大阪大会トップページへ > 基調報告

全国障害者問題研究会
第45回全国大会(大阪)基調報告
 

                                 
  常任全国委員会


はじめに

2011年3月11日、巨大地震と大津波は、東北・関東地方に甚大な被害をもたらしました。死者・行方不明者は約2万 5千人、今も多くの人々が避難を強いられています。「レベル7」の原発事故は今なお収束の見通しが立っていません。こうしたなかで、障害者・患者・高齢者などは厳しい状況にあります。避難情報さえ届かず、逃げることもできずに亡くなったり、取り残された方が数多くいました。まだ全貌はつかめていませんが、内閣府の発表でも一般の2倍の死者・行方不明者とされます。必要な支援や医療、生活サポート等を受けることができず、命、健康、安心・安全な生活が、避難所でも仮設住宅でも避難先でも保障されず、「がまん」「あきらめ」を強いられています。

 今回の大震災は自然災害であると同時に人災でもあります。阪神大震災で、被災の実態は、日常の社会保障・社会福祉の貧困をあらためて浮き彫りにしましたが、16年を経た今も事態は変わらず、むしろより悪くなっています。1990年代から進められてきた構造改革は地方を衰退させ、福祉、医療を危機に追い込み、その結果、自治体職員・福祉関係職員は削減され、公立病院の削減により医師・看護師が確保されない状況が作り出されました。これらは被災者の救援やその後の地域社会の復興に十分手が回らない状況を生んでいます。障害者自立支援法による「応益」負担、日額報酬制も、大震災後、よりいっそう障害者の生活や事業所に重くのしかかっています。

 障害者団体はひとかたまりとなって、全力で支援活動や対政府、対自治体との交渉に取り組んできました。その成果は随所にあらわれてはいますが、さまざまな困難を強いられる障害者の生活実態を正確に把握し、必要に応じたきめ細かな支援を行うにはいまだ不十分です。障害者への多面的で重層的な支援のあり方が問われます。

 大震災発生の数時間前、「障がい者制度改革推進本部」は、障害者基本法改正案を了承しました。この改正案は多くの問題を抱えています。

 今、日本全体の社会の有り様を大きく変えていかなければならない時です。その時、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」(25条)とした憲法と、「障害者福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする」を明文化した2010年1月の自立支援法違憲訴訟団と国との「基本合意」は、震災後の社会保障、障害者福祉に重要な意味をもちます。加えて障害者権利条約を導きにし、人権と発達が保障されるインクルーシブ社会をつくりましょう。


1. 障害者制度改革をめぐる情勢

1)自立支援法の延命をねらう改正自立支援法
 2010年12月3日の国会最終日に、改正障害者自立支援法案(障がい者制度改革推進本部等における検討結果を踏まえて障害保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等の地域生活を支援するための関係法律の整備に関する法律案)が、可決されました。厳しい批判と大きな反対運動が繰り広げられましたが委員会でも本会議でもほとんどまともに審議されないまま、廃止するはずの法律の延命をねらうような改正がなされたのです。

 現在、自立支援法に替わる「総合福祉法」(仮称)づくりに向けて、推進会議・総合福祉部会で議論されていますが楽観を許さない状況が続いています。

2)障害者基本法改正案をめぐって
 推進会議は、2010年6月に、制度改革の基本的理念に関する第一次意見を、12月には障害者基本法の改正に向けた第二次意見を公表しました。第二次意見では、基本法抜本改正の趣旨・目的、障害や差別の定義、基本方針などの総則(12分野)、個別の実定法の基本理念及び原則を明らかにした各則(16分野)、推進体制などが述べられました。

 推進本部(3月11日)では、障害者基本法の改正案が了承されました。しかし、この改正案は、第二次意見と大きなへだたりがあります。言語に手話を含むことが明言され、勧告や応答義務を盛り込んだ推進体制(「障害者政策委員会」)など、前進面もあります。しかし、「前文」が入っていないこと、「権利」規定がないこと、随所に「可能な限り」という文言が入っていること、「合理的な配慮」の言葉はあるものの「差別」や「合理的配慮」の定義が明記されてないこと、精神障害者の社会的入院の解消や医療の問題がないことなど多くの問題点が指摘されています。教育と労働分野も極めて消極的です。

