障害者権利条約を考える 2005年版
国連では、障害者の権利条約制定の動きが急ピッチですすんでいます。昨年5月には第3回、8月には第4回の特別委員会が開催され、
条約交渉に入りました。今年は1月、8月に2度の特別委員会が予定されています。
日本政府(関係各省庁)とNGOのJDFとの会合や勉強会も活発化しています。全障研は、昨年、玉村公二彦(奈良教育大学)、
青木道忠(大阪支部長)、中村尚子(副委員長・立正大学)の3名を国連に派遣し、
加盟するJD(日本障害者協議会)の一員として日本を代表するNGOのJDF(日本障害フォーラム)で任務をはたしました。
また「障害者権利条約資料集1」を作成するなど、特別プロジェクトチームによる情報収集や分析活動を行っています。
今年も引き続き代表を派遣し、国連の会議内容をできるかぎりお知らせします。
■国連・第6回特別委員会 (ニューヨーク 国連本部) 2005年8月1日〜12日
前半に玉村公二彦さん(奈良教育大学)、三島敏男さん(障全協)が、後半に品川文雄全国委員長が参加しました。
○障害者権利条約に関する国連総会アドホック委員会第6回会合(概要) 外務省
玉村公二彦さん |
三島敏男さん |
品川文雄さん |
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■NY品川FAX<6>
朝、メトロポリタン美術館までニューヨークの街を歩く。1時間近くかかる。途中からセントラルパークの側道になる。大木の並木道を歩く。リスもいた。
9時15分に美術館につくと、かなりの人がのんびりと待っていた。開館の動きがあるとさっと並んだのが日本人。日本人はせっかちである。
MOMAはUNのカードを見せると無料だったので同様に提示すると15ドルが7ドルになった。しかし後から来た人は15ドル。どうも学生だと思いちがいされたらしい。エ〜、55歳男をつかまえて学生?
メトロポリタン美術館もきら星のように輝く作者、作品が続々と。まさにアメリカ帝国主義の力である。一番みたかったフェメールは時間をかけて見る。満足!
午後3時から6時まで、最後の会議に参加。
驚いたのは、この2週間検討したことを、もう一度文章(英文)にして、それについて意見を求めていたこと。まず草案があり、出された意見を、一致したもの、大勢をしめたもの、まとまらなかったもの(どこがどのようにまとまらず、検討するのか、保留するのか)など、整理されているらしい。
各国やNGOの代表が異論や訂正を求めると、議長がそれについて会議中に話されたことを述べ、採用したり、やんわりことわったりしていた。また、一つひとつの条文検討の際、まとまりかけていたのにひっくりかえす意見がでたときも、草案を否定する意見がでたときも、よい意見が出たと受けとめていたことは印象的だった。
議長は、さまざまな意見を討論の全体像に位置づけて整理していく。民主主義の討論とはそういうことであり、各国の事情が異なる中で、このように討論しなければ、条約やその他の規約などはできないだろうなと感じた。
条文をまとめていくファシリテイターも必ず数名で討論し、案を練り上げる。それを昼休みや夜に行うらしい。驚いたのは、ある条文の作業を2名で行ったら、それは公式に認められないと言ったこと。すごいと思った。
この委員会の検討に基づいた議長の草案は早く出したいとのこと。
第7回特別委員会は、来年1月に3週間の予定で行うらしい。
3週間も…と思ったが、ここまできたら一気に、ということらしい。
人権高等弁務官からアドバイスも行われたり、「へえ〜」の連続。
他の条約のモニタリングも行われる。
※品川委員長は、無事、帰国しました。
上の報告は、ニューヨークで書いたものを、日本で受け取ったものです。
■NY品川FAX<5>
いよいよ最終日である。
1日、6時間、濃い内容の討論。私は5日めであるが、10日間もやってきたということである。昼休みにはサイドイベントもあり、世界から集まったみなさんは(体力・気力ともに)すごいスタミナの持ち主である。
まずは昨日の報告。モニタリング(25条)である。モニタリングは、どのスピーカーも重要と言い、これがきちんとしなければ条約は意味がないと言った。しかし、その後が微妙な言い回しになるのである。当然、国際的モニタリングシステム、国内的モニタリングシステムなどはあるべきも言うが、どうも女性や子どもの権利条約ではモニタリングがうまくいっていないらしく、歯切れが悪くなる。あまり厳しい内容にすると各国の負担が多大になる、しかしあまいな内容にしたら意味がなくなる、そんなジレンマが感じられた。唯一、どのスピーカーからも「当事者の参画」は語られた。どう参画するのかは今後だと思うが、この点は一致できるようである。
SCAP(アジア太平洋地域)主催のサイドイベントにも参加。
国際協力のあり方を話し合う。いわゆる先進国からは理念が、開発国からはそうは言ってもお金が必要と語られた。モントレーコンセンサスという重要文書には、GNP1%を協力費にまわすと書かれているが、大国ほど行っていないという発言には、そうなんだと思った。
「障害者はどうしても貧困の状態に陥りやすく、識字率も低い。開発協力も多様な包括的プランが必要」というヨルダンの人の発言も印象に残った。
番外編。MOMAはよかった。セザンヌとピサロの2人展をしていた。また、ピカソ、ゴッホ、マティス、アンヂィウォーホールなどこれでもかとあった。
■NY品川FAX<4> 8月11日
先週はニューヨークは超暑かったそうだが、今週はがまんできる暑さ、雨も8日に少し降っただけで
本日も青い空が広がっている。
昨日は第22条:労働の権利と第24条:文化的生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加。
どちらもむずかしい課題が山積。22条は合理的配慮と特別措置、24条は「ろう文化」の評価(特記するかどうかで意見が平行線か)
「労働の権利」めぐっての感想は、”働きたいし、働く能力があるのに、働けない”ということをどう改善するか。労働への権利を
どう保障するかに、その通りと思う一方で、正直違和感も感じる。障害の重い人たちの労働への保障はどう位置づけるのかが
ハッキリしない。障害者というだけで働けない人はたくさんいるが、すべての障害者の労働への権利という視点をしかりすえないと
どんなものだろうかと考えてしまった。
”同一労働同一賃金”という考えは当然としつつ(差別ないように)、働くという意味、労働に対する賃金の意味、
いまの企業の論理ではその理念は実現は困難だろうし、そのための国の施策はどうするのか?
