障害者問題研究 第36巻第4号(通巻136号) |
2009年2月25日発行 ISBN978−4−88134−714−0 C3036 絶版 |
特集 高校における特別支援教育の展望(絶版) 特集 特集にあたって(PDF)/越野和之(奈良教育大学) 高校特別支援教育の動向と課題 ―発達障害生徒の高校教育保障を中心に /橋 智(東京学芸大学)・田部絢子(成女学園中学校・成女高校、東京学芸大学大学院) 要旨:現在,小・中学校だけでなく高校においても特別支援教育のシステムを構築し,発達障害を有する生徒の多様な困難・ニーズに対する支援の具体化が早急の課題となっている.高校特別支援教育に関する教育委員会の対応は,法令の整備・財政上の問題はありつつも,全体に文部科学省からの指示待ち・方針待ちといった状況であり,独自の施策・取り組みの実施はきわめて少数である.今後,国・文部科学省レベルでの実態の詳細な把握と課題の検討,法令整備やガイドライン等の策定と予算措置が必要であり,都道府県・政令指定都市教育委員会では,高校特別支援教育に関する組織横断的な検討,施策の具体化が求められている. キーワード:高等学校,特別支援教育,発達障害 中学校調査からみた発達障害生徒の高校進学の困難・ニーズ /内野智之(神奈川県立相模原養護学校橋本分教室,東京学芸大学大学院博士課程) 要旨:発達障害生徒の中学校と高校の接続の実態と課題について検討するために,「発達障害生徒の高校進学に関する調査」を行い(調査期間:2008年9月〜11月,中学校の特別支援学級担任・通級指導学級担任,特別支援教育コーディネーター・進路指導担当,を対象に特別支援学級および通級指導学級を設置する東京都内218の中学校に郵送し,特別支援学級・通級指導学級担任65人(無効1),特別支援教育コーディネーター・進路指導担当39人(無効1),合わせて102人から有効回答),発達障害生徒の中学校と高校との接続の実態と課題を検討した.中学校側は高校等の受け入れ例や支援体制に関する情報を求めていたが,「個別の教育支援計画」が中学校から進学先の学校へほとんど引き継がれていなかった.現状では「個別の指導計画」「個別の教育支援計画」の作成が不十分であり,中学校から高校への移行支援がスムーズにいっていないことが明らかになった. キーワード:発達障害,中学校,高校進学,進路指導,個別の教育支援計画 高校職業学科と「発達障害」青年の職業教育,移行支援 /依田十久子(千葉工業大学) 要旨:現在日本において若者の非正規雇用が増大しており,社会的不利な条件を持つ「発達障害」青年にとって一層雇用環境は厳しい.「発達障害」青年が将来人間らしい仕事に就いていくためには,自分の困難さを自覚・受容・理解し,自信を持って前向きに取り組む姿勢が大切となる.彼らが自信を確立する上で,職業学科における職業教育は大きな意義を持つ.職業学科における職業教育が「できる自分」を発見させる可能性を持ち,同時に社会で求められる基礎的な力を育む教育的効果があると考える.また,職業教育を受けることにより,専門的能力が身につき,就職し自立していく可能性が広がると考える.国際的に見ても,職業学科は学校教育における職業教育を担う重要な教育機関であり,社会的に不利な条件を持つ「発達障害」青年にとってより一層必要とされる教育機関である. キーワード:高校職業学科,「発達障害」青年,職業教育,自信 青年の発達・社会参加を保障する高校教育のあり方 /太田政男(大東文化大学文学部) 要旨:1970年代以降,学校運営への生徒参加は欧米を中心に国際的な潮流となっている.国連「子どもの権利条約」によって意見表明権をはじめ「参加」は権利として宣言された.日本では,80年代半ば以降,教育政策のなかで「開かれた学校」への転換が提唱され,学校評議員制度も創設された.これに対する対抗的実践として「参加と共同の学校づくり」が提起され,学校運営への子ども・青年の参加が急速に進展した.青年にとって「参加」は権利であると同時に,発達の機会・場でもある.現代の青年は,他者と世界を拒否し,自らの世界にひきこもる傾向がある.そのために自尊感情の獲得が困難になっており,自己愛が肥大化しがちである.参加のなかで仲間との共同,異世代との出会い,環境への主体的な働きかけの経験によって,他者とのかかわり,世界との回路を開いていく. キーワード:参加,発達,高校教育,自尊感情,開かれた学校づくり 実践報告 定時制専門高校における特別支援教育の実践/菊地信二(北海道幕別高等学校) 京都府北部の昼間定時制高校の取り組みから/谷口藤雄(京都・福知山高校三和分室) 私立高校における特別支援教育の実践/谷口優美・上好功・至田精一(特別支援教育ネットワークがじゅまる) 中学校通級指導教室における発達障害生徒の高校進学の実践 /相川賢樹(埼玉・春日部市立武里中学校通級指導教室) 発達障害をもつ立場から高校生活をふりかえる 定時制高校に通って/飯塚啓太・飯塚直子(茨城) 社会人になった今,高校生活を思う/ミナミアイコ 「行ける高校」さがしから「行きたい高校」さがしへ―リュウのすごした見晴台学園高等部の学園生活 /大竹みちよ・永吉輝美(愛知・見晴台学園)身柄粗大 資 料 障害のある子どもの放課後・休日支援の現状と課題 ―保護者対象全国調査より/丸山啓史(京都教育大学) 要旨:障害のある子どもの放課後・休日支援の実態を明らかにすること, 子どもと家族にとって必要な放課後・休日支援の内容を明らかにすることを目的として, 保護者を対象とする全国的な質問紙調査を実施した. この調査により, 様々な種類の放課後・休日支援の活用が進みつつあること, そのなかで子どもの生活と発達に積極的な変化が生まれていることが確認された. しかし, 放課後・休日支援が未だ量的に不足していること, 保護者にとって送迎の負担や経済的な負担が大きいことなどが課題として示された. そのような実態のなかで, 毎日のように通え, 活動拠点と職員を備え, 子ども集団が存在するものとして,「障害児のための学童保育・放課後活動」の充実が保護者に強く望まれている. 一方,国の政策的な動きをみると,「放課後型のデイサービス」の実施が提言されている. 活動内容・実践の探究を進めながら国の制度を確立させていくことが課題だといえる. ■障害者問題研究 バックナンバーへ |