障害者問題研究 第39巻第4号 (通巻148号) |
2012年2月25日発行 ISBN978-4-88134-025-7 C3036 絶版 |
特集 暮らしの基盤と地域福祉 特集にあたって 日々の暮らしにおける権利保障 峰島 厚(立命館大学) 論文 社会保障制度改革の動向と本質/田中きよむ(高知県立大学) 要旨:本稿では,年金,医療,介護,保育,障害,生活保護の各分野に則して,近年の社会保障制度改革がどのような内容と特徴をもっておこなわれてきたのかを明らかにしたうえで,現在の「社会保障・税の一体改革」がどのような方向をめざそうとしているのかについて明らかにする.近年の社会保障制度改革は,政権与党の変化に関係なく,自己負担の増大と社会的給付の抑制による生活困難を増幅させる本質をもっている.社会の責任で生活不安を解消するはずの社会保障が,その制度改革を通じて,生活困難を生み出し,生活不安を増幅させるというパラドックスに陥ってきた.しかし,障害者福祉分野に見られるように,生活実態に根ざした民主的な政策要求と政策的合意形成を生み出す主体的力量によっては,公共責任に基づく社会保障制度の再構築の可能性があることを示す. 親から自立した安心・豊かな暮らし −居住の場への提言/井上泰司(大阪障害者センター) 要旨:「障害者権利条約」が発効し,日本でもその批准に向けて様々な議論が展開されている.権利条約では「インクルーシブな社会」の実現という大きなテーマの中で,「全て障害者は,どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され,地域社会において他の人々と共生することを妨げられないことを」提起している.それを実現する意味では,障害者の暮らしの場の在り方や,その暮らしの質の保障は欠かせない課題となっている.現在,国は,「施設から地域へ」を政策の柱に据え,諸施策を展開しようとしている.こうした状況の中で,改めて「障害者の暮らし」「障害者のための暮らしの場の諸制度」の実態や課題を整理し,本来求められる「施策」の在り方を提起した. 障害者自立支援法による資源整備の変容と新法の課題 −就労、日中活動支援を中心に /小野 浩(きょうされん) 要旨:かつて多額の資産要件と予算統制のもとで資源整備は抑制された結果,全国に無認可小規模作業所が増大した.2006年施行の障害者自立支援法によって,資源整備のハードルは大幅に下がり,小規模作業所にも法定事業への移行の可能性は拡大した.しかし自立支援法は,事業種別ごとの対象規定や利用期限,公費の格差などで事業選択に制約を設けた.また障害程度区分によって利用資源の種別や量の抑制の仕組みをつくった.さらに自治体の障害福祉計画の見込量の策定を整備の上限とした.自立支援法の廃止に伴う新法の制定は,こうした制約と抑制の仕組みを廃止するところに本質問題の一つがある. 障害者差別禁止法をめぐる政策課題/塩見洋介(障害者(児)を守る全大阪連絡協議会) 要旨:障がい者制度改革推進会議差別禁止部会は,国連障害者権利条約の批准をめざし,2013年度を目途に障害者差別禁止法を国会に提出するための準備を進めている.障害者差別禁止法が障害者の権利回復に資するためには,最大の障害者差別ともいえる,障害者・家族への各種社会制度の未整備・放置に対して,適切な改善措置を求め得るものとする必要がある.また「私人」の中でも「社会的権力」と呼ばれて圧倒的な力を誇る巨大資本等が形成されているが,これら社会的権力が公権力とともに障害者を排除しないことを求めるため,障害者差別禁止法が有効に機能できることも重要な視点である.一方で,個人の内心における差別や偏見は教育的対応によって克服していく視点が重要であり,そのことを通してはじめて,障害者と非障害者が障害者を排除しない差別なき社会の実現にむけて共同することが可能となる.そのためにも,障害や障害者に関わる社会科学・自然科学の拡充・発展が求められており,発達保障研究等の責務は大きいものがある. 障害者の消費生活の自由と保護/M畑芳和(立正大学) 要旨:近年障害者観は「保護の客体」から「自律した主体」へ,さらに障害者であろうと「独立した権利主体」であることを承認するものへと変化してきた.これに伴い,障害者をめぐる消費生活にかかわる権利状況も変化している.本論では民事法,消費者法,成年後見法制,日常生活自立支援事業をそれぞれ概観し,障害者権利条約の求める権利主体性の承認と合理的配慮という枠組みでの支援のあり方を検討する.現行法の下では,本人の意向を尊重しつつ,成年後見制度や消費者法制の適用により必要な保護を行うことができるが,今後は,本人の権利主体性を中心に据え,意思形成支援を行うことが必要である. 個人として尊重されるその人らしい地域での生活/木全和巳(日本福祉大学) 要旨:「個人として尊重されるその人らしい地域での生活」は,障害者権利条約,障害者基本法にあるように,誰もが否定できない理念と価値としての普遍性を確認することができる.こうした理念と価値から照らして実態をみてみると,敗戦後各地域において地域社会における生活づくりの実践がおこなわれ,施策にも一定反映されて進められてきた反面,こうした施策は,隔離政策を温存したまま公的責任を伴わない施策として進められてきたこともあり,各地域社会に十分に根付いていない.市場原理を取り入れた施策が実施されることにより,地域間および地域内の格差が拡大され,安心して豊かに生活できる状況にはなっていない.震災を契機に,改めて地域再生の必要性と課題が浮き彫りになった.公的責任と公共性の在り方を問いつつ「ソーシャル・キャピタル」の内実である「信頼」「つながり」「相互規範」を重視したソーシャルワーク実践が求められる. 日本における生存権保障と公的責任/石倉康次(立命館大学) 要旨:朝日訴訟一審の浅沼判決で確認された,生存権保障原則は革新自治体で実現がめざされるが,最高裁では国の財政事情に基づく広範な裁量権をみとめ,生存権保障の公的責任をあいまいにした.介護保険制度では社会連帯と自己責任理念に基づいて公的責任を解除する仕組みがつくられ,障害者自立支援法にも援用された.しかし,障害者自立支援法違憲訴訟は,この問題を鋭く衝いて,民主党政権と和解合意に持ち込み,公的責任の確立を求めた.グローバル経済の下では,生存権保障の確立は,国際的なルールの確立と連動させて国の責任を追及する必要がある.この観点からすれば総合福祉法の制定は,障害者の権利条約に基づく国内法の整備という性格を持たせることが重要である. 実践報告 障害者自立支援法と自治体の住民福祉行政/二見清一(足立区中部福祉事務所) 川崎市のネットワーク「豊かな地域療育を考える会」のとりくみ /新井靖子(豊かな地域療育を考える連絡会代表/特定非営利活動法人わになろう会理事長) 小特集 東日本大震災 子ども・障害者と東日本大震災/清水貞夫(全国障害者問題研究会宮城支部) 原爆と原発 −「フクシマ」が我々に突きつけたもの /中澤正夫(代々木病院精神科医師・被曝者中央相談所) 障害のある人と関連施設の被災状況及びきょうされんの災害支援活動に関する中間報告 /北村典幸(きょうされん) 資 料 就労「障害」の表記に関する意見の内容と理由 −2010年内閣府の意見募集結果から /佐藤久夫/杉本泰平/越智あゆみ/豊田徳治郎/筒井澄栄 障害者問題研究2011年度(第39巻)総目次 ■障害者問題研究 バックナンバーへ ◆本号のチラシ(PDF) |
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