新自由主義的改革と戦後福祉レジームの岐路(Vol.28-No.4)
二宮厚美(神戸大学発達科学部)
戦後日本の福祉に対する公的責任は、財政責任、実施責任、組織運営責任の3点にあり、措置制度はこの公的責任のもとでつくりだされたものであった。現代日本の新自由主義的福祉改革はこの公的責任を後退させる目的をもって登場した。新自由主義的福祉改革の論理は、@措置制度を廃止して契約型利用方式に改めること、A社会サービス保障を一定の所得保障に置き換えること、B所得保障の範囲を限定化し、その領域外の社会サービスを自由市場化して、福祉構造を二階建て化すること、の3点にまとめられる。これによって、福祉に対する公的責任は@公的な実施責任は解除され、A財政責任は利用者に対する補助金支給に限定され、B組織運営責任は規制緩和によって弾力化されることになる。その意味で、現代日本の新自由主義的福祉改革は、戦後福祉レジームに大きな岐路をつくりだした。21世紀に福祉の新たな発展を願う者にとっては、新自由主義に対抗する福祉ビジョンをオルタナティブとして対置していく必要がある。
キーワード:新自由主義、福祉基礎構造改革、福祉レジーム、公的責任、福祉労働
社会福祉基礎構造改革と社会福祉制度改革の課題(Vol.28-No.4)
峰島厚(愛知江南短期大学)
2000年6月、「社会福祉事業法の一部を改正する法律」が成立し、障害者福祉制度は、措置制度が廃止され利用契約制度による新たな支援費支給制度となる。この制度改定は、国の国民生活に関する財政支出を抜本的に縮減する財政構造改革を、障害者福祉の実態や関係者の改革論議を無視して強引に持ち込まれたものといえる。今後の具体的施策の展開では、支援費認定、低所得障害者対策、施設制度体系の改革などが重要な論点となってこよう。
キーワード:社会福祉法、支援費支給制度、財政構造改革、地域生活移行施策
措置制度・利用契約制度の権利論的検討(Vol.28-No.4)
小野浩(あじさい第2共同作業所・共同作業所全国連絡会東京支部)
社会福祉基礎構造改革における措置制度の関する論議を踏まえて、権利保障の視点から利用契約制度について検討した。基礎構造改革における措置制度廃止論の主張も、また公的責任を守る立場からの措置制度擁護論の主張も、利用者の権利性については未整理なまま論議が展開されてきたと考え、まず措置制度の問題点としてその論点となった利用者の「権利性」と「選択性」の検討を行った。その結果、利用者の「権利性」を「福祉サービスを受ける権利」「福祉サービスの選択する権利」「最適な福祉サービスを受ける権利」の3つに整理した。そのうえで社会福祉法にもとづく利用契約制度は、これら「3つの権利」を保障するものになり得るかの検討を行った。
キーワード:社会福祉基礎構造改革、措置制度、利用契約制度、福祉サービスを受ける権利、選択する権利、最適なサービスを受ける権利
福祉領域における非営利・共同組織の動向と課題(Vol.28-No.4)
鈴木勉(県立広島女子大学生活科学部)
介護保険制度の導入を機に、介護福祉分野に営利企業の参入が相次いでいるが、同時にNPO法人や生協・医療生協・農協など非営利組織も活発な事業展開をみせている。本稿では、これらのうちNPOと協同組合の事業・活動に焦点を当て、欧米諸国の動向を紹介するとともに、わが国における福祉多元主義(福祉ミックス論)理解の偏向を指摘した。さらに、非営利・共同組織による事業の意義について、福祉の営利化への対応という側面とともに、人々の潜在能力の発達に適合性をもった組織であると論じている。その理由として非営利・共同組織は、第1に、事業目的に人間発達とノーマライゼーションという公共利益の実現を掲げていること、第2には、組織運営の共同のパートナーとして位置づけられていることをあげた。
キーワード:福祉供給システム、NPO、協同組合、福祉国家と福祉社会
障害者の所得保障施策の検討 学生無年金障害者問題の検討を中心に(Vol.28-No.4)
高野範城(弁護士)
