障害のある子どもの教育改革提言
−インクルーシブな学校づくり・地域づくりー
2010年3月3日 全国障害者問題研究会常任全国委員会
20世紀後半に展開された権利としての障害児教育運動は、1979年の養護学校義務制を実現させ、さらに後期中等教育や寄宿舎教育などの諸制度面を充実させ、最重度・重複障害児もふくめた科学・生活と結合した授業づくり、子どもの内面に寄り添う指導など、世界に誇れる教育実践を展開してきました。21世紀に入り、特別支援教育の施策の下で、発達障害の子どもが新たな対象に加えられましたが、同時に新自由主義的構造改革と市場競争原理が障害児教育にも持ち込まれ、学校や寄宿舎の統廃合や能力主義的な管理・統制と格差の拡大が進行し、子どもの学習権・発達権が再び侵害されようとしています。 とりわけ、特別支援学校・学級の過密化は深刻な事態をもたらしています。在籍者の増加は、一面では手厚い専門的な指導への子どもや親の期待を反映するものと思われますが、通常の教育自体が危機的な状況を抱え、障害だけでなく、いじめ・不登校・貧困や外国籍などにより学びから排除される子どもが急増していることとも密接に関係していると考えられます。 障害のある子どもの教育の改革は、単に特別支援教育の問題でなく、通常の学校教育全体の改革、とりわけ差別と排除がなく学習参加の権利が保障されるインクルーシブな学校づくりと連動して、さらには単に学校だけでなく、すべての人が安心して暮らし活動できるインクルーシブな地域づくりの一環として展開される必要があります。そして日本国憲法、子どもの権利条約、障害者権利条約、その他の人権に関する条約や宣言の理念・精神に則ったものでなければなりません。 全障研常任全国委員会は、すべての子どもの人権が平等に保障され、ゆたかな成長・発達、学習と生活が保障される教育の実現を目指して、以下のような改革を提言します。 1.総論 ○ 権利としての教育は、「社会への完全かつ効果的な参加とインクルージョン」をめざし、全人格的な「発達を最大にする」ための、「あらゆる段階でのインクルーシブな教育制度と生涯学習」を保障するものである。 ○インクルーシブな学校づくりは、妊娠・出産から成人後までの地域で生きる権利が保障される地域づくりと連動し、また就学前から卒業後の生涯にわたる学習権・発達権保障の一環として追求される。 ○学校教育は、すべての子どもの差異と多様性、固有のニーズとアイデンティティを尊重するとともに、特別なニーズのある子どもには、すべての子どもに対する権利一般にとどまらず、合理的配慮(理にかなった条件整備)や特別なケア・サポートへの権利を保障する。 2.インクルーシブな地域の学校をつくる ○過度に競争的、管理的で、多くの子どもが学習に参加できず、事実上の排除を生み出している現在の学校教育を抜本的に変革する。 ○基本的に、すべての子どもに地域の小・中学校への在籍を保障し、同時に、本人もしくは保護者の要求に基づき、特別支援学校および特別支援学級への在籍を保障する。希望するすべての子どもに通級による指導を保障する。 ○市場競争的な学校選択でも、自己責任を強いる自己決定でもなく、必要かつ十分な情報と相談に基づき、子どもの最善の利益のために本人や保護者が納得・安心して就学先を決められ、学習形態や方法を要望できる体制をつくる。 ○教育条件を抜本的に改善するために、通常の学級を小規模化するとともに、各学校の学級数ないし児童生徒数に応じて、コーディネーターの定数化、専門性のある支援スタッフ、心理士、福祉士等の配置を進め、全校的支援体制を確立する。 ○競争的学力向上政策を転換し、子ども同士の学び合いを大切にする学習のあり方と、ニーズの多様性に対応できる教育課程と教授法の確立を追究する。 3.特別支援教育制度を改革する ○喫緊の課題として、特別支援学級・学校の過密状況を解消し、教育条件を整備するとともに、障害の種類・程度や能力による格差・差別をなくす。 ○就学前の保育・療育・教育および後期中等教育を無償化し、希望者には高等部教育の年限延長や専攻科の教育などの修学期間延長を保障する。 ○ 特別支援学校の小規模化と地域分散化を進め、安易な併置・総合化を行わず、障害種別の専門性、とりわけ盲学校と聾学校の独自性を確保する。 ○すべての小・中学校に特別支援学級と通級指導教室を両方、あるいは少なくともいずれかを設置する。幼稚園から高校までの教職員定数と学級編制基準を改善し特別の指導のための教員加配を定数化する。 ○センター的機能、医療的ケア、通学・移動支援などの関連サービスとそのための専門的スタッフを充実させる。 ○寄宿舎教育の安易な統廃合は行わず、教育入舎や短期入舎などの教育的・福祉的機能をさらに充実させる。 4.インクルーシブな地域をつくる ○妊娠・出産から成人後まで、地域社会で安心して、人間らしく・自分らしく生きる権利を保障する。 ○医療・療育・保育の制度を確立し、相談・支援体制を充実させるとともに、とりわけ早期療育の意義・必要性を踏まえ、重層的な地域療育システムを実現する。 ○学齢期における、家庭、学校に続く第三の生活の場である地域社会での活動の場を保障するために、放課後・休日活動のための学童保育等の施設・機関を充実させるとともに、地域でのスポーツ・文化活動のための支援を充実させる。 ○卒業後の地域における生涯学習や余暇活動の機会を保障し、そのための公的支援を充実させる。 |