障害者問題研究 第35巻第1号(通巻129号) |
2007年5月25日発行 ISBN978−88134−484−2 C3037 定価 本体2000円+税 |
特集 大学における特別な教育的ニーズへの対応 特集にあたって 田中良三 わが国における障害学生問題の歴史と課題/大泉溥(日本福祉大学) 要旨:わが国の高等教育における障害学生問題の歴史的展開を検討し、実践的課題(それを支える理論の諸問題)を明らかにするために、障害学生問題にかかわる事実を歴史的に吟味し、戦後日本の新制大学の発足から高等教育の多様化政策に至る過程での障害学生の勉学実態や実践、政策や運動の実情を客観的にとらえ、大学入試の方法、キャンパス条件と修学の配慮・支援、進路・就職の問題などの局面を視野に置いて現在の到達を明らかにし、障害学生支援の今日的課題を示した。 キーワード:高等教育機会の平等、障害学生支援体制、支援コーディネーターの役割 特別なニーズをもつ大学生への支援 ―教育的発達的観点から精神障害・発達障害学生の修学支援を考える /葛西康子(北海道大学大学院教育学研究院) 要旨:大学は利用者である学生の就学環境を整えるサービスに取り組む必然性に直面している。特別なニーズをもつ大学生へのケア環境の整備は、健常学生にとっても貢献するものである。本論では筆者が教員・学生相談員・デイケアスタッフ三様の立場で経験した精神・発達障害の学生との関わりをエピソード形式で紹介し、特別なニーズをもつ障害学生支援を教育的発達観点から考察を行った。ケア環境をつくりだし、見つけだすためには、従来の教育システムや医療・相談システムの枠組みの脱構築が求められるとともに、長年培われてきた大学社会ならではのいわば日常の世話焼きコミュニティとでもいうようなケア環境の自覚的な活用が必要である。また支援関係を継続することの重要性と、心理アセスメントのフィードバックが成長発達支援としての意義をもち、相互理解の機会をも提供することを述べた。最後に枠組みの脱構築は日常の対話から生じることを論じた。 キーワード:精神障害、発達障害、障害学生支援、学生相談、特別なニーズ 大学における新しい障害学生支援の取り組み ―日本福祉大学の場合/藤井克美(日本福祉大学) 要旨:大学における障害学生支援の取り組みの構築は、今日の重要課題である。本稿では、日本福祉大学の障害学生支援の取り組みを紹介し、大学全入時代の障害学生支援のあり方を展望した。日本福祉大学の障害学生支援のキーワードである「学びあう支援」の取り組みの中で、障害学生、サポート学生、教職員が互いに学びあい、育ちあっている実態の中に、新しい障害学生支援の有り様をみた。それらの取り組みを推進する中で大学全入時代の新しい課題を提起できた。さらに、障害学生支援から大学教育の意義を確認した。 キーワード:障害学生支援、学習弱者、学びあう支援、大学全入、大学教育のユニバーサルデザイン 大学における発達障害者への生涯学習支援/田中良三(愛知県立大学) 要旨:わが国の大学における発達障害をもつ人たちを対象とする大学公開講座(オープンカレッジと称するなど)の取り組みが広がっている。本研究は、その実態について把握し、今後、大学における発達障害をもつ人たちの生涯学習支援の課題を明らかにすることを目的としている。 今日、わが国で知的障害者などに対する公開講座など学習支援の取り組みを行っている大学についての実態把握は曖昧である。ここでは、「大学の関わり」ということをどう捉えるかということが問われている。筆者は、オープンカレッジとは、「大学が地域住民の学習要求に応え、『公開講座』等を開催して、大学の研究・教育を提供する地域貢献活動である。大学は、この活動を通して、自らの教育・研究力を高め、地域との連携・協働を築いていくことが求められる」と定義した。筆者が見学・訪問調査した発達障害者を対象とするオープンカレッジの取り組み(2005年度)の検討を通して、今後の大学における発達障害者を対象とする生涯学習支援について問題提起した。 キーワード:大学公開講座、オープンカレッジ、発達障害者、生涯学習支援、大学の地域貢献 <大学におけるさまざまな取り組み> 東京学芸大学を拠点とした知的発達障害者のための公開講座開講の試み/平井威(東京・七生養護学校) 要旨:企業等で働く比較的軽度の成人知的発達障害者が学ぶ大学公開講座(オープンカレッジ)の実践を紹介する。その学習内容は、豊かな生活をつくりだす実践的課題を扱う『生活講座』と、大学の資源を活用し受講生の視野を広げ教養を高める「教養講座」の二つの領域で構成され、その学習支援方法は、実生活の経験を通じて、仲間たちの経験を交流する中で、適切な支援者の助言を得て学ぶことにあった。 17年間の特徴的な講座内容と受講生の成長の様子を紹介しつつ、大学における生涯学習の役割と知的発達障害者の大学進学に関わる今後の展望を論じる。 キーワード:知的障害者の生涯学習、オープンカレッジ、大学公開講座、生涯発達、実生活と学びの結合 知的障害をもつ人の高等教育への接近に向けた試み ―鳥取県における「オープンカレッジ」「大学公開講座」の実践より/國本真吾(鳥取短期大学) 要旨:後期中等教育段階までの障害児の教育権保障が確立され、新たな課題として青年期・成人期の学習機会への注目が高まってきている。