障害者問題研究 第48巻2号(通巻182号) |
JAPANESE JOURNAL ON THE ISSUES OF PERSONS WITH DISABILTIES 2020年8月25日発行 ISBN-984-4-88134-885-7 C3037 定価(2,500円+税) |
特集 「9歳の節」と発達保障 特集にあたって/白石正久 詩や作文にみる9歳頃の子どもの発達と指導 川地 亜弥子(神戸大学) 小学校中学年頃について,戦後初期には,池田太郎が発達の重要な時期として論考を発表していた.1930年代には,発達の節として注目した上での指導ではないものの,中学年で学力不振改善のための再指導を行う教師や,教えたい・役に立ちたい気持ちに根ざした指導を行う教師がいた.現代の子どもたちの詩や作文,教育実践の分析では,中学年頃に,したこと・見たことだけではなく自分の思いの動きを見つめて書くこと,自他の思いの違いについても明確に書くことを示した.ただし,これは読む相手,集団との関係で大きく変わる.集団の中で安心して思いを出せ,丁寧に理解される経験を重ねることで,相違による排除ではなく,理由をふまえて知恵を出し,方法を考え,共に活動を進めることができる.個人と集団の発達を保障する指導の役割は大きい. 聴覚障害教育と「9歳の壁」 脇中 起余子(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター) 「9歳の壁」という語は,聴覚障害児の学力が9歳のあたりで停滞する現象を示す用語として1964年頃から使われ始めたが,聴児においても9歳頃に発達の節目が存在する.それは,「生活言語から学習言語へ」や「具体から抽象へ」,「直観的・具体的思考から論理的・抽象的思考へ」と関係する.聴覚活用による会話が可能な聴覚障害児であっても「9歳の壁」が立ちはだかる例が多いが,それは,学習言語は生活言語と比べて,日常会話での使用頻度が低いことや,語の一部が欠落すると内容を推測しづらい語が多いことと関連する.「9歳の壁」を超えると,非現実的な仮定を含む三段論法や内包量,分数に関する問題が解けるようになり,上位概念から出発した思考や既有知識にとらわれない思考,多面的な見方が可能になる.「9歳の壁」を超えるために必要なものを2つに絞るならば,「考える力」と「幼少時から学習言語に接する機会の保障」を挙げたい. 自閉スペクトラム症と9歳の節――ユニークな心理化と自己理解 別府 哲(岐阜大学教育学部) 心の理解には,直観的心理化と命題的心理化の2つのレベルがある.障害のない(以下,定型発達)児が両者を形成するのに対し,知的遅れのない自閉スペクトラム症児は直観的心理化に弱さをもったまま命題的心理化のみを形成すること,それが9歳過ぎであることが指摘されてきた.しかし,それを自閉スペクトラム症当事者がどう体験しているかに焦点をあてた研究は十分なされていない.本研究ではユニークな心の理解が当事者にとってもつ意味を探り,そこから導き出される支援を検討した.自伝や心理面接資料より,自閉スペクトラム症児者は,命題的心理化を獲得することで,直観的心理化を自分がもたない異質性に気づき,それは自明の世界が崩壊するほどの衝撃であることを明らかにした.一方,自閉スペクトラム症児者に直観的心理化を形成することは,直観的心理化そのもののありようからして可能であること,それは,他者と情動的に通じ合う情動共有体験の保障であることを論じた.併せて9歳過ぎの自閉スペクトラム症児者にとっては,情動体験を言語化し物語ること,そしてそれを他者と共有することが自己感を立ち上げるために特別な意味をもつことについて,考察した. 実践報告 作文にみる子どもの成長と学級集団――認めあい育ちあった子どもたち 寺前 彩香(公立小学校) 実践報告 仲間と学ぶ総合学習 元治 智子(加古川市立神野小学校) 実践報告 子どもが学習する主体となっていくために――通常学級で学習に困難を示す子どもへの指導 鈴木 有(滋賀県・公立小学校) ◆連載/実践に学ぶ @「強度行動障害」といわれる人への教育実践 障害に向き合うのではない,人格に向き合うのだ 元 滋賀県立八日市養護学校 荒川 智 【荒川実践に学ぶ】人と共にあることが,変化の原動力になる 滋賀大学教育学部 羽山裕子 A障害のある人の生涯にわたる支援 ゆたか福祉会の歴史と共に生きた人生をたどる――職員の記録から 社会福祉法人ゆたか福祉会 ゆたか生活支援事業所なかがわ 鳥田 広祐 【鳥田実践に学ぶ】世代を越えて思いを「つなぐ」,人生を支える記録 社会福祉法人さつき福祉会 伊藤成康 ◆連載/ワイドアングル 「ふたたび被爆者をつくるな」被爆者の願いと日本被団協の運動 木戸 季市(日本原水爆被害者団体協議会事務局長) 動向 医療的ケアをめぐる最近の政策動向 下川 和洋(特定非営利活動法人地域ケアさぽーと研究所・理事) 資料 『全障研しんぶん』連載 義務制40年を考える(再録) 第1回 この子を学校に〜義務制実施までの歴史/全障研副委員長 中村尚子 第2回 後期中等教育の保障/札幌学院大学 佐藤 学 第3回 障害の重い子どもの教育の広がりと深化/九州産業大学 猪狩恵美子 第4回 卒業後の進路と作業所づくり――働く場,地域/大和大学 小畑耕作 第5回 寄宿舎で育つ子どもたち/寄宿舎教育研究会副代表 西村京子 第6回 楽しい学校――教師と教育実践/神奈川・特別支援学校教員 金澤園子 第7回 “あたりまえ”を求め続けてきた――支援学校のマンモス化と「設置基準」/元愛知県高等学校教職員組合障害児学校部長 竹沢 清 最終回 義務制40年連載を終えるにあたって 地域のいまにつながる「教育への権利」の軌跡に学びあい,語りあおう 中村尚子 ◆ラーニングガイド 44巻2号「1歳半の節」、46巻2号「4歳の節」に続く「9歳の節」 ◆48巻2号 紹介チラシ(PDF) ■障害者問題研究 バックナンバーへ |
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