そういうかたちでの施策に対する国民的合意をどう形成するかなど、
特別委員会の中心的論議からははずれて、一人考えこんでしまった。
■NY品川FAX<3> 8月10日
第22条の前に、第23条 社会保障と十分な生活水準から検討した。
案では社会保障が第一項目であったのを「十分な生活水準」の方が基礎となるものであるとの理由で、
第一項目になった。これは反対なし。また、この二つを条文として独立させるという意見もあったが一致をみなかった。
「十分な生活水準」とは衣食住の保障の権利。ここで議論になったのが「清浄な水」。これを削除すべきと言う意見と
これこそ十分な生活水準の基礎であり重要との意見もあった。この条文は貧困問題とも関わるし、
世界的には「水」が大きな課題となるのだと改めて認識した。
社会保障の問題でも、社会保障の概念より、社会的プロテクションの方が広い概念であり、
社会的アシスタント、セーフティネット、、、といろいろ言葉がでてきたが、それらの構造がわからず。
「重度重複の障害のある人、、、」という項目があったが、、、、。特定の集団を特記すると、対となって
「特定でない」が生じるので、こうした記述はさけるべきというような意見が大勢なのか。
政府代表の意見では、全体として社会保障の項に関して慎重な対応があった。あまり高い水準で条約ができると
自分たちの首を絞めることにつながるからだ。
また、条文をあまりに具体的に書くと、すぐ時代遅れになるという配慮からか、細かい記述をさけるようだった。
印象に残ったのは、世界的な生命保険会社が国によって障害者の加入の在り方が異なる(加入させないほうが多い)
ダブルスタンダードというのが実情で、だから一国でなく、こうした各国間での帰省が必要ということ。
また、社会保障をみとめない宗教上の課題もこうした国際会議では議論になることだ。
この後、第22条 労働の権利 を討論。どの発言者も重要と言いながら、
議長が提案した「合理的配慮」と「肯定的措置」についてつっこん議論はさけているのかなと思った。
日本政府代表が提案した割当制度(保護雇用)については反対の意見もあった。
○昨日は朝と夜、グランドセントラルステーションに行く。見学である。古き良きアメリカというフンイキ。
夜は外務省の角参事官を囲む交流会。
国連本部会場で(玉村公二彦さん撮影)
■NY品川FAX<2> 8月8日夜
空港と同じような厳重なセキュリティーの国連本部。入国時と同じく顔写真を撮られる(指紋はなし)。この写真が
パス・IDカードとなる。無事、あの国連の中へ。建物は老朽化が目立つ。
あ、そうそう、第一報FAXの後、街のサンドイッチ屋さんで食事をしました。とにかくデカイ。ハーフサイズを注文したけど
デカイ。バターもたっぷりぬるので思わず「チョット!」と叫ぶと通じた。第二報は内容内容!
本日は第21条(健康とリハビリテーションに対する権利)。議長(ドン・マッケイ=この人とてもすぐれている!)が指名すると
次々に各国代表が発言。ほとんどの国が健康への権利とリハビリの確保(まだ「権利」とするのには時期尚早?今回の条約
では新しい権利はつくり出さない合意があるよう)の条文をそれぞれおこすことについて表明し、確認した。
リハビリテーションについても医療的リハビリ、社会的リハビリ、経済的リハビリ、文化的リハビリなどがあり、
健康への権利に入るのは医療的リハビリテーションのみになってしまうという理由から主張されているようだ。
リハビリテーションとハビリテーションからも考える必要があり、それぞれの概念についてさらに深める必要がある。
印象に残ったのは議長の力。各国の思惑のある発言をこれまでの討議、
その他の権利条約をふまえさっさと整理していた。つぎに議論が急ピッチですすんでいること。
私たちものんびりと構えてはいられない。本腰を入れて検討すべき時期にきていると実感した。
さらに当然と言えば当然だが、各国は条約案をよく読んでいて、各条文の重複する部分への指摘ゆえに、
「ここでは削除」とか「○条に移す」という提案があったり、条文をいかにシンプルなものにするか様々な提案があった。
また、どの条文でもそうであると思うが、各国の現状、理念、思惑が発言そのものにも、発言の裏に隠された部分
からもうかがうことができた。バチカンはさすがカソリックの総本山!=哲学的宗教的、倫理的な問題を提起し、
アメリカ合衆国は「漸進的」という表現であまり積極的でないことをアッピールしたり、
日本は2つの条文に分けても分けなくてもいいとあいまいなことをいっていた(あとで聞くと厚労省の意見であるとか)
条文に最終的にどう反映されるかわからないが、いくつかの国から早期発見、早期介入の問題。
サービス提供にかかわってコスト=無償とはいわないが入取可能な価格でという発言も印象に残った。
以上、詳しくは玉村さんが「短報」にまとめてくれるらしいのでそれをみなさん読んで欲しい。
午後は、時差ぼけからか、ノートにたくさんのみみずのはった跡が。朝の10時〜午後1時、午後3時〜6時と
休まず検討するパワーには脱帽!
