特集 自治体における地域療育の課題 特集にあたって  中村尚子 立正大学 障害乳幼児福祉制度における自治体の役割と課題 ――2016年児童福祉法改正における市場化と分権化の合流 井原哲人 白梅学園大学 本稿は，2016年に改正された児童福祉法における障害乳幼児福祉制度について，市場化および分権化の視点から検討した．まず，これまでに私的利用契約制度・現金給付化への移行，調理業務等に係る規制緩和，第二種社会福祉事業への変更を含む児童発達支援の再編による参入主体の規制緩和等の市場化が行われてきたことを確認した．分権化の側面として，支給決定過程における障害児相談支援事業の活用等によって，地方交付税算定における児童福祉関連職員の算定基礎が切り下げられ，また連携中枢都市圏構想によって圏域構成市町村間を「支配と従属の関係」へと再編する中での社会資源の整備となる．さらに，障害児福祉計画は，障害乳幼児および家族等の実態から策定されるのではなく，供給量の上限管理のためのトップダウン型の計画であった．これら供給責任等を地方自治体に転嫁し，障害乳幼児等の意見を軽視することは，子どもの権利条約の精神とは矛盾すると指摘した． 障害児通所支援の多様化と療育の今日的課題 ――大阪の実態から 塩見洋介 大阪障害者センター 障害者通所支援事業所数が急増する中，支援の質が低く適切ではない支援を行う事業所が増えているとして，2017年4月より厚生労働省の改善方策が実施される．本稿は大阪府において，①府下にまんべんなく児童発達支援648ヵ所，放課後等デイサービス1006ヵ所が実施され，営利事業所が半数を占める，②放課後等デイサービスは支援の個別化・多様化が進み，効果をうたう「専門性」を強調するものと利便性を強調するものに二分化している実態を述べた．そのうえで，市場化・商品化の進行は，事業者と利用者家族との関係や利用者家族の意識を消費者としてのものに変容させ，一方で結果責任は家族に負わせていること，子どもの発達や療育における人間発達観を脅かしかねないことを指摘した．それに対抗するために，職員の育ち合いや保護者の育ち合いを組織する，児童発達支援センターを地域の療育の拠点とする，自主的・民主的な公共を創造することを課題に挙げた． 堺市にみる乳幼児健診からはじまる地域療育 ――堺市社会福祉事業団の取り組みから 篠原純代 社会福祉法人堺市社会福祉事業団 乳幼児健診において発達に課題のある子どもを自治体が責任をもって把握し，子育てに不安や育てにくさを感じる保護者に対し個別相談だけでなく，自治体による丁寧な子育て支援である「親子教室」や「障害児等療育支援事業」などを入り口に，専門的支援をつないでいく地域療育支援システムの構築が重要である．本稿では，堺市における障害児の現状と療育支援システム及び，療育支援の中核を担う堺市立こどもリハビリテーションセンターでの療育支援の状況を述べ，その到達と課題について論じる． 報告 子どもと親に寄り添う障害児相談支援事業 吉田文子 東久留米市立わかくさ学園発達相談室 保育現場への巡回相談の意義 ――協同と対話から生まれる保育実践の可能性を支援する巡回相談 芦澤清音 帝京大学 自治体の乳幼児健診の今日的役割 ――親子支援と療育への接続を中心に 別府悦子 中部学院大学／新村津代子 元本巣市役所／北川小有里 本巣市役所 手つなぎで広がる奄美の地域療育 大山周子 NPO法人チャレンジドサポート奄美 わが子と療育 ――福山から 森本和子 草笛学園保護者／高幸代 ひかり園保護者／木曽恵美 「ゼノ」こばと園保護者 ◆連載／実践に学ぶ ①「牛とともに」拓く教育 箕浦啓太 愛知県・公立小学校特別支援学級 【箕浦実践に学ぶ】 打つべき手を打って、あとは子どもの力に信頼を寄せる 竹沢 清 中部学院大学非常勤講師 ②障害のある青年に学びの場を ――エコールKOBEの挑戦 河南 勝 福祉事業型「専攻科」エコールKOBE学園長 【河南実践に学ぶ】 渡部昭男 神戸大学大学院教授 ◆連載／発達保障のために学びたい本 「要求で育ちあう子ら」編集委員会編 田中昌人監修 『近江学園の実践記録 要求で育ちあう子ら ―――発達保障の芽生え』 張 貞京 京都文教短期大学 ◆書評 中村隆一・渡部昭男 『人間発達研究の創設と展開 ――田中昌人・田中杉恵の仕事をとおして歴史をつなぐ』 湯浅恭正 中部大学現代教育学部 ■障害者問題研究 バックナンバーへ |
