障害者問題研究  第41巻4号(通巻156号)
2014年2月25日発行 ISBN978-4-88134-255-8 C3037  定価 本体2,500円+税
特集 特別支援教育に携わる教員の力量形成と研修
特集にあたって
 民主的な学校づくりに向けて/山中冴子


特別支援教育施策における教員の専門性とその形成に関する考察
 山中冴子(埼玉大学教育学部)
要旨:本稿では,特別支援教育施策において教員の専門性とその形成についてどのように扱われてきたのかを整理し,論点を抽出することを試みた.特別支援教育施策では,深い子ども把握や教育内容・方法の吟味をくぐらない,要素主義的子ども観とマニュアル的な指導の実施が,教員の専門性と解される.インクルーシブ教育システムの構築がいわれる今日では,「合理的配慮」を可能とするものとして教員の専門性が説明されるが,インクルーシブ教育に向けた通常教育も含めた抜本的改革が具体的に示されていないために,その中身は特別支援教育施策の粋を出ていない.特別支援教育施策が実践に落とす影について引き続き明らかにしていくとともに,「権利としての障害児教育」を目指す中で確認されてきた教員の専門性とその形成に必要な手立てが,インクルーシブ教育の実現においても重要であることをどう示すことができるのかが問われている.

障害児教育に携わる教師の自己形成とその今日的論点
 越野和之(奈良教育大学)
要旨:本稿では,戦後の憲法・教育基本法(1947)体制の下で,権利としての障害児教育の思想を築き,その発展を切り拓いてきた教師として,青木嗣夫(京都府立与謝の海養護学校)および田村勝治(群馬県佐波郡小・中学校)という2人の先達をとりあげ,その「障害児教育の教師」としての自己形成の契機を,筆者なりの理解にもとづいて取り出すことを試みた.その上で,障害のある子どもの教育に携わる教師が,今日の学校教育の状況の下で直面するであろういくつかの困難として,1)子どもを理解する,2)教育内容を創造する,3)教職員集団ないし専門職集団の協同の三つの局面をとりあげ,そのそれぞれにおける教師の困難の内実に吟味を加えるとともに,それらを教師としての自己形成の積極的な契機としていくための条件等について論究した.

聴覚障害教育における教師の専門性の形成
 四日市章(筑波大学人間系障害科学域)
要旨:聴覚障害はその障害から生じる子どもの状態がきわめて多様であり,それに対応した教育の場と,そこでの適切な教育が必要とされる.また,聴覚障害教育に関わる専門的な内容は,教育,心理,生理,指導法,工学等,非常に幅広い領域を包含している.この分野で指導力の高い教師となるためには,専門的な知識や技能の正確な習得と教育の場での実践が欠かせない.そのためには,教師が所属する学校内での小規模な研修から,国が行う系統的な研修にいたる,さまざまな研修の場が適切に配置されていることが必要である.また,教育現場と大学等との有機的な連携によって,効果的な実習の場が設定される.教員の能力を的確に評価し,適切なインセンティブが与えられることも,今後の課題として重要である.

公立学校教員の健康問題
 垰田和史(滋賀医科大学社会医学講座衛生学部門)
要旨:教育労働は生徒の発達を保障する公的な労働である.教育労働は教員の自発的な労働意欲に依拠しており,労働に限度を設定しにくいため,教員の労働時間は長くなりやすい.教育の質は,教員の心身の健康状態に規定されるため,教員の健康を守り教育の質を維持するためには,教員の働き方を法的にコントロールする必要がある.我が国では,労働基準法や労働安全衛生法によって,労働者の労働時間や心身の健康管理が行われている.しかし,教員にはこうした法律による管理がないか,あっても不十分な状況が続いてきた.そのため,過労死基準を超えた長時間労働が横行し,深刻なメンタルヘルス問題や,障害児学校での腰痛問題が発生している.


報告
「自立活動」の指導における「外部専門家」の導入と教員の力量形成
 ――東京都肢体不自由特別支援学校での実態から
 武田俊男(埼玉大学大学院教育学研究科,都立特別支援学校(現職))

特別支援教育コーディネーターに求められるもの
 ――地域における支援
 前ア勝則(山口県立周南総合支援学校)

保護者の言葉の中に解決の糸口を見出す相談活動
 池添 素(NPO法人福祉広場)


座談会 つながり学び合う教職員集団の形成と学校づくり
     ――私たちの実践のなかに理念を求めて
 吉田悦男・吉田佳子・荒瀬耕輔・柳 美帆・石田 誠/河合隆平(金沢大学)


動  向
日高教の提言と高校における特別支援教育の課題
 谷口藤雄(京都府立高等学校特別支援・進路支援教員,京都府立福知山高校三和分校)


資  料
埼玉県における障害者青年学級の現状と課題
 ――青年期知的障害者に対する「自己決定」に向けた支援に注目して
 柴田順子(埼玉大学大学院教育学研究科修士課程)・山中冴子(埼玉大学)

書  評
別府悦子著『特別支援教育における教師の指導困難とコンサルテーション』
 評者 湯浅恭正(大阪市立大学)

第41巻総目次

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