障害者問題研究  第32巻第4号(通巻120号)
2005年2月25日発行  ISBN4-88134-224−X C3037  定価 2000円+税

特集 学齢期の地域生活支援

特集にあたって  田中良三(愛知県立大学・本誌編集委員)

学齢障害児の地域生活支援
   田中 良三(愛知県立大学)
要旨:学齢障害児に対する学校外の地域生活支援の一環としての障害児の放課後・学校休日ケアの取り組みは、近年、その制度・政策的背景をもとに飛躍的に発展を見せている。そして、今後、子育て・教育福祉の新たな制度・政策や民間の運動・実践がこれを一層推進する傾向にある。さらにまた、高等部や専攻科の生徒たちを対象に、学校から社会への移行期を支える新たな支援も広がろうとしている。本稿は、学齢障害児の学校外における地域の遊びや友だちづくり、学びの保障に視点をあて、その地域生活支援の現状を明らかにするとともに今後の方向性について展望する。
キーワード:学齢障害児、放課後・学校休日ケア、地域生活支援、移行支援、学びへの支援

障害児・家族の生活実態と地域生活支援 −京都・障害児放課後休日実態調査から

   津止 正敏(立命館大学産業社会学部)・立田 幸代子(立命館大学大学院社会学研究科研究生)
要旨:本稿は、筆者らが行った京都の障害児学校や障害児学級などに通う小中高校の子どもたちの父母を対象にしたアンケート調査(京都障害児放課後休日実態調査2002年12月〜2003年5月)の報告である。本調査において、2002年4月の学校5日制完全実施による放課後生活への影響や2003年4月の実施を目前にした支援費制度の進捗状況などの実態を明らかにしながら、障害児の豊かな放課後保障についての提言をまとめようと試みた。結果、家の中で母親べったり、テレビ・ビデオづけでたまの外出も買い物かドライブ、ケアにかかる過大な費用負担、など諸問題が具体的データとして把握された。一方で、地方自治体を中心に障害児の地域生活支援の制度・サービスもモデル的に登場し、2005年4月からは国による初めての放課後支援施策「障害児タイムケア事業」も始まるという環境も生まれている。障害児・家族への放課後支援を巡っての運動と実践の課題について京都調査を素材に検討した。
キーワード:障害児、家族、地域、放課後保障、学校5日制

学齢障害児の放課後生活支援と余暇保障 −滋賀の取り組みから
   黒田 学(滋賀大学教育学部)
要旨:学齢障害児の「放課後生活支援と余暇活動保障」(放課後保障)について、その必要性を3つの意味から詳細に整理した。第1に障害児の余暇の権利保障、第2に子育ての社会化(障害児と家族への子育て支援と就労保障)、第3に、第1の余暇の権利保障と第2の子育ての社会化を通じての発達保障(障害児自身の人格発達の保障、第三の居場所としての時間・空間・仲間の保障)である。滋賀での取り組み、栗東元気玉クラブ(障害児童クラブ)施設の公設化や「障害児者の豊かな放課後と余暇生活を保障するネットワーク滋賀(放課後ネット滋賀)」結成を紹介しながら、放課後保障を進める上での今後の課題を明らかにした。
キーワード:放課後保障、障害児童クラブ、余暇の権利、子育ての社会化、第三の居場所、発達保障原

特別なニーズを持つ子どもの地域生活支援をめぐる課題 −福島での障害児学童保育の取り組みを通じて
  鈴木 庸裕(福島大学人間発達文化学類)
要旨:「特別なニーズ」は、個々人の要望や困難さの局面だけでなく、社会制度の隙間や矛盾を私たちに数多く気づかせてくれる。その一方で、私たちと地域を動かすアイデアや工夫を向き合わせてくれる。また地域生活支援とは、人々のくらしが豊かになる支援の実際であるとともに、その人々みずからの手で地域の改変が達成できるような地域の応答性を築いていくことでもある。その際、学童保育は地域の応答性を高める上で、いかなる役割を果たすのか、福島における障害児学童保育の一つのケースと「ふくしま地域生活支援ネットワーク」でおこなったアンケート調査をもとに、学齢期の地域生活支援のありようについて論じていく。
キーワード:障害児学童保育、地域生活支援、地域の応答性、つなぎ目、学校ソーシャルワーク

