第57回全国大会(オンライン2023)基調報告

全国障害者問題研究会
第57回全国大会(オンライン2023)基調報告

 常任全国委員会




はじめに

 敗戦後、小学2年生の時に不発弾の爆発で視力と両手を失った藤野高明さん(84歳)は、障害者・患者9条の会でつぎのように語りました。

 「私は戦後ずっと障害者として生きて働いてきました。私が一人の人間として人権を保障され、働いてくることができたのは、平和が続いていたからです。この平和を本当に支えていたのは日本国憲法の9条、それから13条や25条です」。戦争と深く関連する事故によって障害を負った藤野さんは、その後の人生で徹頭徹尾、平和を追求し、民主教育や障害者の権利保障運動にとりくんできました。

 いま、その平和を根本から脅かす事態が進行しています。ロシアによるウクライナへの戦争や東アジアの緊張情勢を逆手にとって、軍事費を倍増(5年間で43兆円)することを決定し、すでに沖縄や鹿児島などに敵基地攻撃のためのミサイル配備をすすめ、各地の自衛隊司令部を地下に置くなど基地機能強化に着手しています。こうした軍拡の財源として、復興特別所得税の転用まで表明、今後インボイス制度をはじめさまざまなかたちでの増税や国民負担増を目論んでいます。軍備が拡張されるとき、教育や福祉、生活に関わる予算が削られるという、これまでの歴史が証明してきたことが、現在の日本で起きています。

 新型コロナウイルス感染症は2023年5月から感染症法上の分類が変更され、自己責任を前提に規制はほぼなくなりました。コロナ感染に対応した特別の施策は徐々に縮小されています。しかし、学校や施設を中心に集団感染が報じられています。コロナ罹患者の33%の人が苦しんでいる後遺症、障害者、高齢者などリスクの高い人への対応など、課題は山積しているにもかかわらず、国の責任ある政策は見えません。

 子どもをめぐる政策では、4月からこども基本法が施行され、「こどもまんなか社会」を掲げるこども家庭庁が動きだしました。そして軍拡予算を覆い隠すかのように、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針2023)でも「異次元の少子化対策」が喧伝されています。しかし掲げられた政策は児童手当の所得制限撤廃や増額など現金給付に偏重しており、子どもが自分らしく生きる基盤的条件の整備、すなわち保育所の職員配置の改善は「検討する」に終始しています。表明された現金給付政策も財源は先送りで、国民の負担増が検討されています。

 2022年9月に国連・障害者権利委員会は、日本政府の第一回締約国報告を審査した「総括所見(勧告)」を公表しました。その内容は、障害のとらえ方が医学モデルを脱していないことやそこから生じるさまざまな歪み、障害者差別をなくす法整備が不十分であること、さらに大きく立ち後れている精神科医療、優生保護法問題の解決など、いずれも日本の障害者政策の根本を衝くものであり、その改善を強く求めています。根底には、政策決定過程において、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」という権利条約の中心的な思想に真摯に向き合ってこなかった日本政府の姿勢への批判があります。いままた政府は、障害者や介護を必要とする高齢者など、社会的に弱い立場に置かれている人たちの意見を聞くことなく、マイナンバーカードと健康保険証の統合を強引に推進しています。これでは国によって社会的弱者をつくり出し、新たな差別を生むことになるのは明らかです。

 全障研は、第24条(教育)をめぐって、総括所見の内容を適切に受けとめ今後の課題を提起するために全国委員長「談話」を発表し、旺盛な学習と討論をよびかけました。「障害のある子どもの教育改革提言-インクルーシブな学校づくり・地域づくり」(2010年)が今日的に重要であることもあらためて確認しました。

 総括所見を学び深め合い、国の政策改善にどういかしていくか、連帯した障害者運動が求められます。

 「この子らを世の光に」とした糸賀一雄さんは、「福祉の思想」を磨き、平和への誓いとともに「発達」の概念を深め、一人ひとりの人間とその社会への信頼と希望を、「発達保障」の理念へと発展させました。経済的価値の優先や、競争と自己責任ではなく、一人ひとりのいのちを輝かせるとりくみがますます求められています。激動する世界と日本の情勢のもとで、障害者の権利を守り発達を保障する私たちの研究運動をさらに広めていきましょう。


