障害者問題研究  第38巻第4号 (通巻144号)
2011年2月25日発行  ISBN978-4-88134-904-5 C3037  定価 本体2500円+税
特集 教材研究と授業づくり

特集にあたって
 発達への願いを輝かす教材研究・授業づくり/白石正久(龍谷大学社会学部)

論文

 教材とは何か/山根俊喜(鳥取大学地域学部)
要旨:教育方法学の立場から,教材概念とその意味について概説した.教材は,教育目標,教材,指導過程,教育評価という授業の4つの構成要素のうちの1つであること,そのままでは教えることのできない教育目標を教授・学習の対象として実体化した文化財であること,その概念が明確にされたのは教育内容の現代化以降のことであること,教材づくりの方法にはいくつかの異なった手順が見いだされること,よい教材の条件は,生活(的概念)と科学(的概念)の不連続をとぎれないように連続させるものであること,教材づくりは既成の科学の成果の子ども向け翻案といったものではなく,一種の科学的探究の過程であることなどを論じた.
キーワード:教材,教具,教育目標,指導過程,教育評価,生活的概念と科学的概念

 教育内容編成における教師の権利と子どもの発達保障/山崎雄介(群馬大学教育学部)
要旨:本稿では,まず,教育課程・教育内容編成における教師の権利が近年の教育政策においてどのように扱われているかについて分析する.具体的には,教育課程政策のキーワードである「大綱化」「弾力化」「現場主義」といった用語の内実を批判的に検討したうえで,こうした用語から想像される「教師の裁量権の拡大」とは逆行する政策動向である「学校評価」について分析する.とくに,非教育的な評価項目の設定,特定の実践手法・子ども観のおしつけ,教師と保護者・地域住民との間の不適切な関係の強要,といった点が批判的に論じられる.こうした動向に対峙していくヒントとして,後半では,1966年の「教員の地位に関する勧告」と,その不遵守を是正する2008年のILO・ユネスコ共同専門家委員会(CEART)勧告をとりあげ,子どもの発達を保障するための教育内容編成における教師の権利についての原則的な論点を提起する.
キーワード:教育内容,学習指導要領,学校評価,教員の地位に関する勧告,CEART


 知的障害児に対する性教育における教材研究・授業づくりの基本的視点の検討
 /児嶋芳郎(特定非営利活動法人発達保障研究センター・東京学芸大学大学院博士課程)

要旨:本稿では,まず知的障害児に対する性教育に関する教材研究・授業づくりの前提として,人間の性及び性教育が国際的にはどのように認識されているのかを確認し,その上で,性教育の学校教育全体に対する位置づけを示した.加えて,筆者らが2010年に全国の知的障害特別支援学校に対して行った性教育実践の状況を把握する実態調査や先行研究で,性教育を実施する際の困難点として挙げられている「性教育の時間が十分にとれなかった」「適当な教材・教具がなかった」「児童・生徒の個人差が大きかった」を取り上げ,この3点がなぜ困難点として認識されるのかの原因を探り,今後知的障害児に対する性教育が発展・深化していくための基本的な視点を検討した.
キーワード:セクシュアリティ,性教育,目的と手段,困難点


 重症児教育における授業づくりと教材 ―重症児教育の歩みと教材のみかた・考え方
 /猪狩恵美子(福岡教育大学)

要旨:本稿は,重症児教育における授業づくり・教材づくりについて,全国障害者問題研究会全国大会における「障害の重い子どもの教育」分科会での議論を検討した.そこでは,「生活・生活リズムづくり」「健康づくり」と並んで,とくに「人との関わりを支えにした物(外界)との関わり」が重視されてきたといえる.単なる道具・素材ではなく,文化としての教材と子どもの出会いを通して,教師は子どもからの発信への共感的な応答関係を大切に,子どもがわかって楽しむ授業づくりがめざされてきた.客観的な評価が出しにくい重症児教育において性急に成果を求める訓練主義や,逆に「癒し」偏重の傾向は,大人や仲間との関わりの中で人や文化に向かう子どもの可能性を過小評価するものである.これまでの到達点をふまえた,重症児の真実に迫る教材研究が求められている.
キーワード:重症児,生活,健康,人との関わり,文化


 発達の源泉としての教材/白石正久(龍谷大学社会学部)
要旨:教育的に価値のある対象として選択,吟味された教育目標と,その具体化であり手段である教材によって構成される教育内容という契機,そして,その教育内容と向き合うべき子どもの側の発達という契機が,教育指導によって媒介され,どのように作用しあうのか.子どもは,外界と自己にはたらきかける活動によって,教材を加工・創造し,取り入れることのできる質と量,そして連関をもった単位を形成していく.その活動には,発達の様式的特徴が普遍性をもって貫いている.この普遍性に,生活の過程によって醸成されていく個別性が統合されて,一人ひとりの個性的な能力と人格の発達が達成されていく.芸術教材は,障害のある子どもたちの生活感情と重なることによって,発達の源泉のみならず,精神的な支えとなっていく.このような外界と自己にはたらきかける主体としての子どもの発達理解が求められる.その理解を広げるのは,どんな子どもに育ってほしいのかという教育目的の不断の議論であり,それを可能にする時間と自由を教師は要求する.
キーワード:発達の源泉,教育目標,教材,発達要求,単位,芸術教材



実践報告

 教育実践サークル「麦の会」における教材分析・実践分析の実際
 /全障研埼玉支部障害児教育実践サークル 麦の会運営委員会


 “お話,物語の世界”でともに遊ぶ!/羽田千恵子(滋賀県立草津養護学校)

 どの子にも「本物の運動文化」を ―車いすサッカーで良が輝くとき
 /松本陵子(愛知県立岡崎養護学校)


 視覚障害幼児の心を励ます「音楽リズム」/今井理知子(元大阪市立視覚特別支援学校)

 特別支援学校での音楽の授業づくり/藤井佳樹(山口県立萩総合支援学校)


【書評】
 木下孝司著『乳幼児期における自己と「心の理解」の発達』/土岐邦彦(岐阜大学地域科学部)

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