障害者問題研究 第35巻第4号(通巻132号) 絶版 |
2008年2月25日発行 ISBN978−4−88134−584−9 C3037 |
特集 学習障害・読み書き障害(絶版) 特集にあたって/黒田吉孝(滋賀大学) 読み書き障害の概念、アセスメント、診断と教育的指導の理解 ―発達・教育的パースペクティブにおける理論的実践的可能性と課題/窪島 務(滋賀大学) 要旨:学習障害と読み書き障害の関係を、それぞれの定義から明らかにし、読み書き障害の認知的プロセス中心の現在の研究を概括した。読みの認知モデルとしての二重ルートカスケードモデルを取り上げ、その内容を述べた。主要な読み障害仮説である音韻意識(コア)障害仮説、視覚的認知障害仮説、自動化障害−小脳障害仮説を概説した。現在のディスレクシア研究が読みに傾斜し、書きの研究が弱いことを批判し、とりわけ日本語漢字書字障害の研究の重要さを強調した。また、現在の概念的問題が検討され再び「学習障害」概念が再興すべき根拠を示した。 キーワード:読み書き障害、ディスレクシア、二重ルートカスケードモデル、滋賀大キッズカレッジ 平仮名書字につまずきを示す子どもの書字特性の把握と学習支援 /大庭重治(上越教育大学) 要旨:小学校における一斉指導をうけても、平仮名の読み書きを十分に習得できない児童が存在している。このような子どもたちに対する学習支援においては、読み書きの状態を的確に把握し、その状態の背景にある認知特性を理解した上で、具体的な支援方法を選定していかなければならない。しかしながら、読み書き障害児に対する支援の歴史が浅いわが国においては、このような対応は極めて不十分な状況に留まっているといえる。そこで本稿では、平仮名の書字に焦点をあて、それに関連する従来の研究成果を概観し、合わせて今後の支援に向けた検討課題を整理した。特に、書字状態を把握する際の手がかりとなる書字遂行過程モデルの構築の必要性、子どもの認知特性を理解するための体系的な検査法の必要性、内発的動機づけに基づく書字支援の重要性などを指摘した。 キーワード:平仮名書字、学習障害、特性把握、学習支援、学齢児童 LD児における漢字の読み書き障害とその発達支援 ―認知心理学的アプローチに基づく検討 /後藤隆章(東京学芸大学大学院)・雲井未歓(鹿児島大学)・小池敏英(東京学芸大学) 要旨:日本語では、かな文字と漢字を併用しているため、LD児に見られる読み書き障害は複雑な様相を示す。本論文では、漢字の読み書き障害の様相について、近年の知見を中心に整理し、あわせて漢字書字の支援について論じた。書き困難を示すLD児では、読み書きの困難を併せもつ者と書き困難のみをもつ者が見られ、誤字のタイプの特徴が異なる。読み書きの困難を併せもつ者では、「数唱」課題の評価点が低く、聴覚記憶に弱さを示す傾向が見られることを指摘した。漢字のねじれ回転図形の完成課題の結果、漢字書字の前半部の画要素の位置情報を視覚的に呈示することで書字反応時間が短くなることが示された。聴覚記憶に弱さを示すLD児では、言語的てがかりが難しいので、画要素の位置情報を手がかりとする指導を行った。その結果、書字習得が効果的で、拒否的反応が少なく有効な支援であることを指摘した。 キーワード:読み書き障害、聴覚的記憶、書字支援 LDと発達の関連を問う前提,および若干の課題について /茂木俊彦(桜美林大学) 要旨:子どもにLDという障害が伴う場合、その精神発達はどのような影響を受けるのか。この問題の検討のためには、LDの定義、診断基準に関する吟味が不可欠である。本稿では文部科学省の定義とDSM-Wの定義を比較しつつ、後者を取り上げ、特にディスレキシアの特質と能力および人格の発達について考察した。能力の発達については、スモールステップで読み書き算数の学力形成をはかるのを基本とするが、その際ディスレキシア児の有能な部分に依拠し、それをさらに強化する方略が有効であろうと述べた。また人格発達面では、親と子のLDに伴う厳しい経験に由来する感情に共感を寄せつつ、発達段階による違いを明らかにすることが大事だと強調した。 キーワード:DSM-W、ディスレキシア、音素、セルフ・コンセプト、脳科学 実践報告 通級指導教室での読み書き障害への支援/山路公美子(紀の川市・田中小学校) ADHDと読み書き障害が併存する児童へのひらがな、漢字書字指導の実践 /大山久美子(滋賀大キッズカレッジ) 海外動向 読み書き障害と学習障害の教育的把握と支援方策 ―国際的比較研究の動向にふれて/片岡美華(鹿児島大学) 要旨:OECDの調査結果によると、23ヵ国中、ほとんどの国で読み書き障害を一つの障害カテゴリーととらえて支援の対象としていた。支援を提供している場は各国によってばらつきがあり、ベルギーやフランスでは特別学校を中心に、カナダやスペインでは通常学級を中心に支援が行われていた。読み書き障害に関する用語の使われ方と定義は国により異なる。イギリスではディスレキシアが、アメリカでは学習障害が、オーストラリアでは学習困難が日常的に用いられている。スカンジナビア半島では読み障害など厳密に区分された語が用いられている。教育制度においては、イギリスでは特別なニーズ教育のもと支援が提供され、ディスレキシアフレンドリースクールが提唱されている。アメリカではIDEAに基づき、無償の適切な教育が提供され個別教育計画に従って支援が行われている。オーストラリアでは「3つの波」モデルによって、予防的観点、早期介入、そして継続的支援が提供されている。 キーワード:読み書き障害、学習障害、学習困難、OECD調査、国際比較、教育的支援制度 発達保障論をめぐる理論的問題 第12回 集団と発達保障(3) 加藤直樹(人間発達研究所所長) 医療トピック 股関節固定者の二次障害と人工股関節全置換術/二木康之(佛教大学) 要旨:股関節固定者における二次障害と人工股関節全置換術の予後について考察した。股関節固定によって下肢の支持性は確保されるが、隣接諸関節に過剰なストレスが加わるために、時間の経過とともに腰痛症、膝関節症、反対側の股関節症を発症するにいたる。これらの症状はしだいに悪化の一途をたどり、社会活動の制限や生活の質の低下を招く。固定をはずして人工股関節へ転換した場合、筋力回復には長時間を要するが、予後は全体として良好である。人工股関節への転換術は股関節固定者における隣接関節症状緩和のための最も合理的な対処法である。 キーワード:股関節固定者、二次障害、腰痛、人工股関節全置換術、長期予後 書評 サリー・シェイウイッツ著 『読み書き障害(ディスレクシア)のすべて』/黒田吉孝(滋賀大学) 小川政亮著 小川政亮著作集編集委員会編『小川政亮著作集』/山本忠(立命館大学) 35巻総目次 ■障害者問題研究 バックナンバーへ |
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