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全国障害者問題研究会 第46回全国大会(広島)基調報告 常任全国委員会 はじめに 東日本大震災から一年半近くが過ぎました。その間、震災の傷跡の深さは、計り知れないものがあることが改めてわかってきました。津波の被害を受けた沿岸部の障害者の死亡率は一般の2倍から4倍といわれますが、いまだにその全貌を政府は把握できていません。「放射線は窓ガラスを突き抜けてきます。外に興味がある子どもたちが窓に近づこうとするたびに、私はどうやって部屋の中央に連れ戻そうかと必死でした」(「みんなのねがい」6月号:福島の保育士・片平史子さん)。目に見えない放射線の恐怖、未来に対する不安、原発事故は、いまだに進行中の問題です。 いま国民は、1人ひとりが、震災と原発事故に起因するさまざまの問題を受け止め、自分たちの未来の暮らしのあり様を考え始めています。命を大切にすること、1人ひとりの安心・安全な暮らしがどうあるべきか、そのことを踏まえた国民の声が広がっています。 1.障害者制度改革をめぐる情勢 障害者総合支援法をめぐる動向は、私たちにとって、どうしても納得のできないものです。障害者自立支援法は、障害のある人と家族の人間としての尊厳を傷つけたという主張が、ついに国をも動かしたと思ったのに、政府が約束したはずの自立支援法廃止・総合福祉法制定という課題が、自立支援法の根幹を残したままの総合支援法にすり替えられてしまう。盲ろう者の研究者である福島智さんの「いったい何を信じればよいのでしょうか」ということばは、そのまま多くの障害者・関係者の思いです。 この間、障害者団体は具体的要求で一致し、新法の「骨格提言」をまとめました。全障研もJD(日本障害者協議会)の構成団体として重要な役割を担いました。 しかし政府は、「基本合意」を反故にし、「骨格提言」を棚上げした現行障害者自立支援法を延命するものでしかない法を新法と偽って、しかも自立支援法を作った自民党・公明党と一体となって、障害者総合支援法(略称)を強引に成立させてきました。 昨年8月施行の障害者基本法改正に際しては、政府は、その実施責任はあいまいにしつつも、障害者の権利を総論や各分野の条文に規定して提案してきました。しかし今回は、実施責任をあいまいにした権利条項を総論に入れただけで、各分野の条文は現行自立支援法のままです。 社会保障も聖域にせずと毎年2200億円も5年間削減してきた自公政権でしたが、政権交代後も民主党政権は、社会福祉の切り捨てや国民負担増、社会福祉の市場化を「社会保障と税の一体改革」によってすすめています。そこでは障害者福祉も例外ではありません。 こうした中で、立川、札幌、さいたま市など全国で次々に孤立死が報道されました。その多くは、高齢者や障害者、母子家庭など社会的に弱者といわれる人々の問題、とりわけ貧困の問題と切り離すことはできません。 今世紀に入ってからの新自由主義的な施策が、社会の中の様々なつながりを断ち切って、社会的な弱者といわれる人々の暮らしを崩壊させているのです。 2.障害乳幼児の保育・療育の課題 4月から「改正」障害者自立支援法が施行され、障害児支援は児童福祉法にほぼ一本化されました。以前から、障害があっても子どもとして児童福祉法で扱ってほしいと要望してきましたが、これまでの障害児支援の問題点をそのまま児童福祉法に持ち込んだ内容になっています。もっとも大きな問題である利用者の「応益負担」や施設への報酬の「日額現員払い」もそのままで、不安定な施設運営は続きます。「利用契約」の仕組みも子どもの分野にはなじまないと批判してきましたが、この点も残されており、障害児の育ちを保護者の自己責任に転嫁する仕組みはそのままです。課題であった施設設置の最低基準は改善されないまま地方に権限が移されました。 「障害児にとって身近な地域で支援を受けられるようにするため」という名目で、障害児通園施設や児童デイサービスが児童発達支援センターと児童発達支援事業に一元化されました。それにより、幼児期に診断がつきにくい発達障害児も含めて利用できるといわれていますが、地域に施設そのものがない、定員がいっぱいで利用できないなどの問題はそのままです。施設不足という根本的な問題を解決しなければ、自治体間格差はさらに広がります。 児童発達支援センターなどを利用するには、「障害児相談支援事業」で事前にサービス利用計画書を作ってもらう手続きが必要になりました。その後に役所から支給決定を受け、児童発達支援の施設と契約して療育に通うことになります。 