障害者問題研究 第35巻第3号(通巻131号) 絶版 |
2007年11月25日発行 ISBN978−4−88134−564−1 C3037 |
特集 障害者自立支援法と乳幼児療育の課題 特集にあたって 近藤直子 障害者自立支援法施行後における障害児福祉の課題 /中村尚子(立正大学) 要旨:障害者自立支援法と改正児童福祉法施行によって生じた、障害児福祉の問題点と次期法改正に向けた課題について論じた。2003年度(支援費制度開始)以降、じょじょに広がった障害児の生活支援の取り組みが報酬単価の引き下げと法内の位置づけの変更によって困難をもたらされている点、利用契約制度の導入は障害児福祉に対する公的責任の回避となっている点を問題点として指摘した。今後予定されている障害児施設再編については、明らかになった問題点がより深刻になることが予想される。児童福祉法全体の改正課題として十分な討論が必要であることを指摘した。 キーワード:障害者自立支援法、児童福祉法改正、障害児福祉、契約制度、障害児施設再編 発達支援の視点に立った障害乳幼児療育体系の検討 /近藤直子(日本福祉大学) 要旨:2009年の「障害者自立支援法」見直しに向けて、障害乳幼児の療育体系に関して、厚生労働省が検討を開始している状況を踏まえ、障害乳幼児と家族にとってどのような療育体系が求められるのかを検討し実践することは関係者にとって急務と言える。どのような療育体系が求められるのかを検討するに当たり、まずは、「障害者自立支援法」の策定過程において厚生労働省が示した論点及び、1995年の「発達支援センター」構想を検証し本格的な構想を提起した「宮田報告」に見られる論点を整理し検討した。その上で、障害乳幼児の発達を支援し、保護者のニーズに真に応えるとはどういうことかを検討し、年齢と障害、そして子どもの家族の必要性を踏まえた柔軟な療育体系のあり方について提起した。財源問題を中心に据えるのでなく、子どもたちの豊かな成長、発達を基軸に据えた障害乳幼児の療育体系とはどのようなものかを提起した。今後の関係者の検討を期待したい。 キーワード:療育体系、発達支援センター、保護者支援、障害受容、療育の総合性 障害乳幼児の療育を受ける権利と児童福祉法 /白石正久(大阪電気通信大学) 要旨:障害者自立支援法によって障害乳幼児の療育が利用契約制度になった経過は、児童福祉法から障害乳幼児の施策が自立支援法に移行するという法改定を根拠とする。このような改定がたやすく行われるのは、児童福祉法が児童福祉施策を規定する権利性と総合性をもった基本法としての性質を、すでに失っているからではないか。その要因は、児童福祉法総則第2条における「保護者とともに」をめぐる行政的解釈、またこの法を「要保護児童」に対する施策の実定法に限定してきた歴史的経過にある。それに対し、障害乳幼児の分野では、地方自治体の療育システムを前進させるためにも、十分な経費を国が負担するという義務的経費の制度化が重要であり、その前提として、希望するすべての障害乳幼児が療育を受ける権利を有するという意味での「療育の義務化」を達成していくことが求められよう。そして、障害乳幼児を含むすべての子どもの権利を明確かつ具体的に成文化し、立法、行財政の基本原則として確立していく総合的な「子どもの基本法」の制定を進める必要がある。 キーワード:障害者自立支援法、児童福祉法、利用契約制度、義務的経費、療育の義務化 地域に根ざした療育システムと地域療育等支援事業 /藤林清仁(名古屋経営短期大学) 要旨:障害児(者)地域療育等支援事業は1996年に都道府県が実施する事業として始まった。この事業は、担当する障害保健福祉圏域内の療育システムを整備するため、受託施設の専門性を用いて地域に出向き、療育の場を設置することによって、発達支援、家族支援、地域支援の実践を通して療育施設の必要性を認識してもらう取り組みを行っていた。また、連絡調整会議やサービス調整会議を通して、圏域内の課題を共有し関係機関との連携をつくってきた。コーディネーターはこれらの会議の開催や関係機関でつくる療育支援チームの組織化、研修の開催などを行い地域に働きかける中心となってきた。地域療育等支援事業は今後、障害者相談支援事業と障害児等療育事業に再編される。相談支援事業は実施主体が都道府県から市町村に移行されるため、これからの地域の療育システムを整備していく責任をどこが担っていくのかが、これからの課題である。 キーワード:障害児(者)地域療育等支援事業、地域療育システム、地域支援、町村部、連携 生活と訓練を統合的に保障する療育 /坂野幸江(全障研大阪支部) 要旨:肢体不自由児は早期から病院等にかかり、リハビリテーションも行われる。しかし、障害だけに目を向けるのではなく、障害をもった子どもとしてとらえ、生活全体の中で発達の力を育んでいく必要がある。最近の肢体不自由児は単に運動障害だけでなくいわゆる発達障害を併せもつ子が多い。より障害にあった療育の工夫が求められる。単なるリハビリテーションだけでなく、子どもの意欲を毎日の生活の中でどう引き出すかが課題となる。個々の障害に対して、障害そのものへのきちんとした評価を行うと同時に、その子どもの生活を豊かに保障すること、そのためにも集団の補償も大切である。もともと最低基準がない肢体不自由児通園施設の貧困化を防がなければならない。障害の重い子も地域で生活できるよう、医療が保障され、リハビリテーションもきちんと受けられる施設の充実が求められる。障害者自立支援法の下、特に成長の早い子どもにとって補装具の負担は大きい。車椅子1つにしても、障害に合わせた特殊な部品は全額自己負担となり大きな負担となる。 キーワード:肢体不自由児、リハビリテーション、医療、通園施設、子どもの意欲・生活 保護者の声/浅野美子(よかネット愛知) 施設・事業者からの報告 ◎児童デイサービス事業/加藤淳(全国発達支援通園事業連絡協議会) ◎知的障害通園施設/田村智佐枝(宮崎市総合発達支援センター)・脇本俊之(都北学園) ◎肢体不自由児通園施設/岸良至(全国肢体不自由児通園施設連絡会事務局) ◎難聴幼児通園施設/塩出順子(「ゼノ」こばと園) 発達保障論をめぐる理論的問題(第11回) 集団と発達保障(2)/加藤直樹(立命館大学名誉教授) 書評 田中昌人監修/「要求で育ちあう子ら」編集委員会編 『近江学園の実践記録 要求で育ち合う子ら 発達保障の芽生え』 評者・河合隆平(金沢大学) ■関連する書籍 障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会編『子どもの権利と障害者自立支援法』 ■障害者問題研究 バックナンバーへ |