TOPページ>池添素さんの衆議院厚生労働委員会での意見陳述 12.6

池添素さん 12.6衆議院厚生労働委員会での意見陳述 

   意見をのべる池添さん
    
▲意見をのべる池添素さん

 私は「障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会の」事務局長をしています。仕事は子どもの発達や子育てに悩むお母さんたちの相談に乗る仕事をしています。
 障害者自立支援法と、同時に改正された児童福祉法が本格実施されてから、費用負担の大きさから、施設利用を取りやめた、療育に通う回数を減らしたという声があちこちから聞こえてきます。きょうはその実態を四点に絞ってお話しし、是非とも改善をお願いしたいと思います。
 
 
一つ目は障害乳幼児の分野での問題点です。奈良にある知的障害児通園施設の実態ですが、10月1日以降、まず保育や給食に大変多くの欠席が見られるそうです。この園では一日療育を受けると給食費は600円かかります。大多数の家庭は軽減が受けられず、来れば来るほど大変な額で、20日通うと12000円かかります。今日一緒に来ているお母さんのところは25000円の負担増です。9月末で2人退園されました。10月の運動会まではなんとか出席されていた方もそれを境にぐっと減り、16人が1グループの集団活動の日に5〜6人しかいない日もあるそうです。もうすでに大きな影響が出ています。

 それから、児童デイサービス。この事業は、すでに自立支援法の介護給付の事業ですが、支援費制度に比べて報酬単価が上がり、それも人数の少ない施設ほど運営しやすいようにと高い単価で事業所にとっては良いことのように思われたのですが、10人以下の小規模の施設(事業所)に通わせている場合、1日の費用が大きな施設より358円高く、月10回通うとそれまでの3倍以上、7500円となります。これによって退園が相次いだ鹿児島県喜界島の児童デイサービスは、とうとう休園に追い込まれてしまいました。

 わが子の障害が告げられたとき、目の前が真っ暗になってしまった親の気持ち、少し想像力を働かせていただければわかっていただけると思います。その暗い気持ちを受け止め、励まし、支え、子どもとの接し方を教えてくれるのが、療育を行う通園施設や児童デイサービスです。最初は通うことに消極的でも、発達していくわが子の姿に励まされ、下を向いていたお母さんも、次第に笑顔を取り戻し、子どもとともに人生の新しい一歩を踏み出していくのです。先日話を聞いた吹田で重症心身障害児を育てているお母さんは、「療育は子育ての出発点です。そして将来にわたってのホームグランドです」と言われました。いかに早く、療育と出会うかが大切なのです。また、あるお母さんは、私たちは選んで障害児の親になったわけではありませんから、障害のことに詳しくありません。戸惑いの中で専門家からのアドバイスをもらって安心して子育てができるのです。育てにくさを抱えている軽度発達障害の子どもたちも同じです。障害程度の重い軽いにかかわらず、療育施設は、子どもや親の人生に大きな影響を与えるといっても過言ではないのです。
 
 10月からの本格実施にあたって、就学前の通園施設には食費の減額が導入されましたが、そのさい保育料程度の負担がその根拠にされています。しかし、実際に各地で保育料と減額された後の支払額を比べてみると、やはり通園施設との負担には差があります。本日お配りした資料は、広島県の親の会がつくったものです。これを見ていただけばわかるように、国の新しい減額区分である「所得税2万円未満」の世帯で保育所の場合と比べると、3歳児で16500円ですから、約六千円の差です。それぞれの自治体の保育料と比較するともっと差が開きます。(資料にあります)先日、TBSの取材に応じた鎌倉の通園施設の保護者は、保育園に入りたくても障害があるために入れないのに、通園施設での保育料が高いのは納得いかないと話しておられました。

 またその上、利用料以外に多くの費用が必要です。家の近くに通園施設がなく、宮崎県の児湯郡から宮崎市内の通園施設に通う今井さんは、片道43キロの道のりを週三回通い、ガソリン代は月5万円を超えます。これに減免はありません。肢体に障害のある場合は、補装具や車椅子などにお金がかかります。仙台に住む小関さんは16万円のバギー、15万円の座位保持椅子、7万円の靴の中敷、6万円の補装具、どれも子どもが生活するために必要です。購入しても、体の成長が早くて長くは使えません」、と話しています。

 実際に保育所の保育料と同じではないのです。そして障害のある子どもの子育ては、精神的負担と経済的負担両方が、若いパパやママにのしかかっているのです。本当にこれだけの経済的負担をかけてよいのでしょうか。奈良県リハビリテーションセンターの通園施設に通う保護者の皆さんがわずか1ヶ月の間に2万筆の署名を集めました。利用料で通園を諦めたくない子どもと保護者の切実な願いです。私たちの「障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会」で作成したブックレット「自立支援法と子どもの療育」は発売と同時に売り切れ、現在増補版をつくっています。それだけ全国の関係者の危機感が強いと言えます。

 
第2点目は、親元をはなれて生活している障害児施設の問題に移ります。通園施設と同じく、10月から契約制度が原則となり、費用の1割負担がはじまりました。保護者が遠くに住んでいる場合もあり、これらの変更を保護者に説明する時期、方法などの点での不十分さがることを指摘します。結果、契約がスムーズに行かず、受給者証が発行されていない、そのために契約すべき児童であっても契約にいたっていない、といった制度を始める上での前提が整っていないのに、利用料負担だけが先に走っているという実情です。

 費用負担については1割の利用料だけでなく、原則として実費負担することになる食費、日用生活品費、教育費、医療費等が大きな負担として保護者にのしかかってきます。厚生労働省の例示でも、補足給付をしたとしても一般世帯の場合、月額5万円近い負担で、現行の5倍の負担になる人もでてきます。こうしたことが、保護者には突然と言っていいほどの状況で通知されるわけですから、混乱の上に混乱が生じているといってもよいような実態です。

