障害者問題研究 第31巻第4号(通巻116号) |
2004年2月25日発行 ISBN4-88134-114-8 C3036 定価2000円+税 |
特集 障害者の人権保障と法的問題 特集にあたって 山本忠(立命館大学法学部・本誌編集委員) インタビュー 障害者権利条約の実現と私たちの課題 藤井克徳(日本障害者協議会) 「固有のニーズ」をもつ人と人権保障 井上英夫(金沢大学法学部) 要旨:現在,「障害をもつ人」に関する国際条約や「障害者総合福祉法」,「差別禁止法」が議論され立法化の日程に上ろうとしている.改めて,人権保障とその具体化である国際条約,行動計画等の国際基準の意味と内容を人権保障の歴史を踏まえて確認しておくことが必要である.また,日本の現実と対比して,人権保障の歴史を踏まえて確認しておくことが必要である.また,日本の現実と対比して,人権保障における国際基準(グローバル・スタンダード)を生かし,いかなる理念,原理,原則をこれら立法にもるべきか,障害をもつ本人や組織の参加の下に議論される必要がある.本稿は,その基本的視点を提供する.第1章,第2章では,「完全参加と平等」,人権保障の意義を確認し,第3章では,人権保障の理念,原理,原則とその具体化の方向を検討した.第4章では,「障害者」観の転換を訴え,「障害」に代えて「固有のニーズ」というとらえ方を提唱し,最後に差別禁止法・総合的社会サービス法から人権保障法への発展を提起した. キーワード:障害をもつ人,固有のニーズ,人権保障,理念と原則,完全参加と平等,差別禁止,尊厳と自己決定 わが国の障害者の権利保障と総合福祉法 ――障害者福祉法の試案(日本障害者協議会1996年)とその後の展開 佐藤久夫(日本社会事業大学社会福祉学部) 要旨:日本の障害者福祉は機能障害の種類と年齢によって対象を区分した5つの法律を根拠法としている.この法体制は,機能障害の種類の違いが最も重要な要素だという理解に立っており,サービスの重点はその治療と回復訓練となり,専門的な施設を少数設けることになる. 今日,相対的な重点は機能障害や活動制限を補うサポートサービスに移行し,それを市町村を基盤に提供する時代となった.1996年には日本障害者協議会が障害種別の3法の統合を中心とした「障害者福祉法への試案」を発表した. その後,市町村での実施,法目的やサービスの種類の共通化,相互利用の推進など,さらに統合の条件が整いつつあり,関係する障害者団体の間での合意形成も進んできた.政府と民間団体の協力の下,より具体的な制度内容の検討を開始し,機能障害別の特殊性と共通性のバランスのとれた法制度を実現するべきである. キーワード:障害者福祉法,日本障害者協議会,法律,法的定義,障害 障害者法制における障害者差別禁止法の位置と役割 オーストラリアにおける「1992年障害者差別禁止法」の10年を中心に 玉村公二彦(奈良教育大学) 要旨:本稿では,1990年代以降の障害者法制の動向,障害者差別禁止法・条項の類型研究について概観するとともに,包括的な障害者差別禁止法の成立の意義と到達を検討した.刑法,憲法,社会福祉法,民事法といったそれぞれのアプローチの類型だけではなく,障害者法制において,障害者差別禁止法がどのように形成され,その成立が障害者施策の発展にどのような影響を及ぼし,そのような到達点があるのかを検討する必要性を提起した.その一つのケーススタディとして,オーストラリアにおける1992年障害者差別禁止法の成立と展開過程を整理するとともに,10年間の到達点と課題を概観した.障害者差別の社会法制と,医療・福祉・教育,雇用など障害者施策の総合的進展とが車の両輪となって,障害者の権利保障が進展することを強調した. キーワード:障害者法,障害者の市民権,障害者差別禁止法,オーストラリア イギリスにおけるDDAと障害者雇用政策 鈴木隆(島根大学法文学部) 要旨:イギリスにおいて,障害者の雇用の権利が法的に承認されてから数年たつ.イギリス政府は,障害者が必要とし彼らがそれに値する平等参加の完全な権利を依然欠いていることを承認する.障害者権利委員会(DRC)は,現行法制が不適切であると考えている.DRCは,現行法の効果的な実施と並んで,とくに障害者雇用に関する法改正が継続的に必要であることを提案する. キーワード:平等参加の権利,障害者差別禁止法,障害者雇用,障害者権利委員会,合理的調整 欠格条項の見直しの現状と課題 山本忠(立命館大学法学部) 要旨:日本政府は,2003年に公表した『平成15年版障害者白書』において,障害があることを理由に免許取得やサービス利用を制限する「欠格条項」について,99年に改廃対象と決めた63制度のうち,医師免許など計62制度の見直しを終えたことを報告している.