中央教育審議会「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」(答申)への見解 障害児教育を後退させてはならない

2005年12月23日 全国障害者問題研究会常任全国委員会
     


 2005年12月8日、中教審は「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」を答申しました。

 特別支援教育は、これまでの「特殊教育」制度が対象としてこなかったいわゆる「軽度発達障害」の子どもへの教育的支援を打ち出し、障害児学校における障害の重度・重複化への対応やセンター的機能を充実させること、小・中学校においては、障害児教育を障害児学級や通級指導だけの問題とせず全校的な対応をはかることなどの積極的な部分を持つものです。それらの多くは、関係者がかねて議論し要望してきたことでもあり、前進が期待されています。

 しかし、これだけの大事業を推進するにもかかわらず、教員配置などの人的・物的条件整備については、「地域の実情にあわせて」「柔軟かつ弾力的に」という口上で、結局は国の責任を曖昧にし、負担の多くを地方に転嫁するものです。そのため、軽度発達障害への新たな施策も、十分な教員配置がされず、通常学級の深刻な状況の改善につながるのかきわめて疑問です。また、障害児学校・学級で直接子どもの指導に当たる教員が実質的に削られ、これまで築き上げられてきた教育実践が大きく後退させられるのではないかと懸念されます。

 例えば、特別支援学校については、障害種別の専門性を担保するはずの「教育部門」の法的根拠が曖昧にされており、このままでは障害種別で異なっていた教員配置の基準も低い方に統一され、障害種別を考慮しない学級編制がなされる怖れもあります。センター的機能を果たすだけの教員配置の原則が示されないため、現に、授業担当教員がかなり減らされている学校も各地で出てきています。その一方でますます深刻化している養護学校の過大・過密校の問題への解決策は何ら示されていません。

 特別支援教室に関わる問題としては、2003年の協力者会議報告に対する厳しい批判によって、障害児学級は即時廃止するのではなく、当面は通級指導とあわせ現行制度を弾力化するとし、将来的な特別支援教室も子どもの実態に合わせ三つの形態が例示されています。しかし、形態別の設置が明記されているわけではなく、実際には様々なニーズの子どもが同じ教室で指導を受けることになるのではないかとも予想されます。さらに現在の劣悪な教育条件を不問にしたままで弾力化と教員の「一層の活用」が強調されています。障害児学級教員にありとあらゆる職務を担わせるもので、事実上、最も安上がりで劣悪な条件下での「特別支援教室化」に他なりません。

 教員免許に関する提言では、新たに「特別支援学校教諭免許」が提言されています。その取得のためのカリキュラム案を見ると、教育と発達に関する基礎理論が著しく軽視され、障害種別の指導法に偏重しています。教員の実質的削減と多忙化により、子どもの実態を話し合い教育課程や授業を教員集団で作っていくことが困難になりつつあり、カリキュラムや指導方針が一部の管理的教員層によって決定されてしまう学校も出てきています。こうした中で、自ら考えて子どもを理解し指導の見通しをもつことができず、ただマニュアルに依存するだけの教員を増やしていくことになりかねません。

 障害があっても等しく教育が保障されるべきであり、その教育はその子の生活を踏まえ、願いや思いに丁寧に寄り添いながら、豊かな集団の中で個性を輝かせ、全人格的な発達を保障すべきものです。これは憲法、教育基本法のもとで障害児教育が築き上げてきた理論的・実践的到達点です。今回の答申内容は、それを切り崩してしまう大きな問題を抱えています。障害児教育の後退を許さず、特別支援教育が、真に、障害さらには特別なニーズを持つすべての子どもに豊かな教育を保障するものとなるよう、人的・物的な条件整備を国が責任を持って進め、そのための適切な法改正がなされることが必要です。


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