ホントのねがいをつかむ
  −自閉症児を育む教育実践−

 赤木和重(三重大学准教授) 佐藤比呂二(東京・しいの木特別支援学校教諭) 

 
定価 本体1700円+税  ISBN978-4-88134-744-7 C3037  2009.5.25
 「子どもを変える」のではなく「子どもが変わる」/「ねがい」をつかむ・折り合いをつける/障害特性に応じつつ障害特性をこえていく教育へなど、本質的な教育実践のキーワードが満載。
目 次

はじめに●赤木和重


実践●佐藤比呂二
 「子どもを変える」のではなく「子どもが変わる」

顔を膝で蹴り上げる大吉君/生活を共にするなかでの気づき/先々に思いをめぐらし、不安になる/(この子は必ず変わっていける!)/自分を支え、ねがいを実現する/ゴーカートに乗って満足しきる/折り合いをつける力/「受け止める」と「受け入れる」はちがう/「受け止めてもらった」から、折り合いをつける/「紅茶の”宅配”デース」/文化祭…パニックから五分で立ち直って出演/自分で自分を支える/障害特性をどう捉えるか/繊細な心に共感する/集団のなかでやりとげたいねがい/(自傷を卒業したい)/自己変革のねがいのなかで揺れる「卒業しません」/「泣いていいよ。泣けるってすばらしい」/歌に自分の思いを託す/価値ある”やらない”という自己選択/「子どもを変える」のではなく「子どもが変わる」


対談●赤木和重 佐藤比呂二
「ねがい」をつかむ・折り合いをつける
―佐藤実践を読み解く二つの視点

第一の視点 「ねがい」をつかむ
その子の本当のねがいに思いを馳せる/「枠にはめて見ない」「うまくいかないことを大事にする」/証拠に基づく教育とは?

第二の視点 折り合いをつける
折り合いの意味/本当のねがいを表現できることを大事にする/隙間を大事にする/納得があればあればこそ折り合える/佐藤さんは寅さん?

同僚からのメッセージ――佐藤先生は“びっくり箱”


提言●赤木和重
障害特性に応じつつ障害特性をこえていく教育へ
 ―自閉症理解と教育実践

はじめに
第一部 自閉症理解
障害の「知識」だけでなく自閉症の「見方」を意識する/自閉症を理解する―「ちがうけどおなじ」という見方/「ちがい」―自閉症の障害特性/よしこさんへの実践からみえてくる「おなじ」/「おなじ」その1―発達する=障害特性は変わる/「おなじ」その2―自分を好きになる、ヒトを好きになる

第二部 教育実践の具体的な展開
「ちがうけどおなじ」見方は、教育実践にどのような方向性を与えるのか/「障害特性に応じた教育」を問い直す/特別支援学級の授業実践―算数を例に/「障害特性に応じつつ障害特性をこえていく教育」/「障害特性に応じつつ障害特性を超えていく教育」が、なぜ重要なのか/教育実践は子どもにどのように映っているのか/教育実践と治療教育プログラムとのちがい

最後に―自閉症教育を特別な手立てのある普通の自閉症教育に

自閉症の基礎知識●赤木和重
 心の理論/感覚過激・感覚鈍磨/共同注意/実行機能

おわりに●佐藤比呂二

◆『ホントのねがいをつかむ』を推薦します
 「行きません」。でもホントは行きたい大吉君   二通 諭(札幌学院大学准教授)

 人はしばしば、外に出したメッセージとは裏腹の「ホントのねがい」というものをもっている。たとえば、昭和歌謡屈指の名曲「悲しい酒」(曲:古賀政男 詞:石本美由紀)で、美空ひばりが涙を溜めて「一人ぼっちが 好きだよと 言った心の 裏で泣く」と切々と歌い上げるフレーズには、口に出せない「ホントのねがい」が隠されている。

 『ホントのねがいをつかむ −自閉症児を育む教育実践』のテーマの一つは、自閉症児が表に出す言葉や行動の裏に潜む「ホントのねがい」を掬いあげる佐藤比呂二に、若手研究者の赤木和重に突っ込みを入れ、その本質を解き明かすことにある。赤木の脳裏にあるのは、名人芸と讃えられている佐藤実践を一度解体して、誰もが組み立て可能なものにしようという野望である。

 佐藤が大吉君に「これから体育館に行くんだよ」と誘ったとき、「行きません」という拒絶の言葉が返ってくる。佐藤はすぐに「紅茶飲む?」「飲んだら行くの?」と訊くと「ハイ」と同意の返事。このとき佐藤は、大吉君のねがいは紅茶を飲むことではなくて、体育館に行くことであることを見破っている。大吉君は紅茶を20回も飲むのだが、それは体育館に行くことへの不安と向き合う葛藤の時間でもある。直線的に体育館へ行ってもパニックになるし、行かなくても行けなかった自分を責めてパニックになる。ここはひとまず間をとり、迂回である。このような佐藤の方略は、言いなりになるということではなくて,折り合いをつける力の形成を目ざしたものである。体育館に行けるという短期的課題と、折り合いをつけるという長期的課題が統一されているのだ。

 本書のもう一つのテーマは、脱・「障害特性論」である。これについては、赤木がズバリ「障害特性に応じつつ障害特性をこえていく教育へ」と題して提言している。子どもがホントにねがう教育とは、「障害特性」の枠内に押し込められるものではなくて、「障害特性」から自由になっていくものなのだ。

 まずは本書を手に取って、意気投合している二人に感染してもらいたい。   ( 月刊「みんなのねがい」より)

◆日本教育新聞 10月19日
 「人間観・発達観を問い直す」 都筑学(中央大学) 全文はここ(PDF) 
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