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発言する渡辺鋼さん
■渡辺鋼さんの発言
石川島播磨重工の航空宇宙事業本部という主に自衛隊の軍用機のジェットエンジンをつくる職場で35年働き、2年前に定年になりました。
職場では、「軍需産業」ということもあり、この40年近く、徹底した差別、迫害があったので、それをやめさせようと、裁判を起こしました。ご支援いただいて、私たちの最初の裁判は2年前に勝利の和解をし、今第2陣の闘いが始まっています。今日お話しするのは、そういった職場の実情に基づいた話です。
テロ特措法ができたのが2001年11月です。「いよいよ自衛隊が海外へ出て行くなあ」と思っていましたら、私のところへ連絡がありました。
自衛隊がインド洋へ出て行ったんで、その艦艇の修理のために技師を派遣する必要があるということで、リストづくりが始まった。それまでも、米軍と一緒に演習をするときには、修理に行くということはあったけれども、今度は違う。実戦だ。しかし行けと言われたら断れない。キャリアを積み重ねて、艦艇の修理をまかされることは、「名誉」なことなんです。成果主義厳しき職場で、それを断れば、窓際か、窓際どころか門の外へ出されちゃうわけですから、とても断れない…という相談がありました。
その年は、9.11があって、テロに対する報復戦争に協力するのは当たり前というムードで、時代がガーッと流れていました。今私は思うんです。日本は戦争をする国になろうとしているというより、すでに日本は戦争をしているんだと。
自衛隊がインド洋に出て行ってもう4年9ヶ月なんです。憲法の9条2項があるから、殺傷行為や破壊行為はやってないけれども、アメリカの戦争になくてはならない役割を果たしている。イラク特措法ができて自衛隊が出ていって2年8ヶ月。陸自は帰ってきましたけれど、今米軍が必要なのは、空自のC130による輸送と海自の艦艇による給油。そういうものはしっかりやっているわけで、それに加えて国民保護法もできて有事体制はほぼ完成している。アメリカが次々と起こす戦争を、日本はしっかり支え続けている。
外から見れば日本は戦争している国で、日本の国民は憲法があるから戦争はしない国だと思っているかもしれないけれど、ただ直接には殺傷行為、破壊行為をしていないだけだと見るべきだと僕は思う、そういう危機感をもつべきだと、職場の現実を見ていて思うんです。
防衛庁に何度も要請して、最近になって明らかになりましたが、民間人も実際に19回57人現地に行かされているんです。その人たちは、仕事の内容も行き先も、同僚にも、家族にも言ってはいけない、防衛秘密だと言われて。
防衛庁や厚労省にいろいろ聞いても、誰が安全を保障するのかもはっきりしない、向こうに行って、もし死んだり怪我をしたりすると、労災の認定になるかどうかもはっきりしない。労基法でも労働安全衛生法でも、民間人が戦地に行って、仕事をすることを想定していないからです。法律の定めがないにもかかわらず、必要だからということで強引に行かされている。これが4年以上も続いているわけです。
職場でもなかなかこれを問題にできない。労働組合に言っても、会社とツーツーですから、防衛秘密を守れない男というレッテルを貼られて飛ばされます。職場にも国民にも知らせることができない。国会で追及しても、「民間企業のことを国は関知しません」と。企業の側は、「防衛庁の承諾がないのにお答えすることはできません」という形で逃げてしまいます。こうして国も国会も知らないまま、民間の軍事協力がどんどん進行していく。もうシビリアンコントロールは有名無実かなという気がします。
なぜそんなことが起きるのか、ということで、毎日放送が取材してくれたビデオをご覧ください。
<ビデオ『誰も知らない戦場出張〜もの言えぬ職場から』一部上映>
いま見いただいたように、「武力攻撃事態法」が発動しない状態でも、民間人を戦地に行かせるわけです。「指定公共団体」ではないし、「作業従事命令」もない。企業の業務命令一つで行かせる。
なぜそういうことが可能になるのか。
一つは、防衛秘密保全というしめつけがすごく広まっている。テロ特措法ができた2001年、同時に自衛隊法が改定されて、122条に民間人が防衛秘密の漏洩をした場合も懲役5年以下という罰則が入った。これで、企業では、これもあれも防衛秘密ということで、何もものが言えないようになってきている。
もう一つが、職場の中で、人権とか平和とか、賃上げとか、そういうことを主張する者に対して徹底して迫害して、見せしめにして、「ああなりたくなかったら、会社のいうことを聞け、御用組合の言うことを聞け」、という人事管理です。
石播の場合、ZC計画―Zはゼロ、Cはコミュニスト。直訳すれば共産党員絶滅計画。彼らは「ゼロコミ」と隠語で言っていますが、職場での言動だけではなく、公安警察とか地元の警察とも連絡をとって、職場の全従業員を調査をして、怪しい者を全部リストアップして、AからDのランク付けした名簿を作る。
その名簿に載ったら最後、とくにAとBにランクされたら、徹底的に迫害をされる。奴らとは口をきくな、行事に呼ぶな、仕事をさせるな、と。もちろん昇進させない。ですから私も、定年までの最後の14、5年間、いっさい仕事がなかったですね。全部取り上げられて、誰も口聞かない。でも悔しいから、毎朝出勤する。日帰りの監獄みたいなもんですよ。じっと座ってるわけですね。それをまわりが見てる。まわりは忙しいのにね、何であの人だけ何もしないんだろう、と。口きいちゃいけないというから、14年前の新入社員からずっと口きいてないんです。あの人みたいにはなりたくないなという「さらし者」にして、職場を沈黙させるんです。