Ⅰ 乳幼児期の情勢と課題

(1)徹底して子どもの立場から考える
 私たちは、子ども理解を土台にした実践をすすめることをねがい、日々の生活のなかで、その子は何に魅力を感じているのか、何がやりたいことの制約となっているのかと、保護者と一緒に子どもの姿から発達や障害の意味を考えることを大事にしてきました。ところが、保護者が抱える子育ての悩みを、「困った行動の消去」「〇〇の力をつける」といった目標に安易におき替え、発達を「できるか―できないか」といった行動面に矮小化して、部分的な機能を「伸ばす」プログラムを「専門性」と称して勧める児童発達支援の事業が目立ちます。療育は、他の子と比べて足りないところを補ったり、何かの力をつけるためにあるのではありません。安心できる人間関係を土台に「やりたい」という思いを膨らませ、子ども自身が主体的になれるような生活や遊びが大切です。ねがいをていねいにききとり実践を紡ぐこと、子どもらしい生活と遊びの土台となる制度を整えていくことの両方が求められます。

(2)児童発達支援や保育所制度の行方
 制度面では、2023年度中に改正児童福祉法の中の障害児通所支援関連条項の具体化と次期報酬改定の議論が行われます。その内容は3月にまとまった「障害児通所支援に関する検討会報告」にもとづくものになることが見込まれ、児童発達支援センターの機能強化のための職員配置や児童発達支援、放課後等デイサービスの支援内容に対応した報酬が注目されています。検討会では塾や習い事に似た支援への明確な改善を求めていません。また「特定の領域に対する重点的な支援(特定プログラム)」という新たな言葉が書き込まれましたが、支援の内容はあいまいです。児童発達支援などが、子ども施策の中でももっとも市場化の進んだ分野であることが、乳幼児期の支援をよくするための議論を阻んでいると思われます。

 保育所など一般の施設も、障害のある乳幼児にとって重要な役割を果たしていますが、保育所等への規制緩和と営利企業の参入も著しく、その結果、園庭がない、経験を積んだ職員がいないなど貧しい環境の園も目立ちます。保育所が障害児保育や地域の多様な子育てニーズにこたえることを求められても、対応する職員に見合う公費支出はまったく不十分です。にもかかわらず「こども未来戦略方針」では、親の就労要件を問わず時間単位の給付制での「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設が検討されています。子どもの生きる権利、育つ権利を切り売りする保育になりかねないこうした動向にたいして、保育関係者と手をつないで運動をしていく必要があります。

(3)保育と療育が手をつないで
 こども家庭庁が出発したことは、母子保健、保育所・幼稚園、療育機関が手をつなぎやすい施策を求めていくチャンスだともいえます。

 振り返ると、こうした連携は制度ありきではなく、乳幼児健診とその後の早期対応、親子教室、保育の場の拡充と、子どもの発達をねがう保護者や関係者のねばり強い要求運動によって、自治体ごとに整備されてきました。国の制度で保育所での保育士加配や療育機関との並行通園が可能となったのはその後のことです。今日でも、社会資源や母子保健・療育のシステムは、自治体によって異なりますが、それは子どもを中心にそれぞれの機関が連携して障害のある子どもの発達を保障しようと努力してきたことの到達点でもあります。

 近年、健診・保育・療育の公的なネットワークに包括されない多様な児童発達支援事業が療育に参入し、保育所・幼稚園と療育が手をつなぎづらい状況があります。保育所等に通いながら送迎付きで事業所に通う子も多いという報告もあります。そうなると、子どもの生活の場がぶつ切れにされ、「~がしたい」という子どもの気持ちが置き去りにされやすくなります。保育者の側も、児童発達支援のとりくみによって、子どもが変化することを期待する状況に陥ってしまいがちです。

