発達保障を学ぶ

  茂木 俊彦(もぎ としひこ)
    (東京都立大学総長・前全障研委員長)

 

    定価 本体1600円+税  2004年7月20日 発行
    ISBN4-88134-174-X C3037
 
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まえがき


1 事実を大切にし、みんなで考え合う
 
 ほんとうに場面に関係がないのか/これも「発達」ではないだろうか/1日だけ長く生きてほしい/
  みんなで創造する発達保障


2 共感=感受性と想像力をはぐくむ
 
 「問題行動」の考え方の深まり/「問題行動」と発達要求/感受性を高め、豊かな想像力をはぐくみながら

3 「あるがまま」を考える〜発達は人生の質を高める取り組み
 
 「あるがまま」に含まれる意味/発達とその保障を否定する「あるがまま」論/発達は人生の質を高める

4 主体的活動によって発達する
  
誰でもまわりの世界に働きかけている/それは活動と言えるのか/「活動」につなげていく取り組み

5 障害児にも文化を
  
変化する素材/文化を子どもたちに/重症の子にもあてはまる?

6 小さな窓から大きな世界が見える
  
課題を見つけるための働きかけ/むしむし探検隊の活動/努力する自分を肯定的に見る

7 訓練と教育の関係を考える
  
特定の機能の訓練と行動全般の訓練 学習心理学が背景に/生活の中での応用
   訓練を教育だとみなすのは不適当 訓練でもあり教育でもある/人格の形成・個別指導

8 発達と障害児・者の集団
  
増える障害種別の団体・組織/軽度難聴の高校生/「特別支援教育」と学習・発達権

9 能力の低下と発達
 
 能力の低下は避けられないことも/生活・活動の活性化 人格の豊かさの獲得

10 障害を位置づける自己・人格の形成
 
  「落ち込む」ということ/自己肯定感の育ちそびれ/力をつけながら自信回復を/年齢や発達段階の問題

11 人びとの心を変えればよいか
 
  条件整備なしの「心のバリアフリー」論/地域を変え、社会を変えるとは

12 権利条約をめざす動き
 
  世界の障害者運動の集約として/権利条約の目的と原則をめぐって/障害と差別、障害者運動の力

あとがき

【コラム】
@文京区心身障害児実態調査委員会/A発達保障の理論と実践をさらに深めるために/B発達障害論と障害観/C開発刺激とは/D文化を学ぶ力を育てるということ/E活動の励ましと評価/F行動の訓練と発達保障/G障害とニーズ/H発達的な障害児理解/I発達における障害の意味/J差別について/K障害者権利条約への道のり―アジアと国連
■みんなのねがい9月号
 発達保障論を豊かにする 作業に参加してみませんか
 村岡真治(東京・ゆうやけ子どもクラブ)

 障害のある子どもたちにかかわる仕事をしていると、子どもたちの発達にとって自分たちの活動がどんな意味があるのかを説明しなければならないことがあります。そんなときに、「子どもにとって重要だから」「親御さんがたいへんな思いをされているから」などと話すだけの表面的な対応をしていては、相手を十分に納得させることができない場合があります。
 私たちは、障害のある人びとの発達にかかわる事柄について、今日的な課題も踏まえながら、よく深めておく必要があります。
 「みんなから『発達保障について一二のテーマを立て、あなたの知っていること、考えたことを書きなさい』という宿題をあたえられ、リポートを出したのがこの本」と序文には記されています。
 教育・福祉などの実践の現場において、あるいはさまざまな運動の過程において、必ずぶつかるであろう基本的な問題が一二のテーマに整理され、筆者ならではの幅広い見識によって、ていねいに検討が進められています。
 ただし、いつくかのテーマを追っていくうちに、読者は二つの精神が本書を貫いていることに気づくはずです。
 一つは、「発達保障(論)」とは誰かの発想をおしいただくものではなく、障害のある人、その家族、実践者、研究者、一般市民など、「みんな」で創造していくものであるという見方です。
 もう一つは、「憲法上の権利が実質的に保障され……障害のある人びとが人間発達の道を力強く歩むことができるかどうかが重要」とする立場です。
 要するに、誰でも理解しやすいようなことばが用いられながらも、それらのことばには、筆者の揺るぎない思想が裏打ちされているのです。
 自分の関心のあるテーマから目を通してもいいのではないでしょうか。興味のあるテーマを取り上げて職場や地域の仲間たちといっしょに語り合ってみましょう。
 発達保障論を豊かにする作業に身近なところから参加してみませんか。そうしたことは、筆者と同様に「ありがたく楽しいひととき」(あとがき)になるにちがいありません。
■しんぶん赤旗(9月26日)
  現場に寄り添うリアリティー
   越野和之(奈良教育大学)
 タイトルにある「発達保障」ということば。このことぱは、1960年代に端を発する障害のある子どもの教育権保障運動の中で提起され、それ以降の、障害のある人たちの人間的諸権利の総合的な保障を求める多面的な運動を導いてきた理念である。
 著者は、ちょうどこの理念が提起された時期と前後して心理学研究者としてのあゆみをはじめ、全国障害者問題研究会の活動や、各種の教育研究集会、乳幼児期の子どもにかかわる保育者との共同研究などの活動を通して、発達保障の現場に密着しつつ、その理論と実践の発展をリードしてきた。本書は、そうした立場から書かれた、発達保障という考え方への入門書である。
 『みんなのねがい』(全障研出版部)という月刊誌の連載がべースになっていることもあり、文章はとても平明で読みやすい。とは言え、単なる概説書ではなく、たとえば、進行性の疾患や加齢などに伴う能力の低下と発達との関係をどうみるかという問題、また、障害者の権利条約制定の動きなどの国際的な動向や、わが国における「特別支援教育」をめぐる問題など、すぐれて今日的な問題への論究があ.る。保育や教育の現場に寄り添い、障害のある子どもの保護者・家族や、そうした子どもたちととりくむ保育者、教職員の声に深く耳を傾けることを通して、研究を進めてきた著者ならではのリアリティーにたって、これらの間題が論じられており、そうした探求そのものによって、「発達保障」という考え方の成果と課題を示す、という構成になっているのである。
 障害児者にかかわる間題を念頭において書かれた書であるが、そこで示されている子ども観、発達観、教育観は、障害のある人の場合のみならず、子育てや、保育、教育にかかわる幅広い読者に有益な示唆を与えるものと確信する。

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