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乳幼児のゆたかな生活と発達を保障する療育体系の創造を
  〜通園施設と児童デイサービスの「一元化」問題にかんする意見〜


 7月22日、厚生労働省における「障害児支援の見直しに関する検討会」の報告書がまとまり、公表されました。検討会は13団体からのヒアリングを含め3月から7月まで11回開催され、児童福祉法改正や障害者自立支援法の見直しを含んで、障害児支援の制度体系を新たに提案することを目的として、検討を重ねてきました。報告書は、障害の早期発見・早期対応、学齢期・青年期の支援、相談支援、家族支援、入所施設のあり方の見直しなど、障害のある子どもと家族への包括的な支援を内容としています。

 報告書は、当会が基本原理として尊重すべきだと訴えてきた「子どもの権利条約」などにうたわれている、子どもとして「心身ともに健全に育つ権利」の保障を冒頭で表明しています。「早期発見・早期対応」の領域では「1974年大津方式」に代表されるような、系統的で総合的な療育システムを創造する課題を掲げているほか、「気になる」段階からの親子への支援、地域支援、学齢期の放課後型デイサービスの新設など、すでにいくつかの自治体の努力によってこれまで具体化されてきた施策の重要性を認め、実現すべき課題として盛り込んでいます。また、障害者自立支援法にもとづく利用料等の負担を軽減するための措置を延長することや、福祉サービスと他の施策との利用料を合算した上限負担制度の創設を求めていることなどは、保護者などの声を受けとめたものとして評価できます。

 「就学前の支援」、すなわち保育や療育に関する報告の骨子は、@就学前から成人期まで、障害のあるものとないものがともに過ごせることを基本理念として、保育所を障害児の基本的な支援の場とし、A従来の三障害種別の通園施設と児童デイサービスの「一元化」のあり方を検討し、Bこれらの「通所施設」(障害種別をなくした通園施設と児童デイサービスを一元化したもの)は、地域への巡回支援、相談支援、コーディネート機能をいっそう果たせる方向で機能拡充していく、等が提案されています。また報告書は、通園施設の実施主体については現在の都道府県から市町村へ移行すること、利用開始にあたっての措置と契約のあり方について改めて検討することも提案しています。

 いうまでもなく、保育所における障害児保育は、その運営費が国庫補助金から一般財源化されるという不安定さをはらみながらも、こんにちまで重要な役割を果たしてきました。また、児童デイサービスも含めて通園施設と保育所・幼稚園へのさまざまな形での並行通園は、施設利用の一般的な方法になりつつあります。そして、障害児施設が各種の相談や地域連携のために、センター的役割を果たす発展方向は、多くの関係者のコンセンサスを形成するにいたっています。

 しかし、報告書には、無視できない大きな問題があるといわざるをえません。それは、もし、知的障害児通園施設、肢体不自由児通園施設、難聴幼児通園施設が、現在のままの児童デイサービスと一元化されることになるならば、その療育の基盤となる施設条件や専門性のあり方に変化が生じることになるからです。

 「障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会」は、報告書の内容が具体化へのプロセスに入るにあたり、以下のような意見を表明します。

@三通園施設間の専門性の確保と拡充:そもそも施設の数が少ないゆえに、障害種別をこえた三通園施設の統合は「身近な通園の場」を実現する上で合理的な方法の一つです。しかし三種別の通園施設の間には、施設最低基準などの点で大きな違いがあり、すべての障害に対応できる基準とはなっていません。肢体不自由や聴覚障害はもちろんのこと、知的障害や発達障害においても、障害と発達に応じた専門的な指導・訓練が求められており、そのための施設設備の充実が必須の条件です。この課題に応える三障害種別の統合でなければなりません。

A通園施設と児童デイサービス間の施設基準の違いを高いレベルで解消する:三種別の通園施設は、「児童福祉施設最低基準」において、保育士・指導員、遊戯室、屋外遊技場(園庭)、訓練室などの備えるべき最低ラインが定められ、それによって不十分ながらも療育の水準が維持されてきました。しかし、障害者自立支援法による現行の児童デイサービスには、指導員に関する配置基準はありながら、それ以外の専門職の定めはなく、設備の基準はきわめて不十分です。通園施設と児童デイサービスの「一元化」が、低い基準にあわせる方向になってはならず、国の責任において実践を発展させるにふさわしい基準と条件をつくるべきでしょう。

B相談支援機能の拡充にふさわしい職員体制:「一元化」された通所施設が地域の中で医療・訓練、相談、連携のセンター的機能を果たしていくことはおおいに期待されています。しかし、それにふさわしいだけの職員の確保ができるだけの財政的裏付けが保障されるのでしょうか。報告書は、「その役割を担う人材や財源を確保するよう個別給付の活用を含めた検討が必要」と述べています。個別給付は、現行の障害者自立支援法の原則であり、つまり施設に対しては出来高払いを、利用者には多額の応益負担を課すものです。職員が必死になって外来医療・訓練、巡回・相談、外来療育をこなすことが日常になるのではないか心配です。

C保育所保育の質の向上:保育所での障害児保育は、現状では市町村間の格差にはなはだしいものがあります。その背景には、そもそもの保育所の整備状況や「待機児童ゼロ」をめざすとりくみの到達状況の違いがあります。このような格差をなくし、保育所保育の質そのものを高めるための根本的な方策がとられる必要があります。

D毎日通園できる保障:通園施設や児童デイサービスの多くの施設は、障害や発達にきめ細かく対応する療育をめざし、日々の十分な保育時間を確保して、毎日通園できる条件をつくってきました。そのもとでこそ子どもたちは、生活リズムをつくり、生活の中でさまざまな技能・能力を獲得し、集団の中で意欲やコミュニケーション能力を発達させていくのです。こうした発達の基盤を形成する通園施設の機能は、障害の重い子どもたちのみならず発達障害の子どもたちにとっても重要であると指摘されています。「保育所等での受入れの促進」の他方で、こうした通園施設での生活のもつ発達的意義がもっと重視されなければならず、これを保障するよう努めなければならないのではないでしょうか。

 通園施設への毎日通園など、これまでその大切さが確認されてきたものは、それをなくしたり変えたりするのではなく、さらによりよいものに発展させていくべきだと私たちは考えます。これから開始される「一元化」を前提とした議論において、結論を急ぐことなく、保護者や施設職員、自治体の子育て・保育所関係・障害児支援の職員など、多くの関係者の声に耳を傾ける必要があります。そのためには、公開の検討会などを開催して、みのりある議論ができるようにすべきでしょう。

 「障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会」の会員のみなさん、地域や職場で、報告書の内容や障害者福祉をめぐる情勢を学びあい、つぎなる検討の場に、私たちの声を届けましょう。

  2008年7月26日
  障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会  代表 茂木俊彦(桜美林大学教授)
 障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会
京都市北区北野紅梅町85 らく相談室内  FAX 075-465-4151