はじめに 昨年(2010年)の6月、「子ども子育て新システム」は私たちの前に現れました。そしてその内容をみて、障害児の療育や保育にかかわっている人たちは、大きな驚きと危機感を強く感じました。その理由は3つあります。 一つは、出された「新システム」の資料には発達という二文字が存在しないことです。子どもの育ちを保障する枠組みは見当たらず、あくまでも大人の視点と都合だけで組み立てられていることに唖然としました。幼い命が虐待で奪われる、貧困が子どもたちの生活や夢を奪う社会状況の中で、乳幼児期の子どもが通う施設だからこそ、子どもたちの豊かな育ちが保障されるべきです。子どもたちが発達するための環境や生活、そして大人からの優しいかかわりは、何をおいても一番に大切にしなくてはいけないのに、それが書かれていません。 二つ目に、「新システム」は障害者自立支援法とそっくりなことです。詳しくは本文を読んでいただくとして、「契約」「応益負担」「日払い」が療育の分野に導入されて、どれだけ大きな影響を受けて困ったかは、毎日実感しています。困難の解決を国や厚生労働省に迫るために「障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会」を結成し、全国で大きな運動を展開してきました。その結果、障害児の利用料負担の軽減や、「契約」という仕組みが保護者の療育を利用するためのハードルにならないようにと行政に対策を求めたり、受給者証から障害の文字をなくしたりと、様々な改善を実現させてきました。 障害者自立支援法は2015年には廃止されることが決まっています。しかし、事業所の日払いや利用料負担については引き継がれる可能性も残されています。それどころか、児童デイサービスは、12月3日、審議なしの参議院採決で障害者自立支援法改正法案が可決され、児童福祉法に規定されるように変更されました。その児童福祉法がまさに「応益負担」「日払い」になっているのです。この事態を黙っているわけにはいきません。 三つ目は、もし「新システム」になったら、障害のある子どもや発達に弱さを抱える子どもたちはどうなるのかという心配です。まず保育園や幼稚園に入れてもらえるのか不安になります。多くの自治体で保育所での障害児保育が実施されているにもかかわらず、入園は簡単ではありません。運よく入園できても、「行事の時は休んでください」「遠足は保護者も一緒に」「みんなより早く迎えに来てください」と驚くべきことがまかり取っているところもあります。新システムで良くなるのであれば歓迎したいところですが、残念ながら期待がもてる内容ではありません。クラスに何人もいるといわれている「気になる子ども」たちにも手厚い保育が必要です。しかし、現実は担任が必死になって事故がないようにみています。ほかにも障害のある子どもたちが安心して生活できる場にはならないと思わせることがたくさんあります。 「持ち込ませない会」では、私たちの心配な気持ちを首相や厚生労働大臣に知ってほしいと署名を取り組みました。2010年10月から始めて12月6日に厚生労働省に提出するわずか2カ月の間に4万筆を超える数が集まりました。この数字を見ても多くの方がこのシステムの問題点と、もしこのシステムが実施されたら大変だという危機感をもっていることがわかっていただけると思います。 そこで、もっと多くの方に知っていただきたいという思いから急きょ本書の出版を準備しました。ひと足早く「日払い」や「応益負担」の嵐を経験した私たちだからこそ伝えられることがあると考えたからです。とりわけ保育や学童保育分野で働く人たちや保護者の皆さんに読んでいただきたいと願っています。 本書が、この国の子育て支援や子どもの育ちが、どこの地域でも、障害があってもなくても安心して保障される社会を創り、「新システム」を持ち込ませない力となることを心から望んでいます。 2011年3月1日 障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会 |
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