障害者問題研究  第44巻2号(通巻166号)
  
JAPANESE JOURNAL ON THE ISSUES OF PERSONS WITH DISABILTIES
2016年8月25日発行 ISBN-978-7-88134-505-4 C3037 定価(2,500円+税)

特集  1歳半の節と発達保障

特集にあたって
/河原紀子(共立女子大学)


「1歳半の節」と発達保障
/白石恵理子(滋賀大学教育学部)
 本稿では,発達保障の理念と実践が生成・発展してきた歴史において,発達の弁証法的合法則性の解明,とりわけ「1歳半の節」の認識が,どのような意味をもっていたのかについて明らかにしようとした.近江学園での「精神薄弱」児に対する教育実践や,大津市における乳幼児健診の実践等が,1歳半頃の質的転換期,1次元可逆操作といった心理学的認識をつくり出していったと同時に,それは新たな実践課題を提起し,また発達保障の理念と実践を進化させるという往還的発展の歴史でもあった.細分化された要素に還元していくような発達観,そこから導き出される教育観が今日も根強く存在するなかで,この歴史を振り返ることは,現在においても重要な意義をもつと考える.


「1歳半の節」に関する発達心理学的検討
――1歳児における自我形成を考えるための理論的視座
/木下孝司(神戸大学大学院人間発達環境学研究科)
 本稿では,最初に,現在の発達心理学において「1歳半の節」という用語は使われることがないが,自我形成に関わる実践的な問題を考える上で「1歳半の節」を検討する必要があることを論じた.二つ目に,1歳半における自我を成立させる要件として,1)意図を自覚した主体になる,2)意図の実現ができない場合,他者や状況に応じて行動や情動を調整できることを提案して,1歳台の意図の理解と調整の発達プロセスについて概説した.最後に,自我形成に関わる実践的課題を考えるために必要な理論課題(表象発達,大人の支えの発達的意味,自我形成の多様性)を提案した.


自閉スペクトラム症と1歳半の節
/別府 哲(岐阜大学教育学部)
 本論では,発達段階の一つである1歳半の節において,自閉スペクトラム症がどのような機能連関の特異性を示すのかを明らかにし,その上で問題行動との関係で明らかとなる支援の在り方を検討した.定型発達は,「〇〇デハナイ□□ダ」という操作様式の獲得に伴い,時空間的なつながりと,自己と他者の意図のつながり,調整が同時に可能となる.一方自閉スペクトラム症は,自己と他者の意図のつながり,調整に弱さを抱えたまま,時空間的なつながりが先行するという特異な機能連関をもつことが指摘された.これが,時空間のつながりをパターン化させることで,さまざまな問題行動(こだわり,挑発行動,指示待ちなど)の要因となることを,事例により検討した.あわせて,自己と他者の意図のつながりの発達的前提として,他者の意図への気付きと連関して形成されるアタッチメントを取り上げ,自閉スペクトラム症独自の発達と支援のあり方を示した.

重症児と「1歳半の節」
/白石正久(龍谷大学社会学部)
 本論文での重症児とは,「大島の分類」などにより定義される「重症心身障害児」のことである.運動機能の特徴などから,精神発達の障害も重度であり,「乳児期の発達段階」にあるとみられることが多い.筆者は,言語認識を問う発達検査などにより,他者の意図を受けとめ,「○○ではない□□だ」という「1次元可逆操作」によって弁別・選択し,自らの意図によって応え返すことができる事例が少なくないこと,一方で「2次元形成」を開いていくためには,活動の主体としての自己の形成に課題があることを報告した.

【実践報告】
大津市における乳幼児健診と子育て支援
/別所尚子(大津市子育て総合支援センター)・竹内未央(大津市立東部子ども療育センター)


重症心身障害児の療育と1歳半の節
/坂本美帆・塩見陽子(広島市こども療育センター 二葉園(医療型児童発達支援センター))


A君と歩んだ3年間
――行動の裏側にある本当のねがいを考える
/木村五十鈴(京都府立与謝の海支援学校)


◆連載/実践に学ぶ

@特別支援学校の実践
言葉の力を豊かに育む授業
――中学部1年生のグループ学習(国語科)による絵本づくり
/鶴町喜代子(全国障害者問題研究会つくばサークル,茨城県立美浦特別支援学校)

【鶴町実践に学ぶ】
子どもを見つめること,生活を楽しむこと,ことばがうまれること
/川地亜弥子(神戸大学発達科学部)


A障害の重い人の日中活動の実践
かあいさんのイベンター生活
――仲間と創る毎日はオモシロイ!
/小山田美奈子(社会福祉法人なのはな会(仙台市) 現在はまゆう勤務)

【小山田実践に学ぶ】
大人として自分の生活を生きること
/田中智子(佛教大学社会福祉学部)

◆連載/発達保障のために学びたい本 第10回

河添邦俊・清水宏・藤本文朗著
『この子らの生命輝く日――障害児に学校を』 『障害児と学校』
/山中冴子(埼玉大学教育学部)

◆動向

厚生労働省「2011年生活のしづらさ調査」の活用をめぐる課題
/佐藤久夫(日本社会事業大学)


◆書評

井原哲人著『「精神薄弱」乳幼児福祉施策の戦後史――権利保障体系の展開と変質』
評者 近藤直子(あいち障害者センター)

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