 障害者権利条約の理念を真に実現させるために、さらなる運動の強化が必要です。

3)税と社会保障の一体改革など新自由主義の構造改革路線への新たな流れを押しとどめよう
 2011年度予算案では自立支援医療の低所得者無償化が先送りされています。
 「障害者の介護保険優先の撤廃」が要求されていますが、介護保険全体の「改正」がすすむなかで、連帯した運動が必要です。

 「子ども・子育て新システム」(案)では、保育への企業の参入がすすみ、サービス量に応じた応益負担が徹底されます。このため人件費抑制に伴う労働条件の悪化と保育の質の低下を招き、障害のある親子や低所得家庭が排除され、負担増から利用をあきらめ、子どもが放置される事態も懸念されます。すでに介護や障害者福祉で問題化している利用抑制や逆選別が、「こども園」で起きかねません。

 この間、民主党政権のもと、地域主権改革推進一括法案が提案され(関連三法は2011年4月28日成立)、介護保険制度を改悪する一方で、高齢者医療保険制度を廃止しないなど、旧自公政権下に進められた新自由主義の基礎構造改革路線を「社会保障改革に関する集中検討会議」などを通じて、そのまま推し進めようとする政策動向が目につきます。特に最近は、官僚サイドからの障害者制度改革の流れを押し戻そうとする動きが強まっています。

4)障害者権利条約の批准にむけて
 障害者運動は、格差の拡大と貧困の増大をもたらす新自由主義の理念にもとづく構造改革路線と対峙してきました。このなかで推進会議の設置など一定の成果も作りだしてきました。保育、高齢者や医療などの分野とも連携をさらに強めながら、大きな運動をつくりだしていく必要があります。こうした大きな運動のなかで、権利条約の批准が、現状を追認する形だけでのものはなく、その理念を実質的なものにしていくことが可能となっていくでしょう。


2.乳幼児をめぐる情勢

 障害のある乳幼児の発達保障にとって、危惧すべき政策転換が進行しています。自立支援法の改正に連動する児童福祉法の改正と、「子ども・子育て新システム」(案)は、自公政権の時代にその根をもつものですが、現政権は国民の立場からの批判的な検討を行わないままに法制化しようとしています。子どものための社会福祉法制度が、利用契約によるサービスの給付・受給、応益負担、施設運営費への日額報酬制という基本原則に、串刺しのように連結されようとしているのです。

 児童福祉法の改正は昨年(2010年)12月3日に成立し、2012年4月から実施されます。その具体化である政省令の策定作業は、今後進行していくことであり、不透明な状況ではありますが、通園施設の一元化、その実施主体の市町村への移管は既定の方針となっています。施設運営の財政的基盤となる報酬単価等は現行の児童デイサービスの基準に合わせる方針ともされ、低い基準に「一元化」されることが危惧されています。通園施設の一元化(障害種別の撤廃)は、より身近な地域の中で療育を受けられるようにする措置だとされますが、そもそも通園施設の設置は極めて不十分かつ地域格差が大きく、都市部でもそのニーズを満たす設置状況にはないという事実から出発することが求められます。一元化による障害種別の撤廃が、障害に対応する療育の専門性の軽視、療育条件の低下につながらないように、施設最低基準の見直しがなされなければなりません。

 「子ども・子育て新システム」も、保育の制度に大きな変更を迫るものです。保育所の待機児対策を名目に、行政が保育に責任をもつ仕組みを解体し、保育所等と保護者とが直接契約をする仕組みにしてしまうことが構想されています。待機児対策は重要な課題ですが、この施策は乳幼児の発達保障の場を不安定にする多くの問題を含んでいます。保育が利用契約制度に移行するのに伴い、保育の場の確保は親の「自己責任」になり、公立保育所の民営化も進むでしょう。「保育の必要度」が子どもによって様々に認定され、保育時間も日課や集団もコロコロ変わって、乳幼児の生活の場として不安定なものになります。自立支援法によってすでに経験したように、利用契約、応益負担、日額報酬制の3セットは、親の負担増、保育所経営・運営への圧迫によって、子ども、家族、保育に携わる人々の生活の安全と安心を脅かすものになるでしょう。

 新システムは、障害の有無によらずすべての子どもの発達保障の基盤を揺るがすものです。全障研の仲間も積極的に参加する「障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会」は、昨年末から新システムに反対する署名を呼びかけ、多くの人々のがんばりや協力によって、短期間に約5万筆を集め、また、昨年の11月14日に東京で行われた「子ども子育て新システムに反対し、保育制度の解体を許さず保育の公的拡充を求める大集会」も大きな成功を収めました。私たちは、このような運動への共感がひろがることを経験し、すべての子どもの発達保障の場を守るために、たくさんの人たちと手をつなぎあうことができるという確信をもつことができました。