 保育所等の実践についても、遊びのなかで思いもしなかったことに笑い合ったり、“もっとやりたい”というねがいを育んだりといった、発達の手応えとは無縁に、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」や社会が求める価値観・目標が早期から押しつけられ、その結果、子どもや保護者が追い詰められています。

 国は「インクルーシブ保育の推進」をうたい、保育所に児童発達支援事業等を併設した場合に、後者の職員が保育所の子どもの支援を行うことができるよう制度改正を行いました。「障害児の支援に支障がない場合に限り」とはしているものの、それぞれの場の職員配置を手厚くしてほしいという実践現場のねがいに背くものです。保育と療育は、子どもの発達を保障するという点でしっかりと手をつないでいく必要があります。

 今大会では、インクルーシブ保育をテーマに、保育所と児童発達支援などの協働についてフォーラムで話し合います。

(4)子どもの生活をバラバラにしてはいけない
 2月に開催された「発達保障のための相談活動を広げる学習講演会」は、改正された児童福祉法の下で、療育機関が手をつないで子どもの発達を保障する地域を意識的につくっていこうと400人がオンラインで討論しました。地域でつながりをつくり地道に学び続けてきた取り組み、0、1、2歳の親子療育を経験することで親子が安心して育っていく大切さ、障害の重い子の主体性を育てるていねいな療育など、私たちが積み上げてきたこと、今後めざしたいことを確認し合いました。乳幼児期に関わる保育・療育の関係者が集まり、到達点と課題を確認していく場が今後も求められます。


Ⅱ 学齢期の情勢と課題

(1)子どもの権利保障の場としての学校・放課後等デイサービス等への注目
 3年にわたるコロナ禍の中で、学校や放課後等デイサービス、学童保育等が、子どもの権利を全面的に保障する場として注目されました。給食がない、家族以外の信頼できる他者(先生や友だち)に会えない、家から離れることができないといったことが、いかに子どもや保護者を危機に陥らせるかが認識され、「生きる権利・守られる権利は家庭で」という政策の前提が危ういものであるという理解が広がりました。

 来年は子どもの権利条約批准30周年です。子どもの権利という言葉に当たり前にふれることが可能だった世代が、子どもにかかわる仕事につき、保護者になる時代です。小森淳子さんは、今を生きる若者が、息の詰まるような環境で、研ぎ澄まされた人権感覚を持っていること、そのことが彼らを深く傷つけている可能性があることを指摘しています(『みんなのねがい』2022年8月号)。そのしんどさを個人の中に押し込めさせるのではなく、共に手を取り合いながら、運動を進めていきましょう。

(2)学校で発達保障の実践に取り組むために
 特別支援学校の設置基準が制定されましたが、この基準が既設校には適用されないため、大規模・狭隘(きょうあい)な特別支援学校が多数存在し、条件改善に向けた運動が喫緊の課題になっています(「障害者問題研究」第51巻1号)。

 教員不足は5月で1500人と報道され、学級担任が未定であったり、頻繁に代わったりする学校は少なくありません。教師の待遇を貧しく不安定なものにし、専門性を大事にしてこなかった教育政策のツケが一気に押し寄せています。教員の多忙化を解消するという名目で、行事を縮小する、学級通信を出さないなどが、学校の方針として決められる現実があります。しかし、何が子どもや保護者にとって重要なのかを判断し、決める裁量は、子どもと直接向き合っている教師におかれるべきです。行事の魅力を特集した『みんなのねがい』で、石田誠さんと塩田奈津さんは、行事の中で大人も子どもも集団として育つことを指摘しています(2022年12月号)。

 発達保障のために学校は何を大事にすべきか、今日の学校は、他者とともに豊かに全身で学べる場所になっているのか、子どもの姿と現場の状況に基づいて議論できるような体制が求められます。

(3)子どもの学びの場を機械的に決めないで
 現在の通常学級で、すべての子どもがゆたかに学べているかと問われれば、ノーと言わざるをえません。不登校の子ども、通常学級から特別支援学級へ転籍する子どもの数は増えています。子どもたちの、「この場所ではしんどいねん」という声が聞こえてくるようです。