障害児の地域生活を支える −大学での活動を中心として
   池本 喜代正(宇都宮大学教育学部)
要旨:障害児の放課後・休日活動の運動は、近年各地で盛んになってきている。筆者らは、知的障害児を対象とした毎月1回の療育活動「キッズサークル」とサマースクールを実施してきて5年目となる。障害児教育を専攻する学生が、キッズサークルやサマースクールを企画し、運営している。キッズサークルは、40名以上の子どもが参加し、体を十分に動かし、認知力を高める活動を組み込んでいる。サマースクールは、キッズサークルの内容に制作活動・ハイキング・調理活動などを付加しており、保護者からも有意義な活動であるという評価を得ている。これらの活動への参加は、学生にとって障害児への接し方、指導の在り方、障害児教育の意義について考えるきっかけとなり、実際的な学びの場であり、教育的意義が高い。また、筆者らが中心となって障害児の放課後・休日活動を考えるためのネットワークづくりを進めている。障害児の地域生活を支援する上で、大学の果たす役割は大きい。
キーワード:療育的活動、知的障害児のサマースクール、障害児支援活動、障害児家族支援、ネットワーク

支援費制度を利用した生活支援 −知多地域のNPO等の取り組みを中心に
   佐々木 将芳(日本福祉大学大学院)・近藤 直子(日本福祉大学社会福祉学部)・木全 和巳(日本福祉大学社会福祉学部)
要旨:本論文では、愛知県知多半島地域における、支援費制度を活用した障害児の生活支援について、NPO法人の取り組みを中心にその実態と課題を検討する。知多圏域には、NPO法人を支援するNPO法人があり、学生ヘルパーの養成が行われている。NPO法人等の社会資源が多い知多圏域だが、支援拠点についての地域格差も明らかとなった。しかし、県内の他の市町村に比べサービスの利用時間が大きく上回っている。また、児童デイサービス事業及びホームヘルプ事業を実施している事業所への調査からは、支援費の単価の問題や、まだまだ不足している社会資源から、利用者へ十分なサービス提供ができない実態などが明らかとなっている。知多圏域では、日本福祉大学の存在により人材の輩出は比較的容易であるが、今後の課題として、大学と事業所との連携や、子どもの要求に応じた多様なサービスの在り方が問われているといえる。
キーワード:児童デイサービス、児童ホームヘルプサービス、支援費制度、NPO法人、私的利用契約サービス

動向
「全国放課後連」結成までの道のりと今後への期待
  松浦 俊弥(全国放課後連事務局次長)

報告
学童保育の場で育ち合う  

  竹内 れい子(埼玉県草加市)

「楽しい放課後生活」を子どもと創る
  村岡 真治(東京都小平市)

障害者ケアマネジメントと学齢期における支援

  末永 カツ子・相澤 雅文(仙台市発達相談支援センター)

障害児の子育ち、子育て支援の場として 障害児学校寄宿舎の実践から 
  西村 京子(京都府立丹波養護学校寄宿舎)

海外動向
スウェーデンにおける学齢障害児のパーソナルアシスタンス
  石田 祥代(東京成徳大学人文学部)
要旨:本稿では、スウェーデンにおいて学齢障害児が充実した地域生活を送るためのキーパーソンであるパーソナルアシスタンスの意義を検討した。結果、学齢障害児のパーソナルアシスタンスは1969年に公的に導入され、現在はLSSにより保障されていること、アシスタンスは包括的に充足的に学齢障害児の生活の質を高めていること、LSS制度後アシスタンスの選択・変更がより容易になったことが明らかとなった。また、アシスタンスに関連したサービス内容に関するコミューン間の格差の縮小とアシスタンス養成・再養成の検討が今後の課題として示された。
キーワード:スウェーデン、学齢障害児、パーソナルアシスタンス、地域生活、LSS

連載 発達保障論をめぐる理論的問題(4)
平等概念と機会の平等の一考察
  竹内 章郎(岐阜大学地域科学部)

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