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2001年9月号
FILE.6
 高等教育における日米格差
 ーアメリカで「夢」を手に入れた茂森勇さんの場合ー

 IT先進国であるアメリカ、IL(自立生活)運動発祥の地であるカリフォルニア州バークレー市。ITとIL、一文字しかちがわないけど、意味が大きくちがうことはご存知のことでしょう。

 一般的にITとIL、この一見異質なものとして考えがちな事柄を、ものの見事にまとめてしまった友人がいます。アテトーゼ型の脳性麻痺をもつ茂森勇氏(イサムさん)とは私がスタンフォード大学滞在中(1998〜99年)にはじめて会いました。

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 彼は、子どものころから、数学や科学技術に興味をもち、高校卒業時の進学先として理系大学を志望していたにもかかわらず、受け入れてくれる大学が日本にはなかったということです。多くの人たちはそこで挫折してしまうかもしれません。でも、イサムさんは日本の大学を卒業後、その自分の「夢」を手に入れるため渡米しました。
 IL運動発祥の地、バークレーでの英語の勉強からスタートし、コミュニティカレッジ(地域に根ざした短大のような所)を経て、アメリカ人でさえ難関のUCB(カリフォルニア州立大学バークレー校、http://www.berkeley.edu/)の計算機科学科に入学します。

 もちろん、理系ですから、実験もあります。私自身、大学での実験とレポート作成には泣かされた記憶があります。イサムさんは四肢麻痺があるため、実験作業は困難です。しかし、実験は作業だけではすみません。さまざまな状況での的確な指示、情報収集からレポートのとりまとめなどの共同作業が必要です。そのようなグループワークにより単位も取得し、たいへん優秀な成績で卒業しました(Eugene Lawler Prize受賞、http://www.eecs.berkeley.edu/Awards/winners.shtml)。

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 ITにより物理的・空間的な障壁の多くが取り除かれようとしています。また、高等教育においてもITを駆使した教育プログラム(たとえば、遠隔教育やインターネット講義)が開始されています。そのため、ITを最大限活用すれば重度の障害があったとしても高等教育を受け、その成果を社会に還元できる「何か」を見つけることは可能でしょう。

 事実、アメリカには多くの障害をもつ学生が学び、ある人は政府の重要なポストにつき、あるいは研究者・科学者として学術的な成果をあげ、企業人として活躍しています。

 もちろん、イサムさんのように、それぞれの「夢」に向かう過程には壮絶な試練や困難があり、それを乗り越えられなければ到達できないということを忘れてはいけません。個々の「夢」のために努力し、それが達成できた喜びを共有できる社会が日本には欠けているように思います。もちろん、社会構造から国民(市民)の価値観など、すべてにおいて異ったアメリカの手法をそのまま日本に導入するのは無謀です。日本には日本に適した手法を見つける必要があります。

 「構造改革」ということばが溢れています。タイムリーな実行(試行錯誤)こそ、現在の日本に求められているのではないでしょうか?

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 仕事は大変だがやりがいのある充実した日々、長めの休暇には犬ゾリツアーやスキー、Yosemite渓谷でのロッククライミング(写真)と、エンジン全開の人生を送っているイサムさん。

 カリフォルニアの青い空の下、またいっしょに食事をしようと別れてから1年以上のときがたってしまいました。

 (文/伊藤英一・神奈川県総合リハビリテーションセンター)
ロッククライミングにいどむ いさむさん

しげもり いさむ
1968年東京都出身、脳性麻痺(1種1級)。
90年拓殖大学商学部を卒業し渡米。91年ディアブロバレーカレッジに入学、93年カリフォルニア州立大学バークレー校コンピューター・サイエンス学科に編入。94年夏、Sun microsystemsにおいてインターンを経験。97年Sunへ入社し、現在に至る。


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