障害者問題研究 第33巻第2号(通巻122号) |
2005年8月25日発行 ISBN4-88134-294-0 C3037 定価 本体2000円+税 |
特集 特別支援教育の実像 (絶版) 特集にあたって 猪狩恵美子(福岡教育大学・本誌編集委員) 政府間関係から見た「特別支援教育」構想の意義と課題 渡部昭男(鳥取大学地域学部) 要旨:2000年の地方分権一括法の施行により、中央集権的な国−地方の関係は対等・協力の関係へと転換した。国の「特別支援教育」構想も、基本的には新しい政府間関係を踏まえたものとなっている。鳥取県は「現場主義」に立つ片山県政の下、独自の障害児教育政策を展開しており、19市町村を3圏域に区分して総合的な施策の充実を進めつつある。しかし、市町村が基礎的自治体としての力量を高め、広域的な地方政府である都道府県及び中央政府である国が市町村を支援・補完するという関係の構築は今後の課題である。 キーワード:政府間関係、特別支援教育、地方分権一括法、鳥取県、片山善博、障害児教育 盲・聾・養護学校の「センター的機能」の充実を考える若干の視点 清水貞夫(長野大学社会福祉学部) 要旨:特別支援教育構想で示された養護学校等の「センター的機能」の充実について、四つの視点から検討した。その一つは、「センター的機能」の充実が打ち出された歴史的経緯の視点である。二つは、社会教育ないし生涯学習分野で主に主張される「開かれた学校」論の主張の視点である。三つは、社会福祉分野で基調となってきた地域福祉論の視点である。四つには、福祉施設の歴史の中で「施設の社会化」が果たした役割を問いながら、それとの関係で「センター的機能」の充実の課題を取り上げた。四つの視点を総合すると、特別支援教育構想で示された「センター的機能」の充実には、人的・物的条件整備がないという課題だけでなく、養護学校等を地域社会の中でどのように位置付けるかという課題が見えてくる。 キーワード:センター的機能、開かれた学校、施設の社会化、地域福祉論 小・中学校における特別支援教育の構想と75条学級の行方 越野和之(奈良教育大学) 要旨:2003年の「特別支援教育の在り方」報告で示された「特別支援教室」の構想につき、それを基礎づける「制度の在り方」を審議したはずの中教審特別委員会の中間報告を検討した。中間報告は「特別支援教室」の構想を「方向として」支持しながらも、協力者会議報告以来の懸案事項を解決する「制度の在り方」については、今後の課題として結論を先送りしたこと、LD等の子どもへの当面の対応策として示されたいくつかの内容は、いずれも「特殊学級担当教員の活用」に収斂しかねないものであることを指摘し、あわせて審議経過の若干の特徴を摘記した。その上で、中間報告の「将来の方向」と「当面の対応」は、いずれも、小・中学校における特別支援教育の課題を「単一の制度」によって担保しようとする構想であることを述べ、その難点について論じた上で、75条学級に上記「単一の制度」の役割を担わせるとする場合に、最低限求められる制度改革の課題を指摘した。 キーワード:小・中学校における特別支援教育、75条学級、通級による指導、特別支援教室構想 特別ニーズ教育の比較教育的考察 荒川 智(茨城大学教育学部) 要旨:本稿は、20世紀の障害児教育、もしくは特別ニーズ教育を概観し、日本の特別支援教育の比較教育学的な位置やこれからの方向を検討する。 第一に、20世紀国民国家における公教育の基本モチーフである「能力による分化と国民統合」の展開・推移を「民主主義とナショナリズム」および「公共性と市場原理」という視点から検討した。第二に、特別ニーズ教育の対象と障害児学校・学級在籍率、就学決定の原則、障害や特別ニーズの概念・分類、財政に基づいて、グローバルな視点で一定の傾向や類型を示すことを試みた。第三に、「多文化教育」(異文化間教育)の展開に着目し、「同化・統合政策」から文化的多元主義へという流れが、特別ニーズ教育とどのように関連しているのかを論じた。 最後に、日本の特別支援教育は、インクルージョンにはまだほど遠く、せいぜいインテグレーション(同化・統合)の段階にようやく届いたにすぎないという問題性を指摘した。 キーワード:分化と統合、インクルージョン、多文化教育 教育行財政からみた教育改革−「三位一体改革」と義務教育費国庫負担制度見直しを中心に 三輪定宣(帝京平成大学) 要旨:小泉「構造改革」、「三位一体改革」のもとで、その本質である国の財政支出削減の手段として教育財政全般の「改革」(「教育財政改革」)が強行されつつあり、その柱は「三位一体の改革」の一環である義務教育費国庫負担制度の「見直し」――その縮小・廃止、一般財源化である。その根幹は、義務教育諸学校の教職員給与費の都道府県・国各半額負担制度であり、給与費は給与単価、教職員定数(学級規模)を算定基礎としており、その「見直し」は、それらの水準の自治体格差の拡大など、義務教育の機会均等や条件整備に甚大な影響を及ぼすことは必至である。本稿は、義務教育費国庫負担制度の意義と変遷、「三位一体の改革」下の見直し動向、「総額裁量制」の問題点――その教職員定数・給与・学級規模への影響、教育財政改革のあり方について論じ、教育財政をめぐる今日の問題状況と課題を考察する。 キーワード:教育財政改革、義務教育費国庫負担制度、教職員給与費、三位一体改革、総額裁量制 報告 教育の実践 通級指導教室での軽度発達障害児支援について−LD・ADHD・HFPDDなどの子どもたちとの関わり 山田 充(大阪府堺市立日置荘小学校) 東京都における教育「改革」の現状と私たちの課題 東京都障害児学校教職員組合 父母との共同ですすめる高知の障害児教育改革運動 森 敦子(高知県教職員組合障害児教育部) 保護者の視点からみた特別支援教育 一人ひとりが大切にされる教育をねがって 進藤美左(東京都調布市) 海外動向 オーストラリア、クィーンズランド州の特別支援教育プログラムの概要と課題−学校での活用場面を通して 片岡美華(クィーンズランド大学) 要旨:オーストラリアのクィーンズランド州では、学校を基盤とし、教育的支援提供を目的とした、小学2年時診断網(Y2診断網)、アサテインメント、アプレイズメントとよばれるアセスメントを実施している。本稿では、アサテインメントとアプレイズメントの内容を説明し、これらが実際に学校現場でどのように活用されているかを考察する。アサテインメントはニーズに基づく支援を提供するための手続きであり、段階的なインクルージョンを可能にしている。アプレイズメントは、小学校段階での学習困難児に対する診断とカリキュラムの修正を目的とした支援プログラムである。Y2診断網は、教師が実践を共有し、児童観察の力量を高められるという利点がある一方、発達段階表の一部が州のカリキュラムにあわないことや、教師の時間がとられるという批判もある。学校では、校長の責任の下、これらアセスメントが機能するよう学習困難援助教師や巡回教師らが学級担任と協働して活用している。 キーワード:学校支援体制、学習困難援助教師、アサテインメント、アプレイズメント、連携 連載 発達保障論をめぐる理論的問題(6) 発達の最近接領域と発達保障論にかかわるいくつかの議論 中村隆一(大津市職員、やまびこ園) |