東京の性教育攻撃と障害児教育介入

 東京都教育委員会は、9月11日、教育内容、学級編制および教職員服務について不適切な実態があるとして、校長1名を1か月の停職とし教諭に降任するなど、学校管理職37名、教育庁関係者14名、教員等65名、計116名にもおよぶ処分を行いました。これは、同教委が7月に立ち上げた「都立盲・ろう・養護学校経営調査委員会」の「調査結果」によるものです。
 この異常な教育への介入に対して、全日本教職員組合(資料参照)、東京都障害児学校教職員組合は、それぞれ抗議声明を発表しました。
 一連の問題点について考えてみました。

■性教育攻撃から教育内容へ介入
 教育内容への介入
 今年の5月以来、一部のマスコミ、都議、都教育委員会が一体となって、障害児に対する性教育への攻撃が進められています。
 これまで子どもたちの実態にもとづいて、保護者とともにつくりあげてきた性教育実践に対して、一部マスコミは報道機関としての公共性を無視し、正確な取材もしないまま偏った誤りの報道を続けてきました。
 7月2日の都議会一般質問で、一部の都議は、「最近の性教育は、口に出す、文字に書くことがはばかられるほど内容が先鋭化し、世間の常識とかけ離れたものとなっている」と発言。
 教育長は「教育課程の実施、管理の徹底につきまして、各学校および区市町村教育委員会を強く指導してまいります」、石原都知事は「異常な信念をもった教諭はどこかで大きな勘違いをしているのではないか」と答弁しました。
 質問をした都議らは、都教育委員会、一連の報道を続けているマスコミとともに、名指しでとりあげられた都立養護学校を7月4日に視察し、使用していた人形などの教材を強引に「押収」しました。都教育委員会はこの養護学校へ、30人を超える主事を派遣し、聞き取り調査を行いました。この調査は、その場にテープレコーダーどころかメモをとることさえ許されない異常なものでした。その後同教委は、性教育の内容にとどまらず、全面的な教育への介入を進めています。

■大切な障害児への性教育
 全障研は、第14回全国大会(1980年)より「性教育」分科会を設け、障害児者の性、および性教育について論議を深めてきました。
 当時は、一般的な性教育も、まだまだ萌芽的な時代で、障害児者の性は、規制・指導の対象であるとの考えが大きな時代でした。その中でも障害児者の性を、人間としてあたりまえの願いであり、権利であるととらえて実践を進めることで、子どもたちが性の主人公として成長・発達する。そのことに強い確信をもちながら、これを多くの人々の共通認識とするために理論を深め、実践を模索してきています。
 このような研究活動は、性教育を人間の性にかんする「科学・人権・自立・共生」の教育であるととらえて研究を進めている“人間と性”教育研究協議会などとともに深められ、各地でのさまざまな実践につながっています。

■攻撃の意図はどこに
 今回の教育への不当な介入の突破口として、性教育を都議や一部のマスコミは、なぜ攻撃するのでしょう。
 一つには、この攻撃が日本を戦争のできる国にしようとしている一部の人々の動きとつながっていることです。
 攻撃の先鋒に立った都議は、性教育の発言とともに、学校現場における「日の丸・君が代」問題を取り上げています。さらに、これまで「純潔教育」こそ正しい性教育のあり方であると主張し続けている、カルト的宗教団体も加わっています。
 「人間の性の権利は国家や教祖と呼ばれるものに帰属し、個々人の人権としては認められない」。こうしたことから、“人間と性”教育研究協議会に代表される、個人の性を人権ととらえ、その権利を行使するために子どもたちとともに歩む性教育を攻撃し続けてきたのです。

■恣意的な教育実践攻撃
 性教育への直接的な攻撃では、「学習指導要領からの逸脱」「子どもの発達段階を考慮していない」「不適切な教材を使用した」などが挙げられています。しかし、都教育委員会は調査段階でも、実際の授業を参観することもなく、まず「不適切ありき」のように、各学校で行われていた性教育を否定しています。
 また、恣意的に実践の一場面を切り取り、その実践が指導計画上にどう位置づくのかを見ようとしていません。教材もそれがどういった流れで、どう使用されていたのかにも目を向けません。
 これは、教育実践をつくりあげるプロセスにおいても、著しく科学性に乏しい姿勢であり不当なものと言えるでしょう。

■教育基本法を守り、研究・ 実践の発展を
 教育基本法第十条(教育行政)には、「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。A教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない」とあります。
 今回の一連の動きは、教育基本法、ひいては憲法さえも否定することにつながります。
 障害者を含む人間の「性の権利」の本質を明らかにしながら、その権利を行使するために必要な性教育を、すべての人々に保障するための研究・実践を、より多くの国民とともに、今こそ強く、そしてしなやかに進めていくことが求められています。
(「全障研しんぶん」 2003年10月号)

障害児学校に対する東京都教育委員会の異常な介入に断固抗議し、
処分の全面撤回を要求する


                              2003年9月12日
                     全日本教職員組合中央執行委員会


 5月以来、東京では一部マスコミ、一部都議、教育委員会が一体となった都立障害児学校に対する異常な攻撃が続けられてきた。東京都教育委員会は7月「都立盲・ろう・養護学校経営調査委員会」なるものを立ち上げ、その報告にもとづき9月11日、教育内容、学級編制及び教職員服務について不適切な実態があるとして、学校管理職37名、教育庁関係者14名、教員等65名、計116名にも及ぶ処分等を強行した。校長1名を1ヶ月の停職とし教諭に降任するなど、その処分内容も類例を見ないものである。

