障害者問題研究  第45巻3号(通巻171号)
  
JAPANESE JOURNAL ON THE ISSUES OF PERSONS WITH DISABILTIES
2017年11月25日発行 ISBN-984-7-88134-615-0 C3037 定価(2500円+税)
特集  高齢期の障害者家族と生活の諸問題

特集にあたって/田中智子(佛教大学)

障害者とその家族の向老期・高齢期 ――生活の場の移行をめぐる諸相
 藤原里佐 北星学園大学短期大学部生活創造学科

 障害を持つ子どものケアを担い,権利擁護,就学保障,社会参加等々のために尽力してきた親世代が向老期,高齢期を迎えている.共生社会のありようを体現してきた,いわば第一世代の家族は,子どもの自立,生活の場の移行をどのように考えているのか.関東圏の都市における親への聞きとり調査を通して,在宅の継続が困難になる要因,グループホームや入所施設を検討する時期,生活分離後も続く,家族による支援の実際等について考察した.これまで,家族ケアが限界になる前に,子どもがグループホーム等に入居し,親の見守りがある状態で,子どもの自立が進んでいくことが望ましいと考えられているが,家族にとってのケアの「限界」は固有性がある.障害者とその家族にとって,どのような形での生活分離の進め方が望ましいのか,聞き取り調査をもとに考える.


障害者の母親における長期化するケアラー役割 
 ――事業所調査に見る高齢期の障害者家族の生活困難
 田中智子 佛教大学社会福祉学部

 本稿は,これまで障害者家族の高齢化に伴う問題が「親亡き後」問題として括られてきたことで,看過されてきた親の加齢や要介護状態に伴う「老い」を経験する時期に生じる生活問題に焦点を当てたものである.福祉施設の職員に対して,ケアラーが高齢期を迎えたケースについて,アンケート調査を行い,次の3点が明らかになった.第1に,親子の加齢に伴う変化は同時進行するということ.第2に,親によるケアが困難になった後も,本人の生活の場が移行されない要因として,濃密なケアを担ってきた母親にとっては,ケアを渡す相手が想定できないことも考えられること.第3に親が要ケア状態になったとしても社会的支援の介入が遅れ,その理由としては,自分への対応よりもケアラーとしての役割を果たそうという意識が強いことが考えられること.最後に,このような現状に対応するために,「ケアする家族」ということを想定した社会的支援のあり方を提起した.


ある母親にとっての「親亡き後」問題
 児玉真美 一般社団法人日本ケアラー連盟代表理事

 「親亡き後」問題とは,「現在の本人の生活状況から親の機能をマイナスしても支障がないか」でしかないのだろうか.親にとっての「親亡き後」問題とは,親としてどのような体験をしてきたか,ひいては社会を,総体としての人間を信頼できるか,という自問であり続けるのではないか.子の成人後も母親を介護機能とみなし依存してきた福祉のあり方も,地域で進行する制度の空洞化の実態も問われることがないまま,老いていく母親たちはいまや老親介護までダブルやトリプルで背負ってあえいでいる.親が社会を信頼して「残して逝ける」ためには,まず母親たちを縛ってきた社会のバインドが解かれ,「機能」から「人」へと復権されることが必要だろう.それは「固有の誰かの親であり子であること」が介護役割を通してゆがめられることなく,代替不能な固有の関係性として最後まで全うできるための支援への転換でもある.


実践報告
要介護状態に直面した親と仲間の暮らしを支える ――大阪府吹田市のさつき福祉会のとりくみ
 伊藤成康 大阪府吹田市・さつき福祉会グループホーム事務局


親の要介護状態にともなう仲間の暮らしの変化と作業所の対応 
 ――過疎・高齢化がすすむ地方都市でのとりくみ
 林妙子 福岡県田川市・社会福祉法人つくしの里福祉会 第2つくしの里


入所施設の仲間たちと高齢期の親の関わりと変化
 宮崎玲子 福岡市・社会福祉法人福岡ひかり福祉会 かしはらホーム


グループホームや自宅から通所する障害のある人と高齢期の親の暮らしを支えて
 川端幸代 福井県・社会福祉法人ハスの実の家


◆連載/実践に学ぶ
@生徒と考える津久井やまゆり園事件
 櫻井宏明 埼玉・日高特別支援学校
【櫻井実践に学ぶ】
 広島都市学園大学 児嶋芳郎

A知的障害者と選挙「学習して一票を投じよう」
 新井田恵子 全国障害者問題研究会
【新井田実践に学ぶ】
 鳥取短期大学幼児教育保育学科 國本真吾

◆連載/発達保障のために学びたい本
秦安雄著『障害者の発達と労働』
 峰島厚 立命館大学特任教授

◆日本国憲法と発達保障の課題
障害をもつ人と人権
 井上英夫 金沢大学特任教授・佛教大学客員教授

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