障害者問題研究  第39巻第2号 (通巻146号)
2011年8月25日発行 ISBN978-4-88134-984-7 C3037  定価 本体2,500円+税
特集 子ども理解と指導の課題

 特集にあたって 河合隆平(金沢大学)

論文
障害のある子どもの理解と教育指導/茂木俊彦(桜美林大学)
要旨:学校など教育の場において障害のある子どもを理解するには,まず教師が子どもと正面から向き合い,子どもとの語り合い(コミュニケーション)を成立させることが大切であることを強調している.そのうえで筆者は障害,発達,生活,実践という4つの視点から子どもを理解する必要があることを指摘し,そのそれぞれについて1,2の論点に絞って考察を加えた.@障害の臨床像は生物学的・医学的なものと個人生活・社会生活に規定されたものとの複合体だと見るべきである.A発達の視点を導入する場合には,能力の発達だけでなく,人格の側面,特に活動を開始し,展開し,休止することに影響を与える自尊感情,自己肯定感の発達について目を向ける必要がある.B生活については人間関係に関する心理学的な見方の限界を自覚し,人間関係を規定している保護者の労働や家庭経済の問題にも視野を広げておくことが必須である.最後にC子どもの理解の質と水準は教育指導の質と水準に影響を与えるが,同時にその逆も言えるという,子ども理解と教育指導の相互規定性について論じた.
キーワード:コミュニケーション,障害の臨床像,自尊感情,教育指導


アセスメントによる子ども理解の意義と課題/奥住秀之(東京学芸大学)
要旨:本稿では,特別支援教育の開始以降注目されているアセスメントについて,その方法や意義をまとめ課題を整理した.前半では,観察や聞き取りによるアセスメントの方法や意義をまとめ,また,WISC-WやDN-CASなど最近日本版が開発されたものも含めてテストによるアセスメントをいくつか概観した.後半では,テストによるアセスメントが子どもの発達の状態を客観的な目で見つめる貴重な資料である一方,子ども理解や実践で利用するにはいくつかの課題があることを論じた.すなわち,「できる」「できない」という二分的な評価だけで子どもを見てしまったり,独力で「できる」ことの増加だけを発達と見てしまったりする危険性,アセスメントは必ずしも子どもの能動的活動の結果としての能力を測っていない可能性,能力・機能の領域固有性の存在を理解しつつ機能連関・発達連関の視点で子どもの教育・保育的活動をつくる必要性などについて論議した.
キーワード:アセスメント,発達・知能テスト,発達障害,特別支援教育

障害児の指導を発達論から問い直す―要素主義的行動変容型指導を越えて
/木下孝司(神戸大学大学院人間発達環境学研究科)
要旨:本稿では,子どもの能力や特性を心身の機能ごとにとらえて,障害や困難の短期的な改善を図る指導のあり方を要素主義的行動変容型指導と規定した上で,その問題点を発達論の立場から批判的に検討し,人格の形成を目指す指導論において求められる発達論を提案した.最初に,要素主義的行動変容型指導が,新自由主義的な社会システムにおいて形成された「力」概念を前提にしたものであることを論じた.続いて,この種の指導を発達論からみたときの問題点として,@発達的変化をとらえる発達的スタンスの欠如,ならびにA能力獲得の意味を吟味する目標論の欠落を指摘し,これらの問題を克服するために発達研究が抱えている課題を提起した.最後に,研究課題をもちながらも,発達論は実践に対して,子どもの行動や実践的対応を問い直すメタ的視点を提供するという重要な役割を果たすことを論じた.
キーワード:発達論,目標論,メタ的視点


自閉症児と「社会性の学習」/三木裕和(兵庫県立出石特別支援学校)
要旨:本稿では,自閉症児の「社会性の学習」について検討した.本来,自閉症児においても,社会性の発達は通常の授業や教育実践の中で取り組むことが可能である.高機能自閉症の場合,自己の感情体験を対象化することが大切であり,「正しい」言語表現や行動を押しつけてはならない.生存競争の激化により,自閉症児の社会的適応性が求められているが,学校教育の原点である文化や科学への関心を重視すべきだ.
キーワード:自閉症児,社会性の障害と発達,教育実践,感情体験

青年・成人障害者の発達的様相と子ども期の指導/土岐邦彦(岐阜大学地域科学部)
要旨:本稿では,青年・成人期を生きる障害者の姿を通して,子ども期の指導の在り方について考察することを目的とした.現在,文部科学省および経済産業省を中心に,すべての学校種にキャリア教育の推進が叫ばれ,障害児教育分野にもその流れは押し寄せている.そこで,障害児に対するキャリア教育について批判的に検討するとともに,作業所実践や余暇活動実践の中で,青年・成人障害者が学校卒業後どのような新たな発達的力量を示すかをとらえようと試みた.そこでは要求に基づいた活動に時間をかけ,集団的相互交流の中で多様な感情表出の経験を保障することによって,重度障害者も軽度発達障害者も,学生時代には示すことがなかった新たな力を獲得していることが示された.さらに,子ども期の発達を保障する学校教育実践を進めるにあたり,青年・成人障害者の発達を築く実践に学びつつ,その段階独自の実践の創造が求められることを指摘した.
キーワード:青年・成人障害者,キャリア教育,作業所実践,余暇活動,多様な感情表出


実践報告
 生活やあそびを通して育む力とは ――知的障害児通園施設における実践/長谷川貴一
 学校って大変なんだよ ――本当は人間関係を求めている子どもたち/熊本勝重
 障害の重い子の教育を考える ――重症児施設内分教室の取り組みから/武田俊男
 自分と向き合う生徒たち ――盲学校高等部の教育実践/渡辺 譲
原著論文 当時者にとって精神障害を開示することの意味とは
 ――就労上の課題に関するインタビュー調査の再考から/山村りつ

動  向
知的障害特別支援学校大規模化の現状を憂える/安藤房治(弘前大学)


障害者問題研究 バックナンバー

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