 通園施設・児童デイサービス等での療育の基本条件を改善することと、新システムの導入を許さず公的保育を守り発展させることを、別々の要求としてではなく、すべての子どもの発達保障の基盤を守る要求として練り上げていく必要があります。

 さらには、乳幼児健診、障害児医療、療育、相談支援などの施策を体系化する「地域療育システム」の確立のために、自治体レベルでの自前の政策づくりが求められます。これまでも障害乳幼児対策が前進した局面は、国の主導によったのではなく、自治体独自の政策によって牽引されたのです。

 障害のある子どもとその家族が、健康で文化的な生活を享受し創造できる基盤として、充分な時間、豊かな活動と集団のある子どもらしい生活を保障し、諸能力と人格の総体が発達を遂げていくことができる通園施設・児童デイサービス等での療育のあり方を、実践研究などによって根拠を示しながら、探究していく必要があります。このような生活支援と発達保障の課題は、障害の有無によらない普遍的な意義をもっていることを確信し、私たちは、新システムに反対する研究運動において重要な役割を担いたいと思います。


3.学齢期の課題

1)学校教育と学齢期の生活
 特別支援学校や特別支援学級、通級指導教室などで学ぶ子どもたちの数の急増傾向は、2007年の特別支援教育の法制化以降さらに強まっています。2010年度には、特別支援学校で学ぶ子どもの総数は12万1815人で、10年前と比べると3万人近い増加、特別支援学級では14万5431人で、7万7千人弱の増加、通級による指導もすでに5万人を突破しています。通常学級在籍の発達障害児などへの教育の実現を謳った特別支援教育の「失敗」は明らかです。

 全国各地で特別支援学級・学校の新増設が行われていますが、在籍者激増には追いつかず、学校・学級の過密化・過大規模化による教育環境の劣悪化が深刻です。今大会の開催地・大阪では、「6歳で就学したら、その後措置変更はできませんから、よく考えて決めて下さい」といった就学指導がなされる場合すらあるといいます。「一人ひとりのニーズに応える」ことを謳う特別支援教育は、子どもの実態やニーズの変化に応じて、就学措置の柔軟な変更を推奨していたはずですが、学校・学級在籍者の激増と、そのことによる教育条件の悪化は、地域の中から「ニーズに応える」態勢を奪っているのです。

2)新学習指導要領の施行と学校現場
 2011年度は小学校と特別支援学校小学部の学習指導要領が全面施行されますが、すでに中等教育段階も含め事実上施行されている状況です。いわゆる「ゆとり教育」路線を改め、「確かな学力」をつけるのだなどと言われますが、本質はそこにはありません。

 新指導要領は、新教育基本法の具体化として、「愛国心」教育などを盛り込んだ「道徳」教育を全教科の「要」と位置づけ、すべての学校に「道徳教育推進教員」を必置とするなど、子どもたちの内面に乱暴に介入し、それを力によって管理しようとする傾向を強くもっています。その基底には、子どもたちに「学力と規範意識」を「義務として」強要しようとする教育観があります。大阪府議会の「君が代起立条例」の可決は、そうした動向が地方主権改革の名の下に強行された象徴的な事例です。

 PDCAサイクルなどの教員管理における新たな手法にも留意する必要があります。一見、学校のとりくみを計画的に吟味し、革新していくようにも見えますが、今日言われるPDCAサイクルとは、個人間・組織間の競争も動員しつつ、与えられた目標をより効率的に達成するためのとりくみを確立しようとする傾向が強く、「与えられた目標」自体を批判的に吟味する契機は位置づきにくいものです。子どもの内面をていねいに読みとり、子どものねがいから教育課題を明らかにしていく教職員の努力は無用のものにされかねません。

 特別支援学校学習指導要領では、個別の指導計画を教育課程全般にわたって作成し、あわせて個別の教育支援計画も策定することとされました。「一人ひとりのニーズに応える」建前ですが、必要な条件整備なしの各種個別計画の全面化は、一人ひとりの教員をバラバラにしてパソコンの前に縛りつけ、職場から子ども論議を奪ってきています。さらに「個別計画」による教育実践の管理は、教員評価システムの横行とも相まって、「手っ取り早く子どもを変える」技法へと教育実践を追い込むことにつながります。そこでは、子どもの内面がどうであれ、外面上の行動を変えるための技法ばかりが重視されることになりかねません。子どもは学校の主人公ではなく、「操作」の対象とされてしまいます。

