障害者問題研究 第36巻第2号(通巻134号) 絶版 |
2008年8月25日発行 ISBN978−4−88134−664−8 C3037 |
自立と福祉を対立的にとらえるのではなく、就労とともに福祉の保障をめざさなければならない。障害者就労の実態把握と障害分野におけるワークフェアを分析する。安倍内閣後の政策動向、欧米の潮流、障害者権利条約における障害者雇用まではばひろく。 |
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特集 障害者の自立と就労支援 特集にあたって 鈴木 勉(佛教大学社会福祉学部) 障害者自立支援法と就労支援施策/峰島 厚(立命館大学産業社会学部) 要旨:障害者自立支援法施行後、安倍内閣は「再チャレンジ支援総合プラン」・「成長力底上げ戦略」による「就労支援施策」を重点とする障害者施策を打ち出した。障害者自立支援法が一般就労への移行を重視しているのと同じく一般就労を一面的に重視するものではあるが、それとは異なった性格を有している。安倍内閣の「就労支援施策」は、労働者としての労働条件、身分保障を問うことなく、少しでも働いて稼ぎ納税者になり、「福祉の支え手」(福祉の対象(使い手)でなくなる)となることをねらったものである。それは、格差と貧困のもと福祉ニーズをもつにいたった人々を雇用対策の対象にすりかえ、劣悪な労働条件で身分不安定のままに働く底辺労働者としてかり出すという、貧困と格差温存の、そして結果的には福祉ニーズの縮減、福祉施策の縮小に目的があった。そして国民の批判を受けて失墜した安倍内閣に代わって福田内閣が誕生するが、本論ではここ数年の国の施策を分析し、この福田内閣のもとでも「社会福祉の機能強化」を名目として再び障害者自立支援法による障害者の介護制度と介護保険制度との吸収合併がねらわれていると問題提起した。 キーワード:障害者自立支援法、一般就労、就労支援施策、福祉から雇用へ推進5ヵ年計画、工賃倍増計画 福祉政策と就労・ワークフェアをめぐる論点/岡崎祐司(佛教大学社会福祉学部) 要旨:日本の生活保護行政においては、自立助長が就労指導と同義とされているが、公的扶助受給者への社会福祉援助(ソーシャル・ワーク)は生活保障と尊厳ある生活の回復を目的に行われるべきである。公的扶助の削減という政策目的のためにソーシャル・ワークを活用すると、福祉労働者(ソーシャル・ワーカー)の仕事を歪めることにつながる。アメリカの公的扶助引き締めの歴史的教訓に学ぶべきである。経済のグローバル化にともない雇用が流動化している。そこで、福祉受給者を就労に誘導するワークフェアとアクティベーションへの関心が高まっている。ワークフェアは、新自由主義の改革と対立的ではない。労働問題の解決に積極的であるのか、所得保障を充実させるのか、社会福祉の準市場化によって弊害が大きくなるのではないか、これら三つの論点を検討するべきである。 キーワード:生活保護、自立助長、公的扶助引き締め、ワークフェア、新自由主義 障害者の就労支援と保護雇用/朝日雅也(埼玉県立大学保健医療福祉学部) 要旨:今日、就労支援が政策的に強く打ち出されているが、一般就労と“福祉的就労”が分断されてきた中で、保護雇用についての本質的な議論が欠かせない。欧州でも「ワークフェア」を基調とした競争的雇用への移行の重視が求められる中、今後も持続的に、ILOの国際基準に基づく保護雇用の機会を提供することの意義を確認することができる。わが国においては、保護雇用をめぐる議論や政策的検討が必ずしも充分ではなかったが、労働組合による保護雇用の創設を含むILO提訴が行われる等、確実な動きが出てきている。「保護」のもつ前近代性からは脱却した新たな保護雇用の創設は、社会的な支援の枠組みの中でディーセントワークを実現していく観点からも重要であり、障害者権利条約における課題との整合性を図りつつ、積極的な議論が望まれる。 キーワード:就労支援、保護雇用、ディーセントワーク、障害者自立支援法、国際労働機関(ILO) 障害者の権利条約における障害者就労と欧米諸国の差別禁止法/松井亮輔(法政大学現代福祉学部) 要旨:2006年12月に国連総会で採択された障害者の権利が2008年5月3日に発効したことで、障害者差別禁止法制定に向けての各国の取組みがさらに加速することとなると予想される。しかし、ADAの経験からも明らかなように、障害者の雇用機会の均等と待遇の平等を実現するには、差別禁止アプローチだけでは不十分である。EU諸国がEU指令のもとに取組んでいるように、差別禁止アプローチと雇用率制度など、積極的差別是正措置の組み合わせがより効果的であろう。さらに、障害者の就労実態を本格的に改善するには、それらの組み合わせに加え、障害者の能力開発をすすめるための教育や職業訓練の向上、社会的企業や協同組合等、地域ベースの多様な働く場の創出など、総合的な取組みが不可欠と思われる。そして、こうした総合的な取組みが実効をあげるための前提として、障害者も含む、すべての人がディーセント・ワークにつきうるような社会的条件整備が求められる。 キーワード:障害者の権利、ADA、EU指令、差別禁止、合理的配慮、積極的差別是正措置 障害者の就労と自立支援―知的障害および精神障害をもつ人の本人調査をもとに/石倉康次(立命館大学産業社会学部) 要旨:就労促進に重点を置いた福祉政策には、強制をともなう狭義のワークフェア、強制をともなわないアクティベーションがある。後者の政策を取ってきたスウェーデンではその変質が起こり、就労以外の多様な支援ニーズへの対応が後退している。