障害者とパソコン

社会参加と自立にパワー
長野パラリンピックで「パソボラ会議」

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 ビデオがくり返されるたび、何度も目頭が熱くなった原田選手の大ジャンプ。
「苦しみをとおして喜びへ」のライブに、オリンピックっていいなと感じた。
 
同じ舞台で
 「始まりは不安からだった。そして、楽しさ、自信、学び、涙、、、」とわたしの周囲
にも、わが家のスキー物語をつづる、自閉的傾向の息子をもつ札幌のお母さんがいる
(「サムデイ・スキー―障害者と家族のゲレンデ物語」全障研出版部刊)。どうやら
冬のスポーツには、体も心も暖かく、楽しくする天使がいるようだ。
 オリンピックで数々の感動を生んだ同じ舞台で、五日から障害者スポーツの国際
大会、パラリンピックが始まる。その文化プログラムとして「パソコンボランティア・カン
ファレンス98」が会期中、長野市内で開かれている。
 「総合相談ブース」では、パソコンなどに関する障害者のさまざまな悩みに専門家
が応える。パソコン企業も最新機器を展示する。

操作で多くの悩み
 近年インターネットやパソコン通信など、障害者のネットワークへの参加は、
情報の獲得や就労など、社会参加と自立に強力なパワーを見せはじめている。
だが、パソコンはやはり難しい。「障害でキーボードやマウスが使えない」
「インターネットに接続できない」。悩みはじつに多いのだ。
 そんなSOSに、障害者の家を訪ねて手助けするのがパソコンボランティア
(略称・パソボラ)である。
 メンバーはエンジニアだけではない。主婦や学生、元会社員、もちろん障害者もいる。
パソコンのむこうで、ネットワークにつながる多くの力持ちが初心者のパソボラにも
安心を提供する。

共に生きる実感
  パソボラの活動で実感するのは「一人ではできないことも、誰かが知恵を貸してくれる」
「誰かができないことも、ひょっとすると自分にはできるかもしれない」
―そんな小さな力が結ばれて、ときに強力なパワーを発揮することだ。
  また、「教える」「教えられる」一方的な関係だけでなく、
互いのこころの扉にふれるような出会いが、
同時代を共に生きているという実感を持てる社会づくりへの具体的な一歩となる。
 障害者のネットワーク参加を支援する力は、ボランティアを除けば「ないないづくし」の状態だ。
だが、障害者がグループで学び合うことができ、いつでもパソコンを操作でき、
そこにはコンピュータテクノロジーと障害の両方をわかる専門家がいる、そんな場が身近に欲しい
―それは私たちの切実なねがいだ。

祭典の後に
 パソボラ・カンファレンスは、それを一つの形にするものだが、祭典の後に何を残すか、
何をつくりだすのか、パラリンピックとパソボラ・カンファレンスが共通に抱える課題である。

 そのべ・ひでお 一九五六年、群馬県生まれ。
 全国障害者問題研究会事務局長
 日本障害者協議会情報通信ネットワークプロジェクト・プロデューサー、
 主著に「パソコンボランティア」(日本評論社刊)


(本稿は共同通信社発として98年3月上旬から、全国の主要な地方紙に掲載された。)