 職業自立の目標と、そのための各種「スキル」の獲得で子どもを追い込もうとする新たな高等特別支援学校などの動向や、「ソーシャルスキル」の名の下に「適切な行動パターン」を子どもに押しつけかねない自立活動の新領域「人間関係の形成」の問題もあわせ、子どもの内面に寄り添い、子ども自身の人間的なねがいを実現していく教育か、外側から子どもを操作して、「望ましい行動パターン」を押しつける「教育」かが鋭く問われています。

3)放課後・休日の生活
 学校外の生活についてみると、この10年の間に、障害のある子どもの生活と発達を支える様々な社会資源がつくられてきました。土曜・日曜日をヘルパーと過ごす子どもたちも少なくありません。放課後活動の場で友だちと遊ぶ子どもたちも増えてきました。

 しかし、ヘルパーが足りなくて必要なときに頼めない、定員が少な過ぎてショートステイが使えないなど、社会資源の整備はまだまだ不十分です。医療的ケアの必要な子どもが活用できる社会資源が少ない、子どもの要求に合った文化活動やスポーツの場が見つかりにくい、情報が届かないといった課題もあります。ヘルパーは学校の送迎はできないなど、生活実態にそぐわない制約もあります。何よりも、自治体間・地域間で大きな格差があるのが現状です。加えて、学校教育の領域では、特別支援学校の寄宿舎の廃舎が進められてきています。

 こうした中、2012年4月には新制度として放課後等デイサービスが発足します。内容については今後も改善の取り組みが必要ですが、障害のある子どもの放課後・休日の活動が国の制度に位置づけられたことは、運動の重要な成果だといえます。子どもと家族の生活実態を丁寧にふまえ、豊かな生活と発達の保障を進めることが求められます。

4)障害者制度改革とインクルーシブ教育
 障害のある人の権利保障をめぐる情勢は大きく動いています。既に述べたように、障害者制度改革の動きが急ピッチで進んでおり、教育のありようをめぐっても、障害者権利条約の言う「インクルーシブな教育制度」をわが国においていかに確立するかという点が大きな論点となっています。

 推進会議は、これまでに公表された二つの意見書において、「すべての子どもは地域の小・中学校に就学し、かつ通常の学級に在籍することを原則」とし、その上で、本人・保護者が望む場合などに特別支援学校・特別支援学級での教育を受けられるようにするという方向を示しています。一方、文部科学省は、推進会議などの動向もにらみながら、中央教育審議会に特別支援教育特別委員会を設置、昨年12月には「論点整理」を公表しました。そこでは「インクルーシブ教育システムの理念と方向性に賛成」としながらも、特別支援学校などの位置づけや就学指導のあり方などをめぐって、推進会議の意見書とはかなりの「温度差」がある方向性が示されています(これらの動向については『障害者問題研究』第39巻1号を参照して下さい)。

 推進会議と中教審の「温度差」の中で、今後どのように具体的な制度改革が構想されるのか、今年度通常国会に提出された障害者基本法改正案をめぐる国会審議等も含め、動向を注視するとともに、私たちの求めるインクルーシブ教育の構想を鍛え上げ、発信していくことが求められています。

 今大会で私たちは、「インクルーシブな社会の実現」をスローガンに掲げました。しかし、わが国における学校教育は、さまざまな局面で「排除」の傾向を強めています。「排除のない教育・学校」を創りあげ、その中で、障害児教育もどのように改革していくのか、養護学校義務制以降の教育実践の貴重な教訓を汲み尽くして、私たちのインクルーシブ教育の構想を練り上げていきましょう。


4.研究運動の課題

1)身近なところから「生きる」「学ぶ」「参加する」権利を見直そう
 各地で不就学のまま年齢を重ねた障害の重い人の就学が実現しています。この運動は、義務教育の年齢は過ぎていても、人として保障されることのなかった権利の実現をもとめた取り組みです。教育権を、権利条約のいう「他の者との平等を基礎とした権利」として確認したものだといえます。