 特別支援学級在籍の子どもが「大半の時間を通常の学級で学んでいる場合には、原則として週の半分以上を特別支援学級で授業を受けているかを目安として学びの場の変更を検討するべきである」とした、「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」(文部科学省通知2022年4月27日)は、現場に大混乱をもたらしました。保護者や子どもたちと学校の丁寧な話し合いの上で、「籍は特別支援学級におき、一定数の授業を通常学級で受ける」ということを選んできた子どもたちが、やむなく通常学級へと転籍する事態が生じています。転籍を強いられた子どもたちに豊かな学びと学校生活が確保されているのか、事実に基づいた検証が必要です。

(4)障害者権利委員会の総括所見をふまえて
 国連・障害者権利委員会からの総括所見(勧告)は、日本政府報告が使用していた特別支援教育(special needs education)の語ではなく、隔離された特殊教育(segregated special education)という語を用いて、それが永続的しかねない状況に懸念を表明し、インクルーシブ教育の権利の承認を求めています。私たちは、先に述べたように、現在の日本の学校教育が、しんどい子ども、障害のある子どもを通常学級から排除するような状況にあることを踏まえて、通常教育関係者とともに教育改革の運動を進めていかなくてはなりません。まず、通常の学級が、スタンダードに合わせられない子どもたちへの支援ができにくく、排除の力が強く働く場である状況を、一刻も早く改めなければなりません。そうした努力抜きに、通常学級しか選べない状況にすることは、子どもの守られる権利・育つ権利の侵害にもなりかねません。一方で、特別支援学校の中にも、未だに「18歳で一般就労できる力」ばかりを一面的に重視するなど半世紀以上も前の「差別としての特殊教育」を想起させる差別的な傾向が残されており、こうした状況を変えていくことも必要です。

 通常の学校も特別支援学校も、子どもの人格を尊重し、全人的な発達を保障する学びの場になっていくことが徹底されなければなりません。そのためにも、子どもたち一人ひとりの発達的要求を丁寧につかむことができる体制が求められます。

 「通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議」報告がなされ、同日通知も発出されました。すでに指摘してきたように、通常の学級も特別支援学校も困難な状況に追い込まれる中で、障害のある子どもたちの発達を保障するものとなりうるのか、教員配置や学校教育などの条件整備、子どもの実態に即して柔軟に運用できる教育課程編成権の確保など多角的な検討が必要です。

(5)ゆたかな生活のための放課後保障
 放課後や休日の生活を支える放課後等デイサービスは、感染症拡大防止・対策と、日額報酬制の矛盾の中で、極めて厳しい状況に立たされています。2021年4月の報酬改定での基本報酬の引き下げ、経験ある職員の配置に対する加算の廃止は多くの放課後デイ事業所で収入減に直結しています。子どもの状態をチェックして該当する子どもに加算する個別サポート加算は、子どもを見る目を曇らせます。

 放課後デイは、子どもたちとともに遊びや生活を創造し、取り組みをゆたかに展開してきました。次期報酬改定で「特定の領域に対する重点的な支援(特定プログラム)の提供」がどのように組み込まれるのか注目する必要がありますが、放課後の場に特定の課題を課す訓練の役割を担わせることは、こうした自由度の高い取り組みと矛盾します。子どもたちに、ゆたかな放課後生活を保障する実践とその専門性について検討を深め理論化していくことがいっそう求められます。


Ⅲ 成人期の情勢と課題

 新型コロナウイルス感染症の流行から3年、私たちの行動・生活様式も様変わりし、成人期の障害福祉現場も大きな影響を被りました。それへの制度的対応が遅れた影響が、様々な場面に出ています。また障害者の人権の確立が永年にわたって放置されてきたことの堆積が、当事者のねばり強い運動により歴史的かつ重大な社会問題として表出しています。
 
(1)障害のある人の暮らし・人生の家族依存問題の早急な解決を
 障害のある人の暮らし・人生は家族が支え続ける、この国の諸制度の大前提をなしてきた考え方ですが、その先にはいわゆる「老障介護」にともなう深刻な問題が生じています。地域で限界を超えた状態で生活を続ける中で、家族全体が疲弊している状況も報告されています。