2000年4月施行の介護保険は、高齢者の福祉サービスを措置から契約へ変更し、2003年度からは障害者福祉の分野も措置から契約へ移行することになっている。しかし、憲法第25条の公的責任と公的費用負担が後退したなか、自己決定・自己責任・市場原理が支配する契約制度では、成年後見制度を完備したとしても、社会的弱者とされる痴呆性高齢者や知的障害者、そして精神障害者の権利と福祉が切り捨てられることになりかねない。このことは、1959年、国民皆年金の趣旨の下に制定された国民年金法が、20歳を過ぎて任意の契約をした学生のみ、自己などで障害者になった場合障害基礎年金を支給していることからも明らかである。別言すると、強制加入ではなかったにもかかわらず任意加入していなかった98%の学生は、障害者となっても障害年金を受給できるにいるのが今日の現実である。のみならず、所得保障と密接に関連する障害者の雇用は契約であり、法定雇用率が定められていても、障害者は職場から排除されている実態がある。
キーワード:所得保障、国民年金、障害基礎年金、無年金障害者、再審査要求
介護保険における要介護認定の諸問題
需給統制手段としての要介護認定から介護保障へ(Vol.28-No.4)
石倉康次(広島大学総合科学部)
介護保険制度における要介護認定は「介護サービスの必要度」を判断するものとされている。しかし、現実はそのように機能しない仕組みとなっている。まず一次判定システムが在宅の要介護者や、痴呆の要介護者のニーズ認定に不備がある。とくに、「見守り」「寄り添う介護」の評価が欠如している。尺度の設定にも統計学上の欠陥や不明な点を有している。介護保健サービスの利用率が限度額50%に満たない一方で、これをこえる利用者もあるという事実は、認定の仕組みの欠陥を示すとともに、社会資源の不足や利用者負担が大きく障壁となっていることをよくあらわしている。要介護度によって介護サービスの担架に差額が設定されていることがサービス供給者に利用者の選別をさせる作用をもたらし、利用者は安い単価を期待して認定が低くなることを求めかねないことにもなる。要愛護認定とケアプラン作成の分断は資源の浪費を生んでいる。
キーワード:高齢者、介護保険、要介護認定、痴呆、ケアプラン
障害者の権利擁護施策の動向と課題(Vol.28-No.4)
山本忠(立命館大学法学部)
社会福祉基礎構造改革のもとで、社会福祉供給システムは措置制度から利用契約制度へと大きなパラダイムの転換が行われた。理念的には、福祉サービス利用者の自己決定権と選択権を尊重するための改正であるとされているが、このことによって、障害者のように判断能力に不安のある者もまた、契約当事者としてサービス供給事業者と対等な地位に立たされることになる。情報収集・活用能力あるいは交渉能力等において圧倒的に不利な立場にある障害者の契約当事者としての能力を補完・強化するために、成年後見制度および地域福祉権利擁護事業(福祉サービス利用援助事業)の活用が求められる。障害者の権利擁護を実質的に担保できるような制度として両制度が機能するためには、どのような課題があるのかを検討する。
キーワード:障害者福祉、社会福祉基礎構造改革、権利擁護、成年後見制度
「指導のめやす試案表」の作成と個別指導計画
埼玉県内の肢体不自由養護学校小学部の実態表の分析をとおして(Vol.28-No.4)
櫻井宏明(埼玉県立川島ひばりが丘養護学校)
埼玉県内の肢体不自由養護学校教員からの聞き取りで、現場の教職員が求めている個別指導計画は、個別の「指導計画」、すなわち「授業づくりの個別的なアプローチ」であることがわかった。授業づくりに役立つ個別指導計画にするためには個人ごとの学習のねらいと集団としての学習のねらいとの関連を図る必要があると考えた。
埼玉県内の肢体不自由養護学校小学部に1999年度(一部1998年度)在籍する全児童381名を対象に、各校が作成している「個人の実態表」を調査し、子どもの実態を分析した結果、7段階の発達段階に分けられることが分かった。発達段階ごとに「子ども像」を明らかにし、実践的知見を加えて「課題・活動の柱」と「配慮事項」を設定して、授業づくりの参考となる「指導のめやす試案表」を作成した。これを導入することで、個人ごとの学習のねらいと集団としての学習のねらいを関連づけることができ、子ども一人ひとりに配慮した授業づくり、学習集団編成や教育課程編成の参考にもなることを述べた。
キーワード:肢体不自由養護学校、個別指導計画、実態把握、発達段階、教育課程、指導のめやす試案表