日本では2006年の障害者自立支援法により授産施設・作業所等で障害を持つ人の就労促進や就労移行に重点が置かれるようになったが、2004年の障害者対策基本法改定段階での自立支援の到達点からの後退を示す。知的障害者本人への調査では、@一般就労により経済的自立を実現できる事例はまれである、A作業所や授産施設は就労に向けた準備を行う施設として特化できるものではなく、それぞれの能力と価値観にあわせた就労を通した社会参加をすすめ「依存しながらの自立」(自律)を支援する場でもある、B一般就労に就いている人を含め、日常生活支援や相談・コミュニケーション支援も不可欠である、などが明らかとなった。 キーワード:就労、自立、ワークフェア、アクティべーション政策 報 告 障がい者法定雇用率の達成をめざす調査研究―茨城県内民間企業の5年間の動向分析 /船橋秀彦(茨城県立水戸飯富養護学校)・岡崎喜一郎(社会就労センターあすなろ学園)・鈴木宏哉(全障研茨城支部支部長) 要旨:障がい者雇用に関する全国障害者問題研究会茨城支部の研究経過(企業意識調査等)を概括するとともに、2003年から2007年までの茨城県内企業の法定雇用率に関する動向を示した。達成企業の割合は全国水準より高いにもかかわらず、実雇用率は全国レベルより低位だった。その要因を、法定雇用率未達成企業の実態から検討した。結果、@企業規模、A0人雇用企業、B先年から継続する未達成企業、C未達成企業予備軍とも呼べる「56人未満企業」、などで障がい者雇用の障壁となる問題を抱えていることが分かった。 キーワード:障害者雇用促進法、茨城県、民間企業、法定雇用率、未達成企業、実雇用率 障害者就業生活支援センターの取り組み/加藤直人(障害者就業生活支援センター「つれもて」) 要旨:精神障害者にとって、ハローワークでも一般求人でも就労は困難である。企業には精神障害の理解がほとんどない。だからこそ事業所内実習によって実際に企業で働く姿を見てもらうことで雇用主の意識が変わること、働こうとする登録者が自信をもてるようになることが大切になってくる。就業生活支援センターは障害者の就労支援機関として協力企業の開拓に努めてきた。ここでは就労に結びつく援助のあり方を、事例を通じて述べた。さらに、雇用情報の公開、先駆的事業所の紹介、目的値の設定、メンバー支援の人的体制、実習制度の充実、就業者クラブの結成、生活相談と支援、就労ネットワークなど、障害のある人の就労保障の課題をあげた。 キーワード:就業生活支援センター、委託訓練、地域就労支援事業、就労ネットワーク、ジョブサポーター 特別支援学校の進路指導からみる就労支援の課題―過疎地域での実践/安達忠良(兵庫県立養護学校) 要旨:障害者自立支援法の成立後、障害者の一般就労に対する取り組みが推進され、多くの障害者が就職の機会に恵まれるようになってきた。また、就労支援の仕組みも徐々に整えられている。しかし、知的障害の養護学校(現在は特別支援学校)高等部から一般就労をした卒業生の中には、精神的な不調に陥って離職に至る場合が少なからずあり、その予後はよくない。原因は、本人や家族の特性、受け入れ事業所の理解不足に加えて、在学中の指導体制、就労支援体制の不備、無理のある就職選択が考えられる。就労支援の体制が整っていない過疎地域における特異な例なのかもしれないが、今後さらに障害者の一般就労を推し進める上で必要とされる支援は何なのかを検討し、共通理解する必要がある。 キーワード:離職、精神的不調、就労支援、就職率、アフターケア 海外動向 韓国における自活支援事業の現状と障害者支援/呉英蘭(新羅大学校社会福祉学科講師) 要旨:本稿の目的は韓国における自立支援政策の展開と動向を検討することにある。韓国の場合、1990年代末、低所得層の仕事を通じた自立を志向するワークフェア政策が導入され、国民基礎生活保障制度の実施とともに自活支援事業が積極的に展開された。本稿ではこうした政策展開の過程を検討しながら韓国における自立支援政策の流れを把握し、特に国民基礎生活保障制度においても疎外されている障害者に対する自立支援政策についてみる。その際、障害者に対する国民基礎生活保障法と雇用促進法における支援政策を検討し、自立支援事業への参加対象の拡大と障害の状況に合わせた政策の展開などを改善課題として提案した。 キーワード:韓国、自活支援事業、ワークフェア、障害者自立、国民基礎生活保障制度 資料 最低賃金法除外申請の実態と課題/川上輝明(名古屋女子大学) 要旨:労働能力が劣る精神や身体に障害のある者は、都道府県労働局長の許可を受けたときは最低賃金の適用が除外(最低賃金法第8条)されることになっている。その理由は、使用者の負担を軽くすることで障害者の雇用拡大を図ることができるためと説明されている。そもそも最低賃金とは、人が人として暮らしていくための最低限必要な金額であり、これを下回ることは最低生活以下の生活を余儀なくされることである。労働効率が低いために最低賃金すら保障されないという制度は、賃金の全てを使用者負担としているところに問題がある。障害者の就労に際しては賃金の一部を公的に保障していく制度が必要である。最低賃金適用除外の法律は1959年に制定されたものであり、すでに50年が経過している。障害者をめぐる国の内外の状況も大きく変化してきており、障害者がその人らしく就労を通して生きがいをもって社会参加できるよう抜本的な制度改革が必要である。 キーワード:最低賃金法、障害者、就労、最低賃金、最低賃金除外 ■障害者問題研究 バックナンバーへ |