 このような状況下で、国連の総括所見は「障害者の施設入所を終わらせるために迅速な措置をとる」ことを日本政府に求めました。この勧告において言及されているように、誰と暮らすのかを決めることや、特定の場所で暮らすことを強制されないことは基本的人権として非常に重要な問題です。

 一方で、現状の障害者の暮らし・人生の家族依存をどのように解決するのかという道筋が見えない中で、(総括所見の勧告によって)暮らしに関わる社会資源が制限されることに危機感を覚える関係者も多くいます。2021年時点のNHKの取材は、入所施設での生活を希望し待機している障害者が、少なくとも27都府県で延べ1万8640人に上ることを明らかにしました。国による調査がないことや待機者数を把握していない自治体も多いことを考えると、実際の待機者はさらに多いとみられます。まずは、全国的に非常に多くいると考えられる入所施設やグループホーム等の待機者の実態を正確かつ詳細に把握するための基準と方法の確立が必要です。

 障害のある人と家族双方が当たり前の人生と関係を築けるようにするために、ライフサイクル上の適切な時期に自立できるための仕組みと社会資源の充実が喫緊の課題です。
 
(2)障害のある人にもディーセントワークの保障を
 障害のある人の福祉的就労をめぐっては、依然として新型コロナウイルスの影響が継続している、以前のような仕事内容・工賃水準には回復していないという事業所が多くあります。また一般就労している障害者の雇用回復も依然、途上です。一般社会は、コロナ流行前の生活に戻りつつあり、景気も回復傾向にありますが、それは障害のある人たちまでゆきわたっていません。このことは、「障害者は最も遅く雇用され、最も早く解雇される」という、効率性重視の資本主義社会における行動原理の表れであり、障害のある人が労働環境において弱い立場であることが露呈しました。

 この間、障害者の法定雇用率は引き上げられましたが、達成企業の割合はいまだに半分に過ぎません。その上、他社の雇用率達成を受託して働く場を提供する「障害者雇用代行ビジネス」なるものも拡がりを見せています。こうした動向は、障害のある人の「開かれた労働市場への移行」(総括所見)を促進すること、ましてやそこで、働くことのねうちや同僚との協同をわがものとすることとは無縁のものです。

 福祉的就労であれ一般就労であれ、障害のある人たちのもてる能力を最大限発揮し、当事者がやりがいを実感でき、また社会に貢献するというディーセントワークを保障が喫緊の課題です。
 
(3)障害のある人の政策決定への参加を位置づける
 障害のある人の投票行為に関連して、合理的配慮提供を求める当事者たちの訴えが実り、選挙権の行使に一定の前進がみられました。しかし、議場のバリアフリー化や障害のある人の被選挙権の行使には依然として大きな課題が残されたままです。

 共同通信社が2022年に地方議会全1788の議長宛に実施した調査では、議会の「バリアフリー化」が進んでいるという回答は39%に留まり、段差の解消は24%、一般傍聴席における車いす対応席の設置は49%、視覚障害議員向け設備は7%と、議会の傍聴や議員活動の展開における障壁は山積状態であることが明らかにされました。

 障害者権利条約をこの国で具現化するためにも、政策決定過程への当事者参加は不可欠な条件であり、選挙権及び被選挙権、議会の傍聴等あらゆる場面において、合理的配慮を保障することのできる制度と条件の整備を求めていかなければなりません。

(4)障害のある人のケアする権利の確立を
 障害のある人のノーマライゼーションを追求するうえで、ライフサイクルにおけるノーマルな経験として子育てや介護等、他者をケアする権利も、当然、他の者と同様に保障されなければなりません。

