障害者問題研究  第37巻第1号 (通巻137号)  絶版
2009年5月25日発行  ISBN978−4−88134−734−8 C3036  
特集 発達障害と家族支援(絶版)

特集

特集にあたって/荒木穂積
(立命館大学)

発達障害の子どもの育ちと家族支援/定本ゆきこ(京都少年鑑別所・精神科医)
 要旨:子どもに発達障害があり,特にそれが気付かれないタイプである場合,親子関係の形成やそのあり方に歪みを生じさせることがある.発達障害のあるなしに関わらず,すべての子どもはまわりとの関係における相互的,循環的営みの中で発達していく.そこに,望ましい循環(正のループ)と望ましくない循環(負のループ)があると思われる.神経症症状や行動化の発現においても,子どもを巡る周囲との関係における日々の循環の様相を把握し,子どもの資質的特徴を正しく理解することで家族全体を支援し,改善を図ることが必要である.また,親側の理解の程度や親としての成長も相互的,循環的な経過をたどる.家族支援においては,子と親双方を巡る循環と,それを変えていくことでの変容の可能性を念頭に置き,全体を見通す視点と粘り強い働きかけをしていくことが求められる.
キーワード:発達障害,発達課題,親子の相互作用,正のループ,負のループ,家族支援

発達障害児の特別なニーズと家族支援/楠 凡之(北九州市立大学)
 要旨:広汎性発達障害の子どもは感覚の過敏さ,全体知覚の困難さ,「心の理論」の獲得の困難などによって,学校生活を送る上で様々な困難を感じている.また,発達障害の子どもをもつ保護者も,子どもとの愛着関係の築きにくさや子どもが起こすトラブルなどによって,心身ともに疲弊する状況をしばしば体験している.それと同時に,保護者の中にも発達障害をもつ人もおり,そのことによって子どものニーズに応答した子育てが困難になる場合も存在している.家族支援の際には,保護者の苦悩や葛藤をまずは共感的に理解していくこと,子どもの肯定的な部分を伝えたり,具体的な関わり方を示していくことによって子育てへの見通しをもてるように援助していくことが重要である.ただし,発達障害をもつ保護者の中には熱心に子育てしているにもかかわらず,かえって子どもの発達を阻害する関わりになっている場合もあり,時には保護者との分離と代替的家族的ケアが必要な場合も存在している.いずれにしても,保護者が他者との“つながり”を支えにして子育てへの見通しと希望を育んでいけるように援助していくことが大きな課題である.
キーワード:特別なニーズ,発達障害,保護者自身の発達障害,学校と家庭の連携,家族支援

発達障害と社会的ひきこもり/近藤直司(山梨県立精神保健福祉センター,山梨県中央児童相談所)・小林真理子(山梨県発達障害者支援センター)・宮沢久江(山梨県立精神保健福祉センター)・宇留賀正二(山梨県発達障害者支援センター)・小宮山さとみ(山梨県発達障害者支援センター)・中嶋真人(山梨県富士ふれあいセンター)・中嶋 彩(日本臨床心理研究所)・岩崎弘子(山梨県中央児童相談所)・境 泉洋(徳島大学総合科学部人間社会学科)・今村 亨(山梨県立精神保健福祉センター)・萩原和子(山梨県立精神保健福祉センター)
 要旨:近年,青年期におけるひきこもりケースの中に発達障害を背景とするものが少なくないことが明らかになってきており,個々の発達特性や精神・心理状態を踏まえた支援のあり方が問われている.また,ひきこもりに至る以前の予防的な早期支援のあり方を検討することも重要な課題である.本稿では,まず,ひきこもり問題に占める発達障害の割合や,ひきこもり状態にある広汎性発達障害ケースの特徴について述べ,ひきこもりの発現を未然に防ぐことを目的とした予防的早期支援と不登校・ひきこもりケースへの支援における家族支援の要点について検討する.
キーワード:社会的ひきこもり,広汎性発達障害,予防,早期介入,家族支援