乳幼児期の保護者は、子どもの障害や発達の弱さを受け止めることに時間が必要です。私たちは、ゆっくりと丁寧に「発達が気になる」早期の段階から、発達支援と子育て支援の双方から親子を支え、療育へつなぐ「気づきの支援」を大切にしてきました。しかし、新しい手続きでは「利用契約が先」になり、療育に通うことに高い壁を作ってしまうのではないかと危惧します。現在は地域ごとに療育を利用するシステムが違うので、法改正されてもすぐに変更されるわけではありませんが、問題点を明らかにしておく必要があります。 保育所等訪問支援事業が新しく始まります。これは児童発達支援センターなどの職員が保育所へ行って障害児や保育士への支援を行うものです。この事業を利用するには、保護者の申請と支給決定が必要です。その後、この事業を実施している事業所と契約し保育所訪問が始まります。これまで実施されてきた巡回相談とは全く性格が違うものです。さらに、利用すれば個別給付のため保護者に1割の利用料負担が発生する点も問題です。保育現場の実態に合った事業とは言いにくく、現場への混乱を持ち込まないか気がかりです。 「社会保障と税の一体改革」の重点の一つに子ども・子育て新システム(子ども支援法案などの3法)の導入があります。障害者運動の声もあって応益負担、日割払いは具体化していませんが、保育の市町村実施責任をなくす利用契約制度の実施です。障害者自立支援法や介護保険法にもない、全事業への営利企業など法人でない事業主の参入などの規制緩和、子どもの保育の必要性が一切評価されない支給認定制度の導入など、これまで以上に社会福祉全般を改悪するものです。また、保護者の就労で保育必要度を決めていくので、母親の就労が困難な障害児を育てる家庭では、三歳までの保育所利用は難しくなると予想されます。三歳以上についても、すべての子どもが幼児教育を受けられるとしていますが、障害を理由にこども園(保育所)を利用する場合、短時間の認定になる可能性があります。保育時間が短くなり、保護者の負担が大きくなる点も見逃せません。また、幼児教育の中で障害児保育がどのように位置づくのかも明らかにされていません。高齢→障害→保育と改悪の流れを持っていこうとしていることは明らかです。 改正児童福祉法は大きな問題点をいくつも含んだまま4月からスタートし、療育現場に大きな混乱を持ち込みました。育てにくさや保育の中での困難を抱えて、療育を必要としている子どもがたくさんいます。身近な場所で相談ができ療育に通えるシステムが地域で確立できるよう、保育や療育の分野が手をつなぎ、声をあげていくことが今まで以上に必要になってきています。 3.学齢期・教育の課題 現在、わが国では障害者権利条約の批准に向けた制度改革議論が進められています。権利条約の教育条項でインクルーシブ教育の実現が求められ、日本の教育のあり様が問われています。障害者基本法が改正され、「共に教育を受けられるよう配慮」や、障害のある児童・生徒と保護者に対する「情報の提供」と「意向の尊重」についての規定が加わりました。また、特別支援教育の在り方に関する特別委員会に「合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ」が設置され、その報告をもとに、学校における「合理的配慮」の定義や観点に関する委員長試案の報告案が出されています。権利条約では、「合理的配慮」とは、「すべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整」とされ、「合理的配慮」をしないことは、障害を理由とする差別とされています。しかし先の報告案では、国、都道府県、市町村の行う「基礎的環境整備」と、設置者・学校が提供する「合理的配慮」をわけ、後者に対する国の責任を回避する論法になっています。また、合理的配慮を要求することが権利であるということも明確でありません。また、国や自治体の「基礎的環境整備」の責任を言うなら、通常学級の学級定数の少人数化、特別支援学校の過大・過密化を改善すべきです。現状の特別支援教育のまま、条約を批准しようとする姿勢がうかがえます。 特別支援教育は6年目に入りました。この5年間で、現場はどう変わったでしょうか。転換の目玉の一つは、「障害種別をこえる学校」構想でした。しかし、結果的に、この構想は障害種別を超えた安易な統廃合を許し、特別支援学校の過大・過密化に拍車をかけています。児童生徒数が400人を越え、教室を仕切り、図書室や職員室まで教室とし、「もうつぶす教室がない」状態です。