 知的障害者福祉協会の児童施設部会が行った実施直後の緊急調査によれば、「負担金を捻出するために他のパートの仕事を見つけなければならない」「家庭への引き取りを考えている」という声が出ているということです。また施設や学校関係者からは、退所者が多く深刻な事態になりつつあるといった声を聞いています。

 普段は近隣の養護学校に通っている子どもたちですが、たとえば修学旅行の費用などこれまで措置費でまかなわれていた費用の一部は、保護者が就学奨励費の申請をすることで負担をなくすことができるのですが、年度途中の、しかも保護者の居住地が他府県である場合などは事務的にもスムーズにいっていないようです。保護者から費用徴収ができるかが不確定だとして、本来なら10月以降に行く修学旅行を9月に繰り上げて実施した養護学校もありました。費用負担の大きさに加えて、あまりにも急な制度変更に、児童施設とそこで生活する子ども、保護者が翻弄されています。
 
 
もう一点、障害のある子どもたちの放課後の問題です。
 障害者自立支援法のもとで実施される介護給付となっている児童デイサービスは、18歳までを対象とする福祉サービスです。障害のある子どもの放課後保障全国連絡会が行った全国調査では、学齢期の放課後活動を実施する児童デイサービス事業所は、今回の自立支援法で報酬単価が低く抑えられたため存亡の危機に直面していると言う調査結果がでています。そして実際に事業をやめた事業所も出てきています。

 児童デイサービスには二つのランクの報酬単価が設定されました。報酬単価の高い児童デイサービスTが適用されるためには、利用実績において「就学前児童の割合が七割」であることが要件であるため、学齢期の放課後活動を実施する事業所が児童デイサービスUの報酬単価となり、大変な減額です。

 05年まで厚生労働省は、各地に広がる障害児の放課後を保障して欲しいという声に押されて、小学生は児童デイサービスで、中・高生は新規補助事業のタイムケア事業で対応していました。しかし、障害者自立支援法の具体像が明らかになる過程で、放課後活動の位置づけはだんだん小さくなってきました。06年10月以降、学齢児対象の児童デイサービスは「児童デイサービスU」として継続することも可能ですが、厚労省は障害児タイムケアとともに、地域生活支援事業の「日中一時支援事業」として実施するように推奨しています。市町村の独自財源に頼るこの事業は、地域間格差を生み、住んでいる地域で受けられるサービスの違いを子どものところでも生み出します。障害のある子どもを育てていても働き続けられる条件をつくることや、放課後や長期休暇に子どもをテレビやビデオ漬けにしないためにも、障害のある子どもたちの居場所が必要です。しかし多くの事業所は運営が困難になり、子どもたちの居場が奪われようとしています。
 
 
四点目に施設の運営にかかわる問題です。10月2日の月曜日、京都のある施設で子どもの欠席を知らすお母さんからの電話、開口一番「せんせ、ごめんなさい」といわれたそうです。施設に入るお金が日額現員払いになり、病気などで休むと、施設の収入が減ることを申し分けなく思ったお母さんのことばです。日払いでは病気にかかりやすい乳幼児が対象の施設は安定した経営ができません。資料にもあるように難聴幼児通園施設半年間で1300万円の減収が見込まれています。子どもの発達を促し障害を軽減する働きかけや、親の障害の受けとめをサポートするなど、高度な専門性が要求される業務であるにもかかわらず、安定した雇用が保障できず、運営も脅かされます。

 保育所は子どもが休むと収入が減るのでしょうか?学童保育所や児童館はどうでしょうか?学校はどうでしょうか?
 すべての種別の施設において、現在の運営費が確保できるよう報酬制度を見直していただくことをお願いいたします。

 乳幼児の療育も、学童期の放課後の居場所も、児童の入所施設も、障害や特別なニーズがあるから必要なのです。しかし、障害者自立支援法は、障害があるから利用料が必要ですといっているのです。それは、「あなたが障害児を産んだのだから、責任を取りなさい」と言われているのと同じことです。障害があってなかっても、どの子も子どもとして大切にされる権利があります。そして、子育て支援というのは、どこに住んでいても、安心して子育てできるためには、子どもに特別なサービスが必要になっても社会がサポートしてくれると言うものではないでしょうか。子育て支援、虐待の防止などの視点も重要です。子どもと保護者の希望を利用料負担でつぶさないでください。子どもたちが通う施設の日額現員払いで、運営の危機にさらさないでください。

 子どもの利用する施設やサービスに保護者の収入に関係なく払わなければ行けない利用料負担を撤回してください。
 子どもの権利条約で言われているように、障害児の特別なケアは原則無償とし、日本国中、どこの地域においても誰もが安心して子育てできる条件を先生方と厚生労働省で実現していただくことを強くお願いいたします。

 最後に奈良県リハビリテーションセンターわかくさ愛育園保護者会の冊子の一文を聞いてください。
 障害者自立支援法の乳幼児への適用は、せっかく得た療育の場を去らねばならない、利用を制限しなければならない現実になっています。この機会を得るのに何ヶ月もかかったのに、せっかくできるようになってきたのに、療育は連続して大きな効果が得られます。
 この子どもたちはこれから先、大人になるまでたくさんの壁があるやもしれません。
 幼い間は大人が守れるときもあるでしょう。しかし、やがては大人の保護から離れていく日が来ます。それが自立です。そしてそのときのために幼いうちから少しでも力をつけてやりたいのです。保護者のたくさんの気持ちをどうか聞いてください。