形成術に腸骨を用いた後方固定を加えるのを基本とする。日常生活動作の明らかな、特に急速な低下を来した症例では早期に手術を受けるのが望ましい。
キーワード:アテトーゼ型脳性麻痺、頸椎症性頸髄症、椎弓形成術

二次障害体験者の手記
生活の改善を進めながら自分らしい暮らしを
  上野 耕一(神奈川)

私の生活と「二次障害」―心身の力を保ちつつ
  古河 辰彦(千葉)

実践報告
肢体不自由児通園施設における実践  機能重度児の自信をはぐくむ保育と訓練機

  木邨 秀信・高林 百合恵(寝屋川市立あかつき・ひばり園)

肢体不自由養護学校における実践  筋緊張の緩和と座位姿勢の保持
  佐々木 和彦(大阪府立箕面養護学校)

学齢期における側弯・胸郭変形・ウインドスエプト変形の実態と対応

  北村 晋一(東京都立小平養護学校)

動向
姿勢保持具の進歩と今後の課題
  工藤 俊輔(秋田大学医学部保健学科)
要旨:脳性麻痺児を中心とした重度運動障害児の増加にともない、日常生活全般にわたるポジショニング指導の重要性が指摘されている。このポジショニング指導に利用される姿勢保持具の歴史及び現状を概括し、今後の課題として@軽量化、小型化した調整可能な姿勢保持具の開発、A姿勢保持具の適切な価格体系と供給システムの確立、B地域格差の是正、C姿勢保持具の教育・啓発活動、D障害児(者)に対する姿勢適合技術の必要性について言及した。
キーワード:姿勢保持具、ポジショニング、重度運動障害児、姿勢適合技術


私の教育実践
養護学校における「ものづくり」活動の意義と実際
  石山 貴章(高知大学教育学部附属養護学校・高知女子大学大学院)

資料
 アメリカ合衆国におけるリーディング・リカバリーの展開―学習障害児の読み書き能力の育成に焦点をあてて

  谷川 とみ子(日本学術振興会特別研究員)

連載 発達保障論をめぐる理論的問題(3)
教育権と発達概念の再検討
  碓井 敏正(京都橘女子大学文化政策部)

障害者問題研究 バックナンバー


矢印 もどる