学校ばかりでなく、寄宿舎の統廃合も進んでいます。こうしたことは、通常の教育では考えられず、障害のある子どもへの人権侵害です。早急に特別支援学校の学校設置基準の策定が必要です。 もう一つの転換の目玉は、「センター的機能」でした。キーパーソンは特別支援教育コーディネーターで、小・中学校等への助言・援助を進めます。コーディネーター等の活動は、特別支援学校・学級と通常学級との垣根を低くし、保護者の選択を容易にしました。しかし、コーディネーターを、教職員定数として「標準法」に配置しなかったため、支援が活発になればなるほど、校内に残る教員数は減り、授業を困難にしています。 この5年間の特別支援学校在籍児の急増の要因については、全障研研究プロジェクト(奈良、茨城)でも報告されています。検証には、さらに各地域の実態調査が求められます。 しかし、増加には通常学校の教育状況が関係しています。国連・子どもの権利委員会は、日本政府に「過度な競争主義改めよ」との3回の勧告を出し、「いじめ、精神的障害、不登校・登校拒否、中退および自殺」につながることを懸念しています。こうした競争主義を改善するどころか、より加速させる状況も出ています。 特別支援学校では、改訂学習指導要領へ移行中です。現場では、義務付けられた個別の指導計画を、学習指導要領の文言に沿い作成する形式的な整合性が求められています。子どもの見方や教育実践の目標・評価に際して、「できる−できない」「客観性」「測定可能性、数値化・数量化」が強調される中で、教育実践の質も規定され、行動変容の効率性(そのために心身の諸機能をバラバラに捉える見方)が求められています。こうした子どものとらえ方は、感情や意志を持つ子どもの内面を軽視し、きわめて外面的かつ表層的な把握にとどめます。 教職員への職階制も問題です。これまで「校長−教頭−主任を含む教師」が、対等な話し合いで進めてきていた学校運営を、「校長−副校長−教頭−主幹教諭−指導教諭−教諭」へと変え、教諭より上の権限を強化し、目の前の子どもたちや自分の教育観とかかわりなく、「上司」(校長、教頭)の指示を聞き、教育実践をしなければならなくなっています。東京都の「人材育成基本方針」や「OJTガイドライン」なども、国や都の考える教育をすすめる人材を意図的計画的に育成するねらいがあります。 このような中でも、職場で、職階をこえて集まり、指導の困難な子どもを取り上げ、多様な意見を出し合っています。そこから実践記録も生まれています。同僚性に基づく職場づくりを進めましょう。 教育の自由を守る運動も粘り強く進められています。都立七生養護学校の「こころとからだの学習」裁判の東京高裁判決(2011年9月)では、原告が勝訴し、学習指導要領について「一言一句が拘束力すなわち法規としての効力を有するとすることは困難」とし、「教育を実践する者の広い裁量」を強調し、知的障害校の学習指導要領について「各学校の児童・生徒の状態や経験に応じた教育現場の創意工夫に委ねる度合いが大きい」としています。教育委員会の権限についても「教員の創意工夫の余地を奪うような細目にまでわたる指示命令等を行うことまでは許されない」と述べています。管理統制が強化される中で、意義ある判決です。 新学習指導要領では、職業教育が強調され、「キャリア教育」が推進されています。長期の現場実習(デュアルシステム)、企業人アドバイザーの導入、清掃技能検定などが広がっています。一般就労が強調され、教育の論理より企業の論理を優先し、人格形成より「品質(仕事のでき具合)」が重視され、企業の求める人材(スキルの重視)に直結する教育が進められています。教育実践の主体性が損なわれているのです。また、福祉のお世話にならない「税金を支払う」(一般就労)ことを「自立」だとし、その自立(ゴール)の見込みによって格差をつけ、就労の問題を自己責任にしています。法定雇用率は15年ぶりに現行1.8%から2%に引き上げられることが決まりましたが、依然として守られていない雇用促進法の問題や合理的配慮など、「権利としての就労」の視点がありません。 過度な競争により格差をもたらす新自由主義的な教育、管理・統制で教育の自由と共同性を破壊する管理主義教育、「愛国心」を押し付ける新保守主義的な教育、これらが混在する今日の教育状況に対して、その対抗軸として、あらためて「権利としての障害児教育」の思想を対置させることが大切です。「重度の子どもは学校の宝」とのことばには、学校に学ぶすべての子どもを平等な価値として捉え、実践を創り上げようとする思いが込められています。 