特に、知的障害者を対象とした「オープン・カレッジ」や大学公開講座の取り組みが、全国各地に広がっている状況を勘案すると、専攻科教育を含めた教育権保障の「第3のうねり」の展開が期待できよう。そこで本稿では、鳥取県内で実践された「オープンカレッジin鳥取」と「鳥取短期大学公開講座」を紹介し、取り組みを通じて挙げられる課題を述べた。そして、権利の実質的保障を進めるべく、高等教育自体の在り方を問う今後の議論の展開を提起している。 キーワード:知的障害者、高等教育、オープン・カレッジ、大学公開講座、生涯学習権 ダウン症など知的障害の人への大学における教育/向井啓二(種智院大学) 要旨:近年、大学をはじめとする高等教育機関に進学する障害学生は、増加している。従来から進学していた視覚・聴覚障害、肢体不自由の学生だけでなく、軽度発達障害の学生や知的障害の学生も進学しはじめている。おそらく軽度発達障害の学生は、相当数在籍していると考えられるが、その詳細は不明である。本稿は、知的障害や軽度発達障害をもつ学生を受け入れている大学の一つで、筆者が勤務する種智院大学について紹介する。障害をもつ学生がどのような大学生活を営んでいるのか、その生活の一部を紹介しつつ、大学が抱える様々な問題を明らかにすることで、今後の方向性を探りたい。 キーワード:ダウン症の学生、軽度発達障害の学生、入学、大学生活 <動向> 学生相談学会の動向 ―発達障害学生の支援の研究/岩田淳子(成蹊大学) 要旨:学生相談とは大学内における心理相談活動である。まず、学生相談の実際について紹介し、発達障害をもつ学生への学生相談における支援についての研究をレビューした。次に学生相談界の関心が高いため、発達障害理解に関する多くの研修が行われていることを報告した。そのうえで、学生相談が発達障害をもつ学生への支援のどの部分をどのように担うのかを整理し課題を提起した。第1の課題は学生相談カウンセラーが発達障害に気づき認識を深めること。学生本人の障害理解・受容に対する支援を、より検討し洗練するとともに、具体的な学業支援メニューを知っておく必要がある。第2の課題は、カウンセリングの方法、学生相談カウンセラーの環境(関係教職員や周囲の学生)への働きかけがもっと重視されるべきである。第3の課題は、学内連携について、あるいは大学組織としての支援体制の構築である。障害学生支援は大学の特性と集う学生によって異なるが、モデルと具体的な支援方法を示し、周知し、各大学が参照できるようにすることは急務である。 キーワード:学生相談、大学生の発達障害、学生相談カウンセラー、学内連携、大学組織としての支援体制の構築 <国際動向> 聴覚障害学生の高等教育をとりまく国際的動向 ―聴覚障害学生支援先進国としてのアメリカ合衆国の取り組みを中心に/白澤麻弓(筑波技術大学) 要旨:聴覚障害学生支援に関する国際的動向として、主に聴覚障害学生支援先進国としての米国における取り組みと、こうしたノウハウを世界的に広げようと立ち上げられた国際ネットワークの活動について報告した。加えて、これら国際ネットワークの活動が国内にもたらした影響のひとつとして、我が国における聴覚障害学生支援ネットワークの活動を取り上げ、これまでの活動成果について言及した。他にもEUやアジア諸国等、近年高等教育機関における聴覚障害学生支援体制の充実は高まりを見せており、今後我が国においてもますます活発な取り組みが期待される。 キーワード:聴覚障害学生、高等教育、PEPNet、PEN-International、PEPNet-Japn <大学教育への発言> 私の学生生活をふりかえって/岩元綾(えほんの会AYA) AD/HDの人たちと大学教育/高山恵子(えじそんくらぶ) <資料> 障害程度区分の策定経過の検討/佐藤久夫(日本社会事業大学) 要旨:障害者自立支援法の下では、障害程度区分を基準にして利用できる福祉サービスの種類と支給量が決められる。本稿は、厚生労働省が根拠とした研究と試行事業に基づいて、この障害程度区分策定過程の合理性を検討した。同省は、平成16年度厚生科学研究によって、要介護認定は障害者の介護ニーズ判定にも有効だが、訓練ニーズの判定には別のロジックが必要だという結論が導かれた、とする。しかしその研究結果を検討すると、その有効性は部分的であり、とくに精神障害者には当てはまりがよくないというのが研究結果である。また、平成17年度の障害程度区分等試行事業は前記の理解に基づいて、最終判定では一次判定(要介護認定)を大きく変更する必要はないというメッセージのもとで実施され、バイアスがかかっている。さらに、試行事業の結果を分析して現行障害程度区分システムが開発されたが、以上のようにデータ自体が不十分で、開発方法に説明不足の点も多い。これらから、「障害者独自の27項目が組み込まれているので障害者のニーズは十分把握される」という判断は誤解であり、この認識では障害者にとって不利な二次判定・支給決定をもたらす可能性がある。法の実施に伴って蓄積される情報を活かし、より適切なニーズ評価法を開発すべきである。 キーワード:障害者自立支援法、障害程度区分、要介護認定、IADL、障害 <書評> 清水寛著『日本帝国陸軍と精神障害兵士』/評者 松浦勉(八戸工業大学) 34巻総目次 ■関連する特集
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