発達障害のある子ども虐待事例の家族援助
 ―子ども虐待の親に対する心理教育的介入について/渡辺 隆
(福島大学大学院) 
 要旨:発達障害のある子ども虐待3事例(注意欠陥/多動性障害2例, 高機能広汎性発達障害1例)の親に対する心理教育的介入が行われた.この介入では子どもの問題行動の原因についての親の認識を変えること(問題の原因が子どもの気質や性格ではなく障害特性に起因した行動であること)に焦点を当てた.親が子どもの障害の特性について理解することにより親子関係は改善され,3事例とも虐待という問題はきわめて短期間で解消された.これらから以下の結論が得られた.親は子どもの障害について適切に理解しておらず,子どもを否定的に認知して問題を悪化させていた.発達障害のある子どもに対する虐待の事例では,子どもの問題行動を深刻化させている障害の特性を親に理解させるという介入が重要なポイントとなる.子どもの問題行動についての親の認知を変更させるという心理教育的アプローチは悪化した親子関係を改善させる.危機的状況でのこのような心理教育的介入は,親の虐待を改善させるための効果的な手法となり得る.
キーワード:子ども虐待,心理教育的介入,注意欠陥/多動性障害,高機能広汎性発達障害,家族支援

発達障害と少年非行/藤川洋子(京都ノートルダム女子大学)
 要旨:犯罪や非行という道徳的にあるまじき行為と,ある特定の障害との関係を論じるには慎重であるべきことはいうまでもない.しかしながら,近年,若者による重大犯罪について発達障害が鑑定あるいは鑑別されることが続いている.家庭裁判所調査官として多数の実例を扱ってきた立場から,発達障害,特に広汎性発達障害と非行の関係を論じる.犯罪における生得的要因を論じることは,差別や偏見を助長するものとして危険視されるが,近年の脳科学は矯正教育あるいは道徳教育との関係で,前向きにそれを明らかにしようとしている.その意義を踏まえて,筆者らが家庭裁判所において行った調査では,広汎性発達障害,注意欠陥多動性障害ともに一般の出現率をやや上回り,非行動因を対人接近型,実験型,パニック型,清算型,本来型と分類することができた.犯罪内容は,性犯罪,暴力犯罪,放火の率が高く,処遇においても再犯予防の面でも,障害特性に留意することが重要であると考える.
キーワード:司法領域,広汎性発達障害,非行,動因,出現率(疫学)

通常学級で学ぶ発達障害児の保護者からみた子どもの行動と特別の配慮/奥住秀之(東京学芸大学) 
 要旨:本稿では,ある地域の発達障害児の親の会に所属する保護者を対象にして,小学校の通常学級における子どもの行動と,学校・担任教師の配慮・対応の実態を把握したのち,学級における特別の配慮について検討した.調査は親の会に所属する15名を対象に,半構造化面接法で行った.子どもの行動については,友だちとの関係づくりに関する項目,生活・学習に関する項目,学外活動や通級指導教室の活用に関する項目に,配慮・対応については肯定的な配慮・対応に関する項目と否定的な配慮・対応に関する項目に分類された.聞き取り調査の結果を受けて,学級で行う特別の配慮として,子どもをつかむこと,わかりやすくすること,自己肯定感を高めること,できるところまでの手立てを講じること,子どもの視点で見ること,共同する学級集団をつくること,保護者に共感すること,の7つをまとめた.さらに,学級での配慮だけでは難しい根本的な制度の問題も論じた.
キーワード:発達障害児,保護者,小学校通常学級,特別支援教育,配慮・対応

【実践報告】
“子ども・若もの支援ネットワークおおさか”における発達障害児・者への支援
/青木道忠(大阪障害者センター) 

「家族を支援する」とは,何を支援するのか
  ―地域子育て支援機関における支援の実際/小渕隆司
(千葉県鎌ヶ谷市子育て総合相談室)

チーム医療による発達障害をもつ本人とその家族への関わり
   ―学校,児童相談所,警察,司法との連携/大平麻幸代・冨山貴子・山本奈々絵
(医療法人聖心会・清水クリニック) 

【動  向】
日本におけるスクールソーシャルワーカーの動向/鈴木庸裕(福島大学大学院人間発達文化研究科)

第36巻総目次

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