 この問題の本質と特徴は以下のとおりである。
 第一に教育内容への教育行政による全面的な介入の突破口にしようとするものである。
 今回の教育介入へのきっかけとして扱われた「性教育」への攻撃についても、当該校の教育課程における位置づけや授業のねらいを吟味することなく、授業や教材の一部分のみを取り出し問題化する意図的で異常なものであった。さらにこの攻撃を牽引した都議の「性教育」発言が「日の丸・君が代」問題とセットでなされていること、「都立盲・ろう・養護学校経営調査委員会」報告書(以下、「報告書」)では週案作成によるライン(校長→教頭→主幹)を通じた指導内容管理が強調され、すでに都内小・中学校、都立高校にも週案提出強要の動きがはじまっていることなどをみても、今回の異常な攻撃が、学校の教育活動ばかりか、個々の教職員の日常教育実践までも、支配し介入しようとしている意図が読み取れる。
 第二に、すべての子どもたちに豊かな教育を保障する教育を、競争と管理の教育に切り替える、「特色ある学校づくり」の教育「改革」推進である。
 「報告書」では冒頭、管理運営規則による職員会議の変質と企画調整会議の設置、学校運営連絡協議会、人事考課制度など、校長のリーダーシップ確立の制度を整備してきたが、障害児学校ではいまだ、教職員の「横並び意識や慣例・慣行が残存」していることを述べている。そして教員の意識改革のための異動制度改悪や、学校経営サポート機能を持つセンター組織の地域ごとの設置を提言している。子どもたちの実態と課題を直視し、その豊かな成長のために教職員が知恵をしぼり、協力し合う学校を全面否定し、「特色ある学校づくり」を上意下達で強権的に作っていく宣言に他ならない。
 第三に、教育条件を整備せず、違法状態を放置してきた都教委の責任を全く不問にしていることである。
 東京の障害児学校では、障害が重かったり重複していたりするためにきめ細かな指導を進めるための法律に定められた少人数学級(重度・重複学級)が、実態に応じて設置されていない。都予算がないとの理由で、国の基準では該当する児童・生徒が措置されぬため450名をこえる教員が不足したまま放置されつづけてきた。さらに各学校の教室不足は深刻で、全都で235教室が特別教室や教材室を普通教室に転用している。それでも大幅に足らぬ教室は、一教室をカーテンで仕切って授業せざるを得ない実態である。話しことばによるコミュニケーションがまだ確立していない子どもたちの多い障害児学校では、歌などによる働きかけが大きな位置を占めるが、カーテンで仕切られた教室でできるものではない。教員も教室も大幅に不足した状況の中で、各学校では教職員が知恵を絞り多様な実践形態が創造されてきたのである。東京都教育委員会は自らの条件整備責任を一切不問にし、これら現場の努力を「虚偽の学級編制」として切って捨てているのである。
 第四に、教職員の労働実態を全く見ようとしていないことである。
 全国の教職員の一ヶ月の平均超過勤務時間は80時間10分にのぼっている(2002年、全教調査)。教職員はいのちを削るような思いで子どもたちのために奮闘している。子どもたちの実態と教員不足の中で、授業時間中に修学旅行などの振替をとると授業がなりたたないため、規定の4週間を超えざるを得ないことも学校現場の実態である。これら学校と教職員のぎりぎりの努力を東京都教育委員会は「不適切な勤務」と切る捨て、一部マスコミは「不正休暇」などと報道したのである。
 第五は「特別支援教育」の推進にある。
 「報告書」では「都立盲・ろう・養護学校は、特別支援教育の充実に向け地域の中でセンター機能など重要な役割を果たすことを求められている。従って、こうした役割を担いうる経営体制を確立することは、今後の心身障害教育改善の前提」と述べられている。今、教育行政は予算をかけず、障害児教育大リストラによる「特別支援教育」を推進しようとしている。障害児学校の子どもたちにとっても明らかにマイナスとなるこの制度変更を、父母や教職員の声を聞かず上意下達で推し進める宣言に他ならない。

 石原都知事の「爆弾をしかけられて当たり前」発言が社会問題化している。今回の障害児学校にかけられた「気に入らないものは押さえつけ、道理ない主張を押しとおす」攻撃・処分の本質は、石原都知事のテロ容認発言と同じ本質を持つものである。
 学校と教育は子どもたちのためのものでなくてはならない。東京都教育委員会による障害児学校への介入と処分に断固抗議するとともに、東京都教育委員会が教育基本法の精神に立ち返り、教育の条理を踏みはずした異常な介入を直ちにやめ、処分を全面撤回するよう強く要求する。

■関連情報

<集会> 攻撃をはね返し、ゆきとどいた教育を求める10.24緊急集会
日時 2003年10月24日 18時半〜                     
会場 星陵会館ホール(地下鉄・赤坂見附、永田町、国会議事堂前)
主催 東京都障害児学校教職員組合・東京都教職員組合・全日本教職員組合
*詳細(PDFファイル)


○”人間と性”教育研究協議会    

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