夜は日本食堂に行って食事。餃子、豆腐、みそ汁に満足。ちなみに昼もsushi。
○国連 障害者の権利条約 8月8日 短報 (奈良教育大 玉村公二彦)
■NY品川 FAX<1> 8月8日
海外旅行を否定していた私が、なんと、アメリカ合衆国・ニューヨークにいる。
(注 品川委員長は「偏食」があり、和食以外の食事は考えられないと言っていました)
目の前にクライスラービル、エンパイヤステートビルが見え、今の今までホテルの部屋で
衆議院解散のNHKニュースを見ていた私だが、やっぱりニューヨークなんだと思う。
11時間半のフライトはきつかった。でも、たぶんアラスカ(だとおもう)の真っ白の山々が見え、
湖沼地帯、五大湖のいくつかが見え、「窓際に座るな」といわれていたことを忘れ感動した。「窓際」は私の意志なし。
(注 長時間のフライトはなんどかトイレに行かねばならないので「通路側」が便利とのアドバイスをしていました)
入国手続きで国連からの文書を見せたら「これは8月1日からではないか」と指摘され、あとは日本語でしどろもどろ
(注 国連・障害者権利条約特別委員会は8月1日から始まっており、「参加証明書」も1日からの発行日付であったためか)
でも「NGO! ・・・!」などと言い、私の人格(?)から入国を許可された。
ホテルまでのタクシーはとばす、とばす・・・ ドキドキで乗っていた。
法外な料金もとられず( I need レシート! と言ってケンセイした)無事ホテルに到着。
チェックインをすませ、部屋をチェック、入浴しているうちに午後8時
(注 時差の関係でこの日は一日が40時間、日本時間では翌朝6時です)
もう眠たくて、、、寝てしまいました(2、3時間おきに寝付かれず目が覚めましたが)。
そして、今、朝を迎えたところです。
いよいよ、ホテル向かいの国連本部へ。9時には、玉村さん来てくれるかなあ。
(注 前半から参加している玉村さんがホテルのロビーにむかえに来てくれる約束なのですが、、、)
■関連情報
○国連 障害者の権利条約(リハ協)
JDF傍聴団の記録。寺島さん(浦和大学)が前半の5日間、8日:玉村さん(奈教大)、9日:川島さん(新潟大院)、
10日:大窪さん(早大院)・崔さん(DPI) などからの「短報」が掲載されています
○JDF(日本障害フォーラム)第6回特別委員会への要望書
○国連の第6回特別委員会web(英文)
■ガレゴス議長来日! 権利条約とADAでセミナー開催
国連障害者権利条約特別委員会議長のルイス・ガレゴス・チリボガさんなど講師に、
日本障害フォーラム(JDF)と国連障害者の権利条約推進議員連盟が主催して、
3月7日午後、第一衆議院議員会館第一会議室でセミナーが開催されました(写真)。
ガレゴス議長は「障害者権利条約の意義」を講演し、障害者やNGOとともに、新しい条約の効果的な実施とモニタリングのために
「新しい障害コミュニティー」づくりを強調されました。
そして「この新しいコミュニティーを、政府、障害者組織、学者、実践者、学術機関、そして市民グループをまきこんでつくっていくことは、障害者の権利の推進を
政策課題として優先づけることになる」
「まちがいなく私たちはすべて、従来からの関係者と新たな関係者とによる新たな「障害者運動」の一員である。各々には各々のこの「新しい運動」の役割がある」
とのべました。
「ADA15年ー雇用と合理的配慮から」として講演したマイケル・スタイン(ウイリアム&メリー大学ロースクール教授)さんは、
けっして雇用率で伸びていない現状をリアルに指摘しながら
「障害者の雇用を考えるにあたっては、平等なとりあつかいと偏見からの自由を確実にするだけではなく、平等がもたらされるための手段も欠かせない」と語りました。
会場は障害者関係団体や国会議員などで超満員。
■国連・第5回特別委員会 (ニューヨーク 国連本部) 2005年1月24日〜2月4日
○障害者権利条約に関する第5回国連総会アドホック委員会(概要)外務省 2月5日
障害者権利条約の条文構成(案)
(注:2004年1月に条約草案作業部会が作成。現時点ではこの構成に基づき議論を進め、内容が固まってきた段階で必要に応じ整理・統合していくことが合意されている。なお、「bis」の各条文は、これまでの議論の過程で別途独立の条文を設けることにつき合意乃至提案があったもの。)
前文
第1条:目的
第2条:一般的原則
第3条:定義
第4条:一般的義務
第5条:障害者に対する積極的態度の促進
第6条:統計とデータ収集
第7条:平等及び非差別
第8条:生命の権利
第8条bis:緊急時の保護
第9条:法の下の平等
第9条bis:司法へのアクセス
第10条:身体の自由及び安全
第11条:拷問並びに残虐な、非人間的な又は品位を傷つける取り扱い又は罰
第12条:暴力及び虐待からの自由
(第12条bis:医療行為(入院)とインフォームド・コンセント)
第13条:表現及び意見表明の自由並びに情報へのアクセス
第14条:私生活、家庭及び家族の尊重/(プライバシーの尊重)
(第14条bis:家庭及び家族の尊重)
第15条:自立生活及び地域への包含
(第15条bis:障害を持った女性)
第16条:障害を持った子供
第17条:教育
第18条:政治生活及び公的生活への参加
第19条:アクセシビリティー
第20条:個人のモビリティー
第21条:健康及びリハビリテーションの権利
第22条:労働の権利
第23条:社会保障及び相当な生活水準
第24条:文化的生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
第24条bis:国際協力
第25条:モニタリング
●論文 中村尚子(立正大学・全障研副委員長)「私たちの手で障害者権利条約を実現しよう」
**速報性を重視していますので、まちがい等があるかもしれませんが、その点はご容赦ください**
玉村公二彦さん |
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■NY玉村レター (第6報)
第5回特別委員会 第5日目 1月28日
玉村@奈良教育大学です。前半を終え、無事に日本に帰国しました。
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5日目(1月28日) 10時25分開会
はじめに、議長のマッケイ大使から、議論を早く進めようとしているが、しかしもっと丁寧に議論すべきであるとの意見もあること、これから進めていくベースとなる条文をつくっているので、フレキシブルなアプローチでテキストいじりではなく内容をどうするかを検討してほしい、最終の合意ではないので後に戻ってくることと、フォーマルな会議に反映させたいという指摘があった。
昨日の続きで、第11条のパラグラフ1を終え、パラグラフ2の議論。
前半部分(「締約国は、障害のある人が十分な説明に基づくその自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けることを禁止し、かつ、当該実験から障害のある人を保護するものとし」について、韓国等から「前もっての同意」(prior)の挿入、ニュージーランドから、「インフォームドコンセントへの権利」をbisとするなどの提案があった。前半部分韓国提案をいれて「自由な前もっての同意なしに」とすることについて、「明確に示された」をつけるなどの意見もあったが、「前もっての同意があっても、実験途上で問題が起こることもある」との懸念が示され、「free informed
