2001年11月号 FILE.8 500人のパソコンボランティアをたばねる --千葉の視覚障害者IT講習会から-- |
「稲毛駅千葉よりの改札口を左に出て、ロータリーの右を入り、2つめの横断歩道を左に、楽器屋さんの2階が新しい作業所です」。鈴木信一さんに電話で教えてもらい、さらにインターネットで地図を検索し確認して「トライアングル西千葉」を訪ねました。千葉県で4か所で開催されている視覚障害者を対象にしたIT講習会の会場です。 入口には点字で「トライアングル オス」と書いてあります。「看板はいま作ってるところ。なにしろ先週引っ越してきばかりなんです」。 土曜の朝10時5分前、白杖をもった人たち、若い人、年長の人が続々とやってきます。はじめは、みんなで会場内の配置の確認です。パソコンはデスクトップ型5台、ノートパソコン2台。冷たいお茶とジュースで一息ついて、自己紹介が一巡すると、「トイレは男女別々になり、カギもかかるようになりましたー」の発言に、ドッとわきます。「弁当の予約をとりまーす」「3時のおやつの差し入れいただきました」。参加者は一様に「楽しいですね」と笑っています。 * 鈴木さんは、全障研九州・鹿児島大会でIT講習の実施状況と課題について詳細なレポートを報告しました。千葉県のとりくみは、全国で550万人を対象に行われるIT講習会に、視覚障害者も受講できるようにとはたらきけ、特別の講習方法、充分な時間、会場やサポート体制が必要との行政理解を得ました。千葉県は広報やホームページで講習会のパソコンボランティアを公募。現在500名が登録し、それをネットワークしています。 ーーどんな方が参加していますか? 鈴木 74歳が今日の最高齢者でヘルパーさんがいっしょに来られてます。先日は67歳の男性が参加しました。「漢字カナタイプライターの製造がなくなるそうで、なんとかしなくては」とのことでした。ものすごい集中力で、パソコンはまったくはじめてなのに、キーボード入力をマスター。漢字変換もほぼ使いこなしました。他の方々も「メールがしたい」「イラスト入りの年賀状を誰の手も借りずに自分でつくって出したい」。みなさんすごい意欲です。 ーー講習の方法が特徴的ですね 鈴木 講習はマンツーマン方式です。まったくはじめての人、ワードやエクセルを使いたい人、ホームページづくりが途中の人、午前だけの人も昼から来るの人も1日中の人もいます。障害者だけでなく家族も対象にしています。受講は12時間と定められていますが、キーボード、漢字変換、特別なソフトの利用など、この時間では無理があると行政に理解してもらい、時間延長しています。佐原市など遠方からも、同じような仲間がいるというのでやって来られますよ。 ーー鈴木さんはボランティアをコーディネートしてるんですね。 鈴木 ボランティアは遠いところでは房総半島の突端からやってきます。交通費だけ実費を渡せています。専任の学生はアルバイト待遇ですが、バイト料は少額です。500名それぞれメールやメーリングリストで連絡調整し、在宅のサポートもできるところでお願いしています。講習会以外のところもサポート出来るのが決定的に大きいと思います。 ーー来年以降の運営はたいへんですね。 鈴木 家賃は月13万円。来年の予算措置はまったく未定。けれど、パソコンをマスターした視覚障害者たちが、自分たちにも何かできることがあるんじゃないかと、土日の講習会以外の月曜日から金曜日に、市の「ワークホーム」事業として、作業所をスタートさせました。障害者に「教えて欲しい」といわれたら、「IT講習会は今年だけだからできない」なんて言えないですから。 (文・写真/薗部英夫・全障研事務局長) |
|
すずき しんいち さん 1954年千葉県生まれ。33歳のころ病気のため、「30センチ離した手が見えるかどうか」の視力に。法人の事務職を務め、週末はIT講習のリーダーとしてボランティアで関わる。 「土日は確実にここにいますよ。他の活動にご無沙汰しちゃって」。 |