教育年限延長をめざした運動も広がっています。現在、特別支援学校から大学等への知的障害者の進学率は、ごくわずかです。「もっとゆっくり学びたい」との願いに応えた専攻科設置運動の中から、教育以外の制度を使っての「学びの場」が各地に広がっています。学齢超過不就学者の教育権保障運動もすすんでいます。就学免除されていた障害者が「なんとしても学校へ行きたい」と入学を果たし、76歳にして、人生初の修学旅行を体験しました。 さらに、障害のある子どもの放課後活動では、不十分ながらも国の制度として「放課後等デイサービス」をスタートさせました。 4.成人期の課題 「こんな低い報酬単価ではじっくりと障害者にむかいあえない」「資源整備抜きではサービス利用抑制につながってしまう」などの声が出てきています。今年4月から実施された支給決定時およびサービス利用時の「サービス利用計画」作成の義務付けなどの相談支援事業制度の改訂は、明らかに、介護保険制度の要介護度認定の範囲内でサービス利用を中央集権的に抑制していくケアプラン・ケアマネージャー制度の障害者版です。障害者の願いに応える支給決定をさせていくこと、その願いを実現する資源開発・調整の重要な役割を果たす相談支援事業です。障害者の権利を保障するという視点からの相談支援体制づくりの課題が提起されてきています。 さらに、一面的な一般就労重視施策も大きな問題です。第V期障害福祉計画(2012−15)の国・基本指針では、2006年度目標(6年間の整備目標)の達成を放棄しただけではなく、一般就労に期限を限って移行促進する就労移行支援事業を通所利用者の2割以上が利用し、就労継続支援事業利用者の3割がA型(雇用型)を利用するという目標に見られるように、実態を無視して一般就労への移行をすすめる事業整備を一面的に強調してきました。各自治体での障害者の願い、実態に沿った計画を作らせるとりくみ、さらに障害者政策委員会で始まる障害者基本計画づくり(前回は2003−2011)の国、地方レベルのとりくみは、障害者及び障害者団体の参加形態の改善も含めて重要な課題です。実践的には、福祉を利用しつつ一般就労を支え、福祉と雇用を両方使えるように制度を充実していくなど、雇用政策と福祉の統合をつくり出す課題もあります。 障害者の願いを無視した施策の強行は、新たな矛盾を様々な角度から噴出させてきています。原発・震災の被災地では、経営困難を理由に一部の病院等が撤退・移転し、家族内扶養の限界をこえ、一刻も猶予されない切実な願いが表れてきています。「選ぶこと」を前提にする利用契約は、選べない・選ばない人を個人意志で「辞退した」と放置します。サービスを利用していないから問題が解決されたわけではありません。利用契約制度から漏れた人も含めたつながりが改めて求められています。 また、大阪では、これまで自分でサービスを選択・組み立ててきた若い親たちも含めて、「親亡き後」の不安や願いを交流するとりくみが始まっています。親同士さらに施設職員等との信頼関係づくりのなかで、不安を取り除き、願いを切り開こうとしています。利用契約制度は、契約に書きこめない願いや要求を軽視するのです。 さらに利用契約制度は、その人たちを入口で切り捨ててしまいがちです。引きこもり、高校中退者等の若者が現在全国で数十万人もいると言われています。居場所づくり、サポート体制づくりなど若者支援のとりくみも始まってきていますが、ほんの一部です。私たちに寄せられた不安や願いは、見逃すことなく、丁寧にじっくりととりくんでいく必要があります。 5.研究運動の課題 こういう時だからこそ、情勢とそれを動かしていくしくみを深く読みとることを通して、障害児者の権利を守り、発達を保障するための課題を明らかにしていく研究運動の真価が問われているとも言えます。こうした課題意識にたって、研究運動の重点的な課題を考えてみたいと思います。 1)つなげよう みんなのねがい Nothing about us, without us! ―私たち抜きに私たちのことを決めないで!― 障害者権利条約の制定過程を支えたこのことばは、当事者・関係者の声を徹底して語り合い、つなげ合う努力を励ますことで、障害者自立支援法の権利侵害性を国に認めさせ、制度改革の理念を明らかにするわが国のとりくみを大きく発展させました。 この間の動きをめぐって特筆すべきことは、わが国の障害者運動が、さまざまな主張や認識の違いを超えて、幅広く手をつなぎ、一致点を探る努力をねばり強く続けることで、制度改革推進会議の二次にわたる意見書をつくり出し、さらには総合福祉部会による「骨格提言」を生み出してきたことです。