consent」は十分に理解されている概念(ニュージーランド、オーストラリア)との指摘があると共に、人権高等弁務官事務所からも説明があり、基本的には「前もって」は入れない方向となった。また、タイから、「医学的又は科学的実験」のあとに、「その他の形態の実験」をいれるという提案もあり、それも含めて、ファシリテーターとの協議が要請された。
後半部分について(「いかなる実際上又は認知上の機能障害をも矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入又は強制的施設収容から障害のある人を保護する」)、10条にいれるという提案が多くあった。コーディネーターから、自傷・他害などもあり、強制的介入や強制的施設収容は難しい問題をはらむものであることが指摘されたが、「実際上又は認知上の機能障害の矯正・改善・緩和」に限定した強制介入・強制収容からの保護という点については合意がなされた。マッケイのまとめとして、強制収容の問題については条約のどこに入れるかは問題ではあるが、内容的には合意がなされたとみなされた。なお、11条の問題は、12条の協議を終えて、10、11、12条全体の構成を見てゆくこととなった。
第12条「暴力及び虐待からの自由」
12条について、作業部会での議論では以下のような諸点での指摘があった。
・暴力や虐待についてどれだけ書くべきか。さらにもっと追加すべきという意見もあるし、簡略にという意見もある
・この条文の範囲を家族にまで広げるか
・モニタリングや司法手続きについて
・重複の問題(パラ2の強制的介入又は強制的施設入所は第11条にもある)
・障害者、介助者、家族の啓発、暴力の報告の問題
・その他
12条についての一般的なコメントが要請された。全体的に長すぎるので簡潔に(ヨルダン)、締約国が暴力や虐待に取り組むメカニズムを立法や政策などを開発する義務を課す(EU)、障害者の中でも特に女性や女児が暴力や虐待にさらされているので女性や子どもを取り上げる必要がある(カナダ)、戦争や紛争の中で暴力の犠牲になっていることは重大(イエメン)などの指摘あり。
12時終了。午後も12条の協議の継続。
3時30分再開
12条の議論を再開する前に、9条でチリの提案があった司法へのアクセスを、9条bisとするファシリテーター案ができているので紹介。
「締約国は、調査や前段階のものを含むすべての法的プロセスにおいて直接的かつ間接的な当時者としての積極的や役割を促進し、他の人と同等を基礎として、障害のある人が司法に効果的にアクセスすることを確保する。」
提案したチリは、司法へのアクセスは、ガイドライン的なものを示すのではなく、一般的で柔軟なものでなければならないと指摘。
12条のパラグラフごとでの協議。リヒテンシュタインから、条項として多すぎる内容となっており(11条との重なり、一般義務の中でふれられるべきものもある)、短くして再提案してほしいと要請があった。11条との関係で、拷問と虐待との区別の問題があり、各国からの要請と共に、人権高等弁務官事務所からの発言があった。11条の拷問は、国家が行う行為であり、12条で扱う暴力・虐待は第3者が行う行為であり、被害を受けないように国家が保護すべきものであると整理された。その上で、以下のようなファシリテーター案が紹介された(パラ1ファシリテーター案)。
「締約国は、経済的社会的搾取や虐待を含んだ、あらゆる形態遺棄、暴力、傷害、精神的ないし身体的虐待、拉致、いやがらせ(ハラスメント)、放置ないし怠慢な取り扱い、不当な取り扱い又は搾取から、住居の内外において、障害のある人と家族を保護するため、すべての」適切な立法上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとる。」
ファシリテーター案の家族への言及の削除の提案(コスタリカ、ジャマイカ、EU等)、女性・女児への言及の提案(カナダ、南アフリカ等)などがあり、さらにリスト化をさけ簡素化するという提案もあった(EU、ロシア、ノルウェー等)。また搾取に関して、EU(ルクセンブルク)から経済的搾取を削除の提案もあったが、子どもの権利条約の34条で性的搾取、32条で経済的搾取、36条であらゆる形態の搾取としていれられていることがマッケイから紹介された。以上をまとめて、家族の削除、女性と子どもの取り扱い、搾取の取り扱い、簡潔性などをファシリテーターと協議が要請された。
続いて、パラグラフ2のファシリテーター案を協議。
「締約国は、また、暴力と虐待を防止するために、どのように暴力と虐待の事例を回避、認識、報告するような情報と教育の提供を通して、障害のある人と介助者へのとりわけ適切な形態の支援と援助を確保することによって、すべての適切な措置をとる。」
介助者(caregiver)を入れるかどうかについて、さらに家族を入れるかについて議論があった。家族は必ずしも介助者ではない場合があること、また、介助者などは書きすぎであるとの意見もあった。この点などはファシリテーターと協議してほしい旨が要請され、継続協議となった。
3時終了
■NY玉村レター (第5報)
第5回特別委員会 第4日目 1月27日
5日目になりました。昨日、今日とほほをさすような寒さです。国連内は暖かいですが、外に出ると厳しさを感じます。
なお、これまで報告できてきたのは、通訳の堀さん、渡部さんのおかげです。感謝申し上げます。
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午前中に非公式協議、午後から1時間弱ガルゴス議長による公式協議(特別報告官、国際機関、NGOの発言)、その後、マッケイ大使に議長をかわり非公式協議。
(10時30分開会)
本日の進め方について、マッケイから、3時から公式会議とするとの説明があった。作業部会では、NGOからのインプットが有効であったが、非公式協議ではそれがない、各条項の非公式協議ではバランスを欠いたのではないかと思うこともある。全体会議では障害者団体を含めてコメントをしてもらい、バランスをとっておきたいとのことだった。
第10条の非公式協議
前半部分については合意がなされたのではないかとして、パラグラフ1からパラグラフ2へ。カナダから、(1)パラグラフ2の柱書きに最低限の保障がないこと、ICCPR手続き上の保障がないこと、(2)2-(a)の「障害に基づくニーズ」を「コミュニケーション、言語、設備といった合理的配慮を受けることとする」というように変更する、(3)
2-(b)ではニュージーランド案に賛成で「法的権利」に言及すること、(4)定期的な審査について、定期的を削除(日本)は反対などの提案があった。
