障害者問題研究 第43巻4号(通巻164号) |
JAPANESE JOURNAL ON THE ISSUES OF PERSONS WITH DISABILTIES 2016年2月25日発行 ISBN978-4-88134-455-2 C3037 定価 本体2,500円+税 |
特集 障害分類・診断改訂の新たな動向と発達保障の課題 特集にあたって/細渕富夫(編集委員) DSM-5の概要と課題 ――神経発達症を中心に 橋 脩(豊田市こども発達センター のぞみ診療所) 2013年に刊行された米国精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』(DSM-5)について,障害のある人への支援の観点を考慮しながら紹介した.発達に支援が必要な子どもに関わる領域については新たなカテゴリー「神経発達症」が導入され,我が国の発達障害と知的障害(DSM-5の診断名は知的能力障害)に含まれる障害が包摂されることになった.従来は5つの障害に分かれていた広汎性発達障害は自閉症スペクトラムとして1つにまとめられた.また,知的能力障害では知能指数より適応行動を重視して診断を行うよう変更されるなど,各障害について大小さまざまな妥当な改訂が加えられている.今回の改訂版は全体的には最新の医学的研究成果を網羅した優れたものと評価できるが,障害観は基本的に「医学モデル」の域を出ておらず,今後の改訂において世界保健機構の「国際生活機能分類」(ICF)にあるような「社会モデル」の観点の導入が期待される. 子どもの心の医療と発達支援との協働 ――新しい障害分類の概念を踏まえて 土岐篤史(浜松医科大学健康社会医学) 子どもの心・行動・発達に関する悩みや心配は急増し,子どもの心の医療はさらなる拡大と充実が求められている.特に,発達障害は一般に知られるようになり,医療ニーズは高まっている.子どもの心の問題は複合的に生じており,地域における医療,保健,教育,福祉などの関係諸機関による協動的連携と総合的支援が望ましい.その目的のためには,障害をもつ子どもの権利と多様性を認めながら,新たな障害に関する概念を共有することが急務である.本論では,ICFの新しい障害概念,さらにICD-10やDSM-5などの新しい障害分類を概説し,子どもの心の医療と発達支援との協働において必要となる相互理解に関する重要点を指摘する. ICFから特別支援教育の積弊を再考する 吉川一義(金沢大学人間社会研究域学校教育系) ICFの発表以来14年が経過した.特別支援教育が抱えてきた諸課題は,ICFのいかなる影響を受けたのか.本稿は,教育支援でのICF使用の現状から問題を指摘し,活用に向けた課題について言及した.ICIDHの改訂版として発表されたICFは,障害概念の変化をさらに推し進めたものとして,国際的な水準での障害の見方に重要な変化をもたらした.この新たな動向は,個別のニーズに基づく教育支援の実現へ向けた組織的取組みを推進する大きな契機になると期待された.医療・福祉・労働領域における啓発・普及が慎重に議論される一方で,特別支援教育では十分な検討もなく導入された.その結果,理念の理解が不十分なままツールとして使用されることで,学校現場には少なからぬ混乱が生じた.その混乱の根底には従来の教育目標設定に関わる問題があることを指摘した.改めてICFは,この問題に対しても重要な示唆を与えていると思われた. 【実践報告】 伊佐市における医療と地域連携 塗木雄一朗(鹿児島県立北薩病院・小児科医) 福重 寿郎(鹿児島県立北薩病院・小児科医) 白坂 葉子(伊佐市トータルサポートセンター・臨床心理士) 川原華奈美(伊佐市トータルサポートセンター・臨床心理士) 野添かおり(HAS発達支援センター・臨床心理士) 土岐 篤史(浜松医科大学・児童精神科医) 重症心身障害支援の歴史,理念,現状とこれから 口分田政夫(びわこ学園医療福祉センター草津) 【特別寄稿】 障害者の人権保障と障害概念 ――国連障害者権利条約を手掛かりに考える 上田 敏(日本障害者リハビリテーション協会顧問) 「国連障害者権利条約」(2006)とWHOの「国際生活機能分類(ICF)」(2001)を手掛かりに,「障害者の人権保障」と「障害概念」とを関連させて検討した.国連は国際連合憲章(1945),世界人権宣言(1948)をはじめ一連の人権規約・権利宣言等を通して障害者の権利擁護の努力を続け,それが21世紀に入って権利条約に結実した.これは「差別撤廃アプロ−チ」に立ち,「障壁」の実効ある撤廃に向けられている.一方障害概念は,「マイナスの分類」であった「国際障害分類(ICIDH)」(1980)が「プラスの分類」であり「統合モデル」「相互作用モデル」であるICFに転換し,障害者の「全人間的復権」の実現のための有効なツールとなった. ◆小特集/障害者差別解消法と合理的配慮 労働分野における合理的配慮/伊藤修毅(日本福祉大学子ども発達学部) 学校教育における合理的配慮/児嶋芳郎(広島都市学園大学) ◆連載/実践に学ぶ @特別支援学校の実践 子どもは,「伝えたいこと」をもっている! ― 子どもから学び,同僚と悩みながら進めた1年間の実践を通して 塚田直也(筑波大学附属久里浜特別支援学校) 【塚田実践に学ぶ】 個人と集団の発達を引き出す実践/荒川 智(茨城大学) A障害青年の学びの場の実践 仲間とともに乗り越えていく ―高校卒業後の「学びの場」での青年たちの仲間づくり 社浦宗隆(NPO法人大阪障害者センター ぽぽろスクエア(自立訓練事業所)) 【社浦実践に学ぶ】安心できる仲間と真摯に向きあってくれる大人のなかで生きる力を蓄えていく/宮本郷子(追手門学院大学非常勤講師、大阪発達支援センター“ぽぽろ大東”教育相談員) ◆連載/発達保障のために学びたい本 第8回 ヴィゴツキー著『思考と言語』 解説 中村和夫(京都橘大学健康科学部心理学科) 43巻総目次 書評 川口幸宏著『知的障害教育の開拓者セガン ――孤立から社会化への探究』 『一九世紀フランスにおける教育のための戦い――セガン,パリ・コミューン』 評者 藤井力夫(元北海道教育大学教授、元札幌三和福祉会三和荘通所施設長) ■障害者問題研究 バックナンバーへ |
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