 「他の人と同じこの国に生まれたのに、普通に暮らすことについて、家族共々大きな困難が伴う」現実について、語り合い、掘りおこし、事実を一人ひとりに保障されるべき権利の問題としてとらえることを、研究運動の基本にしていきましょう。

2)「発達保障」とは何かを問いつつ実践を検討しよう
 一人ひとりの保障されるべき権利は、発達保障実践との関わりでとらえ直すことも必要です。
 実践にとって「不可欠」とされる「個別の支援計画」、社会福祉制度の基本とされる「個別給付」、さらには教職員に課せられる「自己評価」など、まわりを見渡せば、個々人に焦点を合わせたシステムが張りめぐらされています。これらは一見、「効果」や「成果」をわかりやすくするようにも思われます。しかし、学校、施設などの実践は、個々人への働きかけを寄せ集めることでは成り立ちません。また、実践者が一人でその「効果」を測るなど不可能です。

 こうした現場の問題状況をなんとかしたいと思う人びとは少なくありません。たとえば、ある教師は子どものようすを、同僚の教師とともに、笑い、ときには涙を流しながら語り合うことが子どもを理解するために大切な時間だったと語っています。実践者が集団を形成することで、子どもの見方、人間観に質的な変化が生まれます。

 乳幼児期、学齢期、青年期それぞれにふさわしく、その人らしい日々を紡いでいくことをめざし、個人―集団―社会の系をつないだ発達保障実践を検討しあえる研究運動を発展させていきましょう。

3)現実にそくした政策を提言しよう
 障害者基本法改正、自立支援法にかわる総合的な福祉法、権利条約の批准の準備とその後の改革など、これからも制度改革の議論がつづいていきます。全障研は、昨年3月、「障害のある子どものための教育改革提言」を発表、その後も関係者の意見を聞きながら、提言にもとづいた討論を広げています。乳幼児の分野でも、『障害のある子どもと「子ども・子育て新システム」』においていち早く「新システム」の問題点を指摘するとともに、地域療育システムを発展させるためには必要な社会資源を地域に整備することと乳幼児期に大事にされるべき療育の質を議論することの大切さを指摘してきました。

 「みんなのねがい」や「全障研しんぶん」、「みんなのねがいWeb」は、たくさんの情報の中から重要な情報をわかりやく発信してきました。これらの情報のなかから情勢を学び、地域の実態と関連づけて討論し、私たち自身が改革の主体者であることをつねに心に刻んで、積極的に制度改革への提案を行っていきましょう。

4)世代や職種をこえてつながろう
 発達と権利の保障をめざす全障研運動をすすめる上で、これまで以上に輪をひろげることが求められています。

 子どもの分野を例に挙げれば、障害児教育の実践を語り合い、教育条件の改善にも取り組む仲間を増やすことはもちろんのこと、権利条約がめざすインクルーシブな教育を描くならば、通常学校・通常教育の分野の人たちとともに語り合うことが大切になってきます。さらに、子どもの貧困問題や保育運動などに取り組む人たちとも共同の場をもつことが、求められることもあるでしょう。高齢者やその他の地域問題もしかりです。

 もうひとつ、全障研運動に主体的に参加する人びとを、もっともっと広げる必要があります。全障研は、「5カ年行動計画」を作成し、会員のニーズをていねいにつかみ、とりわけ新しい層、20代、30代の若い人びとが発達保障の実践や理論と出会えるように多彩なとりくみを進めています。フリーペーパー『ねがじん』の記事を読み、「そうそう、私もそう思ってた!」という人、4月から始まった『ステップアップセミナー』で実践での悩みをひと言、語った人と手をつなぎ、全障研の輪をさらに大きく広げていきましょう。

                              *

 障害者が構成員であることを前提にした社会づくりを世界に呼びかけた、国連の国際障害者年(1981年)から30年。

 東日本大震災は、日本が「一部の人を閉め出す弱くてもろい社会」(国連)であることをさらけ出すことになりました。大震災によって見えてきた、これからもっと明らかにされるであろう障害者と家族への権利侵害の実態は、障害者が人間としての尊厳を尊重される社会のあり方を正面から問うものです。

 障害者権利条約の批准とインクルーシブな社会の実現にむけて、障害者基本法改正、自立支援法にかわる新法づくりをはじめとする法律改正が課題となるこの機に、「平和のうちに生きる権利」(日本国憲法)を生かし、障害者と家族の要求にしっかりとねざした研究運動をともにすすめていきましょう。