柱書きの部分で、メキシコから「民事、刑事、行政その他(自由を奪われた場合)」を挿入、カナダ、EUの「最低限次のような保障を受ける権利」という表現へ修正はどうか。「最低限」という表現が「それさえやっておけば」と解釈されるとの懸念が出されたが、minimumの解釈は「それ以上」ということであると説明、両者できる限りのことをしないと行けないという目的は一致しているので、言語的な問題はファシリテーターと話し合いを要請。
コーカスの意見を反映させたカナダ案の「プロセス、コミュニケーション、言語、施設などに関し合理的配慮を受ける権利を有する」との修正について議論。賛成が多数だが、例示の部分について、細かく述べすぎているという指摘があり(日本)、オーストラリアの修正提案も出た。列記形式をやめ、いくつかの国の案をまとめて案とした。
2-(b)について、情報提供のタイミングの問題が議論された。適切な時間、できるだけ早くでは曖昧であり、より具体的に示す必要がある(イエメン)。マッケイは、自由権規約には逮捕に関わって「すみやかに」とあり、子どもの権利条約では「すみやかかつ直接に」とあると指摘。promptlyなど表現の問題で議論が展開。イエメン、オーストラリアなどファシリテーターと協議が要請される。
サブパラグラフ(c)について、(iii)では「定期的な審査」の問題。日本の懸念は障害の文脈での定期的な審査がよいが、それ以外の移民、安全保障などのところで問題が起こるというものであると説明。ニュージーランド、日本、カナダなどとあってファシリテーターと協議を要請。
サブパラグラフ(d)について「賠償を受ける権利がある」という文章にするという意見がだされた。
(12時 午前中の協議終了)
昼休み アジア太平洋地域のNGO参加者の集まりがあった。韓国、東チモール、日本が参加(写真)。コーカス運営委員として、韓国のキムさんにやっていただくことになりました。
■NY玉村レター (第4報)
第5回特別委員会 第3日目 1月26日 10時30分開会
条項の提案がスクリーン上で行われていったので、今回は正確に条項の行方をおえていません。わかりずらいので申し訳ないです。非公式協議のおおよそと雰囲気をお伝えできればと思います。(玉村)
前日まで、第9条(a)(b)(c)を詳細に討議しており、ファシリテーター(レベッカ・ニコラス・カナダ)によって整理された条項の提案がスクリーン上に示された。
ファシリテーター案は、(a)(b)(c)に対応して、(1)世界人権宣言、ICCPRを踏まえて、法の前における平等の権利を再確認(reaffirm)する、(2)法的能力(legal capacity)について(行為能力capacity to
act)、(3)必要な支援の確保という3つのパラグラフによって構成されていた。(以下、ファシリテーター案や諸提案はスクリーン上で検討され、書きかえられていく作業が続くので、正確な文言は把握できていない。)
ファシリテーター案のパラグラフ1について、昨日からの7条との関係で重複しているという懸念(メキシコ)、再確認(reaffirm)を尊重する(respect)への変更(EU)などの発言があった。議長マッケイは作業部会案から前進してきており、反対はなくrespectの用語に修正して合意がなされるのではないかとまとめた。
パラグラフ2については、法的能力の問題であり、legal capacityとcapacity to
actが同じものとして使われていることに対して問題視された。capacity to actは削除という方向となった。しかし、法的能力(legal capacity)をどう捉えるのかについては合意があるわけでは
ない。ルクセンブルク・EUは、法の前に人として認められれば、法的能力があり、それを行使する能力があって、それを享受することができなければならないと捉えていた。この議論は、昨日から、今日も堂々巡りが続いているという印象が強い。なお、」法的能力の問題と連続して、その行使が問題となり、必然的に行使が困難な場合の支援へと議論は進んでいくので、パラグラフ2と3の統合という提案もでてきた。
コーディネーターのマッケイは、現実的に条約を全体的に見直す必要があり、今の段階では合意ができるものではないが、ファシリテーター案は一つの到達点である。「法的能力」の扱いは今後検討すると注意書きすることにしたい(女性差別撤廃条約も同様の記述があるが、法的能力と行使する能力の区別があるわけではない。脚注をつけるというのも一つの考え)。支援についても、障害のある人は自分の意見を述べ考えを表明する権利がある、求める支援以上の支援であってはならない、必要に見合った支援を行い、障害者の法的権利を傷つけることがあってはならないとした。必要な要素は、(1)法の前の平等、(2)法的能力、(3)支援、(4)必要性と求めに応ずること、(5)独立した機関による予防的な条項(代理的実行:カナダ案からのものでファシリテーター案にはない)ではないかと投げかけた。ファシリテーター案をひとまずおいて、その後の論点について、カナダの修正案が議論のテキストとされていくことになった。
行使に困難がある場合の支援に関連して、カナダ案の修正が議論されていく。ニュージーランドは、カナダ案は行き過ぎているそして代理をすることに強い懸念を示した。カナダも、個人に対する代理人の指名についてはセーフガードがないといけないとして、この措置が限定的で、定期的なレビューを含んだ防御的手段と位置づけ、修正案の修正を行った。
12時終了。午後に継続協議となった。
3時20分再開
カナダ提案をもとに議論の継続。ファシリテーター案とカナダ案修正には、作業部会草案の9条(d)(e)(f)は明確にふれられていないがその要素がはいっているかどうか検討してほしい提起があった。日本は、もれているものはないという立場だが、しかし、司法へのアクセスの保障について指摘した(独立の条項があってもいい)。司法へのアクセスについてはいくつかの国から指摘があった。司法へのアクセスにつては、日本、オーストラリアなど個別に協議し、当事者で文言を作成してほしい旨、マッケイから要請があった。
第9条については、一応、終了。非公式協議によって9条の条項の形は見えてきたが、詳細は、諸提案をした国の個別協議とファシリテーターによる整理を経て、提示されることとなるようである。
日本政府代表団
第10条「身体の自由及び安全」
第10条をはじめるに当たって、この条項が重要性について、障害のある人にとって自由が奪われてきた不幸な歴史を想起しつつ、施設収容や自由の剥奪が時代を映し出すものであり、障害者団体の主張を踏まえて、今後解決してゆく課題と位置づけた。なお、ファシリテーターはレベッカ氏(トリニダードトバコ)であるという紹介があった。
その上で、マッケイは、条項の検討においてはいくつかの留意点を示した。具体的には、刑法の中での関係やシビルコミットメントについて、強制的な収容の問題について、条項としては1-(b)の脚注(35)(36)(37)に留意すること((35)自由権規約委員会では刑事事件のみだけではなく自由すべての剥奪に適用するとしている)、また、1-(b)については「障害を理由として」を「障害のみを理由として」とするかどうか(solelyを挿入するかどうか)、2-(a)の「障害に基づくニーズの考慮」をどう考えるか、また、刑務所等への収容に配慮する問題での法的枠組みについてなどである。
