山田洋次 監督 『十五才 学校W』 |
■美しい涙を流せました。 不登校の青年が縄文杉の屋久島へむかう旅。 山田監督十八番のロードムービーです。 大船撮影所最後の作品ということもあって山田組のプロの仕事が映像から伝わってくる感じがします。 美しい涙を流せました。 たくさんのメッセージが詰まっています。 教育、家族、老い、自然などなど、 どれも20世紀最後のいまをとらえながら、 しあわせを願いながらも、針でつつけばぶよぶよの汚れた血液が、いたるところにしみ出してくるような世情のなかで、 その救いは、屋久島の自然であり、友との友情あり、老人とのふれあい。 人は人と自然の中で、学び、人となっていく。 そんなことをカントリミュージック風の「ゆず」の主題歌が流れるテロップをながめながらおもっていました。 もう一つは、1970年の大阪万博を背景に、九州から北海道へ移動する映画『家族』 のワンシーンと、この映画の一つの山場である老人の長男・前田吟の後ろ姿がオーバーラップしました。 父親を扶養したくてもできない、涙を拭きながら運転する次男・前田吟の小さな小さなマイカーは、高度経済成長の象徴の福山の大工業地帯のなかで、芥子粒のようになって走っていきました。強烈なシーンです。 あれから30年、この『十五才』 のなかの前田吟は、仕事に追われ、やつれています。一人暮らしの老人で、病気が重くなった父・丹波哲郎の生きているプライドを傷つけながら、病院へと送るのです。 この30年。この国は、どんなしあわせをもとめて歩んできたのでしょうか。 主人公のニキビ面の金井勇太は好感がもて、長距離トラックの女性ドライバー役の麻実れいは抜群の存在感がありました。 トラック運転手・赤井英和の「兄ちゃん 十五才か ええなあ」の台詞はカッコよくて、耳に残りました。 2000.10.3 有楽町の試写会にて |
左の文の一部は 10.20讀賣新聞夕刊「50人の証言」 11.9朝日新聞夕刊「20人のメッセージ」に掲載されました。 |