しかし障害者欠格条項の見直しは,これだけで十分というわけではない.障害者の完全参加と平等の実現のためには,まだまだ多くの分野に残された欠格条項の見直しが必要である.またその見直しの方針についても,国際的な障害者差別禁止法や国連の障害者権利条約の動向を見るとき,根本的な発想の転換が必要となっている. キーワード:障害者,差別禁止,欠格条項,人権 社会福祉協議会の権利擁護活動と障害者権利保障の課題 M畑芳和(龍谷大学法学研究科) 要旨:障害者福祉制度が契約制度へと転換し,障害者は契約当事者として,判断能力の有無・程度がサービス受給にあたっての重要な課題となった.大津市社会福祉協議会によると,地域福祉権利擁護事業で提供される福祉サービス利用援助等のサービスの利用者が,多重債務や虐待,金銭搾取などの深刻な生活課題を抱える者に多いことがわかった.サービス提供によって生活課題が整理され,利用者の生活状況の改善・安定に寄与している.また,専門職を対象にしたアンケートの結果,市内に在住するおよそ1,000人に1人が権利擁護の必要があると推測された.これらの者が悪質商法被害に遭っていることから,市社協は消費生活センターと連携し啓発活動を行っている.また,学識経験者や弁護士,市職員を交えた研究会で権利擁護機関の構想も検討している.今後,行政責任が縮減され,障害者が自己選択で福祉サービスも含めた生活設計を行い,その責任を負わなければならない中で,適切な成年後見人ないし地域福祉権利擁護事業専門員による福祉サービス利用援助等の権利擁護サービスを確保し,障害者の権利保障を図ることが重要な運動的課題となる. キーワード:地域福祉権利擁護事業,成年後見制度,契約制度,生活支援,権利保障 裁判における知的障害者の証言能力をめぐって ――サン・グループ事件のたたかい 小村晶子(第一びわこ学園) 要旨:知的障害者を多数雇用していた滋賀県内の会社が長年にわたって年金横領などの不正,虐待などの人権侵害を行っていた事件について,被害者の元従業員と死亡者の家族は,加害者の元社長の責任だけでなく,労働基準監督署などの公的機関や金融機関の責任を問う民事裁判を提訴した.裁判においては,知的障害者の証言能力と意思能力(理解力)の関係が問題となった.筆者は証言能力と意思能力は別の能力であること,原告らの発達段階はピアジェの「直感的思考」段階に相当し,〈9歳の節〉を越えていないので,体験したことを記憶し語ることはできるが,抽象概念を理解したり,体験していないことを予測したり推論して述べることはできないと判定した.年金裁判は,勝利的和解となった.国家賠償裁判の判決は,知的障害者の証言を採用し,直接的暴力だけでなく,精神的苦痛と人格権の侵害を認め,行政の義務違反,不作為の罪などを認めた画期的なものであった. キーワード:知的障害者,証言能力,意思能力,虐待,年金横領,国家賠償裁判,行政の責任,不作為の罪 障害者の教育・福祉に携わる人たちへ――弁護士が語る権利擁護の実際 日常の実践における権利擁護の在り方とコンプライアンスの活用 荒中(弁護士) 要旨:施設や学校における日常の業務の中で起こりがちな身近な障害者の人権侵害の例を挙げ,人権を擁護するための考え方を示した.障害者の問題は,@連続性・長期性,A生死への直結性,B密室性,C個別性,D相性,Eプライバシー確保の困難,F複合性,Gアクセスの困難,などの特徴をもつ.これに留意し,一人前に生きることを保障することが障害者の権利擁護であり,そのための手段として@障害者のエンパワーメント,A情報アクセスのサポート,Bサービスの自己評価システム,C救済制度の確立,D総合的な支援センターなどが考えられる.これらを念頭に置いて,障害者に関わる人々がそれぞれの役割の中で権利保障の仕組みを考え実行していかなければならない.そのための支えとしてコンプライアンスルールの確立が障害者福祉,教育等に関わる人々に求められる. キーワード:人権,権利擁護,コンプライアンス,健全な社会の尺度 連載 教育実践にかかわる理論的問題 あそび(4) 「遊びの指導」にかんする実践的・理論的課題 土岐邦彦(岐阜大学地域科学部) 第31巻総目次 |
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