障害者問題研究 第41巻第1号(通巻153号) |
2013年5月25日発行 ISBN978-4-88134-165-0 C3036 絶版 |
特集 知的障害のある人の高齢期における発達保障(絶版) 特集にあたって 人間の尊厳にふさわしい「老い」を支えるために /田中良三(あいち発達障がい研究所・本誌編集委員) 知的障害者の加齢と権利保障の課題 ―「知的障害のある人(壮年期・高齢期)の健康と生活に関する調査」から/植田 章(佛教大学社会福祉学部) 本稿では,知的障害者の加齢と福祉実践の課題を明らかにするために,まず,いくつかの先行研究の分析を通して高齢障害者問題を捉える視点を示した.つぎに,筆者が実施した「知的障害のある人(壮年期・高齢期)の健康と生活に関する調査」の結果から,@加齢とともに生じる健康問題,A日常生活動作における変化とそれに伴って必要になってきた支援の内容,B行動・性格・対人関係の変化,C環境要因がもたらす影響,D加齢による仕事に関する悩みと不安などについて明らかにしながら,知的障害者の高齢期の生活をより豊かなものにするための実践的・制度的課題について示している. 知的障害者と家族の老いと暮らし ―その社会的地位と社会保障の課題/高林秀明(熊本学園大学社会福祉学部) 本稿は,統計と事例を用いて,知的障害者とその家族の老いの過程と暮らしの実態を,その社会的地位および社会保障との関連において考察した.知的障害者は,青年期から不安定雇用および失業を繰り返し,あるいは無権利就労を長期に余儀なくされている.その上,所得保障等も不十分なため,高齢期に至るまで家族(親やきょうだい)による扶養・介護等に頼らざるを得ない.一方,本人が45歳以上になると親は年金生活に移行し世帯収入が大きく減少し,家族も介護者の病気や失業・低年金等の生活問題を背負っている.知的障害者と家族の老いの過程は半失業・貧困・健康破壊の構造的問題である.障害者運動の要求も実現されず彼らは経済的にも政治的にも不当に低い地位に置かれている.彼らの社会的地位の確立と生活保障は広範な人々との共通課題であり,その解決には民主主義と連帯の土台としての社会保障の拡充が重要である. 重度知的障害者の高齢化と医療福祉的課題/小川勝彦(びわこ学園医療福祉センター野洲) 近年重度知的障害者の長寿化は著しく,高齢者が急増している.重度知的障害者には早期老化現象がみられ,様々な課題に直面するようになっている.高齢化に伴う機能低下には,運動機能,認知機能,感覚機能に加え,意欲の低下も含まれる.外見の老化や脳の萎縮も早く進み,悪性腫瘍や認知症を合併するリスクも高く,さらに摂食機能や呼吸機能の障害が進行するので医療ニーズの増大と直接結びつく.重度知的障害者が健康で有意義な余生を送るためには,個別性に配慮したゆったりとした生活,向精神薬の整理,てんかんのコントロールや栄養状態の改善などが大切である.重度知的障害者における老化の実態は不明な点が多く,研究の進展が必要である.高齢化を迎えた重度知的障害者には,質の高い医療対応,適切な日常生活介助,そして社会的・経済的な支援が望まれる. 障害者施設に暮らす人々の発達と生活 ―老いと死を意識する/張 貞京(京都文教短期大学) 知的障害者の高齢化は進んでおり,家族の老いや死を経験している人も増えている.知的障害者は,身近な人の老いや死に対して複雑な思いを抱き,やがては自分自身の老いや死と関連付けて考えるようになる.彼らの老いや死に対する思いや願いを明らかにし,日常生活において何を大切にすべきか具体的な支援策を講じなければならない.本稿では,知的障害者本人の語りや実際の姿から考察を行った.その結果,医療や制度的な対応のみならず,心理的支援をも視野に入れた対応が必要であると考える.身近な人の変化に影響され,悲しみや寂しさを感じつつも,今を精一杯生きようとする姿を支援することこそが,壮年,高齢期の保障されるべき課題である. 知的障害のある人の高齢期における発達と発達保障/白石恵理子(滋賀大学教育学部) 知的障害のある人の加齢変化について,「可逆操作の高次化に基づく階層−段階理論」をもとに,その発達的変化を探ろうとした.具体的には,知的障害のある2事例(現在,60歳と80歳)を対象に,これまでの生活歴と作業所での実践経過,発達診断結果から発達的考察を試みた.その結果,知的機能においても高齢期での「低下」は単純ではなく,複雑かつ個別性が強いことを指摘した.さらに,発達的には新たな獲得もあり,発達保障の観点にたった実践と制度が必要である. 実践報告 壮年期をグループホームで暮らす ―“自分らしく”生きる/森脇有子(大阪・さつき福祉会) 高齢期の仲間を支える時に大事にしたいこと/太陽の里職員集団(埼玉・みぬま福祉会) 高齢期をむかえた仲間の変化とその支援 ―ターミナル期のケアと今後の課題 /佐藤さと子(愛知・ゆたか福祉会 ゆたか希望の家) もみじ作業所における高齢利用者への実践と課題/井上一成(広島・もみじ福祉会 第一もみじ作業所) 小特集 児童養護施設と障害児 児童養護施設における障害のある子どもの生活と教育/中村尚子(立正大学社会福祉学部) 児童養護施設等から措置された事例にみる知的障害児施設児童の実態と実践課題/木全和巳(日本福祉大学社会福祉学部) ■障害者問題研究 バックナンバーへ |