議論は、パラグラフ1の(a)(b)からはじまった。特に、障害を理由として自由の剥奪されないことをしめした(b)について、EU、イエメン、日本から「障害のみを理由として」とsolelyないしexclusivelyを挿入するという意見と、メキシコ、タイ、ノルウェーなどが表向き障害を理由とせず自由の剥奪や強制収容が起こっている点を指摘して、とsolelyないしexclusivelyの挿入に反対する意見が鋭く対立した。
妥協案として、オーストラリアからのパラ1-(b)の代替案が提案され、スクリーン上で書きこまれていった。(残念ながら、スクリーンが遠くて代替案を書き取れずなかった。)オーストラリア案は、「障害のみ」という表現を回避するものであるが、タイなどはそれでも同じものと指摘した。その結果、若干の文言の修正があり、各国で協議を行ってほしいとされた。
パラグラフ2について、日本、メキシコ、ニュージーランドから、刑事訴追、行政による自由の剥奪が入っていないこと、刑事、民事、その他をいれるということが主張された、また、サブパラグラフc-iiの「定期的審査」について日本は「定期的」の削除を求め、ニュージーランドは定期的審査が国内法によるものであることが必要とした。いずれにしても、刑事のみに限定せずに広く検討していく方向で議論がなされはじめた。
第10条パラグラフ2は継続協議となった。
6時閉会
なお、ニュージーランド主催のワインパーティが終了後開かれた(出席しませんでしたが)。公式協議だと、文書の配布などがありますが、今回は、スクリーン上で提案が修正されたり、各国で協議するように要請されたり、非公式協議なのだと改めて確認しました(玉村の感想)。文書が手元にないと不便ですね。(文責 玉村公二彦)
■NY玉村レター (第3報)
第5回特別委員会 第2日目 1月25日(火) 10時20分開会
第8条「生命に対する権利」の続き
前日のコスタリカの意見への支持表明(コロンビア、トリニダードトバコ、ナイジェリアなど)、自然災害や侵略の場合などの特別な状況下での措置の必要性も指摘(エジプトなど)、その他で受胎の段階からの生命の権利の主張(バチカン市国)などがあった。
コーディネーターのマッケイは、コスタリカ提案を踏まえ、第8条の提案をおこなった。そこでは、自然災害、戦争、侵略を含めるという意見もあったが、合意にはならなかったとした。それを特別な状況下において特別な措置がとられる必要があることは別の場所で記入されることも念頭において検討課題とするとした(ここではsituation of riskという言い方だったが、子どもの
権利条約38条ではpublic emergencyという用語もある。ただし、後者だと外国の侵略が入らないかもしれない)。提案されたものはおおよそ以下のようなもの。
1)「すべての人の生命に対する固有の権利を改めて確認し…障害のある人の生命の権利を他の人たちと平等に効果的に享受することを確保するすべての必要な措置をとる」というような条項にする。
2)8-bisとして、「全体の人に危機があった場合、障害のある人は特に脆弱なことを認識し、障害のある人にあらゆる事項可能な特別の措置をとり、彼らを保護する」という文章をいれる。
8-bisについて議論があったのち、8条そのものは合意の水準にあるが、8-bisはまだ議論の余地があるので、ファシリテーター(エドワルドカルロス・エクアドル)に具体的な文言をまかせる。
第9条「法律の前における人としての平等の承認」
複雑な条文であり議論を整理する必要があるとして、コーディネーターは論点として次のような点をあげた。なお、カナダ提案に多くの支持があったが、作業部会草案をもとに議論を行うとした。
・第7条(平等及び非差別)との関係。同じことを9条でも繰り返すのか?
・コーカスの意見などもあり、意思決定の問題をどう考えるか(支援をするのか、代理とするのか)。
・司法手続きについて
・法的能力や所有権の問題
・平等の義務と責任を書き込むかなど
パラブラフaからはじめるということだったが、日本から第4回でカナダ提案への広い支持があり、作業部会草案からはじめると前回と同じ討議をしないと行けないが、カナダ提案で議論を行うのはどうかと問題提起があった。オーストラリア、セルビアモンテネグロから賛成の発ガンがあり、その方向に向かいそうだったが、中国、タイ、ブラジル、ケニア(アフリカグループ)、イランなどから作業部会の草案で議論せよとの主張が続き、他のテキストも参照しながら、作業部会草案で議論を行うということに落ち着いた。
パラグラフ(a)から議論を順次行うことになる。recognitionの言葉について、ケニア(アフリカグループ)やリビアから問題が出されたが、世界人権宣言や市民権規約などでも使用されているとコーディネーターからの返答があった。また、第7条の繰り返しとなっていること指摘され(コスタリカ)、コーディネーターも繰り返しはあまり適切ではないとして、一度述べれば別のところで述べる必要はないし、繰り返しで強調されるわけでもないと指摘した。メキシコは、人権は与えられるものから認められるものとかわってきた、すでに人権はあるものと考えるとして、第9条は法的能力に特化したものとすべきであるとの提案があった。(a)自体の削除をするか、そのまま残すかは両論あり、後で戻ってくることとされた。
他の人との平等を基礎とした権利と同時に、義務的なものも含めるということについて議論があった。市民権と義務を含むものにするというメキシコなどの意見に対し、人権条約であるので義務に言及するのは不適切とするカナダなどがあり、フィリピンは義務といより責任を書き込むという提案もあった。個別に交渉して調整してほしいとコーディネーターから要請があった。
パラグラフ(b)の議論にあたって、コーディネーターからはこの条項について作業部会のアプローチとして、まず、(a)権利を認め、(b)法的能力を持っているという一般的ステートメントがあり、続いて、(c)(d)で特定の状況における支援として、法的能力の講師に対する支援を保障し、さらに(f)財産権が否定されないとの規定となっており、全体を見ておく必要があると強調した。議論の中では、サブパラグラフ(b)に、「財政事項」のみが特記されていることに対して、もっと広く規定すべきであるとの意見があった。この点では、カナダから、混乱を招きやすいので、法的能力の行使、財産、司法の中での権利行使が適切に行われるよう例示されているカナダ案を採用するよう提案された。ニュージーランドやタイもカナダに賛成し、裁判に証人として立つ場合も想定されなければならないとした。
午前の議論は12時に終了。午後も、発言リストに数名ありこの議論を続けることとなった。
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昼休み中、1時15分から人権高等弁務官事務所が主催のモニタリングに関する検討会があった。
これまでの既存の条約のモニタリングシステムの成果と問題を踏まえて、障害者権利条約のモニタリングシステムを構想していくことを目的に、人権高等弁務官事務所からのレビューペーパーの報告も含めて、既存の人権条約のモニタリングシステムの経験をとおして5名のスピーカーから発言があった。