そこには、障害児者・家族、関係者のねがいをつなぎ、練り合わせる新しい努力がありました。基本合意を踏みにじり、骨格提言をまるごと無視するような政府と与野党の動きは、障害者運動のこうした努力の値うちを損ねるものではありません。むしろ、そうした努力を通して、障害者や家族、関係者のねがいが幅広く明らかにされ、それを実現するための一致した要求が練り上げられてきたからこそ、支配層はそれらを「踏みにじる」露骨な方法以外に、矛盾を乗り越える道筋を見いだせなくなったとも言えるでしょう。 同時に、この間の情勢は、社会保障全体の市場化・営利化・自己責任化が目論まれる中で、障害分野だけがその影響の外にいることはできない、ことも示しています。障害者制度改革の動向の中で、新しい水準で広げてきた「つなげよう みんなのねがい」を、さらに広く、高齢者や子どもの分野、反貧困のとりくみなどともつないでいきましょう。そうしたとりくみを通して、文字通りすべての国民の「健康で文化的な生活を営む権利」をゆたかに実現していく努力なしには、国民の願いを実現する方向で情勢を切り開くことはできないことを、この間の動向を通して私たちは深く学びました。 このことは、国政レベル、中央レベルでのみとりくまれればよいというものではありません。むしろ、障害のある人たちの暮らすそれぞれの地域において、障害者や家族、関係者のつながりをつくり出し、さらには障害分野以外のさまざまなとりくみとの協同を築いていくことこそが必要です。それぞれの地域の状況に即して、「ねがいをつなげる」努力と、そのための具体的な「場」の創造をすすめましょう。 2)たしかめあおう 人間の尊厳 こうしたとりくみを進める上で鍵になるのは、障害のある人や家族の生活の事実を具体的にあきらかにし、そこにある問題を、権利侵害の事実としてとらえ直していくことです。 4月から施行された「改正」自立支援法のもとで、障害のある人たちと家族の暮らしはどのような影響を受けているのか。新しい障害乳幼児施策は、療育をはじめとする実践の現場にどんな影響を与えているのか。特別支援学校・学級、通級教室などで学ぶ子どもが大幅に増加している現実は、子どもたちの毎日の学校生活や教職員の働き方にどのような変化を生み出しているのか。東日本大震災からの復興のとりくみの中で、被災地域の障害児者・家族の暮らしはどうなっているのか。これらのことがらを、地域の現実に即してていねいに明らかにしていくことこそが、ねがいを確かめ、つなぎあっていくかけがえのない基盤を築きます。 ささやかな調査活動が、小さなつぶやきから始まる実態交流が、人と人をつなぎ、ねがいを確かめ合っていく機会になるのです。障害児者福祉の現場での過酷な労働実態を詳らかにすることは、働く人たちの貧困を克服しようとするとりくみとの協同の芽を生み出すことにもつながるでしょう。 より広い運動の展開が求められる情勢だからこそ、事実をていねいに明らかにし、そのことの権利保障上の意味を語り合う実態調査活動を大切にしていきたいと思います。そして、そのことを通して「人間の尊厳」を実現していくことのかけがえのない値うちと、そのための具体的なとりくみの課題を語り合いましょう。 3)ねづかせよう 発達保障 事実から出発する、という際に、大切なもう一つの視点は、障害児者のねがいを掘り起こし、そのねがいをともに実現していこうとする多彩な実践の努力を通して生み出される発達の事実を大切にするということです。 近年、障害児教育の現場も、障害児の療育や家族支援、成人期の障害者支援の現場も、新しい実践の担い手を迎え入れています。しかし、こうした新しい職員を迎えるのは、教育や福祉の実践を、数値目標にもとづく効果測定などによって値踏みし、重層的なマニュアルによって定型化しようとする動向です。本来、具体的な人と人との関係によってしか成り立たないはずの教育や福祉の実践を、交換可能な商品として営利の対象にしようとする動向が、新しい職員たちの働き方を、息苦しく、よそよそしいものに閉じこめようとしています。 子どもやなかまの内面に秘められた人間的なねがいにていねいに寄り添うこと、子どもたち・なかまたちのねがいに依拠して、子どもたち・なかまたちが自分の力で変わっていこうとする努力を支えること、ゆたかな文化との出会いや、子ども同士・なかま同士の集団の力を通して、子どもたち・なかまたちの人間的なねがいを励まし、ともに人間的な発達を築いていくこと。発達保障を志向する私たちの実践の原則を、具体的なとりくみを通して語り合い、実践の中で生み出された発達の事実を確かめ合いましょう。