障害者問題研究 第40巻第3号(通巻151号) |
2012年11月25日発行 ISBN978-4-88134-105-6 C3036 定価 本体2,500円+税 |
特集 障害児のきょうだいへの支援と発達保障 特集にあたって 障害児のきょうだいの発達保障に向けて 山中冴子(埼玉大学) 論文 障害児のきょうだい問題とその支援――問題顕在化の背景および研究,文学作品,支援システムにみる歩み 広川律子(大阪千代田短期大学幼児教育科) 要旨:本稿では,障害児のきょうだい問題が着目されるようになった背景を社会構造の変化,障害者医療・福祉制度の発展との関係で論じ,次に当事者による活動の歩みや手記などをとおして当事者の意識の変化について述べる.加えて療育施設での支援の現状についても触れ,今後の支援の方向性を探ることとする. 障害児者のきょうだいの生涯発達とその支援 戸田竜也(北海道教育大学釧路校 学校教育学講座) 要旨:障害児者のきょうだいの生涯発達を支援する視点から,きょうだいの発達と内面理解に基づいた支援プログラムの可能性について述べた.きょうだいは,障害児者家族において多様な「役割」を与えられるが,それが状況によっては過大な負担となり,きょうだいの主体的な要求や感情の表出を抑制する方向にはたらく.また,役割を遂行することを通して認知と行動のパターンが内面化される場合があり,これらはきょうだいの発達保障においての課題となる.きょうだい支援は,ライフサイクルと発達段階における心理的特徴を踏まえて取り組まれる必要があり,支援プログラムは将来・過去の時間軸を視野に入れ,きょうだいの心理的拠点の創造を目指して取り組まれるものである. 障害児者のきょうだいの心理的体験と支援 田倉さやか(日本福祉大学社会福祉学部) 要旨:障害のある同胞をもつきょうだいの心理的体験や支援について,日本で行われた研究を概観し,その特徴を整理するとともに支援のあり方について考察した.同胞がきょうだいに与える影響は正負あり,きょうだいの発達時期によって思いも変化し,人生の節目で同胞の存在が大きく関わり,強い葛藤や両価的な感情を抱くこともあることを特徴として挙げられた.また,きょうだいへの支援には発達段階に応じたアプローチが必要であり,きょうだいが互いの思いを尊重しながら自由に語り合う心理社会的な支援と,同胞の障害を理解し具体的な対処を知る心理教育的な支援を行うことが重要である.さらに支援者がきょうだいの問題に対する理解を深め,親を通した間接的な支援を充実させることが必要である きょうだいの立場から照射する障害者のいる家族の生活問題 田中智子(佛教大学社会福祉学部) 要旨:障害児者のきょうだいに生じる生活問題や心理的不安を,その家族全体に生じる生活問題という点から考察を行なった.きょうだいに生じる問題は,これまで先行研究において焦点化されることはあまりなかったが,今日,きょうだいに生じている様々な困難を鑑みると社会的解決を必要とする生活問題を抱える「当事者」として捉え,その実情を把握していくことが重要である.具体的にきょうだいに生じる困難としては,誕生にかかわる親の葛藤や,ライフサイクルの進行に応じて様々に経験される社会的不利,親からのケア役割の継承に関わる問題があり,その中でアイデンティティ形成において課題を抱えることが先行研究のレビューを通して明らかにした.それらは家族全体が抱える生活問題とは不可分なものであり,きょうだいに生じる問題は,母親のケアの専従化,家族の貧困,家族内部へのケアの囲い込みによって生じることを考察した.その上で,きょうだいを含む家族支援の視点について提示した. 日本のきょうだいの支援を考える――ドイツ・日本のきょうだいの個別事例の比較を通して 三原博光(県立広島大学) 要旨:本研究の目的は,ドイツと日本のきょうだいの個別事例の比較研究を通して,わが国のきょうだいの支援を検討することにある.ドイツのきょうだいは,障害者自身にも独自の生活があり,障害者の存在によって自分の欲求を抑えるとは考えておらず,障害者が入所施設で生活することには否定的ではなかった.日本のきょうだいは,親が障害者の世話に時間を取られ,子どもの頃,孤独な時間を過ごしていた.きょうだいは,障害者が入所施設で生活するには否定的であり,親亡き後の障害者の世話を考えていた.日独のきょうだいは,障害者の影響から医療福祉関係の職種を選ぶ傾向にあった.日本のきょうだいは,ドイツのきょうだいに比較して,障害者のことで自分の欲求を抑え,親亡き後の障害者の世話をする傾向にあった.そこで日本のきょうだいが自分の欲求を抑えずに自由に生活ができるような福祉サービスの提供が必要とされる. 報 告 "きょうだい"の声と全国きょうだいの会の取り組み 田部井恒雄(全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会 会長) 児童発達支援事業におけるきょうだい支援 豊留かく子(社会福祉法人光生会 都城子ども療育センターひかり園) 障がい児・者をきょうだいにもつ若者たちの意識――「きょうだいフォーラム」を通して見えてくるもの 土岐邦彦(岐阜大学地域教育学部)・「ひまわり」(障がい児・者の自立と共生をサポートする会「ひまわり」) 障害児のいる家族――自閉症児のきょうだいである娘のこと 高阪正枝(滋賀県在住) 大学での「きょうだい」の交流を通して 中尾愛美(滋賀県立新旭養護学校)・白石正久(龍谷大学社会学部) 実践報告 ダウン症者の青年期「退行」の検討と知的障害者生活施設における支援のあり方 小ア大陽 1)・坂本彩 2)・村上貞治 1)・黒田吉孝 3)・白石恵理子 3) (1)社会福祉法人しが夢翔会知的障害者の生活施設ガル 2)社会福祉法人しが夢翔会けあ処ガル 3)滋賀大学教育学部) ■障害者問題研究 バックナンバーへ 「きょうだい」も自由と尊厳を守られ 豊かな発達を遂げるべき存在 編集委員長・本特集担当編集委員 白石正久(龍谷大学) 糸賀一雄のことばに借りて、障害児の「きょうだい」である「この子らも世の光に」なることを願って、この特集を編集しました。全障研は、発達保障という理念のもとに、障害のある人々のみならず、すべての人々の自己実現と基本的人権の保障を願う研究を続けています。その立場から「きょうだい」も自由と尊厳を守られ、豊かな発達を遂げるべき存在であることを、広く国民のなかに伝えていきたいと願っています。 障害のある子どもは、人間としての発達要求をもって発達しゆく存在であり、その過程において障害による制約への特別のケアを要求すべき権利の主体です。同じように、その「きょうだい」も、一個の人生を自分らしく創造することを願っているのであり、そのことへの障壁は、本人にも、関わるべき大人にも、そして社会にも認識され、力を合わせて取り除かなければなりません。 この「きょうだい」にとっての障壁を、家族などの関係単位のなかに生じた機能不全との因果関係に偏って論じることは、「きょうだい」と親・家族に、子どもの自己形成の舞台となる諸関係を狭くとらえさせ、辛く苦しい心理的体験の根本にあった人間的価値を大切にしない社会の問題を、見失わせることになるでしょう。 かけがえのない経験によって社会とつながることができ、その経験を必要としている諸関係や労働があることを、「きょうだい」たちに事実をもって伝えていかなければならないと思います。本特集は、障害のある子どもを通して、その「きょうだい」ともつながるすべての人に、大切なことを伝えてくれることでしょう。 |
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