 旧優生保護法下において実施された本人の同意を得ない形での不妊手術という重大な人権侵害事案はけっして過去のものではありません。旧優生保護法下の人権侵害問題について、正義・公平の理念に基づき、「除斥期間」を適用せず、すべての優生手術被害者の被害回復と救済を求めていくことと同時に、現代においてもなお、本人に拒否する権利を保障しないまま不妊手術が実施されている事例があるという実態を早急に改めなければなりません。そのためにも障害のある人にもケアする権利があることについて明確にするとともに、現実に子育てや介護を行うための社会的支援のあり方についても検討する必要があります。例えば、ホームヘルプ制度における子育て支援の枠組みや、グループホームや地域生活の中で子育てをどのように支えるのかということについての制度的裏付けが必要です。

 2021年からは障害基礎年金と児童扶養手当の併給調整の枠組みが変更になり、障害基礎年金の子加算部分と児童扶養手当の差額が支給されることとなり、障害のあるひとり親と二人親の間の格差は解消されました。しかしながら本来は、障害のある人がケアするために必要な追加的費用が勘案されるべきであり、障害基礎年金の子加算のあり方の見直しなど、個別の事情に応じた追加的な費用の保障がされなければなりません。


Ⅳ 研究運動の課題

(1)困難の中に潜むねがいを深くとらえる
 自己責任と家族依存を前提とした社会保障費の大幅な削減に、物価高騰が追い打ちをかけ、障害者と家族の困難はいっそう深刻化し、ますます声をあげにくくなっています。コロナ禍が障害者の生活と発達にもたらした影響についても、今後長期にわたる検証が求められます。そのためにも、障害者の直面する困難の実態とそこに潜むねがいを深くつかむこと、実践現場で働く人たちの苦悩を語り合い、聴き合うことが大切です。各地域で、社会の困難や矛盾が集中的に顕在化しやすい障害者の権利侵害の実態と構造を明らかにする調査研究に取り組みましょう。自らのねうちを市場経済のものさしで競わなければ生きられない社会ではなく、人びとの連帯と支え合いが広がるなかで、障害者の尊厳を守り、発達保障が前進するような社会を描きましょう。

 さまざまな困難の中でも、障害のある人の生活の質を高めようとする実践が各地で、各分野で積み重ねられています。一人ひとりが生活のなかで感じる楽しみや幸せのなかに、発達の土台となる生活の質を豊かにしていく課題を探り、そうした豊かな生活を支える制度が地域で格差なく整えられているかを検証しましょう。

(2)つながって学び合おう
 私たちの研究運動は、ライフステージを貫いて一人ひとりの生活を見つめ、地域の実情を学び合い、立場や職種を超えて語り合うことで、発達保障の課題を掘りさげてきました。

 この間、オンラインを活用した学習活動も広がっています。全国大会をはじめとして、「教育と保育のための発達診断セミナー」、「発達保障のための相談活動を広げる学習講演会」、「『障害者問題研究』を読む会」や研究推進委員会のオンラインゼミでは、理論や実践を学び合うことを通して、仲間とつながることのねうちが実感できます。

 多忙化のなか、自分の思いや考えを表現することがためらわれたり、他の人や同僚と話をする機会がもちにくくなっています。だからこそ、ささやかな疑問や違和感を手放さず、お互いの悩みや迷いを安心して語り合える場をつくっていきましょう。実践の現場では、ここまででも見てきたように、人間らしく働く権利が奪われやすい状況が広がっています。だからこそ、障害者の発達と幸福の実現に寄与したいとねがう人たちに発達保障労働の魅力を伝え、ともに働く仲間として加わってもらうためにも、実践者としての誇りを持って働き、自らの将来の仕事と生活を展望し、専門性を高め合える職員集団づくりを進めていきましょう。

 そして、自分の生活や実践をレポートに綴ることにも、励まし合って取り組みましょう。実践記録を読み合い、仲間とともに考えるなかで、それぞれの実践の個性や共有すべき課題が見えてきます。来年の第58回全国大会(奈良)に向けたレポートづくりを進めましょう。

 身の周りの実態や問題を学ぶことは、自分の実践や思いを言葉にして伝えたり、他の人の思いや考えをより深く理解することを助けてくれます。人とつながるための学びを支部やサークル活動のなかで深めていきましょう。
 
