特集 障害基礎年金の制度的課題と生活問題 特集にあたって  ／濵畑芳和 立正大学障害基礎年金の現状と課題――障害のある人の権利条約を踏まえた見直しをめざして 鈴木 靜 愛媛大学法文学部 障害のある人の所得保障の不十分さは，深刻な課題の一つである．本稿では，現行の障害年金，なかでも障害基礎年金に焦点を当て，障害のある人にとっての障害基礎年金の意味を確認し，障害基礎年金受給者の現状を示し，あわせて制度上の課題を示す．国民年金法および障害者基本法の目的規定から検討するとともに，生活保護との役割分担について批判的に考察する．最後に，障害のある人の権利条約の理念，目的に即して国内法の見直しの視点を提示する． 障害基礎年金の認定格差とあるべき姿 市川 亨 共同通信記者 日本年金機構による障害基礎年金の認定（判定）は，旧社会保険庁時代を含め，長年，都道府県単位の出先機関で行われていた．2014年，認定に大きなばらつきがあることが明らかになり，国は是正策として，特に格差が大きかった精神・知的障害で認定ガイドラインを策定．さらに年金機構は17年から審査を東京に一元化した．一元化は混乱ももたらした．如実に表れたのが１型糖尿病患者で，更新時期が違うだけで，支給継続になる人と打ち切りになる人とに分かれ，元々の認定の矛盾を露呈した． 障害年金の認定に伴う本質的な問題は①生活実態をよく知らない認定医が単独，かつ書類だけで審査する②客観性が担保されておらず，妥当性を検証できない③認定基準が曖昧――といった点にあるが，これらの課題は依然，残ったままだ． 障害基礎年金と児童扶養手当の併給へのたたかいの今日的課題 仲尾 育哉 椙山女学園大学現代マネジメント学部准教授・弁護士 本稿は，障害基礎年金と児童扶養手当の併給調整に関して，現行制度の問題点を明らかにするとともに，2020（令和2）年の児童扶養手当法の改正を受け，今後の課題を提示することを目的とする．現行制度は，障害基礎年金を受給しているひとり親の場合，障害基礎年金全体と児童扶養手当とを比較して併給調整するのに対し，障害基礎年金を受給していて配偶者がいる場合，障害基礎年金の子加算と児童扶養手当を比較して併給調整する．これはひとり親に対する差別であり憲法14条に違反する，また，所得保障として性格が異なるものを併給調整することは不合理であり憲法25条に違反する．2020（令和2）年の法改正により，障害基礎年金を受給しているひとり親の場合も，障害基礎年金の子加算と児童扶養手当を比較して併給調整することとなったが，障害基礎年金を受給していないひとり親との差別的取り扱いの問題や障害基礎年金のみによって自立して子どもを養育していくことができないといった課題が残されている． 障害年金の認定問題――成人先天性心疾患患者の運動から 下堂前 亨 一般社団法人全国心臓病の子どもを守る会 事務局長 先天性心疾患による内部障害のために生活上の困難を抱えている患者は多いが，障害年金を受給することは障害判定のシステムと認定基準に問題があり高いハードルがある．2015年の心臓病の認定要領の改訂後，さらに受給が困難になった．成人期を迎えた先天性心疾患患者（成人先天性心疾患患者）の多くが認定更新のさいに受給停止や降級の不安を感じている．2018年に全国で1010人の障害基礎年金受給者に支給停止の予告通知が届いたときには，全国心臓病の子どもを守る会も障害者団体と連携して，打ち切り・降級の実態と問題点を国に明らかにさせ，撤回させる運動に取り組んだ．また，同年，全国心臓病の子どもを守る会は，障害によって就労が困難なため収入が低いにもかかわらず親の援助のもとで生活せざるをえず障害基礎年金も受給できない成人した心臓病患者の実態を明らかにした．心臓病など内部障害の実態に合わない不合理な障害認定基準や認定医制度を改めるなければならない． 報告 救済措置が取られない無年金障害者の立場から見える年金問題 原 静子 無年金障害者の会代表幹事 報告 精神障害者支援の現場から障害年金の問題を報告する 松本みを 大阪府八尾市 医療法人清心会 相談支援事業所ちのくらぶ、精神保健福祉士・相談支援専門員 報告 無年金障害者における生活問題――生活実態調査を通じて 無年金障害者の会（大阪市・障害者（児）を守る大阪連絡協議会内）・田中智子（佛教大学社会福祉学部） ◆連載／実践に学ぶ ①「学びは「教わる」から「つきとめる」へ ――子どもと対話し，子どもと共につくる授業をめざして 長友志航 滋賀県 特別支援学校教員 【長友実践に学ぶ】子どもと共につくる授業の楽しさ 宮本郷子 龍谷大学社会学部 ②贅沢な仕事――障害の重い人の仕事を考える 原田文孝 兵庫県・重度障害者通所事業所さち 生活介護事業サービス管理責任者 【原田実践に学ぶ】生活を意味づけ，新しい人生をつくる 細渕富夫 川口短期大学 ◆連載／ワイドアングル ドキュメンタリー映画『ゆうやけ子どもクラブ！』を語る 井手洋子 映画監督 動向 全世代型社会保障とは何か――障害福祉に何をもたらすのか 平野方紹 立教大学コミュニティ福祉学部 ◆「障害者問題研究」48巻3号 「学びをひろげましょう」チラシ PDF
障害者の権利条約においては「移動（18条）」「自立した生活（19条）」「家庭（23条）」「教育（24条）」「政治（29条）」などあらゆる場面において「他の者との平等を基礎として」ということが重視されている。市場化された経済生活を営む私たちにとっては、他の者との平等を基礎とするための前提条件と
して経済的条件の対等性は不可欠である。
しかしながら、多くの障害者にとって経済生活の対等性を担保するための基盤である障害基礎年金には多くの制度的欠陥がある。最低生活を大きく下回る水準、認定をめぐる障害間格差、制度的に生み出されてきた無年金障害者の問 題、1970年代に人間裁判として争われた堀木訴訟と全く同じ趣旨で繰り返される裁判など、制度によって人間らしい暮らしが奪われている人々が後を絶たない。 新型コロナウィルスの感染拡大により障害者の生活問題の広がりが深刻に なっている今だからこそ、その構造的要因としての制度のあり方について、多くの関係者と議論するための手掛かりとして本特集をご活用いただければと思います。 田中智子（佛教大学） ◆48巻3号 紹介チラシ（PDF） ■障害者問題研究 バックナンバーへ |
