障害者問題研究 第40巻第1号 (通巻149号) |
2012年5月25日発行 ISBN978-4-88134-035-6 C3037 定価 本体2,500円+税 |
特集 身体・運動の発達と障害 特集にあたって 身体・運動の問題は全ての障害に通底する 奥住秀之(東京学芸大学) 論文 運動の発達と障害 ――認知発達への関与の観点から/仲山佳秀(立正大学社会福祉学部) 要旨:本論文の目的は,運動の発達と障害を,それらの認知に対する関与の観点から検討することである.関連する理論とデータの検討によって示唆されることは,次の通りである.運動は視空間認知の発達に深く関与する.なぜなら,視空間認知が運動的要素を包含して成立するからである.運動的要素は実際の運動を内的に表す仮想的運動であり,仮想的運動は包含される視空間認知の発達レベルに応じて,2つのレベルを区別し得る.その低次なものは非意識的,拘束的,その高次なものは意識的,可動的である.仮想的運動の発達は運動の発達と障害に規定され,また,とりわけ高次なものの意識性,可動性は社会的協働またはそれを実現する言語の作用に規定される. 知的障害者の運動機能の制約とその支援/奥住秀之(東京学芸大学) 要旨:本稿では,知的障害者の運動機能の制約の背景にある3つのトピックと支援の原則を考察した.第1に,運動行為には運動機能そのものともいうべき生理的水準と,教示に従った行為遂行に関与する言語の行動調整機能という心理的要因が関係しており,「外界(環境)を変えて行為の意味を伝える」という支援原則を導いた.第2に,ダウン症者の運動の低成績や動作緩慢は,運動機能の障害とともに速さよりも正確性,強さよりも安全性を重視する心理特性も関連しており,正確性や安全性まで含めた多面的・多角的な評価の観点を指摘し,文脈や道具を工夫する支援を考察した.第3に,制御の自動生の高い反復運動がフィードバック制御となる知的障害者が少なからずおり,フィードバックからフィードフォーワード運動へと転換させる支援などが示唆された. 重症心身障害児における姿勢・運動の諸問題 ――姿勢づくりの取り組み/細渕富夫(埼玉大学教育学部) 要旨:近年,重い運動障害を伴う超重症児が増加している.特別支援学校(肢体不自由)では,多くの教師が彼らの指導に不安を抱えており,学習の見通しが持てないまま前年度の指導を踏襲する傾向にある.このため,動きの乏しい重症児の「姿勢・運動」への取り組みは大きな課題となっている.重症児療育の初期から今日まで「姿勢・運動」への取り組みは,「健康増進」,「からだ」,「うんどう」といった名称のもとで,姿勢づくりの実践として勢力的に取り組まれてきた.重症児の「姿勢・運動」への取り組みは,外界の人やものへ向かう力をつけていくための基盤として位置づけられている.「姿勢・運動」は内面世界,情動,探索・操作と密接に関連している.姿勢づくりでは,抗重力姿勢の獲得とともに対人的情動交流が重要となる.今後の実践課題として,重い運動障害のある重症児では,@身体への気づきを促すこと,A動こうとする能動性を促すことを指摘した. DCD(発達性協調運動障害)における発達と障害/森栄美子(東京大学医学部附属病院心の発達診療) 要旨:発達性協調運動障害(developmental coordination disorder: DCD)の概念と定義について,医学的側面からDSM-IV-TRおよびICD-10の二つの国際的診断基準に基づいて整理し,さらにTouwenらのSoft Neurological Sign等に基づいた臨床における診断・評価手法を具体的に提示した.DCD児への治療的介入としては,国内で従来から主流であった感覚統合療法が代表するような,運動の基底となるプロセスでの欠陥に働きかけるアプローチに加えて,海外で広まりを見せている,DCD児が自ら課題を選択し動機付けさせることを重視するような課題指向型アプローチに二分される.DCD児の支援においては心理社会的側面からの理解と援助が重要であり,DCD児の発達と生活史を縦断的な視野で支援できる人材育成を含めた支援資源の充実が今後の課題である. 発達障害の身体問題(感覚情報調整処理・身体症状・身体運動)の諸相 /高橋智(東京学芸大学)・田部絢子(東京学芸大学大学院)・石川衣紀(白梅学園大学) 要旨:本稿では,発達障害の本人・当事者がどのような身体問題(感覚情報調整機能障害・身体症状・身体運動の困難)を抱えているのかを,当事者への質問紙法調査(感覚情報調整機能障害調査,身体症状調査,体育・スポーツの困難・ニーズ調査)を通して明らかにしてきた.その結果,例えばニキの「自閉症は身体障害である」,片岡の「(内分泌調節,自律神経調節などの)発達障害の身体障害性への援助はまさに発達障害者へのバリアフリーの問題」,さらに感覚情報調整機能障害などの身体感覚の問題に関して,綾屋の「身体内外からの情報を絞り込み,意味や行動にまとめあげるのがゆっくりな状態.また一度できた意味や行動のまとめあげパターンも容易にほどけやすい」という言説は,本調査の結果とも一致する点が多く,傾聴に値する提言であることが判明した.引き続き,身体障害性・身体感覚等の身体問題の視点から,発達障害の本人・当事者が抱える各種の困難・ニーズの検討が求められている. 動向 文化としての障害者スポーツ/藤田紀昭(同志社大学スポーツ健康科学部) 42 実践報告 乳幼児の療育における「運動あそび」のとりくみ ――さまざまな発達の子どもの集団活動/吉田文子(東久留米市わかくさ学園) 肢体不自由特別支援学校における「体育〜うんどう〜」 ――どんなに障害が重くとも働く喜びを感じる授業をめざして/竹脇真悟(埼玉・宮代特別支援学校小学部) 視覚障害特別支援学校の歩行指導 ――単一障害の盲幼児・児童・生徒を中心に/正井隆晶(奈良県立盲学校) 小特集 障害者福祉制度改革をめぐって 「骨格提言」と障害者総合支援法案 障害者福祉改革の動向 /佐藤久夫(日本社会事業大学、障がい者制度改革推進会議総合福祉部会部会長) 手記/基本合意を胸に推進会議傍聴を続けて/新井たかね(障害者自立支援法違憲訴訟・原告補佐人) ■障害者問題研究 バックナンバーへ ◆本号のチラシ(PDF) |
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