(3)足元から平和と人権を展望しよう
 不安と緊張が高まる国際情勢を口実に、政権とそれにすり寄る勢力が軍備拡大を推し進め、平和憲法を破壊することを許してはなりません。戦争や災害による命の危機が世界規模で起きている今こそ、国際平和を実現するために戦争の道を選ばず、戦力を持たないことを定めた日本国憲法第9条がもつ普遍的価値を現実の力とする努力が求められています。

 私たちの研究運動は、憲法が掲げる恒久平和や基本的人権を障害者の生活と権利において具体化することで、憲法を守る取り組みの一翼を担ってきました。たとえば、65歳を境に障害福祉サービスが利用できなくなる不条理を千葉市に訴えた天海訴訟は高裁で勝訴しました(千葉市は上告)。費用負担なしに自分らしい生活をきずきたいというねがいを実現するために、介護保険優先原則の廃止が求められます。

 旧優生保護法による強制不妊手術の国家責任を問う裁判。司法は憲法違反を認める一方で、被害から20年を経過すると賠償を求める権利が消滅するという「除斥期間」を理由に原告の訴えを斥けてきましたが、この間、二つの高裁で勝訴が連続しました。しかし国は控訴、上告しています。強制不妊手術という人権侵害ととともに、権利に期限があるのかという重大な問題が提起されています。6月、国会の調査室は被害の実態調査報告書原案を国会に提出しました。その内容も精査しつつ、この間、関係者の努力によって積み上げられてきた調査研究を土台に、人権侵害の事実を明らかにしていく必要があります。

 そして各地で広がる投票バリアフリーの運動。「障害のある人の投票のための合理的配慮」を調査し要望した日本障害者協議会(JD)の要請や国連の総括所見を受けて、国(総務省)は12月に都道府県選挙管理委員会に実態調査を行い、ホームページで公開しました。NHKも「みんなの選挙」の一環として市区町村選管に調査し、積極的に報道しています。

 障害者の権利保障を勝ち取ろうとするこうした努力は、日常生活や実践の足元から憲法の理念や価値を確かめること、平和と人権について語り、学ぶことの大切さを教えています。

 日本障害者フォーラム(JDF)のパラレルレポートづくりのとりくみなどに象徴される、障害者のねがいを束ねる努力に思いを寄せ、総括所見に照らして、目の前の生活や実践の事実を検証し、発達保障・権利保障の課題を明らかにしていきましょう。
 
(4)発達保障のうねりをつくり出そう
 私たちの研究運動は、生活や実践の事実を多様に持ち寄り、ねがいを束ねていくことで、発達保障・権利保障の原動力を蓄えてきました。そのために、一人ひとりが、立場や職種を越え、地域を結んで、互いが研究運動の担い手として育ち合うことを大切にしてきました。

 そうした研究運動の拠りどころが月刊『みんなのねがい』です。誌面からは、生活のぬくもりや実践の息づかいが伝わってきて、最新の問題や発達保障・権利保障の課題を学ぶことができます。地道に続けられる読者会の経験も交流し合いながら、読者から読者へと輪を広げていましょう。

 実践と切り結んだ理論の学習には、季刊『障害者問題研究』が欠かせません。「『障害者問題研究』を読む会」では、一人で読み進めることが難しいからこそ、仲間と読み合うことで、多面的な問題の理解や新たな課題の発見につながります。

 私たちの研究運動のすそ野を広げていくためにも、地域や職場のなかで「語りたい」「学びたい」という要求でつながる場を作ることが大切です。オンラインの活用も進んでいますが、そこから取り残される人をなくす取り組みも考えていきましょう。全障研出版部の出版物も活用しながら、語り合いや学び合いの文化を受け継ぎ、学びの層を厚くしていくことが、発達保障・権利保障を前に進める土台となります。

 私たちは、どんなに小さなねがいであっても大切に語り合い、個人と集団と社会という発達の三つの系を結び合わせて考えることで、権利保障の筋道を描き出し、発達保障の未来を展望してきました。そうした全障研運動の魅力を伝え合い、私たちの研究運動に多くの人を誘い合って、発達保障のうねりをともにつくり出していきましょう。

 

2023年08月06日