戦争をする国になっていく、戦争を支える企業がどんどん広がっていく、そのために職場がもの言えぬ状態にされて、戦争に必要な民間人を無理やり戦地に動員されますね。その一方で、国民保護法で、国民も監視され、規制され、隔離される。戦争に邪魔な人は隔離する。戦争の役に立たない人も追いやられる。戦地派遣と「国民保護」は裏返しの関係かなと思います。
そういう職場、企業を支えるには、パートナーとして労働組合の役割があるんです。私たちは、こんな組合ダメだ、まとも組合が必要だと思って、三菱重工や川崎重工などの人たちと声をかけ合ってつくったんですけれど、そういう思いを一番強く持ったのが、この戦地派遣の問題でした。
イージス艦の「きりしま」が出ていってすぐ、2003年の正月に、修理に行けというので、石播から7人出されたということがわかったんです。職場で、「だれだれさんがいない」ということで。労働組合の集会で、「職場から7人出たと思われる、人命に関わることだから調査をしてくれ」と私が言ったら、組合の委員長が、「あんたなんでそんなこと知ってるんだ。ニュースソースを明かさなければ調べない」と言うんです。しかも、行動中の艦艇を修理するのは当社の重要な任務である、それを否定するならば業務を続けることはできない、とまで労働組合が言うんですね。
さらにその組合の機関紙に、朝鮮併合は朝鮮の発展のために役立った、朝鮮から頼まれたからやったんだとか、靖国参拝は当たり前のこと、戦犯を分祀するなんて見当外れだとか、そういう記事が毎号のように出てくるんです。労働組合が企業と完全に一体になって戦争協力に突き進んでいます。
そういった状況の中で、私が強く申し上げたいことは、職場の中で差別が始まるとものが言えなくなってくる、そのことが結局、戦地派遣にもノーと言えない、サービス残業も首切りもノーと言えない、それはそもそも差別と見せしめから始まっているんですね。差別は、差別されている人だけの問題じゃない。そういう意味でぜひ、おかしいと思うことに、しっかりと声を上げていくこと、それがとても大切だと思います。
<2巡目の発言>
ご質問があった、日本の兵器生産の企業というのは、武器輸出解禁が出てきましたので、いま、鵜の目鷹の目です。当面は、在日米軍の再編がありますが、その再編した米軍の装備を日本の企業が修理をさせてもらいたい。そのために今アメリカに何を言われているかというと、米軍の軍事機密を守れるような企業になりなさいと。GSOMIA=ジーソミア。軍事情報一般保全協定という、アメリカが全世界に対して要求している協定をクリアしなさい。そういう防衛秘密保全体制というのは結局、労働者に口を閉ざさせ、国民に何も知らせない、そういう体制をつくり、海外に出て行く、ということだと思うんです。
日本の軍事企業の防衛生産の比重が10%台で収まっているのは、輸出が認められていないからです。それは憲法9条があるから。だから、アメリカのような産軍共同の軍事コングロマリットのようなものになっていない、なっている部分もあるかもしれないけれど、今はきわどいところだと思うんです。
そういう意味で私は、職場の中で声を上げないとダメだと思う。まだ、戦争に反対するだけでいきなり解雇とか監獄に入れられるとか、戦前のような状態ではないわけですから、そういう状況にあるうちに、しっかり声を上げていく。生活の現場、生産の現場、そういうところから声を上げていくことが本当に必要ではないかと思うんです。
米軍は、1000人の部隊に対して、数千人の軍属がいます。いなければその部隊は機能しない。戦地に連れて行くわけです。日本の自衛隊もそうしたいわけですね。それができないで、もがき苦しんでいるのが今の自衛隊です。今は秘密裏に戦地に出張させて、しのいでいますけれども、いつか大手を振って、厨房の要員も看護師とか医療関係者も、すべてを徴用して連れて行けるような体制をね。単に兵器生産の職場の労働者、エンジニアの問題ではないんですね。そういう体制をつくるためにいま日本は動き出している。
米軍は、世界戦略のために自衛隊海外派遣も求めているが、実は、民間人の協力体制のほうを狙っていると思います。
結局、日本の自衛隊と米軍の戦争を支えるための要請が、ありとあらゆる職業のなかに入り込んできているわけです。経済活動が軍事化してきている。どんな職業も戦争につながっていく。これをどうくい止めるかということで、みんな一緒になって、連帯しないと。
差別についても、あいつは仕事を取り上げられてるが、オレは仕事はできている、オレの査定は最低じゃないとか、差別の程度によって、まだあいつほどじゃないからオレは裁判はやらないとか。自分の仕事の戦争協力の程度の違い、あるいは自分が受けている差別の苦しさの程度の違いで、みんな心がバラバラにされてしまうんですよ。その違いにつけ込まれて闘えなくなっちゃうんですよ。やっぱりそこを乗り越えて、みんな心を広げて団結することが必要だと思います。
私は、今日ここでみなさんが、いろんな障害を乗り越えて一緒にやろう! というエネルギーを見て、ここにすばらしいお手本があると思いました。ご一緒にがんばりたいと思います。ありがとうございました。