障害者問題研究  第38巻第2号 (通巻142号)
2010年8月25日発行  ISBN978-4-88134-864-2 C3037  定価 本体2500円+税
特集 重度知的障害者の暮らしと労働


 特集にあたって/白石恵理子(滋賀大学教育学部)

重度知的障害のある人の労働と暮らしをめぐる現状と課題/赤松英知(きょうされん常任理事)
要旨:知的障害の重い人たちは,働くことによって工賃を得,自らの活動に手応えを感じて自己実現をし,そして社会と連帯していく機会をもつことができる.これは一人ひとりのペースが大切にされ,多様な働き方が認められることで実現されるが,障害者自立支援法は一般就労に最も大きな価値を置いたために,障害の重い人たちの労働を脇に追いやった.また,暮らしの場については長年の実践によって,小規模化やプライバシーを尊重する方向に進んでいたが,障害者自立支援法によって再び大規模化の傾向を強めることになっている.現在,検討が進んでいる新たな制度においては,障害者権利条約と障害者自立支援法違憲訴訟における基本合意文書の立場で,重い障害のある人の労働・日中活動や暮らしの場の検討が進められるべきである.障害の重い人がどうなるかは,新制度の水準を測る試金石となる.
キーワード:働くことの意義,暮らしの場,社会支援雇用,デイアクティビティセンター,障害者権利条約,障害者自立支援法違憲訴訟基本合意


人間発達と「労働生活の質」 「障害者に仕事を合わせる」の意味と意義/丸山啓史(京都教育大学)
要旨:本稿は,「障害者に仕事を合わせる」の意味と意義を確認することを通して,人間らしい労働の内容について考えていくうえで重要になる視点について検討する.第一に,重度障害者の労働をめぐる議論と実践のなかで,マルクス主義の労働観を背景にしながら労働を通した人間発達が重視されてきたことを示す.第二に,「発達」だけではなく「労働生活の質」という視点が求められてきていることを示す.労働における人との関係やコミュニケーション,労働の「やりがい」や「楽しさ」などが,「労働生活の質」にとって重要になる.最後に,「人間に仕事を合わせる」という課題を考えるうえでも「障害者に仕事を合わせる」という視点に意義があることを示す.
キーワード:重度障害者,労働,人間発達,労働生活の質,マルクス主義


成人期の知的障害者における暮らしと家計構造/田中智子(佛教大学社会福祉学部)
要旨:本研究は,成人期の知的障害者の暮らしについて家計の側面から現状と課題を明らかにすることを主たる目的とする.そのためにまず,成人期の知的障害者の生活場所の現状について考察をするため,厚生労働省による調査結果を分析した.その結果,入所施設からグループホームへの移行は進んでいるが,家族と同居する者の割合は変わらないことが明らかになった.次にA県にて実施した家計調査を基に,成人期障害者の暮らしの実態を,家族同居,グループホーム,入所施設と生活場所別に分析をした.その結果,家族の経済力,介護力によって障害者本人の生活は規定され,家族同居,グループホーム,入所施設の順に,障害者を支える家族の生活基盤は弱まっていることが明らかになった.また,障害者本人の経済状況については,収入・支出共に一般世帯を大きく下回り,家族への経済的依存も高いことが明らかになった.さらに,家族周期と家族内の支出配分について考察したところ,家族周期の進行に伴い,本人への支出配分は増大することが明らかになった.
キーワード:知的障害者,成人期,家計,暮らし


重度知的障害者の発達と日中活動/白石恵理子(滋賀大学教育学部)
要旨:1980年代,各地に作業所ができていき,多様な障害のある人たちが受け止められていった.本稿では,筆者が発達診断でかかわってきた「さつき福祉会」設立後の約10年の経過において,重度知的障害者への実践がどのように模索され,方向性が見出されていったのかを振り返ることで,発達保障の立場から重度知的障害のある人の日中活動のあり方について提起したい.
キーワード:重度知的障害,作業所,発達,労働,日中活動

実践報告


障害の重い人たちが意欲的に作業に参加できるために 通所更生施設での模索/金子昭代(東京・小豆沢福祉園)

青年・成人期における障害の重い人のライフステージと発達保障実践の課題 大津方式で育った人たちから学ぶ/山田宗寛(滋賀県立信楽学園)

仲間に寄り添い 暮らしを支える ケアホームでの実践から/伊藤成康(大阪・さつき福祉会)

重い障害をもつ仲間の暮らしの支え 居住環境の改善を通して/澤田透(埼玉・みぬま福祉会太陽の里)

早期高齢化のなかまと向き合った 認知症の発症により急激に「退行」しつつ精一杯生きるなかまから学びつつあること/吉留英雄(大阪・わかくさ福祉会)

資料
居住地校交流における相互理解の促進と情報の共有化に関する事例的研究/細谷一博(北海道教育大学函館校)・大庭重治(上越教育大学大学院学校教育研究科)
要旨:特別支援学校に在籍する一児童を対象とした居住地校交流において,交流を開始する前及び交流期間中に,特別支援学校と居住地校の連携を促すためのアンケートを実施した.本研究の目的は,居住地校交流におけるこれらのアンケートの活用効果を実践的に検討するとともに,アンケートの実施と活用における検討課題を明らかにすることであった.その結果,アンケートの活用により,両校の関係者は交流に対する相互の考え方を知る機会を得ることができ,それに伴い交流の実現に向けた連携の必要性を強く意識するようになった.また,居住地校の教師は,交流時の児童の様子をより詳しく知ることができ,それ以後の交流の参考資料を得ることができた.一方,対象児童による交流の内容や方法に関する評価の方法,交流成果に関する居住地校の教師と児童による評価の方法,アンケートを実施するための特別支援学校における体制の整備が今後の検討課題として残された.
キーワード:居住地校交流,相互理解,情報の共有


【書評】

丸山啓史著『イギリスにおける知的障害者継続教育の成立と展開』/八木英二
(京都橘大学)

【連載 なぜ今歴史研究が求められているか】
(中)/藤本文朗(滋賀大学名誉教授)

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