その輪の中に新しい人びとを迎えていきましょう。そうして語り合う中で、発達保障のもう一つの視点、すなわち個人の発達は、集団の発達、社会の進歩・発展と相互に条件づけ合い、制約し合う関係にあるもので、個人の発達を実現するためにも、集団の発達、社会の進歩・発展を創り出すとりくみが必要なのだという発達理解を、多くの人で確かめ合っていきましょう。 4)きずこう 平和でインクルーシブな社会 今大会は、核兵器による戦争の悲惨さと、平和へのねがいを60年以上にわたって発信し続けてきた広島の地で開かれます。第二次世界大戦の悲惨さを決して繰り返してはならないというヒロシマ・ナガサキ・オキナワのねがいは、私たちの国に日本国憲法をもたらし、同時に、様々な矛盾をはらみながらも、国際連合を軸とする平和と人権を基調とする国際的な共同行動を生み出してきました。 私たちは、日本の地において、憲法をよりどころとしながら、障害の重い子どもたちのための権利としての教育を創造し、人間らしく生き、人間らしく働く権利の実現をめざして努力を重ねてきました。一方、平和と人権の保障を志向する国際的な努力は、各種の国際的な人権法と、それを各国で確保するためのしくみをつくり出してきました。そうした重層的な努力の、21世紀初頭における到達点の一つとして、障害者権利条約があります。発達保障の実践を創造し、それを普遍化していくための制度的な基盤を築いていこうとする私たちの努力と、障害がある場合の人権保障のあり方についての国際的な合意の水準を示した障害者権利条約は、同じ水源に発するものなのです。 障害者制度改革の動きは、昨年の障害者基本法改正、今日運動と論争の焦点となっている障害者総合支援法の動向を経て、次には障害者差別禁止法へとその段階を進めていくことになっています。これらの課題が、たとえ形式的にであってもクリアされれば、政府は権利条約の批准へと歩を進めようとするでしょう。教育における合理的配慮をめぐる問題についても、中央教育審議会の報告が公表され、政府サイドによる一定の整理がなされようとしています。 こうした動向が、はたして本当に権利条約の求める権利保障の水準を確保するものなのか、そこに不十分さや矛盾があるとすれば、それらを、どのような力に依拠して、どのようにして乗り越えていくべきなのか。権利条約の志向するインクルーシブな社会とは、わが国の障害児者・家族のおかれた現状からどのようにアプローチしていくことができるのか。障害者に対する差別を社会からなくしていくための新しい概念としての「合理的配慮」とは、具体的にはどのようにイメージしたらよいのか。障害のある当事者の立場から、保護者や家族の立場から、障害児者の医療や保健、教育や福祉の現場で働く者の立場から、ぜひとも旺盛に語り合い、考えあいましょう。 誰もが対等で、そして同じ場で、一つのレポートの論議を通じて、みんなで作っていく分科会の論議。全障研全国大会で大切にしていることです。昨年から始まったステップアップセミナーの中でのグループトークのとりくみでも、様々な立場の人たちが、自分の実践や子育ての中での悩みを自分の言葉で語っています。目の前にある様々な問題を、みんなで共有し語り合い、より良い方向を見つけていこうとするとりくみ。障害者やその家族のねがいを束ねていくこと、その思いを大切にして、全障研は、草の根から研究を進め、障害者やその家族の豊かな生活を目指し、1人ひとりの発達を保障していくために研究運動を進めます。 いま、大切なことは、全障研をより多くの人に知ってもらうこと、研究運動の輪に参加してもらうことです。フリーペーパー「ねがじん」を使った全障研を知ってもらう活動やステップアップセミナーなどの各種セミナーや学習会に参加し議論の輪に加わってもらうこと、そして、「みんなのねがい」を軸に、地域や職場で、みんなの声を土台に様々な問題を話し合っていくことをよびかけます。 今大会に参加されたすべてみなさん、二日間、大いに「私たちのこと」を語り合い、聴き合い、深め合うことを通して、「平和でインクルーシブな社会」のイメージを、ゆたかにつくり出していこうではありませんか。 そして、大会を通して学んだ事実、浮かんだ疑問、出会った感動をぜひ地域に持ち帰り、地域の現状に即して継続的に深めてください。障害児者の権利を守り、その発達を保障することをめざす研究運動、何ものにも縛られず、一人一人のねがいを大切にする研究運動を、ぜひとも、みなさんとともにすすめたいと思います。 あなたも全障研へ。手をつないで、ともにがんばりましょう。 |