ラフRough・ラブLove・ライブLive
  
-障害をもつ若者たちの発達と演劇-

  土岐邦彦
(岐阜大学地域科学部教授)
 
  定価 本体1700円+税  ISBN978-4-88134-934-2 C3037  2011.6.25
  絶版  
表紙

<目 次>

幕が開くまえに(PDFファイル)


第一部 こころ揺れる青年期の発達を語る

第一幕 ラフ~Rough
1 「向かい合う関係」と「同じ方向を向く関係」と
   主体的に"サボる"/過去を越えて/関係のなかで自在に生きる
2 でこぼこ道の途上で
   憧れの先輩にも事情が/対等の仲間と/他者に応じて自分を変える
3 女の子の事情
   女はむかつく?/将来は「わからない」/女の子だから……       
4 隣(とな)る人"
   「わからない」と「何となくわかる」/親子の距離/"隣る人"

第二幕 ラブ~Love
1 二人で主役を
   主役はオーディションで/恋のはじまり/二人のデート/されど恋
2 ひと恋初めし
   はじめはロールプレイ/きょうだい・母親・そして自分
3 揺れない?こころ
   充実の日々/「ことば」そのものへの過剰な反応/感覚から認識へ
4 父親の想いと演劇活動
   父親に求められるもの/そうは言っても敷居が高い/我が子の自立への想いと性
   /温度差はあるけれど

第三幕 ライブ~Live
1 「やさしい自分」になる
   役に自分を投影させる/変化するきっかけ/他者へのやさしさ
2 「たしかな自分」を育てる
   対照的な二人/憧れが自分を変える/演劇への想い
3 「進行形の自分」を感じる
   名前の付いた役を/アンバランスな魅力/進行形の感覚
4 次なる未来(とき)へ   
   練習の成果/演劇のなかの「自分」/ひとりではないけれど、"ひとり"

第二部 《鼎談》みんなはひとつのために  ―演劇が育てる「自分」と「集団」

〈資料〉
 シナリオ1 "Shall We Dance?"
 シナリオ2 『大人になるってどういうこと?』
 シナリオ3 『☆ドキドキ・バレンタイン☆』

◆朝日新聞(岐阜版)2011.10.5  障害者劇団 6年の軌跡   PDFファイル  

 「ラフ・ラブ・ライブ」。演劇を通して成長する思春期の障害者の姿を、岐阜大の土岐邦彦教授(発達心理学)が本にまとめた。劇団「ドキドキわくわく」創設時から見守り続けて6年。そんな土岐教授ならではの視点で、可能性を秘め、恋に胸ふるわせ、舞台で躍動する若者たちを描いた一冊だ。(全文) 

障害のある若者に「愛と性」を!!
   永野佑子(元障害児学級教員)


 「障害者の自立」とよく言われるが、多くは就労の課題が中心で、人間としての情緒的な成長や恋愛や性、結婚生活などは自立論には入ってこない。障害児・者には性的な感情や行為がないと本気で思っている人、また、障害者が恋愛感情をもつと制御不能となり性行為に走って危険であると思う人など、障害者の性についてはとんでもない偏見が多い。または、障害者も自然に恋愛をし、そのうちの何組かは自然に結婚という道をたどると、漠然と想像している人もいらっしゃる。しかし、彼らの人生はそんなに生やさしいものではない。語らなくてもおのれの障害を自覚し、「恋愛=御法度」と自分をいさめている障害者は多い。「愛」とか「恋」という言葉をいけないことばとして学んでいる人も多い。

 「愛と性」はおとなの課題である。そうした障害のある青年、成人たちに性教育講座を開き、自由に花開いてほしいと願う実践がこのところ広がっている。劇団《ドキドキわくわく》もその1つ。指導者は性教育のベテラン、渡辺武子さん。実は若者たちに性教育講座を開いたところ、授業は苦手と逃げられてしまった。それでは性教育を演劇活動にしてみてはと思いつき、地元の演劇専門家の援助を受け、土岐邦彦氏(岐阜大学)らのアドバイスを受けて劇団《ドキドキわくわく》を立ち上げた。この本は、その6年間の活動にもとづいたもの。言わば、発達途上のまとめではある。

 知的障害者の劇団といっても、特に「愛と性」をテーマにした演劇を上演している劇団は日本でただ1つ、さらに言えば世界でも数少ないことと思う。まず読んでみてすごく楽しい。この本の中で、登場人物たち全員が生き生きと集団劇を演じているように見えてくる。これはひとえに土岐氏の愛情のこもった文章表現による。読者は、様々な障害をもった若者たちが、固定的ではなくひとりの人間として無限に発達する姿を目にすることであろう。封じられた「愛と性」を呼び覚ます活動こそが障害者の発達保障であることを実証する先進的な実践である。

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