障害者問題研究  第42巻2号(通巻158号)
  
JAPANESE JOURNAL ON THE ISSUES OF PERSONS WITH DISABILTIES
2014年5月25日発行 ISBN978-4-88134-315-9 C3037 定価 本体2,500円+税

特集 自閉症スペクトラムの特性理解の新たな視点

特集にあたって/奥住秀之(東京学芸大学)

自閉症スペクトラム研究と特性理解/黒田吉孝(滋賀大学教育学部)
 要旨 特性理解について,今日の自閉症スペクトラム研究の到達状況を踏まえ,求められる課題や視点等を検討した.従来の特性理解の方法を整理し,特性理解は,これまで,障害特性を基本にしており,かつ,この障害特性を他の機能や発達と切り離し論じられることが多かったことを指摘した.今後,期待される特性理解の方法として,教育支援と結びついた発達的な特性理解の方法と,機能的連関や発達的連関に基づく方法をあげ,特に,後者の意義と課題について論じた.さいごに,当事者による自己への洞察等の報告が特性理解に多くの示唆をあたえることについて,当事者報告を紹介し論じた.
キーワード:自閉症スペクトラム研究,特性理解,機能的連関と発達的連関,当事者研究

自閉症スペクトラムの機能連関、発達連関による理解と支援/別府哲(岐阜大学教育学部)
 要旨 本論では他者の心の理解を取り上げ,自閉症スペクトラム児者における機能連関と発達連関の特徴を検討した.その結果,@心の理解を調べる誤信念課題を,定型発達児者は4歳で通過するのに対し,自閉症スペクトラム児者は言語精神年齢9歳になって初めて正答できるという発達的な遅れを示すこと,Aさらに,定型発達児者は直観的心理化を形成した後それに加えて命題的心理化を獲得するのに対し,自閉症スペクトラム児者は直観的心理化を欠いたまま命題的心理化のみを獲得するという,特異な機能連関を示すこと,Bこれが被害的認知や孤独感などの自閉症スペクトラム児者の「問題」行動を引き起こす要因となることを明らかにした.さらにこういった特異な機能連関が,自己感の持ちにくさと結びつくことで,自己感を実感したい発達要求を生み出すという独自の発達連関を形成する可能性を指摘した.その上で,自己感を実感しやすい自閉症スペクトラム児者の独自性を他者に共有される経験の保障が,支援において重要であることを論じた.
キーワード:自閉症スペクトラム,心の理解,機能連関,命題的心理化,自己感,共有経験

DSM-5への改訂と自閉症理解/土岐篤史(鹿児島大学大学院臨床心理学研究科)
 要旨 現在,国際的に使用されている精神疾患分類体系は,アメリカ精神医学会のDSMと世界保健機関のICDの2つである.DSMは,具体性を有する操作的診断基準を導入したDSM-Vによって世界的に普及し,研究分野でグローバル・スタンダードとなったばかりか,一般社会でもその影響力を増している.2013年5月に改訂されたDSM-5は,児童青年期の精神疾患に関して大幅な変更が行われた.本論では,ASDに関する変更点として,@特定不能の広汎性発達障害やアスペルガー症候群など下位分類を撤廃し,A社会的コミュニケーション障害とRRBsの2領域に,BRRBsに知覚異常を付け加え,C知的機能,言語能力,緊張症状を記載,D特定年齢の表現を無くし,E非ASDのSCDを新設,FAD/HDの併存診断が可能に,と整理し,ASDの発達特異性を考慮した発達支援の重要性を指摘した.
キーワード 疾患分類、診断基準、DSM-5、発達障害、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)

【実践報告】
「おもしろそう」「やってみたい」を大切にするあそびの授業/北村直子(奈良教育大学附属小学校)

自閉症スペクトラム障害の人の造形表現とその考察
 ――社会福祉実践におけるアール・ブリュットの意義と事例研究を踏まえて/山田宗寛(佛教大学)

【事例報告】
自閉症スペクトラムをもつ若者の友人関係の育ちを考える/土岐邦彦(岐阜大学地域科学部)

新連載「実践に学ぶ」「発達保障のための学びたい本」で、職場や地域の中での学習活動を
 /編集委員長 白石正久

【実践に学ぶ】
@6人の子どもたちと過ごしたひまわり学級の取り組み/溝手範子(広島市・小学校教員)
〈溝手実践に学ぶ〉社会性の障害と劇遊びの可能性/三木裕和(鳥取大学)

A町のありようを障がいのある人と共に考える/村上徹(北海道中標津町)
〈村上実践に学ぶ〉同意を前提とすることが信頼度を高める
 ――インクルーシブな学校づくり・地域づくりにむけた課題/越野和之(奈良教育大学)

【発達保障のために学びたい本】
稲沢潤子著『涙より美しいもの――大津方式にみる障害児の発達』
〈解説〉荒木穂積(立命館大学産業社会学部)

小特集/「ここから裁判」の意義
@「こころとからだの学習裁判」判決の意義と課題/世取山洋平(新潟大学教育学部)

A「ここから裁判」判決の障害児教育にとっての意義/茂木俊彦(桜美林大学)

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