小学校児童殺傷事件について
精神障害のある人びとが安心して生きていける社会を

           全国障害者問題研究会全国委員長 茂木俊彦


 何人もの小学生が学校において殺傷されました。あまりに衝撃的であり痛ましい事件でした。死亡した子どもたちのご冥福を心から祈るとともに、心に深い傷を負った多くの子どもたちの回復を強く願います。

 今回の事件の犯人は、精神分裂病あるいは妄想性人格障害だと報道され、また最近では犯人自身が精神障害を装ったのだと告白したと伝えられてもいます。しかし、いずれにせよこの事件とその報道を契機に「精神障害者は社会にとって危険な存在だ」という偏見が助長されるおそれが増大し、またこれを利用して精神障害者一般に対する社会的対応を隔離収容主義や刑罰主義に傾く方向へと変えていこうとする政治の動きも目立っています。

 私は、このようなときほど精神障害者に係る問題を冷静沈着に考えなければならないと思います。精神障害者のほとんどは犯罪とは無縁です。また適切な治療と福祉的対応があれば精神的安定を維持し社会生活をいとなんでいくことができます。ところが、わが国の精神病院における医療は、国の医療費抑制政策の影響もあり、一般の医療との対比で医師は三分の一、看護婦は三分の二でよいとする精神科特例がいまだに存続しているという問題があります。さらに地域の精神医療のネットワークの形成も非常に不十分であり、精神医療は全体としてたいへん劣悪な水準に押し止められています。また法に定められた精神障害者社会復帰施設(生活訓練施設や福祉ホーム)の設置が著しく遅れ、病院と家庭の中間で精神障害者の社会復帰を支える場と施策がきわめて貧困な状態にあります。就労や所得の面での公的な保障も、一般の人びとはもとより、他の障害をもつ人びととの比較でも大きな問題があります。

 重要なことは、これら医療や福祉その他の制度・施策を抜本的に改善し、精神障害のある人びとが安心して生きていける社会を築きあげていくことです。またいわゆる「触法精神障害者」(重大な犯罪を犯し、今後も犯罪をくり返すおそれがあると見なされる精神障害者)についても司法と適切に結合した精神医療を充実するなどして、ていねいに対応することが必要であり、そのこととつなげて大多数の精神障害者への正しい理解を広げていくことも課題だと考えます。

 全障研は、これまでにも全国大会で精神神経疾患関連の分科会を設けたり、理論誌『障害者問題研究』の特集でこの問題を取り上げるなどの努力をしてきました。今後、精神障害者・家族の人びと、精神医療の専門家などとのつながりをいっそう広げ、より積極的にこの分野の学習と研究を深めていきたいと思います。
   (「みんなのねがい」2001年8月号より)


関連する他団体の声明など
  日本障害者協議会(JD)
   きょうされん声明  共作連web
  全国精神障害者家族会連合(全家連)


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