サリドマイド障害で、障害者の人権法について比較法研究をしているデーグナー博士(左)
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3時15分再会
午後は、「法的能力をもつ」ことと「法的能力を行使すること」をめぐってずいぶん長い議論となった。
コーディネーターは、「法的能力をもつ」ことと「法的能力を行使すること」ことを区別をした上で、法的能力はすべての人が持っており、法的能力を行使する場合、障害者の場合は困難な場合があると考えられてきたこと、そして、作業部会では支援を、カナダ案では法的能力の行使が困難な場合の手続きを明確にしているものとがあるということで、どのような状況が困難なのかを明確にする必要があると問題提起があった。しかし、議論の中では、すべての人が法的能力があるとはいえず、障害者の場合、障害のある子どもの場合、重度の知的障害の場合や意識のない人については法的能力があるとはいえない可能性があるとの発言もあった(ノルウェー)。
また、それぞれの国の法体系の中で法的能力の位置づけが異なっていたり、国によっては用語や翻訳の際に、法的能力とそれを行使する能力が混同される場合があるとの指摘もあった(ロシア、中国)。比較法的な取り組みが専門的に求められるとされたが、各国の事情がそれぞれ紹介されるとともに、法的能力について論理的に整理し、議論を展開していく必要が提起されていた(オーストラリア)。
法的能力をもつというとき、(1)すべての人が法的権利を持っており、entitlementされるが、(2)法的能力の行使の能力はすべての人がもっているかどうかについてはまだ合意にはなっておらず、さらに(3)法的能力の行使においてどのような支援を行うのかという3つのレベルで検討を深める必要があるとされた。ファシリテーターに、これまでの議論の要素を組みあわせながら整理をする課題がゆだねられた。その中で、法的能力という言葉をより明確にする必要が付言された。
コーディネーターによる議論の進め方は、各国代表の発言をすべてひろいながら、しかも、コーディネーターとの間で、論点や具体案についてやりとりをしながら議論を進めさせるものだった。とはいえ、第9条の(a)(b)、(c)の一部で時間がきており、前半でどれだけの部分が議論できるのか気になるところであった。
6時閉会
なお、外務省・政府関係者とNGOの参加者との夕食会があり、交流を深めました。(文責 玉村公二彦)
■NY玉村レター (第2報)
第5回特別委員会 第1日目 1月24日(月)
雪のため、飛行機の欠航があったり、交通の渋滞があり政府代表が遅れる事態が出た。積もった雪は、歩道の横に積み上げられ、車いすの人たちの交通上のバリアとなっていた。交差点のスロープに雪が積み重なって、歩道から車道に移れない状況だったようだ。特別委員会の第1日目の開始は、10時40分頃にずれ込んでいた。
開会のオープニングがあり、手短に経過と課題が示された。すぐに議事は、コーディネーターのマッケイ大使にかわり、第4回特別委員会から継続する非公式協議がなされていった。第5回特別委員会では、前半で7〜15条までの非公式協議を行い(小さなファシリテーターグループをつくってインフォーマルコンサルテーションも行う)、後半で16条以降の公式委員会(第2読)となる予定である。
コーディネーター(マッケイ)から、非公式協議の一般的な説明として、次のような点が示された。
1) 各条項を見ていく、意見をまとめる。後で戻っての検討も可。
2) 構成の問題については、全体のディスカッションをまってから。
3) タイトルの問題も、これまで最後まで条約のタイトルが付かなかった場合もあり最終的に議論する。
4) すべてに合意がないかぎり、合意がなされたということではない。現在の段階では最終段階ではないので、柔軟な姿勢をもってほしい。
その後、残されていた第7条(平等および非差別)のパラグラフ5について、非公式協議が開始された。コーディネーター・マッケイの問題提起やまとめを中心に議論を要約すると、およそ3点が論点となった。
1) パラグラフ5そのものについて。この条項が必要か?
2) 特別措置を含めるという方向ではあるが、障害という文脈では言い換えが必要か?他の言い方(positive measures)などはどうか?
3) パラグラフ5の後半部部分をどうするか? 後半の削除の可能性、そのまま、修正という選択肢は?
まず、パラグラフ5全体に関しては、必要という方向で議論が進んだ。これは、第7条のパラグラフ3がファシリテーター案では削除の方向となるので、一般的な特別措置の必要性を述べる必要があるとの判断のようである。
特別措置を条項に含め、アファーマティブアクションによって平等を促進すること、そしてそれが差別にはあたらないということには合意があるが、しかし表現上の問題がある。「特別措置」「積極的措置」などがだされ、さらに形容詞をつけないで「措置」とするという提案もあった。表現の問題であると同時に、「措置」の内容をより明確化する必要があるとされた。
また、特別措置との関連で、「基準」についても議論が集中した。障害のある人とないひととの間に異なった基準を設けるべきでないという平等の強い意識がある一方、男女の場合より障害の場合はよりその幅はより狭いのではないかという意見もある。特別措置の内容の具体例を明らかにするようもとめられ、EU(ルクセンブルク)は教育(特殊教育)の場合は特別なプログラムではあるが学校への統合や卒業という点で別個の基準を設けることではなく教育の中に特別措置により含まれていくというような例が出されたり、チリでは投票支援制度の法制化の例が出された。特別措置があっても、別の基準をも設けるというわけではないとされた。
このパラグラフの後半部分の修正提案を行っている日本にもその説明が求められた。小川政府代表は女性差別撤廃条約の母性保護の例や割り当て雇用の例を指摘した。日本は雇用率制を続けてきており、目的が達成されると特別措置が廃止されるという時限をつけたかっこうになっていることを問題にして、長期的な特別措置が必要な場合があると最後の部分の修正を主張した(日本政府の発言については別途正確なものが公表されると思います。宮本さんよろしくお願いいたします)。一方、国連人権高等弁務官は最小限の割り当てが最大限になってしまって、障害者の雇用などが低く押さ得られる場合が生まれるとの指摘もあった。強調されたのは、実質的な平等の促進が目的であり、別項の基準を設けることになってはならず、そのためのメカニズムをどのように作るのかということだった。
第7条パラグラフ5については、第1日目の午後にも協議が継続された。特別措置は必要であり、表現の問題となっていること、そして別項の基準を設けるべきでないこと、特別措置は目的が達成され、その状態が継続される中ではなくなる場合もあることなどを内容として、7条パラグラフ5のみのファシリテーターグループ(ステファン・ブリーガン:リヒテンシュタイン)に検討をゆだねることとなった。
ガーナからアフリカグループを代表して、5-bisの提案があった(もともと、EUの3-bis提案)。コーディネーターとしては、第4条で話し合うという方向を出した。
