障害者問題研究 第39巻第1号 (通巻145号) |
2011年5月25日発行 ISBN978-4-88134-954-0 C3037 絶版 |
特集 障害者権利条約とインクルーシブ教育の動向 特集にあたって/越野和之(奈良教育大学) 論文 特別支援教育制度からインクルーシブ教育の制度へ/清水貞夫(尚絅学院大学) 要旨:国連・障害者権利条約の規定する「通常/一般教育システムからの非排除」「地域でのインクルーシブ教育」「必要なサポート及び合理的配慮の提供」等をどのように理解するのかを論究した.論究に当り,2010年12月に公表された障がい者制度改革推進会議『第2次意見』と中央教育審議会・特別支援教育の在り方に関する特別委員会『論点整理』を対比しつつ,障害者権利条約の批准のために求められる特別支援教育体制の制度改革は何かを明らかにした.特に,特別支援学校の設置義務者を都道府県から市町村に移管することの必要性を提起した. キーワード:障害者権利条約,地域でのインクルーシブ教育,合理的配慮,条件整備 通常学校の改革と授業づくり/湯浅恭正(大阪市立大学大学院) 要旨:本稿は,通常学校における特別なニーズ教育を展開するために,インクルーシブ教育の理念と子どもの参加論を基礎にした教育実践の課題を考察する.生活指導実践では,対話と討論を通して平和的な学級社会を形成する実践の構想が問われ,そこでは学級活動の展開,カリキュラムへの参加を通して生活を意識化し,通常学級を改革する主体の形成が重要である.通常学校の改革論であるホールスクールアプローチにおいては,学校に教職員の間の共同の過程を創造し,学級を基盤にしながら多元的な居場所をつくる視点が求められる.その際,教職員の共同を推進するリーダーシップ論,インクルーシブな学級社会をつくる実践論が重要である.さらに,学級づくりを基礎にして,インクルーシブ授業論を正面から取り上げていくことが必要である.ユニバーサルデザインの授業の意味を問い直し,特別なニーズ論,学習内容論,学習の共同化論を踏まえた授業理論の構築が課題である. キーワード:生活指導,ホールスクールアプローチ,共同,学級づくり,授業づくり スウェーデンにおける障害児学校の位置づけと機能 ―障害者権利条約とインクルーシブ教育の動向を踏まえて/是永かな子(高知大学教育学部) 要旨:スウェーデンにおいては,障害者権利条約の批准以前から性別,民族,宗教や信念,性的指向とともに,障害などによる差別を禁止するなど「人権」として障害者の権利が議論されており,「差別禁止」という観点から障害者権利条約が具体化された.学校も「平等」実現のための具体的な計画作成が求められており,障害児学校における議論はどのように「平等」を保障するかである.またスウェーデンでは,可能な限り統合的な環境の保障を目指すが,特別な学校や分離的教育措置の存在を否定しない.とくに知的障害学校のインクルージョン推進は容易ではなく,軽度の知的障害児が就学する基礎知的障害学校の子ども数や「グレーゾーン」の子どもの数は増加している.今後は障害児学校就学児数の増加や多様化への対応,そして新学習指導要領の適用もふまえて,障害児学校の対象や教育内容の明確化,保護者への情報提供,そして個に応じた「平等」の保障が課題であろう. キーワード:スウェーデン,障害者権利条約,障害児学校,インクルーシブ教育,機能 就学システムの現状と改革の論点/越野和之(奈良教育大学) 要旨:障害がある場合の就学形態決定システムをめぐる近年の議論と制度改革の到達点を,特別支援教育の具体化過程および障害者権利条約の批准にむけた近年の議論の二つの局面において検討し,障がい者制度改革推進会議における論点の大半は,特別支援教育の具体化過程において既に提出されていたこと,文部科学省は今日に至るまで,市町村教育行政の最終決定権等の主張を譲っていないことなどを指摘した.その上で,就学システムをめぐる論点として,@教育形態の複数制と就学基準をめぐる問題,A就学形態の決定に関する権限配分をめぐる問題,B決定プロセスの合理化・民主化をめぐる問題,の三点を指摘し,文部科学省サイドの改革構想が主としてBに偏りがちであるのに対し、@およびAに関する改革構想の検討こそが求められることを主張した。 キーワード:就学,複数の教育形態,就学基準,同意権 海外動向 ドイツにおけるインクルーシブ教育の動向/荒川 智(茨城大学教育学部) 英国インクルーシブ教育実践の展開と教授方法の改善/新井英靖(茨城大学教育学部) オーストラリアのインクルーシブ教育施策と合理的調整 ―クィーンズランド州の動向を中心に/片岡美華(鹿児島大学教育学部) 障害児童生徒の義務教育“普及”から“保障”へ ―中国における障害児者の教育を受ける権利/真殿仁美(九州看護福祉大学) 実践報告 小学校通常学級における障害理解教育の実践/前田博行(小平市立小平第二小学校) 高校内分校の3年間の取り組み/土方 功(埼玉県立特別支援学校・高校内分校) クラスの子どもたちや,教師集団の理解をどうつくっていくか ―通常学級における特別支援/石垣雅也(近江八幡市立桐原小学校) 動向 2010-2011年間の障害者制度改革議論における教育問題 /中村尚子(立正大学)・薗部英夫(全国障害者問題研究会) 書評 神谷栄司著『未完のヴィゴツキー理論―甦る心理学のスピノザ』/評者 岡花祈一郎(福岡女学院大学) ■障害者問題研究 バックナンバーへ |
■ご注文は、注文用紙(ここをクリッ
クしてください)にて電子メールしてください。
確認しだい発送いたします。送料含む代金は同封の郵便振替等にて1週間以内にご送金ください。