午後も開始が3時45分からとずれこんだ。セキュリティのブリーフィングがあり、あわせて、第7条パラ5とbisの討議も午後に食い込んでいた。午後も半ば頃になって、ようやく第8条(生命に対する権利)の協議となった。コーディネーターのマッケイからは、1)「他の人との平等のベースに於いて」として市民権規約6条との文言の調整をする必要はないか、2)特定のリスク(自然災害、難民、紛争、外国からの侵略など)における障害のある人の生命の権利の保障、3)生命の権利と障害者の権利との調整(生命の権利が、その他の権利の主張と齟齬をきたさないようにする必要)などが課題としてあげられた。
災害、戦争、侵略、それに類した危機的な状況という文言、自然災害・人工的災害などの文言を入れるとするヨルダン・南アフリカなどの主張があり、一方、カナダ・ニュージーランドなどからはなるべく簡潔・明確にという主張がなされた。あまり詳しく書くと各国の考え方の落差の穴に落ちるというリスクがあるという理由からである。全文でふれるなどの提案もあった(全文に若干ふれられている)。津波の被害のあったタイからは、津波によって障害者となったり、障害者が集中的な被害を受けるということを経験したとして、より強い文言として全文に入れる方が情勢を反映した条約となるのではないかという発言もあった。なお、コスタリカは、武力紛争、戦争についての文言を入れるかどうかについは重要だとしながら、第8条に入れることによって第8条が弱まってしまうと指摘し、条文として、生命に対する権利はすべての人の固有の権利であることをうたった上で、障害のある人について特別な措置をとるという障害者の権利を示すという提案を行った。
時間切れで、明日、発言リストに残っている国の発言を聞き、第8条の協議を継続することとなった。6時閉会。(文責 玉村公二彦)
コーディネーターのマッケイ大使
※補足
ニューヨークの外は寒く、息が白くなっています。おそらく、マイナスの気温。特別委員会の会議室内は暖房が効き、セーターを着ていると暑いくらいです。6時に終わりますが、もう暗く、格段と寒くなっています。歩道は、部分的には乾いているところもあり、凍ってはいませんが、とけた雪ですべりやすくなっています。
■NY 1月24日 玉村レター(第一報)
<今日の朝までのこと 到着まで…>
土曜日は午前中に集中講義。3時間の講義のために、往復で6時間も車を走らせた。
23日も集中講義の日となっていたが、別の日にまた設定せざるを得なかった。
出発の当日にばたばたと荷造りをして、ようやく間に合わせる始末である。
メーリングリストにも、「今日のNYは一部、ブリザードで、現在マイナス4度、体感温度はマイナス12度です」
コレは大変とばっかりに、コートやジャンパーなどを追加で詰め込んだのだった。
第4回の特別委員会から、関西から一人で自力でニューヨークにたどりつくというのが慣例になった。
関西空港からシカゴ経由で、ニューヨーク・ラガーディア空港までという経路は、成田からジョン・F・ケネディ空港へ直行とはいろんなことが違ってくる。
関空からのユナイティドの飛行機の中で、学生さんからたのまれていた研修旅行の原稿を書いていた。
学生さんからは、「日本時間の月曜日までに送ってね」とメールが入っていた。
国連の会議室の中では無線ランが走っているので、メールをおくれるのである。
シカゴで、入国審査を終えて、それからまたターミナルをかえて国内線に乗り継ぐのだ。
シカゴもマイナス5度だったが、空港内は寒さは感じない。そして、ラガーディア空港におりたち、荷物を受け取れば万事めでたなのだが、
いつまでたっても荷物が出てこない。空港を出ると、雪がつもり、息が白い。
寒いのは体だけではない。荷物はどうなるのだろうかという心細さもあって、心も寒い。
着替えもなにもない。あるのは、コンピューターとちょっとした機器。それとパスポート・チケット、サイフもあるのでなんとかなるだろう。
トムハンスクの主演映画「エアポート」を思い出してしまった。
24日朝
ご心配をおかけしました。荷物がホテルに届きました。オペレーターから呼び出しがあったのが7時すぎ。レセプションに荷物をとりにいきました。
まず、歯磨きをして、ようやくすっきりすることができました。気分は上々となりました。
9時半から登録があり、10時からは特別委員会が始まることになっています。前半部分は、前回の続きでちょっと細かなやりとりになりそうです。
■作業部会草案
前文
第1条:目的
第2条:一般的原則
第3条:定義
第4条:一般的義務
第5条:障害者に対する積極的態度の促進
第6条:統計とデータ収集
第7条:平等及び無差別
第8条:生命の権利
第9条:法の下での平等
第10条:身体の自由及び安全
第11条:残虐な、非人間的な又は品位を傷つける取り扱い又は罰
第12条:暴力及び虐待からの自由
第13条:表現及び意見表明の自由並びに情報へのアクセス
第14条:私生活、家庭及び家族の尊重
第15条:独立した生活及び地域への包含
第16条:障害を持った子供
第17条:教育
第18条:政治生活及び公的生活への参加
第19条:アクセシビリティー
第20条:個人のモビリティー
第21条:健康及びリハビリテーションの権利
第22条:労働の権利
第23条:社会保障及び相当な生活水準
第24条:文化的生活、レクリエーション、余暇及びスポーツヘの参加
第25条:モニタリング
玉村公二彦さん |
青木道忠さん |
中村尚子さん |
藤井克徳さん |
市橋博さん |
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第3回特別委員会 (右の写真は動画です) |
NGOコーカスの様子 |
藤井克徳さん |
玉村公二彦さん |
Advance text of the report of the Ad Hoc Committee (A/AC.265/2004/5)
■関連資料
○国連 第5回特別委員会(英文)
○障害者の権利条約特別委員会の報告(日本障害者リハビリテーション協会)
○障害者権利条約制定に向けて(DPI日本会議)
○第3回・第4回障害者権利条約特別委員会フォローアップのためのワークショップ(全日本ろうあ連盟)
○障害者権利条約に関する国連総会アドホック委員会における条約作成のための議論概要(外務省)
・国連・第3回特別委員会 デイリーサマリー(5.24-6.4)(英文)
・特別委員会への作業部会の報告(英文)
・国連「障害者の権利条約」関連邦訳資料 (全日本ろうあ連盟)
・びわこミレニアム・フレームワーク
・国連障害者の権利条約特別委員会傍聴団報告 「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラム組織委員会
・「国際生活機能分類−国際障害分類改訂版−」(日本語版)
・国際機関等による決議、勧告、宣言(日本障害者リハビリテーション協会)
・国連本部 国連本部のWebカメラ(ライブ映像)
・ニューヨーク市内の今の様子(日本とマイナス14時間の時差)
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